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謀殺されてTS転生した魔王の息子が、勇者の師匠になる話  作者: 善信
第八章 魔界潜入作戦
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08 決意を新たに……

           ◆◆◆


 問答無用で叩き込んだ、私の『爆発する(エクスプロージョン)我が拳(ナックル)』を受け、爆炎と共に吹っ飛ぶオーガン!

 それを見送り、私は大きく息を吐き出した。


「人が寝てる間に、イタズラするとか……最低すぎるでしょう」

 そんな、怒りと嫌悪感から来る呟きを漏らした私に、ルアンタがおずおずと尋ねてくる。


「あ、あの……もしかして、先生とオーガンはお付き合いしていた間柄……とかではないんですか?」

「!?」

 え?急に何を言い出すの、この子は!?

「そんな訳がないでしょう……」

「だ、だけど妙に親しい感じでしたし、先生も昔の事は否定しなかったから……」

 あー、そういう事か。


 オーガンが言ってたのは、前世での私が子供の頃の話だ。

 けれど、それを知らないルアンタからすれば、今の私(エリクシア)の過去話に思えた訳ね。

 でも、そんなちょっとした事でこんなに心配していたなんて、ルアンタは私の事を好きすぎるでしょう……フフフ。


「ウフフ……」

「せ、先生?」

 ついニヤけてしまった私を、ルアンタが怪訝そうな顔で覗き込む。

「おっと、すいません。ですが、貴方が心配するような事は、本当にありませんよ。オーガン(アレ)とは、昔の知り合いみたいな物ですから」

「そ、そうなんですか?」

「ええ。なにより、今の私には、ちょっと心配性な愛弟子の方が大事です」

 笑いかけて頭を撫でると、ルアンタはホッとしたような、少し照れたような、ふにゃりとした表情で微笑んだ。

 この、子犬みたいな笑顔に弱いんだよなぁ……。


「……なるほど、やはり勇者の小僧が貴方を惑わせる、張本人のようですな」

「っ!」

 不意に横槍を入れられ、私とルアンタは声の方へと振り向いた!

 見れば、私の必殺技をまともにくらいながらも、こちらを見据えながらオーガンが、ゆらりと起き上がっている。


「なんとも、すさまじい威力でしたよ。この体(・・・)と鎧がなければ、死んでいてもおかしくなかった……」

 そう言った途端、彼が身に纏っていた鎧が、ボロボロと崩れ去る。

 そうして、派手なパンツ一枚だけの姿となったオーガンは、ふらつきながらも、なぜかセクシーなポーズを決めた!

 うん、すごく気持ち悪いな。

 しかし、そんな風に思った私の内情を知らないオーガンは、さらにセクシーっぽいポーズを取りながら、こちらに圧をかけてきた。


「やはり、貴方には元の立ち位置に戻っていただく必要がありますな……」

 大きく息を吐きながら、オーガンはルアンタを刺すように睨みつける!

「そのためにも、貴方を『メス堕ちアへ顔ダブルピース』させたであろう、勇者の小僧の排除を最優先にさせていただく!」

「な、何を言ってるんですか、貴方は!」

「そ、そうですよ!僕と先生は、もっと……こう……」

 何を誤解しているのかと、言いがかりをつけるオーガンに反論しようしたルアンタだったが、そこから先の言葉がうまく紡げずに、赤面して口ごもってしまった。

 いや、そんな反応されたら……なんだか私まで照れてしまって、顔が熱くなってくるじゃない。


「くっ!この期に及んで、二人だけの甘酸っぱい雰囲気を出しよって……この泥棒猫がっ!」

「ど、泥棒猫!?」

「子供相手に、言う台詞ですかっ!」

「あと、その姿でそういう事を言うのは、やめてくださいませんこと!大変、気持ち悪いですわ!」

 私に続いて、いい加減に我慢の限界を越えたヴェルチェまで、抗議の声をあげる!

