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05 勇者解任!?

            ◆


「お見苦しい姿を晒して、申し訳ありません。私はルアンタの姉の、レドナ・トラザルムと申します」

 ようやく落ち着いたルアンタ姉は、ペコリと一礼してきた。

 なるほど、よく見てみれば何処となくルアンタに似てる。

 そんな彼女に私達も礼を返して、それぞれが自己紹介をする事にした。


「私は、ルアンタの武術と魔法の師をしておりす、エリクシアと申します」

「まぁ、魔法ならともかく、武術も……?」

 ダークエルフとはいえ、基本的に格闘など行いそうにない、エルフ種の私が武術を指導していると聞いて、レドナは驚いた様子だ。

 うん、掴みはオーケー。

 次いで、ヴェルチェが優雅に頭を下げる。


「初めまして、お義姉様!ワタクシ、ルアンタ様の婚約者であるヴェルチェと申し……ぶっ!」

 レドナに対して、堂々とデタラメを言おうとしたヴェルチェの頭部に、私とデューナがツッコミを入れる。

 初対面の相手に、嘘を吹き込むんじゃありません!


「こ、婚約者!?」

「ち、違いますよ、姉上!」

「すいません。この娘は、思い込みと独占欲と妄想癖が少し強すぎる、可哀想な娘なんです」

「そんな説明って、酷くありませんこと!? 酷くありませんこと!?」

 どういうキャラ付けですの!と、抗議するヴェルチェを押し退けて、デューナが前に出る。

 彼女の巨体に気圧されるレドナに対して、デューナはにこやかに挨拶をした。


「やぁ、どうも、ルアンタの姉さん。アタシはデューナ。ルアンタの剣の師匠で、義理のママってやつさ」

「ぎ、義理のママ!?」

 デューナの訳のわからない自己紹介に、やはりレドナは困惑した表情を浮かべた。

 また、ややこしい事を言い出したな、こやつめ!

 私以外、まともな自己紹介ができていないじゃないか!


 ふざけた事ばかり言ってて、怒られるのではなかろうか……。

 私がそんな心配をしていると、レドナはクルリと私達に背を向け、ルアンタの肩をがっしりと掴んで、真剣な面持ちで問いかけた!


「ねぇ、ルアンタ……本当にこの人達は、あなたの先生なの?」

「え?」

「もしかして、『自分達をルアンタの先生だと思い込んでいる、ちょっとアレなストーカー』に、話を合わせているんじゃないでしょうね?」

 おぉい!ルアンタの姉とはいえ、なんて言い草です!?

 だいたい、まともに対応した私を、この二人と同列にするって、ちょっと酷くない?

 それに、ヤバい人って言うなら、いきなり弟を押し倒そうとする、貴女(レドナ)も相当にヤバいんですが!


 内心で憤慨するも、レドナは完全に危険人物を見る目付きになって、私達を睨んでいる。

 だが、そんな彼女を諭すように、ルアンタは首を横に振った。


「姉上……この人達は、本当に僕の先生達です」

「そう……なの……?」

「はい。特に、ダークエルフのエリクシア先生は、僕にとって大切な……」

 恥ずかしくなったのか、ルアンタはそこで言葉を切ってしまう。

 でもね、貴方の気持ちは、私へ向けるキラキラした瞳で、伝わってきますよ……。


(先生……)

(ルアンタ……)

 無言の内に、見詰め合う私達……。

 そこへ、「はい、そこまで!」と言わんばかりに、レドナが間に入ってきた!

 くっ、いいところだったのに。


「うちの弟を、公許良俗に反する目で見るのは、止めていただきたいのですが!」

「いつ、誰がそんな卑猥な視線を向けましたか?」

 いきなり、失礼な!言いがかりも甚だしい!

