05 毒竜の罠
スケルトンの群れが現れた!
「おらぁ!」
僕達は、それを粉砕して進む!
スケルトンの群れが現れた!
「せりゃあ!」
僕達は、それを蹴散らして進む!
スケルトンの群れが……。
「いい加減にしろやぁ!」
何度、繰り返したかわからない、同じようなやり取りに、デューナ先生が半分キレたように叫んだ!
いや、それも無理はないと思う。
繰り返される同じような光景に、僕達だってイライラしていたし、デューナ先生と思いは一緒だ。
後から後から襲ってくるスケルトンを、かれこれ数百体近く倒していた。
だというのに、奴等はまだ僕達の行く手を塞ごうと、通路の奥から沸いて出てくる!
いくら雑魚だとはいえ、ここまで大量に群がって来られると、肉体的な疲れより、精神的な疲労の方が、僕達にダメージを与えてきていた。
「くそっ!小部屋に退避しようとしても、どこも骨でいっぱいだしよぉ!」
「いったい、このスケルトンを生み出してる奴は、何を考えているのかっ!」
愚痴を溢しながらも、骸骨達を迎撃して、僕達は奥へ進んでいく。
階を下るごとに、骸骨達の密集度は増していったけど、なんとかキャッサさんが突き止めてくれた、秘密の階層へと繋がる場所へとたどり着く事ができた!
「よし、行くぞ!」
言うが早いか、デューナ先生は壁に偽装されていた、隠し扉を蹴破る!
すると、僕達の眼前に、地下へ続く階段が現れた。
……どうやら、ここからはスケルトンは沸いていないみたいだ。
もしかしたら、こことは別に地下墳墓の表ルートなんかに、出るための道があるんだろうか?
「なんにしても、鬱陶しい骸骨が出てこないなら、御の字さ。さっさと、奥にいる奴等をぶちのめすよ!」
駆け出したデューナ先生を先頭に、僕達も階段を跳ぶように下っていった。
時々、キャッサさんのマップを確認しながら、いくつかの通路と、小部屋を通過していく。
部屋のいくつかは、毒竜団が使用していた形跡があったけど、今はほとんどがもぬけの空で、奴等の本拠地に繋がるような物証は見つからなかった。
まぁ、時間をかけて隅々まで調べられれば、あるいは何か見つかったかもしれない。
けれど、スケルトンの異常かつ大量発生なんて現象が起きている以上、そこまでの時間が無いのが残念だ。
走る僕達は、やがてこの隠し通路で一番深い、最奥の扉へとたどり着いた。
かなり重く、頑丈な扉ではあったけれど、デューナ先生とジングスさんの体当たりを受けて、あっさりと砕け散る!
壊れた扉を潜って、室内に突入した僕達だったけど、その眼前に信じられない光景が広がっていた!
──その部屋は、僕達が侵入した入り口から繋がる、小さな階段を降りて、窪んだ形の中央へと行くような造りになっている。
その広さはかなりの物で、王城のダンスホールに匹敵するんじゃないだろうか?
ただ、その広い室内には、びっしりと……足の踏み場もないほど大量のスケルトン達が、身動きも取れないほどぎゅうぎゅう詰めになっていた!
「な、なんじゃこりゃ……」
「ぬう……」
おぞましいを通り越して、むしろ滑稽な感じすらする光景に、呆れて声も出ないといった僕達だったけれど、ふと骸骨達の群れから何かが、飛び出しているのが見えた。
「あそこに、誰かいます!」
「なにっ!?あ、ホントだ!」
よく見ればそれは、それは逆さまになった人間の下半身だ。
それが、まるでクワガタのハサミみたいな姿勢で、ピクピクと痙攣していた。
こんな場所にいるんだから、おそらく毒竜団の人間なんだろうけど、何か情報を得るチャンスかもしれない。
そう判断した僕達は、即座に室内のスケルトンを一掃して、謎の人物を救出した。
「あの……大丈夫ですか?」
「おお……」
スケルトンの山から救出した、三十代後半とおぼしき男性に声をかけると、うっすらと目を開いて、僕を眩しそうに見上げる。
「ああ……美少女に看取られながら、最後を迎えられるなんて……我が人生に、一辺の悔い無し!」
それでいいのか、この人の人生?
