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謀殺されてTS転生した魔王の息子が、勇者の師匠になる話  作者: 善信
第八章 魔界潜入作戦
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03 リベンジへの布石

            ◆


 風呂上がりの牛乳を飲み干した私達は、早速アーレルハーレの元へ向かうと、模擬戦を行うために、精霊界の一部を借り受けたいと申し出た。

 いきなりそんな事を言われた向こうも、「なんでそんな話になってるの!?」と驚いていたが、そこは戦う女(?)の矜持と意地である。


 そんな突然の話ではあったものの、私達のバトルを見物できるという条件で、場所を提供してもらえる事になった。

 魔導宰相に乗り込まれ、モンスターに襲われて意気消沈しているエルフ達を鼓舞するのにも、味方の最強戦力を見せるのは有効だろうという、彼女の判断のようだ。


「エリクシアの活躍を見れば、皆盛り上がります!ですから、頑張ってくださいね!」

 ダークエルフであり、女王と義姉妹となった私が勝てば、効果はばつぐんだ!と激励するアーレルハーレ。

 しかし、正直な所を言えば、負けてもいいと私は思っていた。


 なぜなら、何らかの壁を破りそうなデューナや、ゴーレムを使うというヴェルチェの戦い方から、何か新しいアイデアが得られないか、それを模索するという目的が、私にはあるからだ。


 『戦乙女(ヴァルキュリア)装束(・フォーム)』は確かに強力なのだが、今のままではオルブルに対して、有効的な戦いができるとは思えない。

 あの、『超重量』と『魔力による再生』を攻略するには、何かもうひとつ……パワーアップするための、ヒントが欲しかった。

 まぁ、異世界の書物にあったヒーロー達も、何らかのフォームチェンジで、強化するのが当たり前だったし、方向性は合ってると思う。


 そんな訳で、この模擬戦、勝ちに行くより学ぶ事を重視していく予定だった。

  ……とはいえ、ルアンタに格好悪い所を見せるつもりは、無いけれど。


 ──そして、一時間後。

 エルフの精霊魔法によって作られた、広い疑似空間に私達は立っていた。

 何もない、ただっ広いだけのこの空間は、屈辱を味わったオルブルの魔法に似ていて、ちょっと嫌な気分になる。


『さあ、間もなく始まります、エルフ・ドワーフ・オーガの三つ巴による、頂上決戦。いったい、どれ程の激戦が繰り広げられるのでしょうか。司会は私、女王近衛兵(ロイヤルガード)のアストレイア。解説は人間の勇者ルアンタ君と、同じく七勇者の一人である、アーリーズさんでお送りいたします』

『よ、よろしくお願いします』

『頑張ってくださいッス、ヴェルチェ様!』


 そんな会話を交わす三人の姿が、疑似空間の上空に浮かぶ、大窓ようなの物に映し出されていた。

 そこからは、外から見物しているエルフ達の様子が、見えるようになっている。

 逆に、向こうには中にいる私達の姿が映し出されているらしい。

 だが、司会とか解説って……あと、贔屓目バリバリな、アーリーズはなんなの?


「ハッハッハ!まるで見世物じゃないか。まぁ祭りみたいなもんだし、アタシらも楽しもうか」

 高笑いしながら、デューナが炎のような闘気を噴き上がらせる!


「ワタクシの華麗なる、『姫を模したる(ヴェルチェ・)踊り子人形(オルケストリス)』のお披露目には、ちょうどいい舞台ですわね」

 ゴーレムを作り出し、それに乗り込んだヴェルチェが、どこか楽しげに言う。


「見せてもらいますよ……二人の底力という物を」

 そして私は、『ギア』と『バレット』を装着し、「変身!」の声と共に『戦乙女装束』を纏った!


『おおっと、各々の準備が整ったようです!私の個人の見解といたしましては、やはり魔将軍をも軽く捻る、お姉ちゃ……エリクシアが有利かっ!?』

『エリクシア先生には頑張ってほしいですけど、病み上がりという事もありますし、無理はしないでほしいです。なにより、戦うほどに強くなる、デューナ先生がここは有利かもしれません』

『ヴェルチェ様最高ッス!ヴェルチェ様最高ッス!』


 向こうでは、解説役をしている三者の意見に、エルフ達も盛り上がりを見せている。

 いや、アーリーズの語彙力ゼロのコメントは、解説になってないけど。


『それではっ!頂上決戦、レディ・ゴー!』


 カァン!と戦いのゴングの音が鳴り響き、私達三人は一斉に動き出した!


            ◆


 ──ふぅ。

 戦いが終わり、荒涼とした空間に腰を下ろしながら、私は一息ついた。

 画面の向こうでは、私達の激しい戦いに興奮したエルフ達が、今も歓声をあげている。

 まぁ、そうなってもおかしくないくらいに、激戦を繰り広げた訳よ。


 まず、驚かされたのは、ヴェルチェの『ゴーレムアーツ』だった。

 初め、生み出されたゴーレムは、どこにでもいるような鈍重な感じの物だったのだが……。

 彼女が乗り込んだ途端、ヴェルチェに似せて作られたのかと問いたくなるくらいに、劇的な外見の変化を見せ、私もデューナも呆気に取られてしまった。まぁ、そのゴーレムが胸を誇張しすぎだった……というのもあるけど。

 しかし、その性能は素晴らしく、まるで前世のダーイッジだった頃を思い出させる、二刀を使った戦い方などをみせていた!


