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謀殺されてTS転生した魔王の息子が、勇者の師匠になる話  作者: 善信
第八章 魔界潜入作戦
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04 兵は詭道なり

            ◆


 ひとまず、武装を強化する道筋が見えた私達は、仲間内で打ち合わせを終えたあと、エルフの女王と近衛兵達を集めて、今後の動きについて説明をした。


「ドワーフの国で準備して、一月後に勇者様達が魔界へ向かう。そう、周囲へ喧伝して、国の防備を固める……ですか?」

「ええ、それだけ(・・・・)をお願いします」

 予想はしていたけれど、私の申し出を聞いたエルフの皆は、怪訝そうな顔をする。

「あの……こういう時は、こちらの動きを知られないようにするのが、普通なのでは?」

「普通ならそうでしょうね」

 アーレルハーレの言うことも尤もだけど、当然これには訳がある。


 敵に先手を取られて、こちらは防衛面への考慮から、大きく兵を動かす事ができなくなった。

 つまり、少数精鋭で攻め込まなくてはいけないのだが、人数が少なければ準備も早いと相手も想定するだろう。


 そうなると、敵は近い内に来るはずと、今は防備を固めているだろうが、そこに『一月後』という情報をわざと与える。

 すると、敵はまずその情報の真偽を確かめるために労力を割き、さらに偽情報だった場合を想定して、無駄に緊張感を保たなくてはならなくなる。


 こちら側の種族なら、一月くらいは気を抜かずにいられるだろうが、基本的に攻めっ気の強い魔族は、そこまで防衛に徹する事が得意な種族ではない。

 情報前に攻めて来るか、情報通り攻めて来るか……どちらにしても、こちらの動きに対して、体制にダレが生じる事は間違いないだろう。

 元魔族であった私達には、その辺の心情が手に取るようにわかる。

 とにかく、そういった魔族の性格を利用し、精神的に揺さぶりをかけるために、情報を広めてもらうのだ。


「まぁ、攻めのタイミングを早めるにしろ、遅めるにしろ、決定権がこちらにあります。そして、少数精鋭だけに、そういった駆け引きをしても負担が少ないのが、有利な点ですね」

 私達だけなら、大軍と違って維持費がほとんどかからないからね。

 そうした説明をすると、エルフ達は皆、なるほどなと納得したようだった。


「しかし、そうなるとまた、今回のように魔族の幹部が、単独で乗り込んできたりしないでしょうか?」

 オルブルの襲撃を受けた事を思い出したのか、エルフの中からそんな声があがる。

「それは大丈夫でしょう。向こうは、『迎え撃つ側』という有利を選んだのですから、博打のような真似をする必要がありません」

 この国には触手……もとい、精霊王の加護があるし、ドワーフの国には私達が常駐する。

 そして、人間の国にちょっかいを出すには、魔界の奥からでは距離があり過ぎるので、向こうから下手に動く事はできないだろう。

 それを告げると、エルフ達も安心したようだった。


「それにしても、エリクシアはまるで、先の事を見透かすように、作戦を立てるのですね」

「そんなに、大した事ではありませんよ。相手の動きを見て、そこから予想を立てているだけですから」

 アーレルハーレの言葉に、私がそう返すと、エルフ達が感心したように頷く。

 そして、その中でアストレイアだけが「うちのお姉ちゃんはすごいでしょう」と言わんばかりに、ドヤった顔をしていた。

 まったく、あの娘は……。


 さて、エルフ以外の種族にも、同時に色々とやってもらう事がある。

 これから私達は、ドワーフの国に移動して、色々と準備を整える予定なのだが、その間に人間の勇者達には、毒竜団の殲滅を頼まなくてはならない。


 それというのも、魔族がこちらの動きを調べるために利用するのが、奴等に違いないからだ。

 今、大きな支部をひとつ潰され、毒竜団の勢力はかなり削られているだろう。

 それだけに、ここで人間界の最高戦力である勇者達(ルアンタを除く)全員を投入して、完全に潰しておいてもらいたいのだ。


「アーリーズさん」

「はい?」

「貴女は、作戦内容を同封したこの手紙を、人間の王達に届けてください」

「ええっ!?」

 私の言葉に、アーリーズは心底意外そうに声をあげた。


「じ、自分はヴェルチェ様の従者ッス!勝手に主の元を離れる訳には、いかないッス!」

「いや……従者の前に勇者でしょうが。なにより、ヴェルチェにはすでに許可をもらっています」

「なっ!?」

 確認のために、振り返って主を仰ぐアーリーズに、ヴェルチェはコクンと首を縦に振った。


「あう……で、ですが、私はヴェルチェ様のゴーレムが、全力を出す際に、無くてはならないパーツとして……」

「アーリーズさん!」

 ピシャリとヴェルチェが声をあげると、グズっていたアーリーズは、叱られた犬のようにビクリと体を震わせた!


「ワタクシの従者を自認する者が、お使いひとつ、満足にこなせないと仰いますの?」

「そ、それは……」

「おまけに、駄々をこねて主に恥をかかせるとは……」

 失望のため息を吐くヴェルチェに、アーリーズは必死の形相ですがり付いた!


