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謀殺されてTS転生した魔王の息子が、勇者の師匠になる話  作者: 善信
第二章 ドワーフの姫
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09 魔将軍の野望

           ◆◆◆


 これは……いったい、どういう状況なんだろう。


 拐われた弟子を助けに来てみたら、その弟子は女の子の格好をしながら、見知らぬ美少女とキ……キスをしようとしていた?

 あまりに思いもよらぬ光景に、少しだけ呆けていた頭が働きだすと、次の瞬間、胸の奥からドス黒く熱い感情が、フツフツと沸いてくる!


「せ、先生!? いや、違うんです!これは……」

「ルアンタ様?あちらの方は……」

 慌てるルアンタの服をギュッと握りながら、彼の影に隠れるようにして、その少女はこちらをうかがう。

 ちょっと、くっつき過ぎでしょう!少しは離れなさい!

「なんだか、とても睨ませれているようで……ワタクシ、怖い」

 怯えるような仕草を見せた美少女は、そう言うとさらにルアンタへと身を寄せた。


「に、睨らんでる訳じゃないですよ!先生は、とっても優しい人ですから!」

「まぁ、優しいかどうかは分かりませんが、無駄な争いは私も望む所ではありません。ですが、拐われた弟子を心配して駆けつけてみれば、見知らぬ娘とイチャイチャしているんですから……呆れて、目付きも険しくなるという物です」

「あ、あう……」

 トゲのある私の物言いに、ルアンタは言葉を失い、オロオロと所在なさげな視線を漂わせる。


 ……おかしい。

 別にルアンタを苛めたい訳ではないし、無事で良かったと思ってもいるのだけど、感情がそれらを押し退けて、彼にキツく当たってしまう。

 しかし、私に冷たくされたルアンタがあまりにも切なげな表情をするので、胸の内で渦巻いていた思いは、次第に収まっていく。……少し大人げなかっただろうか。

 そうだ、今はこんな事でもめている場合では無いわね。


 あのルアンタの影に隠れているのは、状況から察するにドワーフの姫の確率が高い。

 ならば、彼女をルアンタから引き剥がして、ドワーフ達の元に帰してやるのが私のやるべき事だろう!


「……そちらのお嬢さんは、もしやドワーフの姫ではありませんか?」

 念のため確認を取ると、彼女は少し驚いたように私の顔を見た。

「……ヴェルチェ、と申します。失礼ですが、どこかでお会いしましたかしら?」

「いえ、初対面ですよ。実はここに来る途中、とある事情で魔族に捕らえられていたドワーフ達を解放したのです。その際、城に向かうなら貴女の事を気にかけてほしいと頼まれました」

「ああ……皆、無事だったのですね」

 私の言葉に、ヴェルチェは心から安心したようで、胸に手を当ててホッと息をついた。


「良かったですね、ヴェルチェさん」

「ありがとうございます、ルアンタ様!」

 ルアンタが声をかけると、ヴェルチェは笑顔で彼に抱きつく。

 何をしてるんだ、おい!