ただ、誰が『美少女』だと言うのか!
「僕は、男なんですけど!」
「んだよ、男かよ!だったら用は無えから、さっさと失せろ!」
僕が男だと告げた瞬間、態度が豹変したおじさんは、ペッ!と床に唾を吐いて、こちらを威嚇してきた!
な、なんだこの人は!?
「おいコラァ……ウチの子が大丈夫かって聞いてるのに、なんだその態度は?」
「あだだだだだっ!!!!」
男の暴言に対して、狂暴な笑みを張り付けたデューナ先生が、静かな口調ながらも鷲掴みにした男の顔面を、万力のような力で締め上げる。
「こ、こらぁ!俺を誰だと思ってるんだ!」
「知るか。先ずは、口の聞き方に気を付けなって、言ってるんだよ」
「す、すいませんでしたっ!」
メキメキと頭蓋からイヤな音がし始めて、男は素直に謝罪した。
い、いけない!
このままじゃ死んじゃうのでは!?
「あの……デューナ先生、その辺で。せっかく助けたのに、意味が無くなっちゃいますから……」
「ん?そうかい……」
制止の言葉を受け止めた先生は、渋々男の顔面から手を離す。
くっきりとした、先生の指の跡を顔面に残しながら、涙目になっていた男は、小さく助かった……と呟いた。
「で?結局アンタは、どこの誰なんだい?」
「クク……知りたいならば、教えてやろう!」
ついさっきまで、デューナ先生に殺られそうだったのに、彼は妙に強気な態度だ。
なんだろう、その自信は……と、いぶかしんでいると、男は僕達を見回し、カッと目を見開き、告げる!
「我こそは、悪名高き犯罪組織『毒竜団』の暗殺部門、『竜の尾てい骨』の長!その名も、ブルファス様だ!……ゴフッ!」
毒竜団の幹部と名乗った男……ブルファスは、名乗りを挙げたと同時に吐血した!
な、なんだかもう瀕死じゃないのかな、この人。
「ハァハァ……ククク、見たところ……貴様らが、勇者一行だな?」
こちらがまだ名乗っていないにも関わらず、『勇者』という単語が出てくる所から、やはり僕達を待ち構えていたのだろう。
迂闊に答えないよう、無言で警戒をする僕達に対して、ブルファスは小さく笑った。
「……まんまと……引っ掛かったな!」
そう呟いて、奴は何事か呪文を唱える!
その瞬間、僕達が降りてきた階段が分厚い壁で塞がれ、遠くの方で無数の何かが動くような、小さな振動が響く!
距離があるせいなのか、何の音や振動なのかは、わからない。
けれど、異様に不吉な予感をさせるその物音の正体が何なのか、僕達はブルファスに迫った!
「あれは、この地下墳墓……全体を崩す……ための装置が、発動した音だ……」
「な、なにぃっ!?」
この地下墳墓を崩すなんて、そんな大がかりなトラップを仕掛けたというのか!?
「この場所はな、『地下墳墓』なんて呼ばれちゃいるが……その実、大昔に滅んだ……とある大国の、死霊魔法研究なのさ」
いざという時に、闇に葬るべき研究成果と共に、施設を崩壊させるギミックがあったのいう。
それを、ブルファスは発動させた、と言っているのだ!
「『竜を殺すなら、平原ではなく巣穴を狙え』……古い諺だ。そして、今の貴様らは、巣穴に籠った竜も同然……なのだ!」
確か、自分の有利なフィールドに、相手を引き込め!みたいな意味の格言だっけ?
まぁ、それはそれとして、施設の歴史的経緯は、ちょっと気になるなぁ。
とはいえ、さすがに今はそんな場合じゃない!
「ククク……お前らは、このまま瓦礫に埋もれて……生き埋めだ」
「おのれ…!このままでは、貴様も死ぬのだぞ!」
「それも、本望……どうせ、俺の体は……もうボロボロだ。あの、スケルトン達に……もみくちゃにされ、踏まれ続けたせいでな……」
…………ん?
