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07 彼の名は……

 エルフの国に滞在してから、三日程が経った。

 その間に、色々と私の周りの環境が変わる話もあったけど、最も印象に残ったのは、アストレイアの親……つまり、今の私の両親(・・・・・・)と再会した事だろう。


            ◆


「エリクシア……本当に貴女なのね……」

「立派に……生き抜いてくれていたんだなぁ……」

 当時、私が赤ん坊だった頃に見た記憶のまま、まったく変わっていない両親の姿。

 そんな二人は、私を捨てた時とは違う意味で、ボロボロと泣いていた。


「あの時……掟とはいえ、お前を捨てた事を後悔しない日はなかった……」

「だけど、どんな理由があったとしても、貴女には私達を恨む権利があるわ」

「そういう事だ……お前が望むなら、僕達の首を持っていってくれ」

 そう言うと、二人は膝をついて首を差し出すように、頭を垂れた。

 いや、いらんて!

 なんで、そんなストロングスタイルの謝罪になるのかな?


「前に、アストレイアから話は聞いています。わだかまりが無いと言えば嘘になりますが、恨みつらみは抱えていませんよ」

 私も(前世の分も含めて)子供ではないし、世の中にはやむにやまれぬ事情があるというのは、十分に承知している。

 なればこそ、過去に(こだわ)るよりも、未来へ向けての関係性を構築した方が、精神的にもずっと健全という物だろう。


「ああ……なんて優しい娘なのかしら。これはきっと、アナタに似たのね」

「そうだね……そして、この娘の知的な美貌は、キミから受け継がれた物に違いない」

「そんな……照れるわ、アナタ」

「照れる事はないさ、僕は本当の事を言っているだけなんだから!」

 見つめ合う二人は、感極まったように言葉を無くして、堅く抱き締め合う!

 ……なにこれ?

 なんでいきなり、イチャつき始めたの、この人達は?


 突然始まった、両親の『二人だけの世界』っぷりに呆然としていると、申し訳なさそうにアストレイアがお詫びしてきた、


「ごめんね、お姉ちゃん……うちのお父さん達って、隙あらばイチャイチャしたがるのよ」

 ハァ……と、うんざりしたようにため息を吐く、アストレイア。

 そんな彼女に対して、両親はキリッ!とした表情になると、抱き締め合ったまま反論してきた!


「何を言っているんだ、アストレイア!僕達は、隙が無くても無理矢理イチャつくぞ!」

「そうよ!なんなら、弟か妹が増えるかもしれないから、楽しみにしてなさい!」

「そういう、生々しい事を言うのはやめてよ!」

 アストレイアは、顔を真っ赤にしながら吼えるが、私も「たはは……」といった感じで、苦笑いする事しかできなかった。

 夫婦仲が良いのは結構だが、年頃の娘の前ではやめてあげてね……。


            ◆


 そんな感じで、私と両親(・・)との和解も成り立ち、いま私はスッキリとした気分で、女王アーレルハーレの元へ向かう。


 ただ、この会合が終われば、間もなくエルフの国から旅立つ私に、ひとつだけ心残りのような物があった。

 それは、あれからシンヤとは再会する事は出来ず、私とルアンタについて話す機会に恵まれずにいた事である。


 まだまだ『私とルアンタの熱血訓練』とか、『私とルアンタの座学風景』とか、話し足りない事は沢山あるというのに……奴め、まさか逃げたのかな?

