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04 新たなる仲間

            ◆


「ルアンタ君が、ガンドライル様をぶっとばしたぁ!?」

「こら、声が大きいですよ!」

「す、すんません……」

 そこそこ人の入りがある食堂に、声を響かせたデアロを嗜めて、私はもう一度、王都での戦いについて語りだした。

 数千のモンスターを相手に奮闘する、王都の冒険者や勇者達。

 そして、一対一(タイマン)で敵将を打ち倒した顛末を聞いた魔族の三人組は、忘れていた呼吸を思い出したかのように、大きく息をついた。


「マジかよ……ルアンタ君、パネェ!」

「ああ……ガンドライル様と言えば、ボウンズール様に迫るほどの強さを持った方だからな」

 熱く語り合う魔族の言葉に、私も無言でうんうんと頷く。

 フフ、師匠として鼻が高いわ。


「ルアンタ君は、普段は優しくて可愛いのに、戦いとなるとすごく強くて……ちょっと素敵だよねぇ」

 ポッと頬を染めたルーカに、ヴェルチェは鋭い視線を向ける!

 その眼光に、ルーカは「ひえっ!」っと小さな悲鳴をあげて、俯いてしまった。

 やれやれ、大人げない……。


「ヴェルチェ。ルアンタが素敵だと、当然の事を言われたくらいで、そんなに威嚇するものではありませんよ。そんな事だから、胸と心に余裕がないと言われるんです」

「胸は関係ありませんわ!胸は関係ありませんわ!」

「そうッス!ヴェルチェ様のちっぱいは至高ッス!」

「いえいえ、『そのスジの人』でもなければ、やはり胸は大きい方が……」

「何の話をしてんスか、あんたらは……」

 つい、脱線していた所を、デアロの呆れたようなツッコミで、私達はハッとした。


「それで、王都での大立回りがあった事はわかりましたが、ルアンタ君とも別れて、貴女方は何故ここに?」

 落ち着けと言わんばかりに、静かな口調で語りかけてくるビルイヤに、私も小さく咳払いをひとつしてから答えを返す。


「私達はこれから二手に別れて、エルフとドワーフ、各々の国に向かう予定です」

「へぇ……」

「それで、ヴェルチェ達の護衛を雇うために、冒険者ギルドの支部に行こうと思っているのですが……」

「おおっと!ちょっと待った!」

 唐突に、デアロが私の言葉を遮って手を挙げた。


「それなら、俺達を雇ってみないッスか?」

「貴方達を?」

「そッス。俺達、見習い期間が終わってパーティを組んだんスよ!」

「チーム名は『ディアボロス』。よろしくお願いします」

「えへへ、結成当初からC級扱いで、ちょっとすごいんですよ」

 三人組は誇らしげに、チームの結成報告と、等級証見せてくる。

 へぇ……それは普通に凄いな。


 確かに、基本的な強さは人間よりも魔族の方が上だから、等級が上からスタートしてもおかしくはない。

 それよりも、人間の生活を守る事が基準の冒険者として、魔族である彼等(・・・・・・・)が認められた事が、素晴らしいじゃないか。

 ルアンタが目指そうとしている、魔族との共存……いずれ本当に実現できるかもしれないな。


「まぁ、貴方達のチーム編成については、おめでとうと言わせてもらいます。ですが、雇うのはあくまでヴェルチェの方なので……」

 そうなんだよな……私と同じように、元魔族の転生組ではあるけれど、ヴェルチェはドワーフの国を一度、彼等に蹂躙されている。

 意識的に、今世の自分(ヴェルチェ)の方が強い彼女が、果たして彼等を受け入れるかどうか……。

 皆が息を飲んで見守る中、ヴェルチェはゆっくりと口を開く。


「……構いませんわ。あなた方の力、頼らせていただきます」

 おおっ!?

 意外にも、ヴェルチェはすんなりと、魔族達を雇う事を承諾した。


「ありがとうございます!ありがとうございます!」

「これでやっと、まともな稼ぎにありつけたッス!」

「ようやく、暖かいベッドで眠れる宿がとれるようになるんですね!」

 三人組は、ヴェルチェに礼を言うと、ガッシリ肩を組んで喜びあった。

 うーん、なかなか辛い現状だったようね。

 やはり、C級スタートとはいえ、新規のチームじゃ依頼もあまり集まらないのかな?


