11 使徒達との決着
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「フハハハ!たかがメス犬一匹と赤子が増えた程度で、結果は何も変わらぬわ!」
ガッダームは高笑いしながら、壁が迫るような勢いで盾突進で突っ込んできた!
この一撃が超重量化した俺でも止められない、さらに反撃しても弾き返されるほどのすさまじい威力を持っているのは、一戦目で十分に味わっている。
だが、今の俺は一人じゃないんだぜ!
俺は両手を突きだし、真正面から突進してくる巨大な盾の一撃を受け止める!
さっきのタイマンでは、ここで吹き飛ばされてしまったが、今度は見事に止めてみせた!
「なにっ!?」
盾の向こうから、ガッダームが驚いたようや声が響く!
まぁ、無理もない。さっきまでは、この攻撃に手も足も出なかったんだからな。
だが、文字通り我が子を背負った親父の力を、舐めるなよ!
「ちいっ!」
ならばと、また盾での殴打に切り替えようとしたガッダームが振りかぶろうとする。
しかし、それよりも速く俺の背後から飛び出したキャロが、攻撃に移ろうとした奴の顔面に一撃を加えた!
「ぬうっ!」
「しゃあっ!」
威嚇のような声を漏らし、キャロは止まることなく縦横無尽に動き回って、盾を避けながらガッダームを鋭い爪で切りつけていく!
無数の残像が発生するほどの速さには、さすがのガッダームも反応しきれていないようだ。
やはり、パワーは防御に優れた相手は、スピードで翻弄するのは定石だな。
「フッ、確かに速さは大した物だが、重さが足りん!」
一瞬だけ戸惑ったものの、すぐに冷静さを取り戻したしたガッダームは、盾を構えて完全に守りの体勢になった!
「千発でも万発でも、打ち込んで来るがいい!打ち疲れた時が、貴様らの最後よ!」
防御主体の戦士が足を止めて守りに入れば、いかにキャロが攻め立てようとも、切り崩すのは容易ではない。
だが、そんな体勢に入られる事こそ、俺達の狙いだったのだ!
嫌と言うほど味わった、ガッダームの鉄壁の防御……ならば、その硬度を上回る一撃を与えればいいというシンプルな攻略法は、思い付いていた。
しかし、俺一人ではそんな攻撃を出すのに、溜めの時間を作ることはできなかった。
だが、今ならキャロか奴を足止めしてくれているから、十分に力を溜める事ができる!
「こおぉぉぉぉ……」
深く深呼吸して、『奈落装束』の能力を最大限に引き出す!
大気が歪むような重圧感が俺の周囲に漂う中で、大きく構えをとり、狙いを定める!
そして俺は、大地を砕く『震脚』と共に、必殺の一撃を放った!
「星核掌握・半歩崩拳!」
『震脚』の踏み込みで発生したエネルギーを、余すことなく全身に経由させ、超重量になった俺の重さも加えながら、体重移動で拳に乗せる!
単純な理屈の中段突きだが、足場となった星の重さに、増幅された俺の重さとが混ざりあって、空間が砕けるほどの(イメージ)凄まじい衝撃を生み出した!
それは強固なガッダームの盾を破壊し、奴本人の体に深々と突き刺さる!
「っっっっ!?」
何が起こったのか、訳がわからぬといった表情のまま、ガッダームは全身の骨を砕かれ、血ヘドを吐き散らしなから吹っ飛んでいった!
そのまま地面に転がると、ピクリとも動かなくなる。
「ふぅぅぅ……」
大きく息を吐き出した俺に、尻尾を振りながらキャロが抱きついてきた!
「やりましたね、旦那様!」
「ああ……ノアにも、いい所が見せられたかな?」
そんな俺の言葉に答えるように、背中の娘は「あぅおぉ!」となにか興奮しながら、可愛らしく雄叫びをあげていた。
◆◆◆
「お前さえ居なければ、私がヴェルチェの姉になれた物をっ!」
「訳のわからん事を言うんじゃないよ!」
怒鳴り合いながら、デュー姉様とゼッタの攻防は続きます。
鋭い槍の連撃を大剣で捌いていくデュー姉様の剣技は見事ですが、長い槍の間合いには攻めあぐねているようでした。
大きく剣と槍のぶつかる音が響き、二人は距離を取ります。一旦、仕切り直しといった感じですわね。
「おい、ヴェルチェ!さっきからアイツは、アタシに何の因縁をつけてるんだ?」
「経緯を説明すると長くなりますが、あの方はワタクシを妹にしてイチャつきたいらしいそうですわ」
「なんだ、変態か」
バッサリ切り捨てたデュー姉様に、ゼッタはギリギリと歯軋りをしました。
「ヴェルチェと仲良くおしゃべりして……羨ましいぃ!」
そこですの!?