 まぁ、条例的な物に引っ掛かる恐れも、無きにしも在らずだが……。


「この子は『大きくなったら、お姉ちゃんと結婚するー!』って言うくらい、お姉ちゃん大好きっ子なんですから、誘惑しても無駄ですよ!」

「あ、姉上!それは昔の話で……」

「フッ!幼少期の思い出しか拠り所が無いとは、片腹痛いですね。むしろ、他に好きな人が出来るくらい、ルアンタが育っている事を喜んであげてはどうです?」

 祝え!弟の成長を!と促してあげたにも関わらず、彼女はそれを頑なに認めようとしない。


「仮にルアンタに好きな人ができても、弟にそぐわない人物なら、姉として認めません!」

「何より、本人の気持ちが大事でしょう!ましてや、彼は勇者!今後の事(・・・・)を考えれば、彼の隣には強い女性が必要です!」

「それは、問題ありません!」

 そこでレドナは、我が意を得たりとばかりに、ニヤリと口角をあげた。


「なぜなら……ルアンタは勇者を辞めるからです!」

 なっ……!?


「なんだってー!!!!」


 私達全員が、声を揃えて迫った事に怯みつつも、レドナはもう一度ハッキリと言った。


「ですから、ルアンタは勇者を辞めると言ったのです!」

「ぼ、僕はそんな話は聞いていませんよ!?」

「ええ。それについては、これから国王様から説明があるでしょう」

 な、なんてこった……。

 レドナの、この自信に溢れる態度は、とても思い違いか何かとは考えにくい。

 それじゃあ、本当にルアンタは勇者をクビになるんだろうか……。


 ガクレンの町を救い、ドワーフの国を解放して、エルフの国への野望を食い止めた……勇者としての功績は、計り知れないというのに!

 ……いや、まぁ、だいたい活躍したのは、私やデューナだったかもしれないけど。


 それにしたって、これらはルアンタが勇者として、私達の中心にいたからの偉業には違いはない。

 そんな彼を辞めさせるなんて、人間の王は何を考えているんだろう。

 はっ!まさか、この段階で先程の懸念、『狡兎死して、走狗煮らる』って状況になったって言うんじゃ……。

 ぐるぐると、悪い予感が頭の中に渦巻いてしまう。


 レドナは、この状況をわかっているのだろうか?

 チラリと様子を伺うと、「ぐうの音も出ないようですね!」と勝ち誇っていた。

 ん。わかってないな、これは。


 能天気な彼女に、私の予想を伝えようとしたその時!

「ちょっといいか?」

 そう声をかけてきたのは、王都を守る衛兵らしき人物だった!


「なんの用ですか!」

 私が警戒の声をあげると、すぐさまルアンタやデューナも左右に広がり、武器に手をかける!

