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謀殺されてTS転生した魔王の息子が、勇者の師匠になる話  作者: 善信
第八章 魔界潜入作戦
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06 『腐骨大公』

 出発前からちょっと揉めた私達だったが、なんとか話は纏まって、いよいよ魔族の勢力圏に近い場所へ続く、坑道に足を踏み入れる。

「ワタクシが、先導いたしますわ」

 網の目のような坑道の中でも、方向感覚を失わない能力を持つドワーフのヴェルチェを先頭に、私達は進んでいった。


 出口までは、徒歩で二、三日ほどかかるという。

 穴の中では、ぼんやり光る苔のような物を繁殖させているそうで、夜目の効くドワーフ以外でも、ある程度は行動に問題はないらしい。

 途中、あちらこちらに休憩ポイントとなるが有るのも、整備されている場所ならではだわ。

 若干、グレーな案件ではあるけど。


 そんな訳で、坑道(あな)の中を進む私達だったが、真っ暗ではないものの、やはり明るい太陽の元が恋しくなってくる。

 何より、私達の中で一番身長の高いデューナは、ちょくちょく天井に頭をぶつけていて、かなりのストレスになってるようだった。

 「こんな事もあるかも……」と、ルアンタが『ポケット』から取り出したヘルメットが無ければ、狭い坑道で大暴れしていたかもしれない。

 さすが、ルアンタ。ナイスな判断である。


 ──それから、何度かゴブリンやコボルトといった、坑道や洞窟に住み着くモンスター連中と遭遇した。

 しかし、ストレス解消になるとから、ほぼデューナが素手で蹴散らていく。

 モンスターが現れるたびに、楽しそうな笑顔で突っ込んでいく彼女だったが、スッキリしたようでなにより。

 このまま、露払いをお願いしよう。


 そんな感じで、ある程度の休憩を挟みながらも、急ぎ進んだ私達は、予定よりもだいぶ早く地上へと出る事ができた。


「うわぁん、地上だぁ♥」

 メキ……ミシッ……と、筋肉の軋む音が聞こえるほど、大きく伸びをするデューナ。

 その顔は、地下の狭い道を行くストレスから解放された喜びに、満ち溢れていた。


 道中は大した障害も無く、ヴェルチェが目算していたよりも早いペースで踏破できたが、時間がちょうど夜だった事もあり、今夜はこのまま夜営する事にする。

 そうして、明日の朝にここから一日ほどの距離にあるという、滅ぼされた人間の国へ向かう事にした。


 しかし……魔族に滅ぼされた場所、か。

 戦場となった場所は荒廃し、悲惨な姿を見せるのが世の常だ。

 人間であり、魔族とも和解ができないかと考えているルアンタには、ちょっと複雑だろうな。

 うん、彼がショックを受けた時は、師匠的にも個人的にも、私がいっぱい慰めてやろう!


『先生……僕はとても悲しいです』

『そうでしょう、ルアンタ。遠慮はいりません、私の胸に飛び込んで来なさい!』

『先生ぇ!』

 そうして、ルアンタと私は堅く抱き合い、それから……ウフフフフ。

 そんな妄想を思い浮かべながら、夜営の準備をすべく、『ポケット』へ手を入れている。

 すると、不意にトントンと背後から、私の肩を誰かが指で突っつく感触があった。


「ちょっと待ってくださいね」

 先に荷物を出してから、ゆっくり話を聞こうと思い、そう声をかけたが、再び荷物を探す私の肩を突っつく音がした。

 んもう、いったい誰?

 振り返る前にちらりと顔を上げると、私の前には仲間達全員の姿がある。

 あれ?


 さらに、向こうも私の方を見て、「エリクシア、うしろ~」と小声で呼び掛けていた。

 ……んんっ?

 皆が向こうにいる。じゃあ、私の背後にいるのは……?

 ソッと振り返って、後方を確認すると……そこには、虚ろな目をした腐乱死体が、私の顔を覗き込んでいた!


「だっふんだぁ!」

 驚きのあまり、訳のわからない単語を口走りながら、私はそこから飛び退いた!


 動く死体……所謂、アンデッドモンスター!

 なんで、急にこんな場所で……とも思ったが、よく考えれば数年前とはいえ、戦場になった場所から近いのだ。

 放置された死体が、アンデッドになってもおかしくはないか。


 それに、はぐれの一体だけなら……そう思った時、私を驚かせた奴の後ろからも、さらに複数のアンデッドがゾロゾロと姿を現した!

 しかも奇妙な事に、その一団には人間の死体ばかりでなく、魔族やゴブリンといった、モンスターの死体までが含まれている。

 つい最近に、戦争でもあったというならともかく、こんなに大量のアンデッドが自然に沸いて来るはずがない!


「気を付けてください!近くに、死霊魔術師がいますよ!」

「ほう……さすが、ダークエルフだ、詳しいではないか」

 警戒の声を発した私に答えるように、アンデッドの群れの奥から、何者かが歩み出てきた。


 その姿は、まさに異形!

 骸骨を思わせるデザインの全身鎧に身を包み、明らかに「自分がアンデッドの主です」と主張しているかのようだ!


