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謀殺されてTS転生した魔王の息子が、勇者の師匠になる話  作者: 善信
第五章 毒竜を退治せよ
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06 打ち砕け、地下墳墓

 ──そうだ、以前にエリクシア先生も言っていた。

 僕一人の力でどうにかできないなら、仲間も力を借りればいいのだと。

 ちなみにその後、自分がピンチの時には、二人で力を合わせようとも言ってくれたのを思い出す。

 ちょっと照れたように、僕の事を頼りにしてますよって言ってもらえて、すごく嬉しかったっけ……っと、話が逸れた。


 とにかく、この閃いた策……分の悪い賭けではあるけれど、皆の力を合わせて、この窮地を脱してみせる!


            ◆


「変身!」


 僕は『ギア』と『バレット』を起動させて、『勇者装束(ブレイブフォーム)』を身に纏う。

 すると、ディエンさん達から「おおっ!」と、歓声が上がった。


「へぇ、それが話に聞いてた、敵の大将を退けた武装か」

「ふむう。一瞬で装着できるとは、便利であるな」

「長生きすると、変わった物が見れるのう」

 物珍しいアイテムに、好奇心を刺激された勇者達が、『勇者装束』を触ったり、引っ張ったりしてくる。

 この地下墳墓が崩れようとしてるのに、なんだかのんびりしてるなぁ。

 まぁ、ある意味、心強い事ではあるけど。


「あ、あの……今はそれどころじゃないので」

 僕の言葉に「そうだったね♥」と、おじさん達は舌を出す。

 その後、一転してキリッとした顔つきになった。


「で、何をどうしようって言うんだ?」

「はい!皆さんの力を借りて……」

 そうして、説明を終えると、皆「それは可能なのか?」といった顔になっていた。


「ルアンタ殿……いくらなんでもそれは……」

「いいじゃないか」

 ジングスさんの言葉を遮るようにして、デューナ先生が嗤う。

「他にいい方法があるならともかく、何も無いなら乗るしか無いだろう?」

 デューナ先生が「可能性がある分、なんぼかマシさ」と口添えしてくれたお陰で、皆の腹も決まったようだった。


            ◆


「……それじゃあ、僕の合図で」

「わかった。任せておきな」

「うむ!」

 この作戦の鍵となる、デューナ先生とラーブラさんが、力強く頷く。

 ちなみに、ディエンさんとジングスさんは後方で防御(・・)を担当してもらう。


「では……行きますっ!」

 僕は二本の『バレット』を取りだし、『爆発(エクスプロード)』を起動させる!

 それを、『ギア』と『ギア・ブレード』の二ヶ所に挿し込んで、同時に開放しながら、剣を水平に構えた!


「くっ!」

 『バレット』二本分に込められた爆発魔法の魔力は、暴れるように刀身から噴き出して、体ごと持っていかれそうになる!

 そんな爆発魔法のバランスを、かろうじて取りながら、僕は噴き出す魔力を推進力に替えて、その場で独楽のように回転し始めた!


「う……おぉぉぉぉっ!」

 回転しながら加速していく僕の回りに、徐々に大気の渦が巻き起こる。

 よし、今だ!


「ラーブラさん!」

「うむ、行くぞ!」

 合図と共に、ラーブラさんは数発の風魔法を同時発動させる!

 そして、それを全て回転する僕に向けて、解き放った!


 僕に、直撃する風魔法!だけど、『勇者装束』のお陰で、直接的なダメージは皆無だ!

 そんな中、風魔法で発生した膨大な大気の流れは、僕の回転に巻き込まれ、更なる巨大な渦へと発達していく!

 それなりに広い室内とはいえ、爆発魔法と風魔法が混ざりあってできた、逃げ場の無い大気の奔流は、荒れ狂う魔力の竜巻となって、先に倒したスケルトンの残骸をさらに細かく砕いた!


「デュ……デューナ先生っ!」

「任せなぁ!」

 返事と共に『超戦士化』した先生は、自身の大剣を寝かせた状態にして、僕に突きつける!

 魔力の渦を纏い、回転しながらその剣の腹にふわりと飛び乗ると、デューナ先生は大剣を担いで、崩れ落ちて始めた天井へと顔を上げた。


「いっけえぇぇぇっ!!!!」

 咆哮と同時に、投石機のように大剣をフルスイングする、デューナ先生!

 その勢いで、僕を崩落寸前の天井に向かって撃ち出した!


「うおぉぉぉっ!」

 螺旋の中心で雄叫びをあげ、僕は崩れ落ちるダンジョンその物を砕くとばかりに、蹴りの体勢をとった!


旋回(スパイラル)削岩脚(ドリルキィィック)!!!!」


 高速回転しながら打ち込まれた僕の蹴りは、岩盤を割り砕き、周囲に渦巻く魔力の奔流が、その砕けた瓦礫を飲み込んでいく!

 触れるもの全て巻き込んで、さらに勢いを増した渦は、龍の咆哮の如く轟音を響かせながら、天に向かって駆け昇っていった!


「うあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 無我夢中で叫び続け、僕はひたすら目の前の壁を破壊していく事に集中する!

 長かったような、短かったような……やがて、不意に抵抗がなくなった事に気付いた僕の目に、闇の中で光る物が映った。


(あれは……月?)

 それを認識した時、グルリと辺りを見回せば、地下から噴き出した巨大竜巻に押し上げられて、僕の体は地上からはるか上空を舞っている所だった。

(地上に……抜けれたんだ!)

 自分が昇ってきた位置を確認すると、崩れ落ちて来ていた地下墳墓に、大穴な穴が空いている。

 安堵感と激しい回転のせいか、思考が途切れそうになった。

 だけど、ここで仕上げをしなければ、巻き上げた土砂がそのまま落ちて、デューナ先生達を生き埋めにしてしまう!


「ぐっ……ううっ!」

 眩暈と吐き気を押さえ込んで、僕は高速で詠唱を完成させると、元地下墳墓から上空へと、いまだに伸び続ける巨大竜巻の中心に向けて、魔法を叩き込んだ!


極大級(アルティメット・)爆発魔法(エクスプロージョン)!」


 一瞬、大きく膨れあがった竜巻は、内部からの爆発に耐えきれずに、巻き込んんだ大量の土砂と共に、暴風の余韻を残して四方へと爆散する!

 雨のような土砂が周囲に降り注ぐ中、さすがに意識を失いかけた僕は、体勢を立て直す事もできずに、地上へと落ちていった。


 ……ううっ、この高さから落ちて、受け身も取れなければ、確実に死んでしまう。

 意識が朦朧とする中で、僕はなんとか地上との距離を図ろうとした。

 けれど、夜の闇と土砂の雨が視界を遮り、なおかつ無茶苦茶に撒き散らされた魔力の暴風が、周囲にまだ影響を及ぼしていて、僕は自分がどこにいて、どんな体勢なのかも認識でできない。

 その瞬間、『死』という単語が脳裏に浮かぶ。


(エリクシア……先生……もしも死んだら……ごめんなさい……)

 そんな考えが頭をよぎった時、浮かんだのは泣きながら叫んでいる先生の姿。

 ああ……本当に僕が死んでしまったら、こんな風に泣いてくれるんだろうか?

 薄れ行く意識の中で、申し訳ない気持ちでいっぱいになっていた、その時!

 ぽよん!とした、妙に柔らかい物の上に、僕の体は着地していた。


『勇者くん、見つけた♥』

 あ、あれ……この声は……。

「ジャイアン子……さん?」

『そうだよぉ!』

 ……どうやら、僕はジャイアント・サキュバスの大きな胸で受け止めてもらえたらしい。

 助かった……そう思うと同時に、柔らかい胸の感触に、生きてるという実感を味わっていた。


            ◆


『なんかスゴかったねぇ!「どかーん!」ときて、「ぐおおっ!」ってなって、「ばごーん!」って感じでさぁ!』

 ひどく興奮している様子のジャイアン子さんは、僕を胸に押し付けながら、今の光景を身振り手振りで語っている。

 擬音ばかりで要領を得ないけれど、それでも『マトリス地下墳墓』が崩落した後、僕達が巻き起こした竜巻や、その威力にいたく感動しているようだった。


『あんなの、初めて見たよぉ!さすが、「勇者」って呼ばれるだけの事はあるよね、勇者くんは♥』

「い、いやぁ……僕だけの力じゃなかったから……」

『ううん、それでもスゴいよ♥……どんな味の精気なのか、気になって仕方ないくらいに、ね♥』

 うっ……。なんだか、僕を見つめるジャイアン子さんの目に、妖しい光が宿り始める。

 こ、これはいけない!

 何か別の事で、彼女の気をそらさないと!


「そ、そうだ!まだ地下墳墓跡地の下に、先生達がいるはずなんです。ジャイアン子さんも、救出の手伝いをしてください!」

『んん~、しょうがないなぁ』

 こちらに召喚された際、召喚主(マスター)であるオーリウさんから、僕達を手伝うように指示されている彼女は、渋々ながら僕の頼みを聞き入れてくれた。

 よし、これで急に精気を吸われたりって事はないだろう。


 僕達は、地下墳墓のあった場所にぽっかりと空いた、深く巨大な穴を覗き込む。

 仕上げにと放った極大級爆発魔法で、巻き上げた土砂や瓦礫は、だいたい吹き飛ばせただろうから、底まで埋まっているなんて事態は、ないと思うんだけど……。


「皆さん、無事ですかぁ!」

 僕は、暗く深い穴の底に向けて、大声で呼び掛ける!

 この声は、下の人達に届くのだろうか?

 わずかな沈黙……そして、不意にずっと底の方で、小さな明かりが灯るのが見えた!

 ゆらゆらと揺れて、居場所を知らせるような動きをする、魔法の光。

 間違いない、あれはラーブラさんの魔法だ!


「おおーい!」

 向こうからは見えないかもしれないけれど、僕は懸命に手を振って、下にいる仲間たちへと、精一杯呼びかけを続けた。

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