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謀殺されてTS転生した魔王の息子が、勇者の師匠になる話  作者: 善信
第三章 エルフとドラゴン
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07 アストレイアからの依頼

「申し訳ありませんでした!」

 唐突に、アストレイアはその場で土下座した!


「失礼ながら、皆さんの実力を試させていただきました!」

 いったい、なんのためにそんな真似を……。

「もしや、女王の命令ですか?」

「試させていただいた事に関しては、命令などではなく私達の一存です!重ねて失礼とは思いますが、どうか私達の話を聞いてください」

 アストレイアは頭を上げると、私達に真剣な眼差しを向けてくる。

 まぁ、聞かなきゃ話は進まなさそうだから、聞くけどさ……。

 とりあえず、襲撃者達をまとめて寝かせ、私達は彼女からこの襲撃について、理由と動機を聞く事にした。。


「私達は『ダークエルフ地位向上委員会』という、組織の者です」

「……なんですか、その胡散臭い組織は」

「う、胡散臭くはないです!『ダークエルフ地位向上委員会』とは、身内にダークエルフがいるエルフ達によって結成された、名前の通りダークエルフへの偏見を無くすための会ですから!」


 話を聞けば、今から十年ほど前に「いい加減に、ダークエルフを捨てたり追放するのは止めようや!」という気風が高まり、ひとまず赤ん坊のうちに捨てるという掟は中止されたそうだ。

 とはいえ、今までの経緯もあり、無駄な衝突やこれまで掟に従ってきたエルフの心情に配慮して、国の一部にダークエルフ自治区を儲けて交流をしているのだという。


「そういえば貴女の部下達は、若干貴女を軽んじてる風に見えましたね」

「わ、私が女王近衛兵(ロイヤルガード)になって、間もないのもあると思いますが……彼等くらいの歳だと、まだ偏見はありますからね」

 それでも、大っぴらにダークエルフを批判はできないくらいには、エルフの間で雰囲気は変わっているという。


「なるほど、それなりに改善がなされてるようで、何よりです」

「ええ……そもそもは誤解が発端なので、その風潮が無くなってほしいとは思っています」

「誤解……ですか?」

「はい。ダークエルフは『エルフという種族がピンチになると、攻撃性の高い者が生まれる』という、防衛本能に根付くものだったんです」

 そんな、蝗みたいな生態がエルフに……。


「けれど、いつしか『ダークエルフが生まれるから、種がピンチになる』と認識されたために、忌み子として扱われだしたといいます」

 ふむう、確かに長い歴史の中では、そんな誤解も有り得なくもない。


 そんな中、エルフの国が魔族の侵攻を受けた時には、その年に生まれた子の半数近くが、ダークエルフだったという。

 そこで封印されていた、エルフの歴史書を紐解いた所、その誤解が判明したという事らしいのだ。

 実際に、ダークエルフが多く生まれた事で、エルフ種の防衛本能という説が高い説得力を持ち、今の『ダークエルフ地位向上委員会』発足に繋がったのだそうだ。


「しかし、ダークエルフは、普通のエルフよりも強くなるとは聞いていましたけど……それでも、まさかたった一人に、しかも、素手で制圧されるとは思いませんでした」

 先程、私達の実力を計るために襲って来たのは、その『ダークエルフ地位向上委員会』の中でも、腕に自信のある連中だったらしい。

 なるほど、道理で奇襲のタイミングは良かったけど……フッ、並のエルフとは鍛え方がちがうのだよ。


「それにしても、よくそんな組織を設立できた物ですね」

 誤解があったとはいえ、今までの風習を真っ向から否定するような物だ。

 そんなエルフ達の中で、組織を立ち上げるには、反対意見もそうとう多かっただろうに。


「確かに大変でした。けれど、ただでさえ魔族の襲撃で人口が減っていた事もあって、なんとか設立に漕ぎ着けましたけど」

「それは……なんとも、微妙な気持ちになりますね」

「ふふっ、そうですね。あっ、ちなみに発足人の一人は、女王陛下なんですよ」

「なんと!」

 まさか、あの女王が……?

 さっきまでの謁見の時に見せた、私達への態度からは、とてもそうは思えないんだけどな……。


「ふーん……ひょっとして女王さまは、本当にアタシやエリクシアのスタイルに嫉妬してたとか?」

「ワタクシの読みは、当たっていたようですわね」

「女王陛下は、本来なら巨乳に嫉妬して冷遇するような方ではありません!」

 冗談めかして言っていた、デューナとヴェルチェに対して、アストレイアが即座に反論した!


