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謀殺されてTS転生した魔王の息子が、勇者の師匠になる話  作者: 善信
第八章 魔界潜入作戦
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09 最後の魔将軍達

 さて、少し状況をまとめてみよう。


 敵の魔王軍だが、倒すべき大物と言っていいのは、五人と不確定要素の数人。


 私の元肉体に、異世界人の魂が宿ったという、オルブル=シンヤ。

 先代魔王で前世の父の魂を移し代えた、ボウンズール=ソレスビウイ。

 かつての忠臣で、いまだ私に執着している、ダーイッジ=オーガン。

 ……うーん、肉体と中身が違う連中は、ややこしいな。

 今後は、いま奴等が名乗っている名前で、統一しよう。


 そして、他に脅威といえば三公の座に着いている、準魔王クラスのガンドライルとキャロメンスか。

 こいつらは、ストレートに厄介だから、なるべく上手に当たりたいものだわ。


 あとは、魔将軍が数人残っているらしいから、これらも要注意といった所だろう。

 まぁ、他にも魔族の兵士達はいるし、それら小勢はやり過ごして、上の奴等とだけケリをつける事ができれば、最上なんだけどなぁ……。


「オーガンの手勢が、ここで待ち構えていたからには、私達が到着した事も向こうに知られていると、考えた方がいいですね」

「妙にあっさり退いたし、体勢を整えてから、僕達を迎え撃つつもりなんでしょうか?」

 ルアンタの問いに、私は頷いてみせる。

 確かに、アンデッドの兵士を、大量に生み出せるにも関わらず、早々に姿を消したオーガンの行動は、情報を持ち帰るためのものだろう。


 くっ、それにしても、シンヤ……いや、オルブルめ!

 ムラっ気のある魔族達ではなく、疲れ知らすで命令をこなすだけのアンデッドに見張りをさせるとは、いいアイデアだ。

 しかも、見た目のインパクトも合わせて、侵入者を足止めするにも丁度いい。

 さすがは異世界人(の魂)、発想が違う。


「なんにしても、ここでぼんやりしてる場合じゃ……」

 とにかく何か行動すべきだろうと、提案しようとしていたデューナが、突然、周囲を見回して大剣を構えた!

 それと同時に、不穏な気配を感じ取った私達も、臨戦体勢をとる!


 少しばかり、静寂の時間が流れる……。

 しかし、それ(・・)は物言わぬ集団の、無数の足音によって掻き乱された!

 宵闇の中より沸いて出てきたのは、またもアンデッドの集団。

 しかも、人型ばかりではなく、様々なモンスターのゾンビやスケルトンが、私達を目指して進んで来ている。


「な、なんですの、またアンデッド……!?」

「オーガンの野郎、まだいやがったのか!?」

 デューナとヴェルチェが悪態を突くが、アンデッドの群れの後方から姿を現したのは、予想外の敵だった。


「……オーガンの奴め、侵入者を発見しておきながら、見逃して退却するとは」

「そこの、ダークエルフと何やら話し込んでいたのは、確認している」

「奴め……オルブル様に仇なすために、人間の勇者どもを利用する気ではあるまいな」

 白いローブに身を包んだ女、細身ながらも鍛えられた鋼を思わせる雰囲気の男、そして見るからに力自慢の恰幅の良いもう一人の男。

 それぞれが、ただならぬ気配を醸しながら、私達を油断なく見据えていた。


「なんだい、コイツらは……?」

「さて……ただの魔族では、なさそうですがね」

「フッ……その通り」

 ポツリと漏らした私達の会話に、細身の男が反応する。


「我々こそ、最後の魔将軍、『死者を統べる者(アンデッドマスター)』ビィルトン!」

「同じく、『金剛拳(ダイヤナックル)』のガルア!」

「そして、『血濡れの刃(ブラッドブレード)』アルビス!」

 細身の男、恰幅のいい戦士、そして白いローブの女の順で、次々と名乗りをあげた後、三人の魔将軍はばっちりポーズを決めて、私達と対峙した。


 てっきり、外見からローブの女がアンデッド達を使役してると思ったから、少し意外だった。

 あと、二つ名を名乗って、自分達から得意な能力をバラすような真似をするのは、さらに意外だった。

 しかし、そんな事より……。


「最後の……魔将軍?」

「その通り!」

 再び、細身の男が吠えた!

