11 魔将軍、撃破!
◆◆◆
「おお……この刀身間違いない、オリハルコンですわ!」
「ちょっと、ヴェルチェさんってば!」
エリクシア先生が渡してくれた剣から、しがみつくようにして観察するヴェルチェさんを離そうとしている間に、僕達はディアーレンの側近達に囲まれていた。
「さぁ、おとなしくしてもらおうか」
「抵抗しないなら、手荒い真似はせんからよ」
「正直、あんな上司に目をつけられたお前らに、ちょっとは同情してるしな……」
なんだか実感の籠った口調で、魔族達は僕達を説得(?)しようとする。
だけど、そんなの冗談じゃない!
「そんなに同情してくれるなら、あなた達が可愛い格好をすればいいじゃないですか?」
「させられた事が無いと思ってんのかっ!」
皮肉のつもりで返した言葉に、魔族達は予想以上の反応を返してきた。
「うわあぁ……やめてください、似合わないですからっ!」
「フリル……フリルが怖い……」
「いやぁ……そんなの入らないよぉ……」
な、何かトラウマスイッチを押してしまったのか、一部の魔族達は頭を抱えて嗚咽し始める。
なんか……ごめんなさい。
「ちくしょう、せっかく忘れかけていた悪夢を、思い出させやがって!」
「子供のくせに生意気だぞ!」
「ギッタンギッタンにしてやる!」
凶暴化した魔族達が、武器を抜いて迫って来る!
それに対して、僕は先生から受け取った『バレット』のスイッチを押して、同じく借り受けた直刀の挿し込み口へと挿入した!
『炎』
『バレット』から響く音声に合わせるように、黒かった刀身が赤く染まる!
「こけおどしがぁ!」
怯まず襲いかかってくる魔族達に反撃すると、斬りつけた傷口から炎が巻き上がった!
「ぐはぁっ!」
魔族の悲鳴と肉の焦げる臭いが漂う中、さすがの精鋭達も迂闊には飛び込んで来なくなる。
「な、なんだあの剣は!?」
「炎魔法を附与……にしては、詠唱している素振りはなかったぞ?」
「馬鹿な!詠唱無しの魔法で、あの威力はあり得んだろ!?」
よーし、さすがにエリクシア先生謹製の、この剣には驚いてるな!
僕は以前に先生の『ギア』を見ているし、他の魔道具を作ってる事も聞いているから、これだけの威力があっても驚きはしない。
ここは一発、ハッタリをかまして、奴等の動きを縛るとしよう。
「これは……」
「オーッホッホッホッ!その小さな魔道具にあらかじめ魔法を封じ込めておき、剣に挿し込む事で、詠唱無しで刀身に附与できるということですわ!さらに、オリハルコンは『魔力感応金属』とも呼ばれるほど、魔力が通り易い金属!この魔道具には、ピッタリですわ!」
って、貴女が解説しちゃうんですかっ!?
それに、なんだか僕より詳しく解説できてる!?
「ちぃっ!炎には炎で、対抗するんだよ!」
突然、そう言った魔族の一人が、自分の盾に炎を附与しながら突っ込んできた!
しかし、僕は慌てずに炎の『バレット』を抜き取ると、別の『バレット』を起動させる!
そして、『疾風』の起動音声と共に、突撃してくる魔族に剣を振るった!
次の瞬間、疾風を纏って速度を増した僕の斬撃は、魔族の炎を散らし、容易く敵の盾を両断する!
さらに発生した真空の刃が、その奥にいた魔族の体にも深い傷を負わせていた!
「な、なにい!炎の附与じゃなかったのかよ!?」
「オーッホッホッホッ、驚きまして?おそらく、『魔道具』を入れ替える事で、一瞬にして附与する効果を変化させらるという訳ですわ!」
そうなんだけど!
またも、高笑いするヴェルチェさんに、解説する機会を奪われる。っていうか、なんだか自分が作ったみたいな説明だなぁ。
「くっ……なんて、とんでもねぇ魔剣だ!」
「フフフ、まだまだこんな物ではありませんわよ?覚悟なさい」
何故か剣を握る僕の頭ごなしに、ヴェルチェさんと魔族達は睨みあう……のはいいけど、なにこの疎外感?
ちょっと、やるせない気持ちが沸いてきたけど……エリクシア先生との約束は守らなきゃ!
僕はヴェルチェさんの安全確保のために、再び『バレット』のスイッチを押した!
◆◆◆
魔力を限界まで吸収し、巨体となったディアーレンが、竜巻のように拳を振り回して攻め立ててくる。
しかし、『戦乙女装束』に身を包んだ私は、その攻撃をスイスイと捌き、受け流しながら避けていた。
フフフ、異世界の格闘術『カラテ』の回し受け……使えるわね。
「まったく、チョコマカと……」
パワーもスピードも上がっているのに、ただの一発もまともに当てられないディアーレンが、ジリジリと焦れてくる。
そこへ私が、チョコチョコと反撃を当てていく物だから、さらに奴の苛立ちはつのっていった。
「ええい!鬱陶しいですね!」
ディアーレンが吠えると同時に、突然、魔法を放ってきた!
奴の眼前から急に発生した炎が、一気に私を包み込む!
「詠唱無しですから、威力は落ちますが、隙ができましたねぇ!」
私を包む炎ごと叩き潰す勢いで、ディアーレンが渾身の一撃を振り下ろした!
ドゴォッ!っと、凡そ肉体を叩く時には鳴らないような、鈍く重い音が周囲に響き、必殺の一撃を受けて膝から崩れ落ちる。
私のカウンターを食らった、ディアーレンが!
