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謀殺されてTS転生した魔王の息子が、勇者の師匠になる話  作者: 善信
第二章 ドワーフの姫
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07 凶悪魔獣、現る

           ◆◆◆


「……なぁ、ここにルアンタは本当にいるのかい?」

「……そのハズなんですが」

 デューナの問いかけに、私も少々、自信無さげに答える。


 ルアンタを拐った『毒竜団』の連中が、情報を売るというので交渉(・・)した結果、彼はドワーフの城(・・・・・・)に運ばれたという事がわかった。

 しかし、その城の場所を私達は知らないため、風の精霊を召喚してドワーフが集まって(・・・・・・・・・)いる場所(・・・・)を聞き出したのだ。

 だが、たどり着いた所は城と呼べるような物ではなく、どう見ても洞窟か何かの入り口だった。


「アンタ、毒竜団の奴等に一杯食わされたんじゃないの?」

「もしもそうなら、奴等は今ごろ報いを受けていますね」

「どういう事?」

「私に偽証をした場合、奴等の股間が爆発する呪いをかけてありますから」

「怖えぇ……」

 ブルリと身震いするデューナだったが、犯罪者集団相手に情けは無用だ。


「しかし、ドワーフの城ってのは地下って事もあるんだっけ?」

「そういう作りをする部族も、いるとは聞きますね。けど、ここのドワーフは山の崖を利用した物らしいのですが……」

 毒竜団から聞き出した時には、そう言っていた。

 だが、ドワーフの国は魔族に滅ぼされたそうだし、もしかすると逃げ延びた者達が、ここに集まっているのかもしれない。

 だとすれば、ここにルアンタはいない可能性が高いけれど、ドワーフの城へ行くための情報くらいなら、手にはいるはずだ。


「とにかく、中に入ってみましょうか」

「そうだね」

 私とデューナは頷いて、洞窟の中へと足を踏み入れた。


「おい、こらぁ!何者だ、お前ら!」

 しかし、洞窟に入った瞬間、待ち構えていたような魔族に行く手を阻まれてしまう!

 一瞬、待ち伏せかとも思ったけれど、奴の問いかけは私達がルアンタの仲間だと認識していないようだし、たまたま出くわしただけだと思う。

 しかし、なぜこんな所に魔族が?

「ダークエルフにオーガ?しかも女が、なぜここに……」

 どうやら、向こうも戸惑っている風に感じられる。やはり偶然か。


「なんだか知らんが、とっとと失せろ!ここから先は、魔将軍ディアーレン様のアトリエだぞ!」

 魔将軍ディアーレン?しかもアトリエって?

「魔将軍だかなんだ知らないが、アンタに聞きたい事があるんだがね」

 思案していた私を押し退けて、デューナがスイッと前に出る。

 魔将軍なんか知ったことかといった、そんな彼女の態度に、魔族は目付きを鋭い物にした。


「魔導宰相様より、この地の管理を任された魔将軍の名を知らんとは、どこの田舎者だ?」

「魔導宰相?」

 聞きなれない肩書きに、私とデューナデューナが怪訝そうな顔をしていると、それを恐れたと受け取ったのか、魔族の男は大仰な身ぶり手振りを添えて、その名を告げた。


「その通り!魔王ボウンズール様の右腕、魔導宰相オルブル様(・・・・・)だ!」

 …………はいっ!? オ、オルブル!?

 それって……私の名を騙る奴もいるというのかっ!?

 驚く私に向かって、デューナも困惑した顔を向けくるけど、こちらとしても『知らない、知らない』と手を振って否定するしかない!


「ククク、どうやらボウンズール様にオルブル様の名前は、知っている様だな。ならば、そのお二方から絶大な信頼を得ている、ディアーレン様の恐ろしさも、少しは理解できるだろう」

 さらに得意気に語る魔族の男だったが、別にこいつが偉い訳でもないだろうに。

「な、なんだかよく分からないが……どうやら、その魔将軍とかいう奴をシメたら、何かわかるかもしれないって所かねぇ?」

「そうですね、情報を集める重要性が増しました」


 驚きはしたけれど、まったく恐れてはいない様子の私達に気付いた魔族は、わずかばかり戸惑うような表情を見せた。

「くっ……と、とにかく!貴様らが何者であれ、ディアーレン様に敵対するような事をぬかした以上は死んでもらうぞ!」

 ピイッと男が口笛を鳴らすと、洞窟の横穴のような所から、大きな獣の影がのっそりと姿を現す!


