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09 究極ゴーレム、大地に立つ

「ヴェ、ヴェルっさん!めっちゃ、ゴーレム役にたってないんスけど!」

「おお、落ちついてくださいまし!まだまだ、これからですわ!」

 まさかの瞬殺に、動揺しつつも、ワタクシは再びゴーレムを生み出します!

 しかも、今度は二体同時にっ!ですわ!


「さぁ、行きなさい!」

 ワタクシの命令に応え、ゴーレム達はキャロメンスに向かっていきました!


 最初にやられたゴーレムの反省から、二体による時間差をつけた攻撃をするようにコントロールして、キャロメンスを狙います。

 一体目の攻撃がかわされ、体勢の崩れた所を二体目が攻撃する……そんな絵図を、頭の中に描き、行動するように指示を出しました!


「はんっ!」

 ですが、そんなワタクシの狙いなど、小賢しいとでも言わんばかりに、キャロメンスは自らゴーレム達へ突っ込んでいきます!

 そしてまた、彼女の爪が一閃!

 攻撃する前に懐に入られ、その動きに反応すらできなかったゴーレム達は、成す術もなく切り裂かれて、再び崩れ落ちていきました……。


「無駄だ、そんな小細工は。止まっているのと変わらない、私の目から見ればな」

 汗ひとつかかずに、余裕の態度をキャロメンスは崩しません。

 こ、これは、かなりマズい状況ですわ。

 満を持して披露したにも関わらず、足止め程度にしかならないとは……。

 せめて、今のワタクシに前世(むかし)ほどの力があれば、ここまで追い込まれる事もありませんでしたのにっ!


「さて……終わらせるか」

 コキコキと指を鳴らし、キャロメンスが近付いてきます。

 な、何か彼女の、殺る気を削ぐ方法は……そうですわっ!


「……本当に、ワタクシ達を倒してもよろしいんですの?」

「……?」

 意味深な雰囲気を醸しながら微笑むワタクシに、キャロメンスは怪訝そうな顔になりました。

「ワタクシ達は以前、魔将軍のディアーレンに支配されている間、不本意ながら可愛い衣装を作らされておりましたの……」

「……知っている、その話は。だが、何が言いたい?」

 こちらの意図が読めないながらも、何かを感じ取ったのか、彼女は耳を傾けます。

 よし、ここが勝負ですわ!


「ですから、ワタクシ達ならば、オルブルを魅了する(・・・・・・・・・)ような(・・・)貴女に似合いの衣装(・・・・・・・・・)を作れる(・・・・)……と言っているのですわ!」

「なん……だと……っ!?」

 固まったように動かなくなった、キャロメンスの表情は、困惑と期待に満ちています。

 フッフッフッ……申し訳ありませんが、ここは恋する乙女の心というものを、突かせていただきますわ!


「貴女ほどの素材が、ワタクシ達の衣装を纏えば、見違えるほど魅力的になるでしょうね……」

「魅力的……私が?」

「ええ!それこそ、殿方は放っておきませんわ!」

「オルブル……様も?」

「もちろんです!新たなる魅力を引き出された貴女に、きっと惹かれるでしょうね。それはもう、抱きしめずにはいられないほどに……」

「抱きしめる……私を……オルブル様が……」

 その姿を想像したのか、キャロメンスの顔が上気していきます。

 そうですわよね、憧れのシチュエーションを、思い浮かべずにはいられませよね。


 ……アコギな真似をしているのは自覚していますし、少々心が痛みますわ。

 ですが、それだけに想い人から意識してもらえるという誘惑が、強烈な物なのだというのも理解できます。

 現に、端から見ても彼女の心と尻尾が揺れているのが、よくわかりますもの!


「うう……使命……でも、オルブル様……うう……」

 理性と本能の狭間で揺らぐ、キャロメンス。

 ワタクシも(堕ちてくださいまし、堕ちてくださいまし……)と、念を送りました。


 息を飲む、葛藤の時間が流れていきます。

 そんな中、重苦しい沈黙に耐えかねたのか、アーリーズさんがポツリと呟きました。


「早く退却してほしいッス……万が一、職人だけ生かせばいいと気付かれたら、終わりッス……」


「…………あ」

「…………なっ!」

 その、漏れた呟きを耳にしたキャロメンスは、その手があったかと、ポン!と手を打ちました!