 まぁ、元の自分の肉体であんな姿を晒されたら、気分的にはかなり嫌だろうな。


「何をお嬢様みたいな事を……ワシに言わせれば、そちらの姿こそ、気持ち悪いわ!」

「なんですって!? こんな愛らしいワタクシの、どこが気持ち悪いとおっしゃるのかしら!」

「全部じゃい!」

 ……うーん、ヴェルチェの前世(・・)を知ってるオーガンだけに、そんな感想が出てくるのも、なんかわかるわ。


「まぁ、なんにせよ……交渉は決裂って事でいいんだよな?」

 エキサイトする舌戦……というか罵り合いを遮るように、デューナがそう切り出した。


「……そうなりますかな」

「まぁ、エリクシアだけ(・・)引き込みたいアンタと、現状に満足してるアタシ達……これじゃあ、まとまらないわな」

 カラカラと爽快に笑い、デューナはオーガンに対して拳を突き出して見せる。

「じゃあ、あとは力づくでやり合うしかないだろう?」

「……姿は変わっても、相変わらずシンプルな方ですな」

「まあね」

 誉めてるのか皮肉っているのかわからない、オーガンの言葉にも、デューナはニカッと笑みで返す。

 こうも真正面から言われたら、もうなんにも言い返せまい。


「……いいでしょう。ワシらは昔と同じ、魔王城であなた方が来るのを待つとします」

 そう言うと、オーガンは私達に背を向けて歩き出した。

「万が一にも、ワシらの元にたどり着く前に、力尽きたりなされぬよう……」

 そう言い残した彼の姿を、何処からともなく沸いてきた霧が覆い隠していく。

 おそらく、何かの隠蔽魔法でも使ったか……。


「……服くらい、着て帰ってほしかったですわ」

 撤退するオーガンの背中を見送っていたヴェルチェが、嫌そうにポツリと溢して。


            ◆


「──というのが、先程オーガンと一対一で話した時に、得た情報です」

 オーガンが立ち去った後、私は彼と交わした話の内容を、皆に話して聞かせた。

 もちろん、魔王ボウンズールの正体云々はともかく、私達が転生した魔王の息子達だった事を知らないルアンタのために、その辺の事は伏せておいたが。


「マジかよ。アタ……ボウンズールの肉体に、オヤジ……先代魔王の魂が……」

「ワタク……ダーイッジの肉体にオーガンの魂が宿っていたのですから、信憑性は高いですわね」

「ええ。現に、わた……オルブルの肉体に宿っていたのが異世界人の魂なら、あの発想力と魔王軍内での立ち回りも理解できます」

 うんうんと頷く私達に比べて、ルアンタだけは何か引っ掛かるような表情のままで、俯いていた。


「どうしました、ルアンタ?」

 そんな様子に気づいた私が彼に声をかけると、「いえ、その……」と彼は少し口ごもっていたが、意を決したようにキッと顔をあげる。

「皆さんが、僕に何かを重要な事実を隠して話しているのは……わかります」

 な、なにぃ!

 まさか、これまで完璧に偽装して(・・・・・・・)きたつもり(・・・・・)なのに、薄々とはいえ感付いているとは!

 やはり、この子は天才か……!?

 そんな風に、私達が内心で彼に感心していたが、当のルアンタは少し辛そうに言葉を吐き出す。


「今の僕の力じゃ、先生達と秘密を共有したり、力になる事はできないかもしれません……でも、いつかもっと強くなったら、僕にも皆さんの秘密を話してくれますか!?」

 まるで、置いてけぼりにされそうな、不安げで心細い感情のこもった声で、ルアンタは私達に問いかける。


 そうか……確かに、私達の今は知っていても、過去を知らない彼からすれば、いつか私達が自分の前からいなくなるんじゃないかって、不安を抱いてしまう物なのかもしれない。

 だけど、実力はかなりついてきたとはいえ、まだ十代前半の年相応な姿を見せられると、胸の奥で母性本能やら何やら(・・・・・・・・・・)が、荒ぶるのを感じるわ。


「大丈夫ですよ、ルアンタ……」

 彼を安心させるべく、私が抱き寄せようと手を伸ばすと、横からルアンタの体を拐ったデューナが、その大きな胸に彼の頭を沈めて、よしよしと撫でた。

「アタシらはどこにもいかないさ……ただ、色々と込み入った状況を話すには、時間が必要なんだ」

「その通りですわ!」

 デューナの腕と胸に捕らわれるルアンタを、下から引っこ抜いたヴェルチェが、彼の胸に頬擦りしながら抱きつく。


「いつか、全てお話いたしますわ。ですからその時は、変わらずワタクシ達を受け入れてくださいますと……嬉しいですわ!」

「そうですね」

 スリスリと擦り付く彼女から、今度は私がヒョイとルアンタを取り返すと、ようやく抱き締める事ができた彼に、ソッと諭すように囁きかける。


「ですから、ルアンタ……私達を信じてください」

「……はい」

 代わるがわる、私達からの熱烈なアプローチを受けたルアンタは、赤くなった顔をキリッと引き締めて、私の言葉に頷いた。

 はぁ……可愛いカッコいいナリ……。


 将来的にも失いたくない彼を想うと、後腐れなく魔王達(・・・)との決着をつけねばなるまい。

 私達はルアンタを愛でながら、今の生活を守るために、そして過去にケリをつけるべく、改めて覚悟を決めていた。

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