13 切り札の機神
な、なんじゃありゃあぁぁっ!
光の巨人と化したイコ・サイフレームを前に、私達はもう驚く事しかできなかった。
「ば、馬鹿な!この世界にとどまるための、『依り代』は完全に破壊したのにっ!」
あの巨大な破壊神を形成しているのは、すべて神のオーラだろう。
それのみでは存在できないハズなのに……。
『フッ……神を貴様らの物差しで図るでないわ』
ううむ、ごもっとも!
ついでに、ドヤ顔で「肉体がなければ云々~」言ってたのがちょっと恥ずかしくなるわね!
『……とはいえ、たかが虫けらの分際で、余をここまで追い込んだ事は誉めてやろう。敬意を評して、苦しまぬように殺してやる』
くっ、嬉しくない!
しかし……ここにいる全員が力を合わせても、目の前の巨神を倒せる光景は浮かんでこない。
そんな、絶望的な想いに囚われかけた私達を見下ろしながら、イコ・サイフレームは虫を踏み潰す子供のような、邪悪な笑みを浮かべる。
そして、それを実行しようと動きだろうとした、その時!
不意に転移魔法の『転移口』が開いて、そこから数人の人物が姿を現した!
「待たせたのぅ、お主ら!『尾万虎』の方は半殺しにしたから、他の魔王達に任せてお主らの助太刀にきた……ぞ……?」
『転移口』から、意気揚々と飛び出してきたアルト達だったが、巨大イコ・サイフレームを目の当たりにして、その言葉が困惑と共に小さくなっていく。
「な、なんじゃあれはあぁぁ!?」
「なぁっ!あ、あれはイコ・サイフレーム様の本体!?」
あ、なんだか姿を見ないと思っていたサキュバス大長老じゃないか!?
どさくさに紛れて、アルト達と一緒に移動していたのか……まぁ、破壊神とぶつかるかもしれないここにいるよりは、眷族を相手にする方に行った方がマシかもしれないが。
「まったく、皆さんは、何を大声を……ゲエェーッ!『転移口』を抜けたら、目の前には全裸の巨女だとぉ!」
『っ!?』
アルトに続いて『転移口』から出てきた骨夫の驚愕に、巨大イコ・サイフレームもちょっと戸惑ったようだ。
いや、確かに一糸纏わぬ姿ではあるけど、注目するところはそこか!?
「くうぅっ!私が日頃、地道に積んでいた功徳がカンストして、ようやく報われる時が来たか!それではさっそく、真下からのアングルを楽しませて……」
私達の戸惑いを余所に、歓喜した骨夫がウキウキしながら移動しようとした時、破壊神から放たれた怪光線が彼の頭部を貫き、そのままドサリと骨夫は倒れる。
そ、そんな……まったく攻撃の初動が見えなかった。
なにより、転移魔法を使える骨夫が真っ先に殺られるとは、退却の手段が……。
「こ、殺す気かぁ!」
あ、生きてた。
いや、アンデッドに「生きてた」って言い方が正しいかはわからないけど。
なんにせよ、頭に風穴が空いたまま、起き上がった骨夫はそそくさと戻ってきて、アルトやエル少年の背後に身を隠しながら、破壊神に向かって罵倒の言葉を投げつけていた。
ううん、清々しいくらい情けない奴。
しかし、これはマズい状況だ。
さっきの、初動が見えない怪光線を連発されるだけで、私達のうち何人かはやられてしまうかもしれない。
かといって、対抗するべき手段も……。
こちらの持ち札で通じそうなのは、私とルアンタの『神のオーラ』くらいで、その他の攻撃が目の前にそびえる巨神に通じない事は、みんな直感的にわかっているようだった。
むぅ……諦めるつもりはないが、ここは戦略的撤退も視野に入れるべきか。
『あ、逃げたら手近な国から潰して行くから』
くそっ!
さっそく、逃げ道を潰してきたか!