 そんなヴェルチェに対して、デューナも『超戦士化』で対抗していたが……序盤は、かなり分が悪そうな様子だった。

 しかし、時間が断つにつれて、彼女にも変化が訪れる。

 戦いを通じて、赤い炎を思わせる彼女の闘気は、さらに研ぎ澄まされ、いつしか更なる高温を現すような、蒼い炎の闘気を宿すようになっていた。

 それに合わせて身体能力はさらに上昇し、まさに『超戦士化を越えた、超戦士化』という、理外の進化を遂げていたのだ!


 そんな二人に、私は一歩引いた状態で挑んだのだけれど、つい熱くなって『重武装(ベビーアームズ)』も含めた、全力で対応してしまった。

 お陰で、大暴れしたデューナや、ゴーレムを破壊されたヴェルチェと供に、仲良くこうして転がっている次第である。


 魔力や気力を、全て使い果たすまで暴れたのは、いつぶりだろう……。

 妙にスッキリとした頭の中では、この戦いを通じて得たアイデアや、それを実現するための方法が浮かんでは消える。

 うん、たまには頭空っぽにして暴れるというのも、大事だわ。

 やがて私も、いつの間にか寝息を立てていた二人に釣られるように、微睡みの沼へと沈んでいった……。


            ◆


 翌朝。

 目が覚めてから、今度は一人で入浴していた私は、昨日の戦いの後に浮かんだアイデアを、頭の中でまとめに入っていた。

 ああして、こうして……と色々こねくり回してはみたものの……。

「やはり、魔力不足ですね……」

 やりたい事はあるのだけど、やれるようにする手段が見つからない。

 現実の壁にぶつかった私は、大きくため息をついた。


 やりたい事……あの、オルブルの『奈落装束アビス・フォーム』を破る。

 そのための、武装や仕様については、なんとか作れそうではある。

 しかし、それを運用しようとすると、『重武装』よりもはるかに大量の魔力を使うことになるのだ。

 今でさえ、カツカツな所に、さらに上乗せで……とは、さすがに無理だよなぁ……。


 いやいや、一人で悩んでいても仕方ない。

 ここは、皆の意見も聞いて、協力を仰ごう。

 そう決めた私は、風呂から上がると再び牛乳を一気飲みして、皆の所へ向かう事にした。


「エリクシア先生!」

 風呂上がりで、通路を進んでいた私に、廊下の向こうから姿を現したルアンタが手を振って駆け寄ってきた。

 そういえば、再会してから、ろくに話もしていなかったなぁ……。

 よおし、今なら邪魔者もいないし、たっぷりと師弟のコミニュケーションを取るとしますか!


「お体は大丈夫ですか?」

「ええ、心配してくれて、ありがとう」

 気遣ってくれる弟子の頭を撫でると、ホッとしたようにルアンタは微笑みを浮かべる。

 うーん、可愛い。


「貴方達と別れて行動していた、私の顛末は聞いているでしょうが……ルアンタの方はどうでしたか?」

 一応、デューナから聞いて毒竜団との事は知ってはいたけど、ルアンタの口からも色々と聞いておきたかった。

「はい!僕の方は……」

 嬉しそうに、語り始めるルアンタ。

 私はそんな彼の話を聞きながら、相槌を打っていた。


「……と、いった所です」

 なるほど。私との、修業中のやり取りを思い出して逆境を覆したのは、ポイントが高い。

 頑張った事を誉めて!的なオーラを醸し出すルアンタに、私は労いと称賛の言葉をかけた。

「それで、これを先生に渡しておきたいんですが……」

 誉められてニコニコ顔のルアンタは、そう言いながら『ポケット』から、戦利品とやらを取り出す。

 って、これは……っ!?


「なんだか、とんでもない魔力を秘めた、宝珠らしいです。先生の役に立つと、嬉しいんですけど……」

「ルアンタっ!」

「は、はいっ!?」

 言葉の終わりに、被せるように名前を呼ばれて、ルアンタは少し上ずった声で返事をした!

 いや、怒っている訳じゃないんだよ?

 むしろ……。


「貴方は、最高です!」

 感極まった私は、思わず彼を抱き締める!

 不可能が可能になる材料が、来たわ、これ。

 魔力不足に悩んでいた所に、こんな素晴らしい魔力の宝珠を持って帰って来るなんて……。

 思えば、この子はいつも私に光明をくれるなぁ……もう、好きぃ♥

「せ、先生!?」

 ギュウッ!と抱き締められて、彼は慌てふためき真っ赤になっている。

 ああ……そんな所まで、可愛いじゃないですかっ!まったく♥


「そういえば、約束をしていましたね……」

「や、約束?」

「ええ、貴方が活躍したら、ご褒美をあげるという、約束です」

「あ……」

 それを思い出したのか、何か期待するような光が、ルアンタの瞳に宿る。

 そんな彼に、テンションが高まっていた私は、微笑みかけながらキスの雨を降らせてあげた!


「さぁ、ルアンタ。いよいよ最後の戦いも近いですよ!」

「は、はい……先生♥」

 顔中にキスマークを、いっぱいにつけられたルアンタは、のぼせたような緩んだ顔で、私の胸に倒れ込んできて……意識を失った。

 ……や、やり過ぎた。ごめんね、ルアンタ……。

前回更新した日に「奴隷勇者のご主人様」という短編を書いてみました。

よろしければ、そちらもどうぞ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ぬぅ、あれはまさか好近死婦(すきんしっぷ)…!
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