デュー姉様に変態と言われた事より、ワタクシと話している事に反応するとは……あの方、筋金入りですわね。
「……しかし、変態とはいえあの槍さばきは厄介だねぇ」
前世、魔界でも随一と言われ、転生後ではそれを超えるほどの強さを身に付けたデュー姉様でも、ゼッタの懐に入るのは困難な様子。
確かに、攻防一体と言えるほどのゼッタの槍は、神技と言っても過言ではありませんわ。
ですが……!
「デュー姉様、少しばかり彼女の気を引いていただけますか?」
そう言いながら、チラリと目配せしたワタクシの視線の先にある物を見て、デュー姉様はニヤリと笑います。
「わかった。任せな!」
言うが早いか、デュー姉様は再びゼッタに向かって突進していきました!
嵐のような攻防がまた巻き起こる中、ワタクシはそっと移動して目的の物に乗り込みます!
そして魔力を注ぎ込むと、トラック型のゴーレム『綺羅星号』を起動させました!
「行きますわ!『綺羅星号・不意打ち突進!』」
デュー姉様との攻防に夢中なゼッタ目掛け、異世界までぶっ飛べと言わんばかりに『綺羅星号』の突進いたします!
完全に不意を突かれたゼッタは、ギョッとしながら大きく轢き飛ばされて、体勢を崩しました!
良い子は絶対に真似すんな!ですわ!
「がはっ!」
かなりの衝撃に、ゼッタはすぐさま立ち上がる事ができない様子!
これはチャンスですわ!
「おぉぉぉぉっ!」
「『綺羅星号・人型変形』!」
蒼い炎のオーラを纏、『超戦士化』したデュー姉様と、『姫を模したる踊り子人形・Ⅱ型』に変形したワタクシのゴーレムが、ゼッタに迫ります!
「デュー姉様!アレを使いますわ!」
「よろしくてよ!」
ノリ良くそんな答えを返してくるデュー姉様に苦笑しつつ、ワタクシ達は剣を構えて同時に斬り込みます!
「魔界剣・奥義!鬼神煉獄・無限斬!」
これこそ、前世デュー姉様とワタクシが魔界で覇を唱えた、最強の奥義!
ぴったりと息を合わせたワタクシとデュー姉様が、絶え間なく斬りかかり、相手に一切の反撃を許さぬ怒濤の連続攻撃ですわっ!
「ぐっ……ちぃっ!」
全てを焼き尽くす炎を思わせるワタクシ達の攻めを、ゼッタは槍で巧みに防ぎながらも、攻撃が入れ替わる隙を狙って反撃を試みます!
しかし、呼吸を合わせて互いをフォローするワタクシ達の型を崩す事はできず、むしろ攻めで体勢を崩す彼女の方が追い込まれていきました!
「うぅっ……ぐうっ!」
ジリジリと焼かれていくような、防戦一方の状態に、ゼッタはどんどん焦れていきます。
やがて、彼女の防御に僅かなヒビが入りました!
そこですわ!
蟻の一穴となってそこから、ワタクシの攻撃がついにゼッタの守りを切り崩し、一気に激しい斬撃の嵐が彼女を襲います!
有無を言わさず、一瞬で全身に斬撃を叩き込まれたゼッタは血飛沫を撒き散らしながら、ワタクシ達を凝視しました!
「これが……姉妹の……愛の力……」
ゴフッ!と大きく吐血しながら、ゼッタはニヤリと口角をあげます。
「………………尊い」
そう言い残して、ゼッタは大地に倒れました。
「結局……なんだったんだ、コイツは」
「悲しきサガに翻弄された、普通の『姉妹百合好き』で『クレイジー・サイコ・レズ』でしたわ……」
普通なのか、それ?というデュー姉様のごもっともな呟きだけが、戦闘の終わったこの場に小さく響くのでした……。