「ちょ、ちょっと待って!」

 しかし、そんな私達に衛兵は慌てながら、前に出した両手を振って見せた。


「お、俺はそこの、検問所の兵士なんだけど、なんか列から外れて大騒ぎしてる連中がいるっつーからさ!?」

「あ……」

 気がつけば、王都に入ろうとしている人達が、怪訝そうな顔でこちらの様子を見ているし、一緒に来た商隊の連中は他人の振りをしている。

 な、なんて薄情な……。

 ただでさえ人目を引きやすい私達は、目立たぬようにしようとしていたのに、完全に注目を浴びてしまっていた。


「……で、あんたらは何者なんだい?」

「勇者です……」

 衛兵の質問に顔を赤くしながら、か細い声でルアンタは答えた。

 その時の「ええ……」といった、困惑する衛兵の顔は忘れられない。

「と、とにかく、王都に入りたいなら、おとなしく列に並んでくださいよ」

「はい……」

 素直に答え、私達は列の一番後ろに並ぶ。

 そうやって、衆人環視に晒されながら小一時間……私達は、ようやく王都への入都を果たしたのだった。


            ◆


「さっきのように、騒ぐのはやめしょう。ひとまず、私達の宿泊しているホテルに案内します」

 ごもっとも。

 着いてくるように促すレドナに、右も左もわからない私達は従うしかない。

 それにしても、ガクレンの町とは違って、ミルズィー国の王都は、なんと言うか華やかだった。

 街中を行く人々はその数も多く、かなりの賑わいを見せている。

 これはあれだな、前世(まえ)に過ごした魔界の王都より、だいぶ栄えているな。


 まるで、祭りでもやっているかのような雰囲気に、私達はついキョロキョロと辺りを見回していた。

「あまりキョロキョロなさると、田舎者と笑われますよ」

 レドナはそんな事を言うが、実際にそうだから別に構わないかな。

「逆に、都会慣れしてるエルフの方が、なにか気持ち悪くありませんか?」

 そう問い返すと、一理あると納得したのか、レドナはそれ以上は何も言って来なかった。

 そんな彼女の足が、やがてとある建物の前で止まる。


 その建物の看板に、『ホテル』の文字があるのを見て、私はレドナの目指す場所にたどり着いた事を理解した。

 それにしても、随分と立派な建物だなぁ……宿泊費も、かなり高そうだ。


「では、中でお話しましょう。そこで、ルアンタが勇者を辞める理由を、教えて差し上げます」

 望むところだと、私達はゾロゾロとホテルのロビーへと向かう。

 レドナが入って行った時には、平然と対応していたホテル側の従業員達だったが、後から入ってきた私達には、さすがにギョッとしたようだ。

 そんな彼等を尻目に、私達はレドナの取っているという部屋へ向かう。


「この部屋です」

 そう言って、彼女はコンコンとドアをノックする。

『はい、どちら様です?』

「レドナです、お兄様。ルアンタを連れてきました」

 室内からの声に、彼女がそう告げるのと同時に、勢いよくドアが開かれ、レドナの顔面に直撃した!

 「げぶっ!」という、彼女のにぶい悲鳴には目もくれず、中から現れた青年が、ルアンタに視線をロックオンする!


「ああ……久しぶりだな、ルアンタアァァ!怪我は無かったか?勇者なんて無理だと思っていたのに、こんなにお前が頑張るなんて……お兄ちゃんは鼻が高いぞぉ!うん、でもなんだか、随分と逞しくなってるな。これは俺もうかうかしていられない……ルアンタの自慢の兄であるためにも、鍛え直さないとな!まぁ、とにかく、無事で良かった!」


 青年……おそらく、ルアンタの兄は、ルアンタに抱きつくと、早口で捲し立てた!

 レドナもそんな感じだったし、兄か姉かの違いはあれど、同じような重い愛情表現ではある。

 それでも、兄弟仲は良さそうだし、前世の私達とは大違いだな。


「あ、兄上!こんな所で騒ぐと、他のお客さんに迷惑ですよ!」

「おっと、それもそうだな……って、こちらは?」

 そこでようやく私達に気づいたのか、ルアンタの兄は、若干引きつった笑みを浮かべて、人外の私達を見ていた。


            ◆


「そうですか、ルアンタの面倒をみてくれた方々でしたか!」

 私達が自己紹介した後、レドナとは違い、好意的な笑顔を浮かべて、ルアンタの兄は「弟がお世話になってます」と一礼する。


「私はルアンタの兄、リオウス・トラザルムと申します。どうぞ、お見知り置きを」

 そう言って、リオウスは私達と握手を交わした。

 ふうん、ルアンタの前では『俺』だけど、身内以外の時は『私』なのね。さすが、その辺はちゃんとしてるわ。


 でも、こうして見ると、やっぱり顔付きはルアンタに似ている。

 確かに、『お兄ちゃん』って感じだわ……っと、それよりも!

 できれば、もう少し交遊を深めたい所だけど、先に確認しなければならない事がある!


「お会いできたばかりでぶしつけですが、ルアンタが勇者を辞める一件について、何かご存じでしょうか?」

「なぜ、それを!?」

 私の問いに、少し驚いたような顔をしながらも、リオウスは否定はしなかった。


「レドナさんから、そのようにお聞きしましたが……」

「レドナ……」

 責めるようなリオウスの視線に、レドナはごめん!といった感じで手を合わせる。

 その姿に、大きくため息を吐いて、諦めたように口を開いた。


「まぁ、正確には『辞める』ではなく、『辞める事になるだろう』ですが……」

 リオウスはそんな風に前置きして、「これがその理由です」と、私達の前に一通の手紙を差し出してきた。 

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