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08 変身

「魔導宰相……オルブル……」

「私達を操ろうとしていた、ザルサーシュ達を送り込んだ、張本人の……」

 人間の冒険者から、黒衣の魔族へと変化した奴を前に、苦い経験を持つエルフ達が、緊張の面持ちで呟いた。

 そして私も、彼女達とは違う意味で息を飲む。


 容姿は言うに及ばず、身体的特徴や魔力の波動……それらの全てが、アレは間違いなく、オルブルそのもの(・・・・・・・・)だと告げている!

 ただ、それを認めてしまうと、『オルブルが転生したはずの私は、なんなのだ?』って話になるけれど……。


 ……いや、落ち着け私。

 誰かの物まねをしていたら、背後からご本人登場なんて話がよくあるが、今の場合は私がその「ご本人」の立場なんだ。

 考えようによっては、オルブル(前世の私)を真似ている、眼前の偽オルブルの正体を突き止める、いいチャンスじゃないか。

 謎が向こうからやって来たんだ、ありがたく捕まえて、詳しい話を聞き出してやろう!


「それにしても……わざわざ、魔王軍のナンバー2が出場って来るとは、豪気な話ですね。いったい、何が目的です?」

「フッ……それは……」

「ああっ!」

 得意気に説明しようとしたオルブル(・・・・)の言葉を遮って、不意にアーレルハーレが大きな声をあげた!


「も、も、も、もしかして……また、私達エルフの女性を手込めにするためにっ!?」

「なっ!?」

 女王のそんな言葉を聞いた瞬間、周りの女王近衛兵(ロイヤル・ガード)にもざわめきが広がる!

「な、なんですって!また、あんな下衆い魔法を!?」

「洗脳魔法で女を自由にしようなどと、クズが過ぎる……っ!」

「でも、確かにそんな真似でもしなければ、女性にモテそうにもない、風体ですわ!」

「それにあの目付き……間違いなく、私達をいやらしい目で見ているに違いない!」

「魔導宰相などと名乗るより、セクハラ大臣の方がお似合いなのではないかしら!?」


「そこまで言うこと、無いだろうが(でしょう)っ!!!!」


 私とオルブルの怒声がハモる!

 ……あ!

 オルブル(・・・・)がボロくそに言われてるのを見て、つい口を挟んでしまった。

「お、お姉ちゃん……?」

「い、いえ……奴が何を考えているかわからない以上、いたずらに挑発をしないでください」

 適当にそう言って誤魔化すと、「なるほど、さすがはお姉ちゃん!」と納得してくれた。

 ふぅ、危ない所だったわ。


「……そうだな、まずは俺の目的を話しておこうか……その方が、スムーズに行きそうだ」

「ほぅ……では、何をしにこの国に来たのか、教えてもらえるんですか?」

「本来は、エルフの国を崩すための下調べだったんだが……今は、お前が目的だよ、エリクシア」

「……はぁ?」

「俺は、お前を部下にしたい!だから勧誘するために、こうして姿を表したのさ!」

 な、何を言っているんだ、この男は……!?


「お姉ちゃんに、いやらしい事をするつもりなのっ!」

「そうじゃねぇよ!」

「ちょっと落ち着きなさい、アストレイア」

 話の腰を折ったアストレイアを宥めつつ、私はオルブルに続きを促した。


「ドワーフの国の統治に、エルフや人間の国への侵攻……それら、俺の立てた作戦を悉く潰してくれたのが、『勇者ルアンタ』だ。しかし、彼の行動を調べていくと、その背後にブレーンとも言える存在が見え隠れしている」

「…………」

「そう!お前だ、エリクシア!」 

 なるほど、よく調べているな。


「俺は、魔界の統一が成った直後、次に攻めるであろう人間界に目をつけ、犯罪組織を中心に協力者を募った。そしてそいつらを使い、魔族への抵抗勢力が集いそうな時には、情報収集と撹乱に務めてきていた訳だが……」

