06 打ち砕け、地下墳墓
──そうだ、以前にエリクシア先生も言っていた。
僕一人の力でどうにかできないなら、仲間も力を借りればいいのだと。
ちなみにその後、自分がピンチの時には、二人で力を合わせようとも言ってくれたのを思い出す。
ちょっと照れたように、僕の事を頼りにしてますよって言ってもらえて、すごく嬉しかったっけ……っと、話が逸れた。
とにかく、この閃いた策……分の悪い賭けではあるけれど、皆の力を合わせて、この窮地を脱してみせる!
◆
「変身!」
僕は『ギア』と『バレット』を起動させて、『勇者装束』を身に纏う。
すると、ディエンさん達から「おおっ!」と、歓声が上がった。
「へぇ、それが話に聞いてた、敵の大将を退けた武装か」
「ふむう。一瞬で装着できるとは、便利であるな」
「長生きすると、変わった物が見れるのう」
物珍しいアイテムに、好奇心を刺激された勇者達が、『勇者装束』を触ったり、引っ張ったりしてくる。
この地下墳墓が崩れようとしてるのに、なんだかのんびりしてるなぁ。
まぁ、ある意味、心強い事ではあるけど。
「あ、あの……今はそれどころじゃないので」
僕の言葉に「そうだったね♥」と、おじさん達は舌を出す。
その後、一転してキリッとした顔つきになった。
「で、何をどうしようって言うんだ?」
「はい!皆さんの力を借りて……」
そうして、説明を終えると、皆「それは可能なのか?」といった顔になっていた。
「ルアンタ殿……いくらなんでもそれは……」
「いいじゃないか」
ジングスさんの言葉を遮るようにして、デューナ先生が嗤う。
「他にいい方法があるならともかく、何も無いなら乗るしか無いだろう?」
デューナ先生が「可能性がある分、なんぼかマシさ」と口添えしてくれたお陰で、皆の腹も決まったようだった。
◆
「……それじゃあ、僕の合図で」
「わかった。任せておきな」
「うむ!」
この作戦の鍵となる、デューナ先生とラーブラさんが、力強く頷く。
ちなみに、ディエンさんとジングスさんは後方で防御を担当してもらう。
「では……行きますっ!」
僕は二本の『バレット』を取りだし、『爆発』を起動させる!
それを、『ギア』と『ギア・ブレード』の二ヶ所に挿し込んで、同時に開放しながら、剣を水平に構えた!
「くっ!」
『バレット』二本分に込められた爆発魔法の魔力は、暴れるように刀身から噴き出して、体ごと持っていかれそうになる!
そんな爆発魔法のバランスを、かろうじて取りながら、僕は噴き出す魔力を推進力に替えて、その場で独楽のように回転し始めた!
「う……おぉぉぉぉっ!」
回転しながら加速していく僕の回りに、徐々に大気の渦が巻き起こる。
よし、今だ!
「ラーブラさん!」
「うむ、行くぞ!」
合図と共に、ラーブラさんは数発の風魔法を同時発動させる!
そして、それを全て回転する僕に向けて、解き放った!
僕に、直撃する風魔法!だけど、『勇者装束』のお陰で、直接的なダメージは皆無だ!
そんな中、風魔法で発生した膨大な大気の流れは、僕の回転に巻き込まれ、更なる巨大な渦へと発達していく!
それなりに広い室内とはいえ、爆発魔法と風魔法が混ざりあってできた、逃げ場の無い大気の奔流は、荒れ狂う魔力の竜巻となって、先に倒したスケルトンの残骸をさらに細かく砕いた!
「デュ……デューナ先生っ!」
「任せなぁ!」
返事と共に『超戦士化』した先生は、自身の大剣を寝かせた状態にして、僕に突きつける!
魔力の渦を纏い、回転しながらその剣の腹にふわりと飛び乗ると、デューナ先生は大剣を担いで、崩れ落ちて始めた天井へと顔を上げた。
「いっけえぇぇぇっ!!!!」
咆哮と同時に、投石機のように大剣をフルスイングする、デューナ先生!
その勢いで、僕を崩落寸前の天井に向かって撃ち出した!
「うおぉぉぉっ!」
螺旋の中心で雄叫びをあげ、僕は崩れ落ちるダンジョンその物を砕くとばかりに、蹴りの体勢をとった!
「旋回削岩脚!!!!」
高速回転しながら打ち込まれた僕の蹴りは、岩盤を割り砕き、周囲に渦巻く魔力の奔流が、その砕けた瓦礫を飲み込んでいく!
触れるもの全て巻き込んで、さらに勢いを増した渦は、龍の咆哮の如く轟音を響かせながら、天に向かって駆け昇っていった!
「うあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
無我夢中で叫び続け、僕はひたすら目の前の壁を破壊していく事に集中する!