「これは……」

 その獣は、人間の老人のような顔に獅子の体を持ち、節くれだった尻尾の先には、蠍のような毒針がギラついていた。

「マンティコアか……」

 デューナの呟きを肯定するように、人面獣身の魔獣は唸り声をあげる!


「フハハハ、その通り!魔界でも、狂暴かつ凶悪で名高いマンティコアだ!」

 確かに、高めの知性と野性動物を超える身体能力は、恐るべき魔獣だ。でもなぁ……。

「こんな雑魚でイキがるようじゃ、アンタも大した事ないね」

 肩をすくめたデューナが、マンティコアに対してクイクイと手招きして見せた。


「はん!ダークエルフより肉は固そうだが、まずはあのオーガの女を食っていいぞ!」

 グルル……とさらに唸りをあげる魔獣に、魔族の男が命令を下す!

それと、同時に、マンティコアはデューナに向かって飛びかかった!


「せーの!」

 迫り来る魔獣を意にも返さず、デューナは拳を振り下ろす!

その一撃はマンティコアの頭部を直撃し、飛びかかった時よりも速い速度で地面に叩き落とした!

 轟音が響き、頭を潰されて絶命した魔獣に、パラパラと天井から小石が降り注ぐ。


「ふん」

 ビッと腕を振って、手についた血を払うデューナ。

 しかし、そんな彼女の脳天目掛けて、相討ちを狙うような魔獣の毒針が襲いかかる!

「よしっ!」

「まぁ、させませんけどね」

 嬉しそうな魔族の男の声に被せて、その魔獣の動きを読んでいた私は、軽く跳躍すると、回し蹴りの一閃で尾の毒針を斬り飛ばした!

 ビチャリと、体液を飛び散らせながら魔獣の毒針が地面に落ちると、魔族もへなへなと腰を抜かしてへたりこむ。


「な、な、な、なんなんだ、お前ら……」

「何と言われれば……」

 そうだ、ここは少しルアンタの株を上げておこうか。

「勇者ルアンタの仲間、ダークエルフのエリクシアと申します」

「そしてアタシが勇者ルアンタのママ、デューナって者さ!」

 って、おい!


「貴方がいつ、ルアンタのママになったんですかっ!」

「心のママって意味だよ!別にいいだろう、それくらい」

「貴女は母性を前面に押し出せば、ルアンタを押し倒してもセーフ!という自論を展開するから、油断ならないんですよ」

「愛しい我が子(仮)の童貞を貰おうとするのが、そんなにおかしいかよ!」

「問答無用で、インモラルな発言をしないでください!」

 暴走する母性の持ち主であるデューナと睨みあっていると、こっそり魔族の男が逃げようとしているのが、視界の端に入った。


「どこに行こうというのです?」

 その背中に声をかけると、魔族は泣きそうな愛想笑いを浮かべて、ゆっくりと振り返る。

「貴方には、まだ聞きたい事があるんですよ」

「なあに、素直に話せば痛くはしないさ」

 にこやかに語りかける私達を、彼は魔獣よりも恐ろしい物を見る目で、涙を浮かべながら凝視していた。


            ◆


「はぁ?なんだい、こりゃ……」

 ここのドワーフ達の見張り役だったという魔族が言っていた通り、洞窟のさらに奥には牢屋のような格子が嵌め込まれていて、その向こうでは多くのドワーフが働かされていた。

 だけど、一般的なドワーフが行う鍛治仕事ではなく、なぜかやたらときらびやかな衣装を黙々と作っている。


「……お主らは?」

 つい彼等の作業風景に見入っていた私達に、一人のドワーフが声をかけてきた。

「ああ、私達は……」

「いつもの納品の者とは違うようじゃが、魔将軍……様の所の新入りか何か?」

「引き取りの期日は、まだ先のはずじゃが……」


 うん?