 なんと……そんなに前から、人間界の闇に巣くっていたとは。


「正直言って、『七勇者』だけなら大した障害にならないと思っていたよ。ルアンタも、『強大な魔力はあれど、そのコントロールができない少年』と判断していたしな」

 確かに、初めて会った頃のルアンタは、そんな感じだった。

 それが、私からの手解きを受けて、今では立派に魔力のコントロールができるようになっている。 

 ……魔力経路を開発した時、私の腕の中で悶えていたルアンタは、可愛かったなぁ……。


「……なに、ニヤけてんだ?」

「べ、べ、別なニヤけてなどいません!」

 危ない、危ない。つい、顔に出ていたか。


「まぁ、そういう事でそんな欠点のある勇者を、人類の希望にまで引き上げた、お前という存在に興味があると言う事だ」

 好意的な笑顔を浮かべながら、オルブルは右手を差し出してくる。

「お前になら、魔将軍……いや、三公の地位を与えてもいいと思っている。今度は(・・・)この手を取ってくれる(・・・・・・・・・・)よな(・・)?」

 初対面で、握手を拒否したことを揶揄しながら、オルブルはそんな事を言う。

 こちらを持ち上げておきながら、拒否すれば容赦はしないという、無言の圧力が、握手を求める奴からは発せられていた。


「……なるほど、そこまで私を評価してもらえるとは、大変光栄です」

「おっ!じゃあ……」


「だが断る!」


 一転して拒絶の言葉を口にした私に、オルブルが「わかってるねぇ」と呟いて、ニヤリと笑う。

 何が「わかってるね」なのかわからないが、ともかく私がルアンタを裏切って、魔族に与する事などあり得ない!


「まぁ……そう来るだろうなとは、思っていたよ」

「ええ。甘言に乗せられては、後で後悔しそうですしね。何より、ここで貴方を倒せば、私達の勝利はほぼ磐石となるでしょう!」

 先程、ルアンタのパーティの要は私だというような事を、奴は言っていた。だが、魔王軍の要となっているのは、目の前のオルブルなのだろう。

 ならば、ノコノコ姿を現した奴をここで叩けば、残された魔王軍は烏合の衆と化す可能性が高い!


 私は、速攻で決めるべく、『ポケット』から『ギア』と『バレット』を取り出した!

「おおっ!? それって、収納魔法!?」

 それを見たオルブルが、目を輝かせて食い付いてきた。

 なんだ!? いきなり『収納魔法』だと見抜いた!?

 『ポケット』の存在に、驚く者は多々いたけれど、一発で見抜かれたのは、初めてだ。


「いいなぁ……俺もソレ(・・)、作りたかったんだよなぁ……」

 こいつ……やはり、この偽オルブルは、前世での私のように、異世界の知識に触れているようだ。

 そうでなければ、この世界の住人から、そんな発想はなかなか出てこないだろう。

 だが、そうとわかれば、最初から全力で行くしかないっ!


「かなり、激しい戦いになります!皆は下がってください!」

 私の言葉にアストレイア達が部屋の隅まで、後退する。

 できれば、ここから出てもらいたかったんだけど……。

「ふむ、エルフ達が心配か?なら、こういうのはどうだ?」

 そう言って、素早く詠唱したオルブルは、不可思議な魔法を発動させる!

 すると一瞬、奴を中心とした光が放たれ、次の瞬間には私とオルブルの二人は、どこまでも広がる何もない殺風景な場所に立ち尽くしていた。


「なっ……!?」

「驚いたか?これは、俺が作り出した、ある種の結界みたいな物さ」

 け、結界?

 一瞬、どこかに飛ばされたのかと勘違いしそうな、これだけの規模の空間を、作り出したというのかっ!?


「元は、収納魔法を作ろうとしていて、その副産物でできたような魔法だがな。それでも、この隔絶された空間の中なら、いくら暴れても向こう(・・・)に被害は及ばないだろう」

「ありがたい事ですが……そんな空間まで用意するとは、随分と余裕ですね」

「まあな。それに、一度はフラれたとはいえ、お前の全力とやらを見てみたいからな」

「そうですか……ならば、見せてあげましょう!」

 私は腰に『ギア』を装着し、『バレット』を起動させる!


「変身っ!」


 気合いの声と共に、私は光に包まれ、次の瞬間には全身を覆う、戦闘スーツを装着していた!

「たっぷりと味わってもらいましょう……この『戦乙女(ヴァルキュリア)装束(・フォーム)』の力をね!」


 ビシッ!と決めた私に対して、オルブルは……。

「ク、ククク……フハハハハハっ!」

 何故か突然、大爆笑していた。

 え?そこは、驚く所でしょう!?

 なんだかそんな反応されると、ちょっと恥ずかしくなって来るんだが……。


「……いやぁ、まいった。俺と(・・)似たような事を考え(・・・・・・・・・)る奴が(・・・)他にもいたとは(・・・・・・・)

 なにっ!? それって、どういう……。


 戸惑う私を前にして、オルブルはおもむろに、自分の下腹の辺りに手を翳した。

 すると、私の『ギア』のような、大きなバックルのついたベルトが現れる!

 そして……。


「変身」


 静かに告げた、その言葉に反応して、奴のベルトから魔力が溢れだす!

 それは、オルブルが身につけている黒衣と反応し、燃えあがる炎のような動きで姿を変え、奴を包み込んでいった!

 ……やがて、その変動が収まった時。

 私の目の前には、暗黒の全身スーツを纏ったオルブルが佇んでいた。


「な、あ……」

「お前のは確か、『戦乙女装束』と言っていたな……。ならば、俺のは『奈落装束(アビス・フォーム)』とでもしておこうか」

 驚愕する私を前に、オルブルは楽しげな口調で、そんな風に名乗りをあげた。

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