「我々は、オルブル様の手によって、才能を開花された、選ばれし者!しかし、更なる高みを目指すために、あの方の指示で残っていた魔将軍同士で戦い、最後まで立っていた者達で構成されている!」

「故に、最後の魔将軍!」

「この肩書き、伊達ではないわよ」


 なるほど、そういう事か。

 たしか……異世界の儀式で、『壺毒』と言うんだったかな?

 強い者同士を一ヶ所に集め、それらを争わせる事で、より強力な個体を選別する方法だったと記憶している。


「魔族にとって、強さを渇望するのは本能に近い……それを満たしてくださるオルブル様は、我等にとって魔王様以上に敬うべきお方だ!」

「それゆえに、何かとオルブル様を目の敵にしているオーガンの行動に目を光らせておけと、指示されていたが……まさか勇者どもと密会している所に、出くわすとはな」

 それで、こんなにタイミングよく現れたのか。

 しかし、そんな事を普通に口走っていいのかな?


「こら!お前ら、軽々しくそんな事を言うんじゃない!魔族の誰かに聞かれたら、あの方の立場が悪くっちゃうでしょっ!」

 アルビスの言葉に、魔将軍の男二人は、ハッとなって口を押さえた。

 ううん……なんだか、ちょっとした行動から抜けた感じが伝わってきて、あんまり脅威とは思えなくなってきたぞ?


「そっちの内情も、なんだかごちゃごちゃしてそうだが……面倒そうな魔将軍が、わざわざ向こうから来てくれたなら、こっちの手間は省けるってものさ」

「そうですわね……アンデッドなど、物の数ではありませんし、ワタクシ達の方が断然有利ですわ」

 余裕を見せるデューナとヴェルチェに、私とルアンタも頷いて同意する。

 だが、そんな私達を見て、魔将軍達はニヤリと笑った!


「バカめ!我々は、ただの魔将軍ではないと、言ったはずだぞ!」

「その通り!見せてやろう、その真の力を!」

 そう言うなり、アンデッドを統率をしていたビィルトンが、大きく両腕を振りかざして死者達に命令を下した!


「さぁ、アンデッド達よ!今こそ融合し、大いなる力となれ!」

「なっ!?」

 驚愕する私達の目の前で、主の言葉に従う様々な種類のアンデッド達が、一斉に寄り添い、溶け合ってひとつの巨大なモンスターへと、変貌を遂げていく!

「バカな!魔将軍とは、一芸に特化した魔族だったはず……」

 ビィルトンなんかは、オーガンと被った能力だと思っていたのに、この能力はさすがに予想もしていなかった!


「フフフ……言ったでしょう、私達は互いに争い、最後まで立っていた魔将軍だって」

「元より持っていた力に加え、倒した魔将軍の能力をオルブル様によって移植していただいたのだ!」

「ちなみに、この私の能力は『死霊使い』に『合成魔術』の能力を組み合わせた物だ!」

 訊いてもいないのに、向こうから能力の説明をしてくれるとは、よほど自慢だったのか。


 しかし、特殊能力の移植なんて真似までするのか、あのオルブルは!?

 異世界の発想は奇抜だと思って、色々と参考にしていたけど、本場の人間に比べたら、私の知っている事柄などまだまだなのだと思わさせれる。


「……つまり、そちらの二人も何らかの特殊な能力を、複数持っていると言うことですか?」

 ルアンタが、そう問いかけると、待ってましたと言わんばかりに、ガルアとアルビスも己の能力を話し始めた。


「俺の能力は『金剛体』に『巨大化』!ひとたび発動すれば、すべてを砕く鋼の巨人となる!」

「そして私は『刀剣創製』に『感応操作』。四方から、無数に飛来する刃を避ける事など不可能よ!」


 ご親切に解説どうも。

 ちょっと誘いをかけるように、ルアンタが尋ねたとはいえ、まさかこんなにあっさりと能力を話すとは思わなかったわ。

 ルアンタ本人も、少しびっくりしてるし……。


 しかし、連中が少し抜けてるとはいえ、その能力はかなり厄介だ。

 今までの魔将軍とは、確かに格が違うと言っていいだろう。


「オルブル様から、万が一貴様らと遭遇した場合、全力で挑めの言われている……」

「だから、出し惜しみは無しだ!」

 三人の魔将軍に、アンデッドの群れが合体した巨大なモンスター。

 それらを前にしても、さほど怯んでいない私達に、魔将軍達は更なる奥の手(・・・)を切ってきた!


 奴等は懐から、小さな宝玉のような物を取り出して、こちらに見せつけるように構えをとる。

 そして一言、呟くように告げた。


 ──『変身』、と。

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