「も、申し訳ありませんッス、ヴェルチェ様!必ずや使いの役目を果たして見せますので、解任するのだけは勘弁して欲しいッス!」

「ええ、わかって下さればよろしいの。それでこそ、ワタクシの下ぼ……従者ですわ」

 いま、ナチュラルに下僕って言おうとしたな。

 まったく、恐ろしい娘だわ。


「手紙を届けた後は、すぐに戻ってくるッス!」

「ああ、いえ。その手紙にも書いておきましたが、貴女は他の勇者達と合流して、指令をこなしてください」

「っ!?」

 私の言葉を聞いた瞬間、この世の絶望を全て煮詰めて一気飲みしたかのような、苦渋の表情を見せるアーリーズ。

 何か抗議しようと、口を開きかけたが、先程ヴェルチェに(たしな)められたのを思い出したのか、言葉を発する事はなかった。


「……わかりましたッス。ただ、ひとつだけお願いがあるッス」

「お願い?」

「はい!お守り代わりに、ヴェルチェ様が身に付けている物を、何か頂戴したいッス!」

 ふむう、彼女を慕うアーリーズだけに、その『お願い』はわからなくもない。

「そのくらいのご褒美は、与えてもよろしくてよ」

 ヴェルチェも理解を示した事で、アーリーズはパッと顔を輝かせた。


「では、自分はヴェルチェ様の下着を所望するッス!」

 変態か!

「できれば、脱ぎたてが最高ッス!」

 ド変態かっ!!


 そう来るとは思ってなかったヴェルチェも、額に指を当てて沈痛な面持ちで俯いてしまう。

 まぁ、身に付けている物といえば、ハンカチとか装飾品を求めるのが普通だもんね。

 しかし、褒美を与えると言ってしまった以上、それを反故する訳にもいかず……。


「……わ、わかりましたわ」

 絞り出した彼女の声に、ザワリと周囲がどよめいた。

「少々、お待ちなさい……」

 そう言い残して、ヴェルチェは一旦、退席する。

 そして、数分後。

 何かそれっぽい物を手にした、彼女が戻ってきた。


「……これでよろしいのでしょう?」

 顔をそむけ、恥ずかしそうに告げながら、ヴェルチェはアーリーズへ下着を渡す。

 主からの褒美を受け取った従者は、涙をにじませて、ソレ(・・)を愛しそうに胸元で抱き締めた。

 一見すれば、神聖な絵画を思わせるようなワンシーンなんだけど、やってる事が下着の譲渡だと思うと、複雑な気分になってくるわ……。


「さすがに、脱ぎたてなどを渡すのは気持ち悪いので、着替えの中から持ってきましたわ。文句はありませんわよね?」

 あ、気持ち悪いってハッキリ言っちゃうんだ。

「はいっ!自分の家宝にするッス!」

 本当に、気持ち悪い返し方するんじゃない!無敵か!

 あと下着が家宝って……それでいいんだろうか、貴女の家は?


「では、お行きなさい!そして、指名を全うするのです!」

「はっ!」

 こ褒美をもらったアーリーズは、元気よく返事を返すと、ヴェルチェの命令に従って勢いよく飛び出していった。


 少しの間、変な空気に占められていたこの部屋にも、ようやくまともな雰囲気が戻ってくる。

「やれやれ……困った従者ですわ」

 呆れるヴェルチェを見て、彼女も大変だなとは思う。

 というか、最初は人見知りでアブノーマル趣味くらいだったのに、とんでもない成長をしたものだ。

 素直で可愛い成長をした、ルアンタとは正反対だな。

 やはり、師事したり仕えたりする人物に、下の者は左右されるんだろう。


「それにしても、よく下着なんて渡しましたね。何に使われるかと考えると、とても恐ろしいでしょうに……」

「構いませんわ。だって、渡したのはエリ姉様の下着ですもの」

「ぶほっ!」

 とんでもない事を、しれっと言ったヴェルチェに、私は思わず噴き出してしまった!


「なぁっ!? 何をしてくれてるんですか、貴女はっ!」

「あらあら、これは罰も兼ねていますのよ?」

「……罰?」

「ええ。ワタクシを差し置いて、ルアンタ様にキスマークを付けまくる、ふしだらな女に対する、罰ですわ」

「うっ……」

 くっ、気付かれていたのか……って、冷静に考えれば当たり前か。

 別に、私がルアンタにキスマークをつけようが、ヴェルチェにどうこう言われる筋合いはないのだが、強化のためにドワーフ達の手を借りねばならぬ以上、今は強く出にくい。

 だが、このままでは、私の下着がアーリーズの家の家宝として、代々受け継がれてしまう!


 さすがにそれは嫌過ぎるので、彼女には悪いが、次に会った時にはあの下着をなんとか無き物にしようと、私は心に誓った。


            ◆


「──さて、とりあえず打ち合わせも済んだし、アタシ達もドワーフの国に向かうとしようか」

 今まで、静かに成り行きを見守っていたデューナの言葉に同意して、私達も動き出す。


「それじゃあ、私が皆さんを送りますね!」

 一旦、エルフの転移魔法で私の森へ向かい、そこから比較的近いドワーフの国へ向かう予定だったので、送る役目にアストレイアが手をあげる。

「よろしくお願いしますよ、アストレイア」

「任せて、お姉ちゃん!」

 可愛らしくウインクする、妹の姿がなかなか頼もしい。


 アストレイアは、早速この場を借りて、精霊界への入り口となる、転移口(ゲート)を開く。

 本来なら、一度森へ出向かないといけないらしいが、精霊の力が満ちている、この城内ならば何処でも開閉できるらしい。

 便利な話だわ。


「皆さんのご武運を、お祈りしております」

 アーレルハーレの激励の言葉を背に受け、軽く手をあげ返事を返すと、私達は転移口の入り口を潜った。

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