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謀殺されてTS転生した魔王の息子が、勇者の師匠になる話  作者: 善信
最終章 終わる時代、新たな世界
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08 虎退治の秘策

           ◆◆◆


 後方から、激しい戦闘の音が響いてくる。

 どうやら、エリクシア達が破壊神どもとぶつかり始めたようであるな。

 妾達も、急ぎ『尾万虎』を片付けねば!


「こら、骨夫!しっかりせぬか!」

 広域回復魔法を使用したのはいいが、それに巻き込まれてダメージを受けた骨夫に妾は檄を飛ばす!

 転移魔法を使うこやつがキーマンだというのに、呑気に頭蓋骨だけのままでいおって!


「そうは言いますがね、お嬢。頭だけの状態から復活するには、こう……生命力が活性化するような、たぎる物が必要なんですよ!」

「アンデッドのくせに生命力の活性化って……お前、それを促す回復魔法のせいで、そうなったのではないか!」

「物理的な物じゃない、魂的なものでさぁ!」

 なぜか「わかってないなぁ」としたり顔をされ、ちょっとイラッとする。

 それにしても、ふぅん……魂の活性化か。ようは、奮い立つような条件があれば良いのだな?

 ならば……。


「よし、じゃあすぐに復活したら、ハミィにおっぱい揉ませてやるように頼んでやろう」

 妾がそんな提案をすると、骨夫だけでなくハミィまでギョッとした顔でこちらを見てきた。

 まぁ、当然の反応ではあるが、そこは置いといて……。


「お嬢、マジですか!? マジですか、お嬢!」

 確認のために、妾に迫ってくる骨夫!

 というかお前、この時点ですでに上半身が復活しておるではないか!

「ええい、妾に二言はない!ちゃんと頼んでやるから、さっさと復活……」

「それじゃあ、お願いします」

 妾の言葉が終わるよりも早く、完全復活を果たしていた骨夫は、ハミィの胸に向かって拝むように手を合わせていた。

 な、なんというスケベ心か……。


「ウヘヘヘヘ、さぁハミィさんよぉ……」

「い、嫌です」

 当然のように、ハミィは胸を隠して骨夫から離れる。

 すると、(さっさと頼んで!やくめでしょ!)とばかりに、妾へとアイコンタクトを送ってきた。

 ふむ……。

「あー、ハミィ。ひとつ頼まれてくれぬか?」

「嫌です」

「では、仕方がないな」

 はい、終わり終わりとばかりに話を終えると、信じられない物を見たような表情の骨夫が、妾を見つめていた。


「ちょっとおぉぉぉっ!どういう事ですか、お嬢ぉぉぉっ!」

「どういう事もなにも……断られたのだから、仕方あるまい」

「し、仕方があるまいって、もうちょっと粘ってくださいよぉ!」

 そこまでは知らん。

 まぁ、最初からハミィは断わるだろうと見込んで、こんな提案をした訳だがな。


 「裏切ったね……僕の心を裏切ったね!」

 骨夫は涙を流しつつ、ブツブツ言っている。そこまで傷つくほどの事なのか……?

 まぁ、どうでもいい。復活したからには、さっさと仕事をしてもらおう。

「ええ~、なにすりゃいいんスかぁ……」

 完全にふて腐れている骨夫は、妾の命令にやる気の欠片も見えない態度で尋ねてきた。

 一応、妾はお前の主なんですけど……。


「んんっ!お主の転移魔法で、あの『尾万虎』を転移させるのだ!」

 上下関係をわからせるため、わざとらしく咳払いをしてから命令を下す!

「転移って……どこにスか?」

「妾達の『魔界』へ、だ」

「そりゃ、無茶ですがな!」

 予想以上の反応を見せながら、骨夫は妾の言葉を否定する!


「あんなデカブツが通れるだけの『転移口(ゲート)』を我々の国まで繋げようと思ったら、どれだけ莫大な魔力が必要となるか……」

「そこは、妾がフォローする」

 骨夫は、妾から供給される魔力で動いている使い魔でもある。

 その供給ラインを利用して、『魔界』随一と言われる妾の魔力を送り込めば、あの神獣の巨体を飲み込むほどの『転移口』を作る事も可能なはずだ。


「ううむ……それでも、かなり無謀な……」

「あー、それじゃあまた、ハミィにおっぱいを揉ませてもらえるよう、頼んでやるから」

 「また!?」といった感じでハミィが再びギョッとするが、骨夫は疑いの眼差しを向け、すぐには食いついて来なかった。

 チッ!さすがに学習したか?