長かったような、短かったような……やがて、不意に抵抗がなくなった事に気付いた僕の目に、闇の中で光る物が映った。
(あれは……月?)
それを認識した時、グルリと辺りを見回せば、地下から噴き出した巨大竜巻に押し上げられて、僕の体は地上からはるか上空を舞っている所だった。
(地上に……抜けれたんだ!)
自分が昇ってきた位置を確認すると、崩れ落ちて来ていた地下墳墓に、大穴な穴が空いている。
安堵感と激しい回転のせいか、思考が途切れそうになった。
だけど、ここで仕上げをしなければ、巻き上げた土砂がそのまま落ちて、デューナ先生達を生き埋めにしてしまう!
「ぐっ……ううっ!」
眩暈と吐き気を押さえ込んで、僕は高速で詠唱を完成させると、元地下墳墓から上空へと、いまだに伸び続ける巨大竜巻の中心に向けて、魔法を叩き込んだ!
「極大級爆発魔法!」
一瞬、大きく膨れあがった竜巻は、内部からの爆発に耐えきれずに、巻き込んんだ大量の土砂と共に、暴風の余韻を残して四方へと爆散する!
雨のような土砂が周囲に降り注ぐ中、さすがに意識を失いかけた僕は、体勢を立て直す事もできずに、地上へと落ちていった。
……ううっ、この高さから落ちて、受け身も取れなければ、確実に死んでしまう。
意識が朦朧とする中で、僕はなんとか地上との距離を図ろうとした。
けれど、夜の闇と土砂の雨が視界を遮り、なおかつ無茶苦茶に撒き散らされた魔力の暴風が、周囲にまだ影響を及ぼしていて、僕は自分がどこにいて、どんな体勢なのかも認識でできない。
その瞬間、『死』という単語が脳裏に浮かぶ。
(エリクシア……先生……もしも死んだら……ごめんなさい……)
そんな考えが頭をよぎった時、浮かんだのは泣きながら叫んでいる先生の姿。
ああ……本当に僕が死んでしまったら、こんな風に泣いてくれるんだろうか?
薄れ行く意識の中で、申し訳ない気持ちでいっぱいになっていた、その時!
ぽよん!とした、妙に柔らかい物の上に、僕の体は着地していた。
『勇者くん、見つけた♥』
あ、あれ……この声は……。
「ジャイアン子……さん?」
『そうだよぉ!』
……どうやら、僕はジャイアント・サキュバスの大きな胸で受け止めてもらえたらしい。
助かった……そう思うと同時に、柔らかい胸の感触に、生きてるという実感を味わっていた。
◆
『なんかスゴかったねぇ!「どかーん!」ときて、「ぐおおっ!」ってなって、「ばごーん!」って感じでさぁ!』
ひどく興奮している様子のジャイアン子さんは、僕を胸に押し付けながら、今の光景を身振り手振りで語っている。
擬音ばかりで要領を得ないけれど、それでも『マトリス地下墳墓』が崩落した後、僕達が巻き起こした竜巻や、その威力にいたく感動しているようだった。
『あんなの、初めて見たよぉ!さすが、「勇者」って呼ばれるだけの事はあるよね、勇者くんは♥』
「い、いやぁ……僕だけの力じゃなかったから……」
『ううん、それでもスゴいよ♥……どんな味の精気なのか、気になって仕方ないくらいに、ね♥』
うっ……。なんだか、僕を見つめるジャイアン子さんの目に、妖しい光が宿り始める。
こ、これはいけない!
何か別の事で、彼女の気をそらさないと!
「そ、そうだ!まだ地下墳墓跡地の下に、先生達がいるはずなんです。ジャイアン子さんも、救出の手伝いをしてください!」
『んん~、しょうがないなぁ』
こちらに召喚された際、召喚主であるオーリウさんから、僕達を手伝うように指示されている彼女は、渋々ながら僕の頼みを聞き入れてくれた。
よし、これで急に精気を吸われたりって事はないだろう。
僕達は、地下墳墓のあった場所にぽっかりと空いた、深く巨大な穴を覗き込む。
仕上げにと放った極大級爆発魔法で、巻き上げた土砂や瓦礫は、だいたい吹き飛ばせただろうから、底まで埋まっているなんて事態は、ないと思うんだけど……。
「皆さん、無事ですかぁ!」
僕は、暗く深い穴の底に向けて、大声で呼び掛ける!
この声は、下の人達に届くのだろうか?
わずかな沈黙……そして、不意にずっと底の方で、小さな明かりが灯るのが見えた!
ゆらゆらと揺れて、居場所を知らせるような動きをする、魔法の光。
間違いない、あれはラーブラさんの魔法だ!
「おおーい!」
向こうからは見えないかもしれないけれど、僕は懸命に手を振って、下にいる仲間たちへと、精一杯呼びかけを続けた。