 まぁ、情報収集に来ていたと言っていたし、他にも聴き込み等の仕事があるんだろうから、仕方あるまい。

 だが、今度彼を見つけた時には、数日かけてみっちりと話してあげようと思う。


 さて……それよりも、これからのアーレルハーレとの話し合いや、その後に行われる大切な催しについて、集中しないとなぁ。


 話の内容は言わずもがな、私とアーレルハーレによる、義姉妹の契りについてだ。

 これをやっておく事で、森を所有するエリクシア()も王族(仮)だから、エルフの国は一枚板よ!と喧伝したのと同じになるらしい。


 まぁ、実質の管理権は私にあるし、この国が壊滅的な被害にでも会わない限りは、手も口も出さないという事で、話をまとめる予定だ。

 アーレルハーレを始め、この国のエルフ達は私の実力を知っているし、変に揉める事はないと思う。

 なので、そちらに関しては、問題はないのだが……。


「ふぅ……」

 思わず、ため息が漏れる。

 このところ、シンヤに話してやろうと、ルアンタとの思い出を回想している内に、私の中の『ルアンタに会いたいゲージ』は上昇し続け、もはや限界に近づいていた。

 面倒な話し合いなんか、ちゃっちゃと終わらせて、早く可愛い愛弟子に会いたいなぁ……。


「……話、聞いてる?」

「んあっ!?」

 ルアンタの事を考えてぼんやりしていた所を、アーレルハーレに声をかけられて、思わず変な声が出る。

 いけない、いけない。うっかりしてたわ。


「大丈夫、聞いてますよ」

「そう?ならよいのだけど……」

 平静を装いつつ、取り繕った私に若干の疑いの目を向けつつ、アーレルハーレはコホンとひとつ咳払いをした。

「これで私と貴女は、晴れて義姉妹となりました!」

 え!もう話は終わってたの?

 しまった……途中から全然聞いてなかった。


「ダークエルフの貴女が王族に入った事で、ますますこの国から差別は無くなるでしょう」

 うん、それは良いことだ。

「それに、今後は私の身に万が一の事があった時は、代わりにこの国を率いてくださいね」

 うっ……それは勘弁してもらいたいなぁ。


 言葉には出さなかったが、前世でゴタゴタを味わっている身の上としては、「実務を伴う王族なんて、もうコリゴリだよぅ!」という気持ちでいっぱいなのだ。

 アーレルハーレには、為政者としていつまでも頑張って、無事にすごしてほしい。

 私の、平穏な生活のためにもね!


「では、この後は国民の皆に、義姉妹の紹介を……」

「あー、ちょっとお忙しいとこ、ごめんください……よっと!」

 アーレルハーレの言葉を遮るように、突然、入り口の方から、男の声が割って入った!

 その聞き覚えのある声に、振り替えれば……奴がいた!


「シンヤ!?」

「よう、エリクシアさん。奇遇だねぇ」

 町でたまたま出会った顔見知りのように、シンヤは軽い調子で手をあげて挨拶してくる。

 何故、彼がこんな所に……ハッ!


「もしや、私とルアンタの話が聞きたくて、ここまで入り込んだのですかっ!?」

「んなわけあるかいっ!」

 違うのっ!?


 では、何をしにこんな所へ……?

 そう問い返そうとした時、ふと、彼の足元に女王近衛兵(ロイヤル・ガード)の一人が、横たわっている事に、皆が気づいた!


「倒れている彼女に、何をしたんです!?」

 ただならぬ気配に、女王を守るように囲む、アストレイア達と、シンヤの間に入るようにして、私は前に進み出る。


「いやぁ……どうやら、エルフは魔法をかけると寝ちゃうみたい」

 惚けた事を言いながらも、彼がエルフを昏倒させるほどの魔法を使える事に、私は内心、驚いていた。

 だって、どう見ても魔法を使うような雰囲気に見えなかったし、内包する魔力も大した事はなかったから……。


「貴方は……何者です!?」

「ふむ……確かにこの姿(・・・)は、世を忍ぶ仮の姿だもんな。しかし、その実体は……」

 芝居がかった口調で見栄を切りながら、シンヤは自身にかけていた偽装の魔法(・・・・・)を解き、真の姿を解放する!

 その瞬間、人間の姿だった時とは桁違いの魔力が、彼から噴き出してきた!


「これが俺の正体さ……騙してて、悪かったね」

 穏やかな物言いで、詫びの言葉を口にする彼の姿は、額の角に青い肌といった、魔族の特徴がありありと出ている。

 もちろん、その正体にも驚いだが、何よりも私に衝撃を与えたのは、それが前世でよく見た顔だったからだ!


 ……ああ、くそっ!

 どおりで初対面の時に、見覚えのある気(・・・・・・・)がしたはずだ(・・・・・・)


「貴方は……貴方は、何者なんですかっ!」

 私は叫ぶように、同じ言葉をもう一度、口にした!

「……あえて、この場の皆さんには、もう一度『初めまして』と言わせてもらおう」

 そう、前置きしてから、彼は優雅に一礼する。


「我が名は、オルブル(・・・・)。魔王ボウンズールの配下にして、魔導宰相の地位を預かる者である」


 前世の私と、同じ姿をした男の名乗りに、室内を静かな衝撃が走った!

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