「あ、が……な、なぜ……」
む?まだ意識があるなんて、結構タフなやつ。
当たり所が悪ければ、奴の頭は高い所から落としたスイカみたいになっているくらいの、力は込めたのになぁ。
「私の『戦乙女装束』に、魔法は通用しませんからね」
そう、一切の魔法を弾くこのスーツに、あんな小手先の魔法などでは、毛ほどのダメージも与える事はできない!
むしろ、隙を突いたと油断して大振りになった、ディアーレンへの良いカウンターの機会となったわ!
「ぐぅ……なんなんです、そのスーツは」
「これは……」
「オーッホッホッホッ!そのスーツを構成しているミスリルは、通称『魔力反射金属』!並の魔法は通用しません事よ!」
うおっ!
私が言おうとした事が横から大声で持っていかれて、ちょっとビックリした。
ていうか、向こうは向こうで乱戦なのに、なんで的確に話に割り込んで来れたんだ、あの娘は。
「……ふうぅ。奇妙な技に、常識を越えるような技術。まるで、あの御方のようですね」
「あの御方……それは、ダーイッジの事ですか?」
私は、前世の私と前世のデューナを嵌めたと予想される、かつての弟の名前を口にした。
「は?ダーイッジ?」
しかし、ダーイッジの名前を出されても、ディアーレンはキョトンとするばかりだ。
ちょっとしたカマを掛けてみたのだが……アレ?
てっきり、奴が黒幕でそれなりに権力を持ち、安全な地位で暗躍していると思ったのだけど……。
「何を勘違いしたのかしりませんが、私が敬愛するのは、魔導宰相オルブル様です!あの御方のお陰で、私の能力はこれほどまでに強化されたのですから!」
「能力を強化?」
「そうです!私の魔力吸収のように、特異な能力を持ちながら、肉体的に優れていないというだけで、虐げられていた者達に、あの御方は光明を照らしてくださった!」
むぅ!それは、かつて私がオルブルだった頃に、やろうとしていた計画では!?
それを、今のオルブルが実現させたと言うのかっ!
「『強化魔族計画』……あの御方は、そう名付けていましたよ」
いやん!それ、名前まで私の立案していた計画そのままじゃん!
パ、パクられた!めっちゃ、パクられたっ!
「そしてぇ……その計画の成功例であり、魔将軍の地位までくださったあの御方に報いるためにも、私は負けられないんですよぉ!!!!」
咆哮のような雄叫びを上げ、ディアーレンは立ち上がる。
そして、体を丸めるようにして、ショルダータックルの体勢をとった。
「小細工は、もう無しです!この体に残るパワーを全開にして、貴女を粉砕してみせましょう!」
なるほど、今のディアーレンの巨体なら、純粋な質量とパワーを乗せただけのタックルが、カウンターをも許さない、まさに一撃必殺となりうる。
ミシミシと音を立てて、ディアーレンの筋肉に力が込められ、硬度を増していく。
しかし、私にも必殺の一撃はあるのだよ!
「これで、終わりにしましょう」
私は『ポケット』から『バレット』を取りだし、素早く起動させる!
そして『旋嵐』の音声と共に、『ギア』を発動させて空中に飛び上がった!
『旋嵐射出脚!』
『ギア』から走る魔力のラインが背中へと延び、噴き出した風の魔力が、私の体を撃ち出された砲弾の如く加速させた!
そのまま蹴りの体勢をとった私は、音を置き去りにし、空気の壁を破りながら、構えていたディアーレンに突き刺さる!
「───────っ!!!!」
声にすら鳴らない悲鳴を上げ、ディアーレンは吹き飛ばされた!
床を抉り、蹴りの加速を殺しながら着地した私の背中を、ようやく追い付いた音と、破られた空気の衝撃波が叩く!
その轟音と、ぼろ雑巾のようになって転がるディアーレンの姿に、ルアンタや彼と戦っていた魔族達まで、目を見開いて呆然としていた。
よし、今だな!
私は、パンパンと埃を叩き落としながら、ゆらりと立ち上がる。
そうして、残る魔族達に向かって言葉を投げつけた。
「見ての通り、ディアーレンはもう戦えません。それでも、まだやりますか?」
私の警告に、魔族達は顔を見合わせ、すぐに武器を捨てた。
うんうん、それが賢明というものでしょう。
「では……」
「ルーアーンーター!」
「!?」
突然、城門の方から声が響き、すごい勢いで突っ込んできた影が、降伏した魔族達を弾き跳ばした!
そのまま、その人影はルアンタを捕らえ、ガッチリと抱き締める!
「デュ、デューナ先生!」
「そうだよぉ!ママが来たから、もう安心だよぉ……っていうか、どうしたのさ、その格好は!?」
突然乱入してきて、ルアンタの格好にツッコむデューナだが、その前によく見れば、自分も返り血を浴びまくっているじゃない!
「えっと、これは……」
「まぁ、可愛いからなんでもヨシッ!」
しかし、こまえけぇ事はいいんだよと言わんばかりに、デューナは構わずルアンタに頬擦りをした。
「デューナ、貴女は正面で囮をしていたでしょうに!?」
「あん?そんなの、全員ぶっ飛ばして来たに決まってるじゃないか」
マジか!?
これも、息子(息子じゃない)に会いたい一心が成せるわざなのだろうか?
恐るべし、オーガの母性パワー!
「……」
さっきまで、私の魔道具に興奮していたヴェルチェも、ディアーレンを倒した一撃と、乱入してきたデューナに言葉を失っている。
そんな彼女に、私は『戦乙女装束』を解除して近づいた。
「あ……貴女方は、本当に何者なんですの?」
「ふむ……勇者ルアンタとその師匠達……と言った所ですね」
パチッとウインクして見せると、ドワーフの姫はぎこちない、引きつった笑顔を浮かべるのだった。




