07 勇者達の真相
話にだけは聞いてた、彼等がルアンタを除いた『七勇者』……。
なるほど、各国の代表に選ばれるだけあって、面構えが違う。
ええと、確かルアンタから聞いていた話では……。
◆
「久しぶりだなぁ、坊主。生きてて何よりだぜぇ……ヒィック」
この、酒臭い剣士が、酔えば酔うほど強くなる「酩酊一刀流」の達人、でも素面の時は手が震える男、ディエン。
何か、今も手が震えているけど、大丈夫かな……。
「んん……元気そうで、何よりじゃあ……」
ディエンとは別の意味でプルプル震えているのが、百の魔法を修得したが、朝御飯を食べたかは思い出せないという、老魔法使いのラーブラね。
色んな意味で怖いから、無理はしないでほしい。
「君は我々の中では、もっとも若かったので心配していたのである」
輝くスキンヘッドに、デューナに見劣りしない筋肉を搭載しているのが、死んでさえいなければどんな重症でも治す、回復魔法と筋肉の申し子、ただしノン気だって食っちまうという、要注意人物ジングスか。
「……ところで、そちらの美しい方々は?」
パッと見では紳士風ながらも、ねっとりとした目付きで私達を見てくる、この男。
おそらく、悪魔や精霊を呼び出す凄腕の召喚師、だけどセクハラが過ぎて女性タイプのそれらから喚び出しNGをくらったという、オーリウだな。
目付き以外の見た目が普通な分、余計に不気味な雰囲気を漂わせている。
「ダークエルフに、オーガとドワーフ……しかも、皆べっぴんさんだなぁ」
やや、訛りの入った口調で私達を見ている彼女が、どんな罠や待ち伏せでも看破する超一流の斥候だが、誰よりも逃げ足が早くて、生き残るのは常に自分だけという、キャッサか。
ふむ、今の私よりも歳上な彼女だけど、同じ眼鏡な娘だけに、少し朝親近感を覚える。
『…………』
そして、容姿不明、性別不明、特技も不明という、全てが謎のベールに包まれた勇者、アーリーズ。
……これだけ謎だらけなのに、なんで勇者に選ばれたんだろう?
◆
こうして一見しただけで、くせ者ばかりだと確信できる『七勇者』達。
普通に可愛いルアンタがこの中にいたら、さぞや浮いてただろう。
……まぁ、歴戦の戦士っぽい雰囲気を醸してるけど、ゴブリンの群れごときに蹴散らされたのよね、この連中。
「お久しぶりです、皆さん。ご心配お掛けしました」
ルアンタは他国の勇者達に一礼して、私達の事を紹介していく。
各々に名乗ってから、軽く握手を交わした後、ヴェルチェが彼等に尋ねた。
「失礼かもしれませんが、ワタクシ達は皆さんの事を、よく存じ上げませんの。よろしければ、どのような活動をなさっていたか、教えていただけませんか?」
「そうだな、アタシらはルアンタ位しか勇者って存在を知らんから、ちょっと興味があるよ」
「ああ、そうですね。確か皆さんはこんな異名があって……」
そうして、ルアンタは他の勇者達の事を、私に語ったのと同じように、ヴェルチェ達に話して聞かせる。
まぁ、ルアンタ本人はそういった知識が無いから、普通に話したんだろうが……当然のように、彼女達の顔色が変わっていった。
そして、勇者達の表情も。
「お、おかしいですわ!おかしいですわ!それでは、勇者というより、ヤベー方々の集まりではございませんの!?」
「引くわー……」
「ま、待つのである!何故、我々の事をそんな悪意のこもった形で紹介するのであるかっ!?」
「そうです!ちょっと、酷いんでねぇですか!?」
ヴェルチェ達はドン引きし、勇者達は説明したルアンタに食ってかかる!
しかし、当のルアンタは困惑した様子で、オロオロとしていた。
「あ、あの……僕が渡された皆さんのプロフィールには、そう記されていたんですが……」
「おいおい、冗談じゃないぜぇ……他の奴等はともかく、俺に関しては悪意しか感じねぇぞ!」
「それはこちらの台詞である!我の資料にも、概ね一緒の事が書かれていたが、我に関する事は……」
ルアンタのみならず、勇者達全員に、困惑の色が広がっていく。
ふむう……これは、一度確認しておいた方がいいな。
「皆さんの持っている、各勇者について記されたプロフィールを、比べてみてはどうですか?」
そんな私の提案に、確かにそれが手っ取り早いと、同意してくれた。
各々が手持ちの荷物から、勇者の情報として渡されたという丸められた羊皮紙を取り出して、お互いに広げて見せる。
「……おいおい、これじゃあまるで俺がアル中みたいじゃねぇか」
「……ワシは、そこまでボケとらんわ!」
「なんと!レイプ魔のような真似など、誰がするか!」
「た、確かに自分は目付きの悪さで誤解される事はあるが、セクハラなど……」
「ウ、ウチの生存率が高いのは確かですけんど、こんないの一番に逃げるような真似はしねぇです」
『………………』
勇者達は自分の事が書かれている項目に対して、酷く憤慨している。
どうやら、彼等の特長が酷く誇張されているのようだ。それも、悪い方向に。
ちなみに、ルアンタの事は『魔法を一回使うだけで、魔力切れになる一発屋』と記されていた。
な、なんて失礼な紹介文だ!