「アァァァァリィィィィズゥゥさぁぁぁんんんっ!!!!!!!」

 何を口走っていますの、貴女はぁぁっ!

 思わず、振り返りざまに、全力の平手ツッコミを、放たずにはいられませんでしたっ!

 ビタン!と派手な音を立てて、彼女の胸に炸裂したそれを受け、アーリーズさんは「はぁん♥」と痛いのだか、喜んでるのだか、よくわからない声をあげます!


「なんで、そういう事を口走ってしまうんですのっ!」

「も、申し訳ないッス!自分、今まで無口で通していたんで、喋ってもいい現状では、たまに思った事がポロリしちゃうッス!」

「んんぅ……」

 確かに、彼女の生い立ちや事情をかんがみると、あまりキツくも責められませんわ。

 ですが……。


「心置きなく殺れるな、これで……」

 俄然、やる気になったキャロメンスが、自身の爪をペロリと舐めます。

 はぅぅ……まさに大ピンチですわ!


 試行錯誤して作り上げた『ゴーレムアーツ』も通用せず、キャロメンスに対抗しうる術は、もうありません。

 一歩、一歩と近付いてくる死神(キャロメンス)を前に、ワタクシの思考はまとまり無く回転していきました。


 ああ……せめて、死ぬならルアンタ様の腕に抱かれて、息絶えたかった。

 ……いえ、違いますわね。エリ姉様のように、お揃いの装いで肩を並べたかった……の方がよろしいかしら?

 うん!想像してみると、やはりエリ姉様よりも、ワタクシがルアンタ様の隣にいた方が、見映えはいいように思えますわ。

 はぁ……それにしても、エリ姉様がワタクシにも『戦乙女(ヴァルキュリア)装束(フォーム)』のような身に纏う防具を作ってくださいましたら、こんな事には……。


「……っ!?」

 ゆったりと進む体感時間の中で、エリ姉様の『変身』姿を思い出した瞬間、ワタクシの脳裏に稲妻が走りました!


 そうですわ……『纏う』という事。それを拡大解釈していけば……。


「『ディアボロス』の皆さん!ほんの少しで構いませんので、時間を稼いでくださいませ!」

 ワタクシの指示に、彼等は顔を見合わせます。

「何か打つ手があるんスか!?」

「ええ、ただ少し時間がかかりそうなので!」

「……長くは持たないからな」

「お願いいたしますわ!」

 魔族の三人組は、ニヤリと無理矢理に笑顔を作ると、キャロメンスとワタクシの間に立ちはだかりました!


「邪魔だ。止められるつもりか?お前ら風情が」

「もちろん、長時間は無理だと思うッスよ……」

「だがな、俺達は人間達と共にパーティを組んで戦うという経験を積んで、それぞれの役割を果たす重要性を知った」

「それだけじゃないです!チームワークで戦う事で、個人で戦うより何倍も強い力を発揮できる事も知りました!」

「見せてやるッスよ……俺達、チーム『ディアボロス』としての力をね!」

「ふん……」


 何やら、仲間との協調性を生かした戦いを、挑もうとしているようですわね。

 基本といえば基本過ぎますが、協力して戦うという事を考えない魔族特有の思考からすれば、格段の進歩と言えますわ!

 これは、意外に期待できるかもしれません……ワタクシも、この間にやるべき事をやりますわ!


 先程、頭に浮かんだアイデアを実行すべく、あるゴーレム(・・・・・・)を精製しようと、詠唱を開始します。

 そんなワタクシの背後で、激しい戦闘が始まる音がしました!

 急がなくては……そう思い、詠唱をするワタクシの足元に、何かが飛来します!

 戦闘の余波かしら?そんな事を思い、確認のためにチラリと目を向けると……足元に転がっていたのは、魔族の三人組でした。


「ごめん、無理だった」

 瞬殺ですの!? 瞬殺ですの!?

 先程まで、すごく戦えそうな雰囲気でしたのに、びっくりするほど決着は早かったですわ!