「女王陛下は、本来ならもっと気さくな方なんです!」

「気さく……?」

「どう見ても、そういった感じではありませんでしたが?」

「いいえ!いつもの女王陛下は、朝寝坊して怒られたり、会議に遅刻して怒られたり、お酒が入るとワイ談したりして怒られたり、むしろ胸の大きな方には『ちょっと揉ませて』と頼むような、とっても気さくな方です!」

 それは、気さくというより、ダメな大人なのでは……?


 しかし、そんな人物が、なぜあれほど素っ気なかったのか?

「女王陛下は……今の女王陛下は、普通ではないんです」

「おいおい、自分とこの女王をそんな風に言っていいのかい?」

 デューナでなくとも、心配になるような事を言ったアストレイアは、仲間のエルフ達が確実に失神しているのを確認してから、小さく息を吐いた。


「……信じられないかもしれませんが、今の女王陛下は魔族と通じています」


 ………………なっ!

「なんだってー!!!!」

 予想外の告白に、私達全員が思わず声をあげる!


「それは偶然でしたが、私が夜警をしている時、魔族と密談をする女王陛下を目撃してしまったんです」

「か、勘違いとかじゃないんですか!?」

 ルアンタの言葉に、彼女は間違いありませんと首を振った。


「そ、それを知っているのは!?」

「私の他に、信頼できる女王近衛兵の先輩が、数人だけです」

「た、確かに、下手に広めて良い話ではありませんわね」

「はい……その後も、先輩達と協力して女王陛下の近辺を探った所、魔族との関与は間違いないと判明しました」

 まさか、エルフの女王が敵対する魔族と……しかし、それはいつからなのだろう?


「はっきりとはしませんが……王都を奪還した後というのは、確かです」

 彼女の物言いからは、奪還劇自体が八百長めいた物だったのではないか……といった、疑念が感じ取れた。

 まぁ、そう疑うのも無理はないか。


「……私達に、協力してほしいと言っていましたが、具体的に何をやれと?」

「……女王陛下を元に戻し、その背後にいる魔族を倒すために、どうか力を貸してください!」

 再び、アストレイアはその場に土下座して、私達に懇願してきた。

 だが、私達の答えは決まっている。


「……あの女王をたぶらかすって事は、相当な上位魔族だろうねぇ」

「ええ、それこそディアーレンと同じ、魔将軍クラスでしょう」

「まぁ、デュー姉様にエリ姉様、それにルアンタ様がいらっしゃれば、余裕……というか、オーバーキルになりかねませんわね」

 私達のそんな会話に、アストレイアがバッと頭を上げる。

 そんな彼女の肩を、ルアンタが優しく叩いた。

「任せてください、アストレイアさん。一緒にエルフの国を救いましょう!」

「あ……」

 力強く頷く私達に、アストレイアはポロポロと涙を流しながら、よろしくお願いしますと、大きく頷き返してきた。


            ◆


 ──ひとまず、女王の動向を見張るために、アストレイアは王宮へと戻る事にした。

 私達はこのまま、ダークエルフ自治区へと向かい、なに食わぬ顔で適当に会談をする手筈になっている。

 本格的に魔族が動く前には、女王に何らかの接触があるだろうから、それが分かり次第、連絡をよこすそうだ。


「それでは皆さん、よろしくお願いします」

 一礼してアストレイアが背中を向ける。そんな時、ふと気になる疑問が頭に浮かんだ。

 そういえば、彼女も『ダークエルフ地位向上委員会』に所属している。という事は、身内にダークエルフがいるのだろうか?

 何故だかそこが引っ掛かって、彼女が去る前に確認しておきたくなった。

「アストレイアさん」

 だから私は彼女を呼び止めて、浮かんだ疑問をぶつけてみる。


「……本当は、すべてが終わってから話そうと思っていたんですが」

 私の質問に、そう前置きしてから、アストレイアは語り始めた。

「私には、私が生まれる前に捨てられた、姉がいました……」

 いました……つまり、生存は絶望的という事か。なんだか、悪いことを聞いてしまったかも。


「でも、姉は見つかったんです」

 おお、生きてたんだ!

 良かったですね、と口にする前に、アストレイアはソッと私の手をとった。

 え?


「エリクシア……それが二十年前に、掟によって両親が泣く泣く捨てざるをえなかった、姉の名前……つまり、私は貴女の妹です!」

 なっ!

 予想だにしなかった解答!

 驚愕で思考が停止しかける中、アストレイアは私に抱きついてきた!

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