「……こんどは、本当にお願いしてくれるんですか?」

「無論!」

「ちゃんと粘ってくれる?」

「いいだろう!」

「……フッ、『不可能を可能にする男、キャルシアム・骨夫』として名を馳せるのも悪くない!」

 すぐにその気になった骨夫の背中を見て、妾は思った……前言撤回、やはりこやつは何も学習しておらんわ、と。


「よっしゃ!それでは『転移口』を形成するまで、少しだけあの大虎の攻撃を防いでください!」

 そう言って詠唱を開始する骨夫をガードするように、エルとハミィが前に出る!

 ようやく動きを見せたこちらを警戒するように、『尾万虎』も地響きのような唸り声を漏らし始めた。


「しかし、あのデカブツを『魔界』に送って、どうにかできるんですか?」

 詠唱しながらも器用に尋ねてくる骨夫に、妾に代わってエルが答えた。

「大丈夫ですよ、骨夫さん。こんな事もあろうかと、魔界(あっち)では僕の両親やアルトさんの両親、それに魔王の方々が戦闘準備をして待機していますから」

 そう、エルの言う通り、すでに手は打たれている。


 それというのも、あの全世界に届いた破壊神の宣言やその使徒どもの襲撃があってから、計画は動いていたのだ。

 少数精鋭である妾達が探索の旅に出て、破壊神やそれに準ずる強敵が現れて手に負えない場合は、魔界に転移させて皆で袋叩きにしてやろう、とな!

 だが、その計画を立てていた時には、骨夫もその場にいたはずなのだが……妾達の話を聞いて妙に納得している所を見るに、完全に忘れているか話を聞いていなかったかの、どちらかのようだ。

 しかし、こういう大事な話を覚えていないのはなぁ……。

 また、妾の従者として一から厳しく鍛え直さなければならんなぁ……。


「それじゃあ、アルトさんと骨夫さん、よろしくお願いします!」

 そう言うと、エルとハミィは神獣の足止めをすべく、剣に乗って飛び立った!

 むぅ……いつ見ても、エルにしがみつくハミィは、役得に見えるな。なんかニヤけてるし。

「お嬢、もっと魔力をください!」

 おっと、今はこちらに集中しなくてはな。

「うむ、持っていけ!」

 魔力の供給ラインから、大量の魔力が骨夫に持っていかれる。

 なるほど、運ぶ質量と距離にふさわしい消費量だな。


 ──それから五分ほど……滝のように注がれるイメージで魔力を使って、ようやく骨夫の極大級転移魔法は完成した!

「はあぁぁぁぁっ!」

 骨夫の気合いの声と共に、上空のエル達に気をとられていた神獣の足元へ『転移口』は展開され、まるで底無し沼のように『尾万虎』を飲み込み始める!

『ゴオアァァァ!』

 『尾万虎』は大きく吼え、転移魔法から逃れようとするも、すでに尻尾の大半と後ろ足が沈み込んでいて、脱出はできない。

 後は奴の全身が飲み込まれてから、妾達も『転移口』に飛び込み、向こうで取り囲んで、ボッコボコにしてやるだけである!


「アルトさん!」

 囮として神獣の気を引いていたエル達が、妾の元へ戻ってきた。

 そんな二人に妾は親指を立て、策が上手くいった事を示す。

「あんのぉ~……」

 戻ってきたハミィの姿をチラチラ見ながら、骨夫がクイクイと妾のドレスの裾を引っ張ってきた。

「例の約束なんですが……」

 ああ、そうであったな。


「ハミィよ、すまんが骨夫に胸を揉ませてやってくれんか?」

「嫌ですが?」

「そこをなんとか」

「絶対に嫌ですが?」

「……では、仕方がないか」

「ちょっとおぉぉぉっ!」

 骨夫が転がりながら、妾とハミィの間に入ってきた!


「これじゃあさっきと変わらないじゃないてすか、お嬢ぉぉぉっ!ちゃんと粘り強く交渉してくださいよぉ!」

「え?ちゃんと粘ったではないか」

 さっきよりも、一言多く頼んでみたし。

 それでも断られたのだから、仕方があるまい。

「また騙したね!僕のピュアな純情を弄んで!」

 ピュアな奴が、スケベ根性丸だしでこんな話に乗るわけがないだろうに!

「やだやだ!おっぱい揉みたい!」

 お前、それが自称ピュアな奴の台詞か!……いや、純粋に欲望に忠実なのかもしれんが。

 うわぁぁぁぁん!と、見苦しく転げ回る骨夫を掴みあげ、妾達も神獣を完全に飲み込みつつある転移口へ向かう。


 その時、妾はチラリと後方へ目を向けた。

 破壊神達と戦っている辺境の勇者達の姿を思い、グッと拳を握る。

「待っておれ……死ぬなよ!」

 この『尾万虎』を仕止めたら、すぐに戻ってくるからな!

 ほんのわずかの間ではあるが、妾となんだか馬が合ったダークエルフへ小さく呼び掛け、妾達は『転移口』へと飛び込んだ!

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