「フン……オルブル殿の依頼で、魔界に侵入できそうな各所に、アンデッドどもを配置して二週間……見回りに来たところで、貴様らと遭遇するとは運がいい」

 むっ。さすが、オルブル(偽)……私の撹乱させる情報をうけて、網を張っていた訳か。

 しかも、命令通りの事しかできないが、疲れを知らないアンデッドにその役をやらせる辺り、目の付け所も悪くない。


 だが、そのアンデッド達の元締めである、死霊魔術師を全面に出していたのは、失敗だったわね。

 今、ここで奴を叩けば、その支配下であるアンデッド達も瓦解するし、まだ本格的な魔族の勢力圏に入っていないこの地点なら、少し派手にやらかしても、敵が集まって来る前に身を隠せるだろう。


「ダークエルフは、配下にしたいとオルブル殿は言っていたが……ここで殺して、我がアンデッドの一員にすれば、さぞや悔しがるだろうな」

 ククク……と肩を震わせて、骸骨鎧の死霊魔術師が笑う。

 なんだろう……こいつはガンドライルのように、オルブル(偽)、上手くいっていないのかな?

 現在の魔王軍内部に、派閥や権力闘争などがあるなら、それを引っ掻き回すのも面白そうだ。

 その辺も踏まえて、今は目の前のアンデッドをなんとかするか!


「ルアンタ、同時にいきますよ!」

「はいっ、先生!」

 掛け声と共に、私とルアンタは同じ魔法の詠唱を始めた!

 まさに以心伝心!

 隣り合った私達はどちらからともなく密着すると、狙いを定めるために片手を敵に向け、空いたもう片方の手を自然に繋いだ!


極大級(アルティメット)炎魔法(・フレイム)!』×2


 完成した二つの極大級魔法は、巨大な炎の渦を生み出す!

 さらに絡み合う相乗効果も相まって、アンデッドの群れを丸ごと飲み込み、地表を薙ぎ払っていった!

 ドラゴンのブレスを超えるであろう、その炎に巻かれたアンデッド達は、消し炭どころか一瞬で蒸発し、まるで最初から存在していなかったように、跡形も無く姿を消していく。


「ふぅ……」

 高熱のあまり、一部が熔けた硝子のように変化した地面と、残り火の陽炎で揺らぐ景色を見ながら、私は小さく息を吐く。

 これだけの威力だ……あの死霊魔術師も、アンデッド達と一緒に消滅したかもしれないな。

 そう思った時、飛び込んでくる何かの影が、私の視界を一瞬掠めた!

 反射的にガードを固めた腕に、打撃特有の衝撃が響く!


「ふっ!」

 呼気と共に、すかさず十数発の反撃を打ち込むが、その攻撃は相手にガードされたり受け流されたりしてしまい、互いに手強いと見た私達はいったん距離を取った!


「……私の打撃を受けただけでなく、反撃までしてくるとはな。魔法が主体の、エルフらしからぬ、珍妙な奴だ」

 死霊魔術師のくせに全身鎧を身に付けて、尚且つ打撃主体っぽいスタイルのこいつに、「珍妙」とは言われたくない。


「あの炎に、耐えたっていうのか……」

 極大級の炎魔法、二発分の火力をもってしても、大したダメージを受けていなさそうな骸骨鎧に、ルアンタが信じられないと信じられないと呟いた。

 おそらくは、対魔法防御があの鎧に施されているのと、直撃を食らう前に回避した俊敏性の成せる技だろう。

 なんにせよ、只者ではない事は確かだ。

 だが、それだけの技量を持つこの男は、いったい何者なのか。


「……ぜひ、名前を聞かせていただきたいですね」

「おお、そういえば、まだ名乗っていなかったな。ワシは、魔王ボウンズール様直属の三公の一人……」

 ボウンズールの名を聞いた、デューナの眉がピクリと動く。

 まぁ、前世の自分の名を騙られてるんだから、気にするなという方が無理か。

 それにしても、三公の最後の一人とは……やはりこの骸骨鎧の死霊魔術師は、只者ではなかったな。


「……我こそは、『腐骨大公』の二つ名をいただいた、その名もオーガンという者だっ!」

 『腐骨大公』オーガンか……って、オーガン?


『オーガン(だとぉ)(ですって)!?』


 奴の名乗りを聞いた、デューナとヴェルチェも驚愕の声をあげる!

 それがあまりにも急だったからか、オーガンを名乗った骸骨鎧も、驚いたのかビクリと震えた! 


 こ、こいつは本当に、オーガンなのだろうか?

 確かに、死霊魔術師でありながら、格闘を主体にして戦う変則モンクだなんて、私の知る限りではあいつくらいしか思い付かない。

 けれど、私の記憶にあるオーガン程度では、ガンドライルやキャロメンスといった、準魔王と同等に立てるとは思えないのだが……。


 しかし、その真偽はともかく、オーガンの名を聞いた(私も含め)二人が驚くのも当然だろう。

 そもそも私達が転生できたのは、そのオーガンのおかげ(?)なのだから。


「……な、なんだか知らんが、勇者とその仲間にワシの名が知れ渡っているとは、光栄じゃ……む!」

 言葉を紡いでいたオーガンが、不意に違和感を感じて兜を押さえた時、パキィン!と甲高い音が響き、それと共に顔を覆っていたフェイスガードの部分が砕け落ちた!

 どうやら先程の攻防の際に、私の放った打撃のいくつかが当たっていたらしい。


「くっ……おのれ!」

 露出した部分を押さえながら、オーガンはゆっくり顔を上げる。

 だが、その割れた仮面の下から見えたオーガンの素顔に……私達は再び、驚愕の声をあげた!

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