 どうやら、私達を魔将軍の配下と勘違いしているようだ。

 まぁ、デューナ達のようなハイ・オーガはともかく、普通のオーガは魔族側として働く者も多いから間違われても仕方がない。

「アタシ達は、魔将軍とやらの手下じゃないさ。むしろ、敵だね」

 デューナの言葉に、ドワーフ達が困惑の表情を浮かべる。

 そして、何かを確認するように私の方にもチラリと視線を向けた。


「彼女のいう通り、私達は人間の勇者の同行者です。魔将軍……(確か名前は)ディアーレンの野望を砕くべく、行動をしています」

 そう言うと、彼等の顔がパッと明るい物になった。

 しかし、すぐに何かを思い出したように暗く俯いてしまう。


「ダメじゃ……あんたらがどうやって、ここまで忍び込んで来たかは知らんが、ここに恐ろしい魔獣と、それを操る魔族がおる」

「先ほどのでかい音や、振動を感じたじゃろ?あれはおそらく、魔獣の仕業じゃよ」

「そうじゃ、あんたらも奴等に見つかる前に早く逃げるんじゃ」

「いや、ご心配はありがたいのですが、マンティコアなら倒しましたよ?」

「へ?」

 私がそう言うと、ドワーフ達はキョトンとした顔になる。


「あと、ここの見張りらしい魔族も倒したから、アンタらが逃げるなら手伝ってあげるけど?」

「は?」

 言いながら、彼等を閉じ込める格子を軽々とデューナが曲げていくと、その様子を、ドワーフ達は目を見開いて眺めていた。


「ちょ、ちょっと失礼……」

 デューナが曲げた格子の隙間から、一人のドワーフが抜け出して、入り口の方に向かって駆けていく。

 やがて、興奮した様子で戻ってきた彼は、仲間のドワーフ達に状況を説明した。


「マジじゃあ!マジでマンティコアが、頭を潰されて死んでおる!」

「な、なんじゃと!?」

「それに見張りの魔族も、なぜかパンツ一丁で、綺麗に折り畳まれた服の横で気絶しとった!」

「……なんでそんな状態に?」

 失神した魔族の状態に首を傾げながらも、奥からも集まってきたドワーフ達は、私達に畏怖と希望のこもった眼差しを向けてくる。


「あ、あんたらは人間の勇者の仲間と言っとったが、その勇者殿はどちらに?」

「……彼は今、とある作戦のために単独で貴方方がかつて住んでいた城に、潜入しています」

 まさか、馬鹿正直に誘拐されましたとは言えないため、少しばかり脚色して、ドワーフ達に説明をしていく。


「それで、私達もこれから魔族が占拠している城に乗り込むつもりなのですが、何か近道や隠し通路はありませんか?」

 ルアンタの現状に続き、実は城の場所を知らないとは言えず、そんな風に尋ねた。すると、ドワーフ達は城まで最短距離で行ける道を教えてくれる。


「このルートなら、ここから一時間ほどで、城の正面近くに出られるはずじゃ」

「なるほど、ありがとうございます」

「よっしゃ!早速行こうか!」

「ま、待ってくだせえ!」

私とデューナが教えられた道へ向かおうとすると、突然ドワーフ達に引き止められた。


「どうしました?」

「あ、厚かましいのは重々承知ですが、是非ともお願いがごぜえます」

「お願い?」

「へえっ!実は、この元ドワーフ城には、儂らの姫様が人質に取られておりますだ!」

 ドワーフの……姫?


「金色の髪を持つ、それは可憐な女の子ですじゃ」

「うむ、姫さんはかなりの別嬪じゃから、ディアーレンの変態野郎に見初められちまった……」

「マジで、あいつは最悪の魔族じゃよ!」

 そこから、堰をきったように、魔将軍ディアーレンに対する罵詈雑言がドワーフ達から飛び出した。


 それによれば、彼等がこんな場所でキラキラの衣装を作らされているのも、奴の趣味のためらしい。

 鉄と炎に囲まれ、鍛治をするのが生き甲斐な彼等からすれば、現状はとてもストレスだったようだ。実際、姫とやらが捕らわれていなければ、とっくにクーデターをおこしていたと彼等は語る。

 というか、ドワーフの技術者を趣味で使い潰す魔将軍って……。

 そして、それを重用しているらしい、私の前世の名を騙る連中とは何者なのだろうか。

新たな謎は生まれたが、それはさておき、目の前の懸念材料としては……。


「ルアンタの連れていかれた先に、ドワーフの姫……どう思いますか?」

「悪い予感しかしねぇ」

「ですよねぇ……」

 デューナにひき続き、またルアンタの近くで面倒な女性との関係が構築されていそうで、私は密かにため息を吐いた。

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