とはいえ、当時のルアンタが、極大級魔法とはいえ一発しか打てなかったのは事実でもある。
つまり、悪意はあれども、まったくのデタラメという訳でもないという事だ。
そうなると、念のために彼等の話を、よく聞いてみる必要が出てくるな。
私は情報の精査という名目で、各々の勇者に自身のエピソードとの差異を語ってもらった。
◆
「手の震えは、アルコール切れじゃなくて、俺の流派特有の、隙を誘う擬態だぜぇ」
そう言うと、彼はピタリと手の震えを止めてみせた。
うーん、でもそれはちょっと、誤解されやすいかな。
「魔法はしっかり使えるし、朝飯くらい、ちゃんと覚えておるわ!……パン?」
わりと、ギリギリな気もするけど……それでも、今話してる間はしっかりしてるから、セーフかな?
「我は訳有りの賞金稼ぎでな。女性に乱暴するような輩を主に捕らえて、被害者女性がされた事を、加害者にも味わわせてやっていたのである。『ズボッ!』と棒とかぶちこんで、『けおっ!』と哭かせる感じでな!」
なるほど、私刑的な事はともかく、「目には目を」な考え方は嫌いじゃない。
ただ、捕まえた連中が、皆尻を抑えていたら、そりゃ誤解されるわ。
「私はこの目付きのせいで、『見つめられるのがセクハラ』などと、言われていましてね……ふふ、女の人とまともに会話などした事がないので、怖くて女性型の召喚獣を使った事がないので、そんな話にされたんでしょうね……」
辛い事聞いて、ごめん!
「ウチは仕事柄、逃げ足は早いですけど、ちゃんと仲間には警告もしてるっす!」
ふむう、脱出のための逃げ足の早さが、変に誇張された感じか。
『………………』
いや、あなたも何か言いなさいよ!
◆
各々の言い分(無言のアーリーズ以外)を聞いて、勇者を紹介するプロフィールは、一部を歪めて誇張していた事がハッキリした。
おそらく、ここまで話が違えば、自分以外の勇者は足手まといにしか見えなかっただろう。
これでは、勇者達がギスギスするのも当たり前だし、ゴブリンごときの不意打ちで、パーティがバラバラになってしまったのも納得だ。
だけど、「どうして、こんなプロフィールを載せたか?」という、最大の疑問は残っている。
それについて、各勇者の意見を求めようとしたが、彼等はすっかり頭に血が昇っているようだった。
「うぬぬ!これは、いくらなんでも酷すぎる!」
「まったくだぜぇ!勇者だなんだと奉り上げといて、影で扱き下ろすたぁ、趣味が悪すぎらぁ!」
「んですよ!ウチらにだって、プライドってもんがあるっす!」
「お、落ち着いてください、皆さん」
「いや、ワシらの名誉のためにも、ここはガツンと言ってやるべきじゃ!」
エキサイトしていく勇者達を、ルアンタはなんとか宥めようとするが、逆に向こうの勢いに押されてしまう。
そんな中、私達のいる部屋の扉を、ノックする音が鳴った。
「失礼します。勇者の皆様、各国の国王達からのお言葉が……」
「あぁん!?」
おそらく、国王達からの使者だったのだろう。
そんな彼は、勇者達の放つ殺気に当てられ、失禁すると同時に気を失った。
たまたま、言伝てを伝えに来ただけだろうに……運が悪かったわね。
「ふむ、ここに王達が集まっているなら、丁度いい。いったい、どういう意図があって、我等を貶めたのか、直接聞いてやろうではないか!」
「おう、それはいいアイデアだぜぇ!」
熱くなった勇者達は、勢いよく部屋を出て、国王達がいるであろう、控え室に向かっていった。
「なんだか、おもしろそうな事になってきたねぇ。アタシらも行ってみよう!」
「ううん……面白そうなんて、気楽な状況ではないですけどね。でも、いざという時は、止めなければいけませんね」
うん、ここで勇者達と国王達が完全に反目しても、魔族が有利になるだけだ。
頷きあった私達は、勇者達を追って廊下へと駆け出した。
──私達が彼等に追い付いたのは、勇者達は国王達の控え室前で、衛兵を張り倒している時だった。
止める間もなく、彼等はそのままの勢いで派手に扉を開くと、中にいた人物達に大声で呼び掛ける!
「頼もう!我等は、国王の皆様に問い質したい、こと、が……?」
猛々しかった言葉の語尾が、小さくなっていく。はて……?
どうやら、室内に異常でもあったようで、追い付いた私達も部屋の中を覗き込むと、彼等と同じく言葉を失う。
控え室の中にいたのは、腰を抜かした大国の王達。
そして、それらに刃を向け、ギョッとした顔でこちらを凝視する、暗殺者風の男達だった!
「…………えぇぇぇぇぇぇっ!?!?」
一瞬の沈黙の後、その場にいた全員か上げた驚愕の声が、キレイにハモって響き渡っていった。