 私は無言で二人を引き剥がすと、無理矢理に笑顔を作ってヴェルチェを諭した。


「いけませんね、姫と呼ばれる立場の方が、無闇矢鱈と男性に抱きついては」

「あら……愛しい方と喜びを分かち合う事が、いけませんの?」

「愛し……見た目はルアンタと同年代でも、ドワーフならば実はよい歳でしょう?公衆の面前で年下の少年に抱きつくのは、少しばかりみっともないのでは?」

「年齢については、エルフ族の方に言われたくありませんわね。いったい、何百歳なのでしょうか?」

「私はまだ二十歳ですから、貴女よりも年下かもしれませんね」

「あら、ワタクシも二十歳ですわ。同い年とは、仲良く(・・・)やれそうですわね」

 ルアンタから離そうとする私に、彼にくっつこうとするヴェルチェ。

 バチバチと間に火花を散らせながら、お互いに一歩も引かず睨みあっていると、唐突に脇の方から声がかかった。


「これは、これは……いったい、何処に行こうというのかね?」

 反射的に声の方へ目を向けると、数人の屈強な魔族に囲まれるようにして、なんだか派手な格好の魔族がニヤニヤとしていた。

 というか、あの女物の衣装を身に付けた、痩せた魔族。

 その特徴からして、奴がおそらく話に聞いていた……。

「ディアーレン!」

 中央の魔族へ向けて、ルアンタが叫ぶ。やはり、あいつが噂に聞いていた魔将軍か。

 ……本当に、すごい格好をしてるんだな。


「ふっふっふっ、困りますねぇ、その二人を連れ出されては」

「……よく、こちらが本命だと気づきましたね」

「それはそうでしょう。勇者の仲間であるオーガが、単独で正面から大暴れしていれば、少し知恵が回る者なら陽動だと疑いますよ」

 さすがに、昔と違って今の魔族には、そのくらい見抜ける奴がいるという事か。


「まぁ、なんにしてもその二人は私の野望の要……渡しはしませんよ」

「野望……?」

 それなりの地位があるにも関わらず、更なる上を見据えたような言葉を口にするなんて……。


「まさか、魔王(ボウンズール)に取って代わろうとでも、企んでいるんですか?」

 ある程度の力と地位を持つ者は、いつまでも誰かの下にいる事を好まない。

 特に、それが顕著なのが魔族だ。

 征服したドワーフの国を納め、ある意味で支配者となったディアーレンが下克上を企むのは、むしろ自然なのかもしれない。


「くっくっくっ、私の野望は、下克上(そんなこと)ではありませんよ」

「では、何を企んでいんでしょうね……」

 若干、強引ではあるけれど話を誘導してみる。

 まぁ、こういった陰謀を練っている奴等は、かなりの割合で自分の計画を自慢したがるから、上手くいけばポロリと話すかもしれないしね。


「ふっふっふっ……アイドル」

「……ん?」

「ですから、そこのドワーフの姫、勇者、そして私の三人で、アイドルユニットを結成するのですよ!」

「頭おかしいんじゃないですかっ!」

 想像の外過ぎるディアーレンの計画に、思わずストレートにツッコんでしまった!


「おやおや、美少女に美少年、そして私の魅惑のユニットですよ?売れない訳が無いでしょうに」

 鏡とか、見たこと無いの!?

 美少年と美少女(プラス)に対して、女装魔族(マイナス)がでかすぎるわっ!どうやったら、それでウケると思うんだ!


「ああ、まぁ……エルフとは美的感覚が、違いますからねぇ」

 どの種族の感覚でも、合わないよ!どんだけ、自己評価が高いのっ!?

「くっくっくっ、まぁ貴女方(エルフ)には合わなくても、様々な需要を満たすであろう私のユニットは、即座に魔族はおろか、人間や他の亜人達も魅了するでしょう。そうして、全ての種族から愛される、生命体の頂点に私達が立つのです!」

「……いや、その野望だけなら確かに壮大ですが、貴方がいるユニットじゃ無理でしょう?」

「んふふふ、私を貶しても、貴女の美的センスが上がる訳ではありませんよ?」

「だったら、そこの側近の貴方!」


 まったく現実を見ないディアーレンではなく、私は奴を守る魔族に問いかけた。

「貴方はディアーレンの妄想の成就に、彼が必要だと思いますか?」

「あ……うう……セ、センターで……ぐふっ!ひ、必要だと思い……ゴフッ、思います……」

 血を吐きながら、魔族はなんとか言葉を口にする。

 敵ながら、ここまで自分の心を殺さなければならないなんて、同情を禁じ得ない。


「ふっふっふっ、分かっていますねぇ、君は。後で私のサインをあげましょう」

 どう見ても彼は致死量の嘘をついていたのに、さらに追い討ちをかけるとは……慈悲は無いのか、魔将軍!


「そ、そんな馬鹿げた計画に、協力などいたしませんわよ!」

「そ、そうだよ!それに、そんなふざけた理由で、僕にこんな恥ずかしい格好までさせてっ!」

「んふふふ、最初は照れるかもしれませんが、すぐに馴れますよ」

ヴェルチェとルアンタが必死で抗議するが、ディアーレンは聞く耳を持たずに平然と受け流す。無敵か、こいつは。


「まぁ、そういった理由で、この二人はメンバーとして、また私を引き立てるアクセントとしても、返す訳にはいきません。それと……勇者くんに似合う衣装を選ぶ時間を潰してくれた貴女!邪魔になりそうな、貴女も排除させてもらいましょうか」

「ふん……やれる物ならやってみなさい」

 確かに人数は向こうの方が多いし、こちらには足手纏い(ヴェルチェ)がいる。

 それでも、密集している奴等なら、広域の魔法で……。


「先生、ダメです!ディアーレンは、こちらの魔法を吸収して、パワーアップするんですよ!」

「なんですって!?」

「僕も、一度戦った時に、奴に魔法を吸収されて、さらに魔力を奪われました。『魔力食い』の二つ名を持っている、危険な相手です!」

 ルアンタの警告に、ディアーレンは小さく舌打ちをする。

 魔法を吸収……なるほど、そんな特殊能力を持っているとは。

 魔将軍の肩書きは伊達ではないという事か。


「やれやれ、余計な事を……。ダークエルフの使う魔法なら、かなりのパワーアップが見込めたでしょうにねぇ……」

 演劇のように、わざとらしく肩をすくめて、ディアーレンは大きなため息を吐いてみせる。

「ですが……私が食らうのは、敵の魔法だけではありませんよ?」

 魔将軍がそう言って、奴が合図を送った次の瞬間!

 奴を守っていたハズの魔族達が、一斉にディアーレンに向けて攻撃魔法を発動させた!

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