どうする……このままでは、じり貧で追い詰められてしまうだけだ。
「……ワタクシにひとつ考えがありますわ」
不意に、ヴェルチェがそんな事を言った。
「ワタクシは普段、ゴーレムを作る際に土の精霊魔法と大地を媒介にしておりますが、更なる改良を研究しておりましたの。そして、金属を媒介にし、大量の魔力を使うことで新たなゴーレムを産み出す術の開発に成功いたしております」
そういえば、たまにちっちゃいゴーレムを作っていたっけ。
ブンドドして遊んでるだけだと思ったけど、あれが研究の成果だったか。
「そこで……エリ姉様と、ルアンタ様のスーツを媒介にし、皆さんの魔力をまとめる事で、究極のゴーレムを作る事を提案いたしますわ!」
私達のスーツ……つまり、ミスリルとオリハルコンから、ゴーレムを作るという事か!
確かに、それが出来るなら凄いのが作れそうだけど……。
「出来るんですか?」
「可能性はありますわ。ですが、問題点が二つほど考えられます」
それはいったい……。
「まずは単純に、加工のための魔力が足りるかどうか。そして……媒介となった、エリ姉様とルアンタ様のスーツは、おそらく失われるという事ですわ」
なるほど……私達にとって切り札とも言える『戦乙女装束』や『勇者装束』が無くなれば、ゴーレムが通じなかった場合にもはや打つ手はなくなる。
まさに、一か八かの博打となるわけか。
だが、このままでは座して死を待つだけだ。
異世界にも、「虎穴に入らずんば、虎児を得ず」という言い伝えがあるように、危険だとわかっていてもやる時はやるしかない!
「使ってください、ヴェルチェ」
「お願いします!」
私とルアンタは微塵も迷わず、スーツが収納してある『バレット』を彼女に手渡した。
「っ……ご信頼に応えてみせませすわ!さぁ、皆さん!手伝ってくださいまし!」
『バレット』を受け取ったヴェルチェは、私とルアンタを除く全員に魔力の供給を呼び掛ける。
私達も魔力を出すつもりだったのだけれど、ゴーレムが完成した際には神のオーラが必要になるからと、待機を言い渡された。
テキパキと皆に指示を飛ばすヴェルチェの背中を、私とルアンタ、そしてイコ・サイフレームが静かに眺める。
って、こいつ!
私達が反撃の準備をしているというのに、なんで何もしない!?
なにか企んでいるのか、それとも余裕からくる高みの見物なのか?
『…………』
……何も考えて無さそうだし、たぶん後者だな!
くそう、ゴーレムか完成したら、『キャイン!』と言わせてやる!
◆
「では、ワタクシに向かって魔力を流してくださいまし!」
そう告げたヴェルチェの背中に、アルト達が手を当てた。
「はぅっ……ああん♥」
ビクリと体を震わせ、ヴェルチェの口から悩ましげな声がこぼれ落ちる。
別に変な気持ちになったからではなく、魔力が体内を巡ると快楽的な感覚があるためだ。
「あ、はぁん♥んっ、んっ、ふほぉぉん♥」
ビクビクと体を震わせ、紅潮した顔で声を漏らすヴェルチェ。
もう一度言っておこう。単に、魔力が彼女の体を経由しているだけだと!
そんなヴェルチェの手から、私達のスーツが収納されてある『バレット』へと魔力が流れ込み、光を放ち始める!
「イ、イキますわぁぁん♥」
集まった魔力を、ゴーレムを形作る術式へと変換するヴェルチェ!
スーツを収納している『バレット』が砕け、二つの戦闘が混じわり、溶け合いながら新たな形を形成していく!
激しい光が周囲を飲み込み……それが収まった時、私達の目の前には、今までのゴーレムとは比べ物にならない輝く機体が現れていた!
「これぞ……結魂合神・エリクシアンタですわぁ!」
雄々しく鎮座ゴーレムを指差し、機神の名乗りをあげるヴェルチェの声が大きく響き渡った!
……若干、名付けかた雑だなぁ。