 それにしても、ヴェルチェの方もよくぞ(わだかま)りを捨てたものだ。

 思った以上に器の大きさを見せた彼女を、私は内心で少しだけ見直す。

 そんな風に感心しながら、ヴェルチェの顔を覗き込むと、なんだか予想以上に悪そうな笑みを浮かべていた。

 な、なんですか、その笑顔は……。


「ホホホ、エリ姉様も甘いですわね。彼等にはこの道中で、魔界のありとあらゆる地形や鉱脈について、洗いざらい話していただきますわ!」

「なっ!?」

「この戦の後、ワタクシ達ドワーフ族が、稀少金属の鉱脈を掌握させていただくためなら、多少の蟠りなど丸めてポイ!ですわ!オーっホッホッホッ!」

「さすがはヴェルチェ様ッス!計略もスゴいッス!」

 高笑いするヴェルチェを、アーリーズが褒め称え、さらに絶頂となった依頼主を、魔族の三人組はキョトンとした顔で見つめていた。

 まったく……ヴェルチェ、恐ろしい娘……。


「……さて、そろそろお開きにして、ここいらでお別れとしましょうか」

 ヴェルチェの護衛も見つかった事だし、私は一人で行動する予定だったから、丁度いい区切りだろう。

「んじゃ、俺達もギルドに戻って、ヴェルさんから正式に依頼状を……」

 仕事の話をしているヴェルチェ達の代わりに、食事の勘定をしてもらうためウェイトレスを呼ぶ。


「このテーブルの全員分、まとめて会計をお願いします」

 バラバラに会計をすると面倒なので、私がそう申し出ると、いきなり魔族の三人組が、すごい形相で私に顔を向けた!


「エ、エリっさん!いま、俺達の分も……か、会計を済ませてくれたんスか!?」

 エリっさんて……まぁ、いいけど。

「ええ。この食事代は、私が出させてもらいますよ」

 ヴェルチェ達とも暫しのお別れだし、ちょっとした餞別みたいな物だ。

 そんな軽い気持ちで、代金を出したのだが、それを聞いた三人組は、ポロポロと涙を流しはじめた!

 ど、どうしたんですか、いったい!?


「ありがてぇ……マジありがてぇ!」

「我々は独立したばかりで、装備を整えるのに金がかかって、ほぼ文無しみたいな物だったんです……」

「今日も、久しぶりにまともな食事を食べられると喜んでいたのに、まさかの奢りだなんて……最良の日です!」

 う、うーん……まさか、ここまで喜ばれるとは。駆け出しの冒険者というもの、色々大変だなぁ。


「皆さん、それほど困っていらっしゃるのなら、依頼料に少し色をつけさせていただきますわ」

 そんな彼等の現状を鑑みてか、ヴェルチェが提案すると、三人組は勢いがつきすぎたのか、梟のように首だけをグルリと回して彼女に向き直る!


「マジですか、ヴェルさん!」

「いよっ!太っ腹……もとい、イカ腹!幼児体型!」

「胸の平坦さと心の広さは、並みじゃないですぅ!」


「……ケンカを売ってますの?」

 笑顔のまま、ビキビキと額に血管を浮かべて怒りを顕にするヴェルチェの姿に、三人組はアレ?といった顔付きになった。

 いや、あれは誉めてないだろうと、私でも思うよ?


「……っかしいな、さっきあの勇者の人が、ちっぱいを誉めてたよな?」

「てっきり、そっち方面で誉めれば良いかと、思ったんだが……」

「アーリーズさん!貴女のお陰で、おかしな誤解が生じておりますわっ!」

「申し訳ないッス、ヴェルチェ様!浅はかな擁護をした、自分のせいッス!こうなっては、自分に罰を与えてほしいッス!」

 お仕置きというより、ご褒美を欲するような顔付きで、ヴェルチェに尻を突き出すアーリーズ!

 こんな所で、公開プレイを要求するのはやめてほしい。


「お客さん、店内でそういうプレイは禁止です!っていうか、どこか他人に迷惑のかからない場所で、やってください!」

 うちは食堂なんですよ!と、止めに入った店員なんかも巻き込んで、どんどんカオスな状況になっていく!

 こんな事態に陥った以上、私にできることは、ただひとつ……。


(店員さん、申し訳ない。そして、グッバイ!)

 私は少し多目の代金をテーブルに置くと、ヴェルチェ達を置き去りにして、他人の振りをしながら店から出ていくのだった。

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