「変われるものかよ、そう簡単に」

 一瞬で『ディアボロス』の面々を倒したキャロメンスは、悠々とワタクシを見据えます。

 い、いけませんわ!このままでは、せっかくの閃きが……。


「死……」

 右腕を振りかぶり、ワタクシの命を刈り取ろうとする、死神の爪が振るわれようとした瞬間!

「今ッス!」

 その声と共に、キャロメンスの足元が隆起し、まるで柱が地面から生えて来たかのように伸びて、彼女を高い場所に運んで行きました!


「これで、奴が地上に降りてくるまで、少しは時間が稼げるはずッス!」

 土の精霊魔法で生み出した柱により、キャロメンスとの距離を作る事に成功したアーリーズさんが、会心の笑みをワタクシに向けて来ます。

 良い仕事をした従者に、かける言葉はただひとつですわね。


「お見事ですわ、アーリーズさん!」

「恐悦至極ッス!」

 先程の、失言による失敗をしっかりと取り返した彼女に、ワタクシは親指を立てて見せました!


 では……今度は、ワタクシの番ですわね。


 三度(みたび)、精製したゴーレムを前にして、ワタクシはその背後に回り込みます。

 そうして、ゴーレムをしゃがみこませると、その背中にワタクシが入るれるような、穴を作りました。

 そこへ潜り込み、ゴーレムの体内へと収まったワタクシは、小さな深呼吸をひとつします。


「さぁ、行きますわよ!」

 ワタクシは、ゴーレムの体の材料となっている土に、両腕を突き刺しました!

 そうして、ゴーレムの巨体に魔力を隅々まで流せるよう、魔力による経路(ライン)を張り巡らせていきます!


 そう!これこそが、ワタクシの閃いたアイデア!

 ゴーレムを『操る』のではなく、ワタクシを核としてゴーレムを『纏う』という発想!

 『ギア』と『バレット』を使い、戦闘スーツを纏って『変身』するエリ姉様からヒントを得た、『ゴーレムアーツ』の新境地ですわ!

 つい最近に完成したばかりで、新境地というのもなんですが!


「っ……!? これは……?」

 順調に魔力を流し込んでいたワタクシとゴーレムに、妙な変化が訪れます。

 体内に籠ったワタクシの視界が、ゴーレムのそれと同調して、外の様子を伝えてきました。

 さらに、人型の土塊といった風貌だったゴーレムの形にも、変化が見られます!


 細く引き締まっていく体躯と、背中を守る羽のように、ロールを巻いて伸びる髪の毛のような頭部。

 大きく膨らんだ胸部が何故か柔らかく揺れ、気品と優美さに満ちた、姿へと変わっていきます!


「なんだ……こいつは?」

 もう柱から降りてきたキャロメンスが、呆気にとられて呟きます。

 ですが、無理もありません。

 そう……それはまるで、ワタクシの姿を模して作られた、芸術品のようなゴーレム。

 そんな物が、目の前に現れたのですから。


「何をしたんだ、貴様は!」

 戸惑うキャロメンスに向かって、ワタクシと一体化したゴーレムは、顔を向けました。


『これが、ワタクシの編み出した、新しい力……。名付けて、『姫を模したる(ヴェルチェ・)踊り子人形(オルケストリス)』ですわ!』

「『姫を模したる(ヴェルチェ・)踊り子人形(オルケストリス)』……」

 今まで、見た事もないであろう光景を前にして、キャロメンスはオウムのように、ワタクシの言葉を繰り返しました。

 どうやら、さすがの彼女も度肝を抜かれたようですわね!


 ですが、伊達に狼女王の異名を持つ、キャロメンスではありません。

 すぐに気を取り直して、戦闘体勢を取りました。


「……問題ない。所詮は、見かけ倒し」

『フフ……見かけ倒しかどうか、是非ともお試し頂きたいものですわね』

「構わない。かかって来るといい」

『では……戦闘(ダンス)のお相手を、よろしくお願いいたしますわ!』

 さながら歌劇のように、宣言をし、睨み合い、呼吸を計ります……。

 そうして、どちらからともなく踏み出したワタクシ達により、この戦いの最終幕は切って落とされました!

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