「あの……この、大量のスケルトンを生み出したのは?」
「無論、この俺様よ!」
首を傾げる僕達に、ブルファスは得意気に答える。
だけど、それって……。
「自分で生み出したスケルトンに、殺されかけてたって事では?」
「まぁ、そういう事だな」
ば、馬鹿だ!
この人、すっごい馬鹿だ!
「貴様、とんでもない馬鹿であるな!」
「誰が……馬鹿だ!ただちょっと、古代魔法の『無限に涌き出る、骸骨兵の宴』を発動させたら……制御できなかった……だけだ!」
「制御できん魔法を使う所が、馬鹿だと言っとるんじゃ!」
「ククク……例え九十九パーセント無理でも……一パーセントの可能性があれば、賭けるのが……男ってもんさ!」
「賭けにすらなってねぇよ!」
「結果だけ見れば……そうかもしれない。だが……我等、毒竜団は……エンジョイ&エキサイティングの精神で……活動をしている」
「エキサイティングな結果しかないじゃないか!?」
「おい、やっぱりこいつら馬鹿だぞ!」
皆から馬鹿だ馬鹿だと、罵られている様子はちょっと憐れたけど、同情の余地はないと思う。
というか、先の戦いでは、あれだけ用意周到に根回しをしていたというのに、今回のこの短絡さはなんなんだろう?
「ククク、『竜の尾てい骨』は実働部隊……策を考えるのは、別の奴がやる」
ああ、なるほど。
ひとつの組織でも、頭と手足は完全に別々って事か。
それにしても、今更ながら『竜の尾てい骨』ってネーミングは酷いなあ。
「なんにせよ……俺が助からない以上……お前らも、道ずれ……だ」
若干、やけくそ気味な言葉と共に、再び血を吐いたブルファスに、両腕を組んだジングスさんが近づいた。
「大いなる癒し!」
まるで、黄金の牛が突撃するような圧を感じさせる魔力が迸り、みるみるうちにブルファスの体を癒していく!
あっという間に快復した彼は、その奇跡の業に目を見開いて感動しているようだった。
「よし。これで貴様の傷は癒した。さぁ、助かりたかったら、脱出法を教えるのである!」
「……ない」
「は?」
「脱出法など、ないと言った!」
「な、なにぃ!」
施設を崩壊させるにも、必ず脱出経路は作ってある物だろうと、全うなツッコミが入ると、ブルファスはニヤリと口角をあげる。
「万が一にも……お前らにそれが、使われたら……大変だからな……念入りに、潰しておいた!」
「それでお前も逃げられなくなってりゃ、世話ねぇじゃねぇか!」
「ククク、まったくだ……死に゛だぐな゛い゛っ!」
突然、泣き崩れたたブルファスに、再び皆は「馬鹿かお前、馬鹿じゃねーの!?もしくは、アホか!」などと、罵声を浴びせかけていた。
……もうね、これは本当にそう思う。
でも……単純に、今はマズい状況だ。
最初の振動は、徐々に大きくなってきており、天井が崩れ落ちてくるのも、時間の問題だろう。
デューナ先生やジングスさんが、入り口を塞いだトラップの壁を破壊しようと奮闘しているが、よほどの厚みがある壁なのか、いくら削っても向こう側は見えてこない。
どうする……どうすればいい?
気ばかりが焦る……いっそ、僕も壁の破壊を手伝おうか。
いや、中途半端に掘れた所で、生き埋めになったら結局は……。
「エリクシア……先生……」
絶望的な状況で、僕の口から思わず漏れたのは、大好きなあの人の名前……。
そして、エリクシア先生との修行の日々が頭の中に浮かび上がった、その時!
「あ……」
僕の脳裏に、電が走った!
「皆さん、聞いてください!」
僕が呼び掛けると、なんとか脱出を図ろうと四苦八苦していた皆が、こちらに注目した。
「一か八かですが……脱出できるかもしれません!」
これが、皆で力を合わせたからって、成功するなんて根拠はない。
自分でも言った通り、情けないことに、本当に一か八かだ。
だけど、これしか方法が無い気もする!
だから、僕は先程、頭に浮かんだ閃き……その作戦の内容を、皆に伝えた。




