04 破壊神復活の理由
「頭が高い」
一言、そう告げた破壊神イコ・サイフレームから、凄まじいまでのプレッシャーが発せられる!
それはまるでシンヤの重量操作のように、物理的な圧力さえ感じさせながら、私達に重くのしかかってきた!
くぅっ!ここまでの圧倒的な存在感……さすがは破壊神と言わざるをえない!
「ふむぅ……余の眷族である、トラ助が起きた波長を感じて来てみれば……何やら、手こずっているようではないか?」
トラ助って……『尾万虎』の事?
あの化け物をそんな風に呼ぶなんて、眷族というよりペット感覚なのか。
しかし、そんな飼い主にジッと見られた『尾万虎』は、わかりやすいくらいにブルブルと震え、怯えた態度で俯いていた。
「トラ助……お主は食った相手をアンデッドに変え、倍々で下僕を増やして地上の虫を駆除するのが役目のはず……何をこんな所で遊んでおる?」
静かに……しかし、限りなく冷たい声で、破壊神は自らの眷族に語りかける。
だが『尾万虎』はその巨体を縮めて、目をそらしてばかりだ。
そんな眷族の態度に、わずかながらイコ・サイフレームから怒気が滲む。
「ハッハッハッ!そう眷族を責めてやるのは、お止めください。我等が主よ」
「左様。虎殿が相手していた連中、なかなかの手練れですぞ」
怒鳴り付けようとしたイコ・サイフレームの近くに、突然転移口が開き、そこから彼女を諫めるような声と共に二つの人影が姿を現した。
一人は筋骨隆々で、壁を思わせる巨大な盾を持った男。
見事な髭を蓄え、明るく主に語りかける姿からは想像もつかないだけの修羅場を潜り抜けて来たであろう、歴戦の強者の風格を漂わせている。
そしてもう一人は、デューナに匹敵するほどの筋肉と、グラマラスなボディを持ち、側頭部から牛に似た角を生やした長身の女。
しかし、その健康的過ぎる肉体美よりも目を引く立派な槍を携え、なおかつ体に刻まれたいつくもの古傷が、戦場を駆け抜けた戦士としての力量を物語っていた。
誰が見ても、一目で一流とわかるこの二人は、もしや……。
「さて……自分達を殺す相手の名も知らぬのは不憫よな」
グルリと私達を見回し、男はニヤリと笑みを浮かべる。
「我が名は、イコ・サイフレーム様の十二使徒が筆頭!『絶なる盾』の異名を持つ、ガッダーム!」
「同じく、イコ・サイフレーム様に仕える十二使徒が副長、『絶なる槍』ことゼッタ!」
名乗りを上げた二人は、各々の二つ名の由来である盾と槍を軽く当て、ポーズを決めた!
やはりこいつらが……最後の十二使徒!
なるほど、今までの連中とはひと味もふた味も違いそうだわ。
「『尾万虎』だけでなく、我等を撃退し続けた手腕は見事。地上の民も、随分と進化したものよな」
「それ故に、我等が主の望みを叶えるに、貴様らが最大の障壁と判断して参上した次第」
なるほど、向こうもいい加減に決着をつけたいという事か。
それはこちらも望む所ではあるが。
「ふむう……使徒達がやられた所で、そんなに気にするほどの者は……」
そう呟きながら、私達をグルリと見回したイコ・サイフレームだったが、唐突に私を見た所で視線が止まった。
え、な、なに……?
「……エリクシア?それに、ルアンタか?」
「!?」
いきなり名前を呼ばれ、私達がギョッとしていると、破壊神は大笑いを始めた。
「ハッハッハッ!なるほど、なるほど!これは因縁の深い事だ!」
訳がわからず困惑している私達をよそに、ガッダームやゼッタも納得したように頷きながら、私達を見下ろしている。
むぅ……いったい、どういう事なんだ!?
「……はぁ~、やれやれ。」
しばらくして、笑い終えたイコ・サイフレームが目の端に浮かんだ涙を拭い、再び私とルアンタに目を向けた。
「訳がわからぬといった感じだな。よろしい、教えてやろう」
どこから話したものか……などと、ブツブツと呟いていた破壊神だが、面倒になったのか全ての始まりから語り始めた。
「まず始めに……余が現世に復活したのには、オーガンという男が絡んでおる」
……オーガン?
え?オーガンって、あのオーガン!?
以前の魔王大戦の時に、魔王の三男ダーイッジの肉体に魂を宿していた、あのオーガンが!?
一応、当時オルブルを名のって同じ陣営にいたシンヤに、確認するような視線を向けるが、何も知らないとばかりに激しく首を横に振る。
た、確かに戦いの後に行方は知れなかったが、なんであいつが破壊神の復活に関連しているんだ?
「あれは少し前のこと……余が封じられていた忘れられた遺跡に、オーガンはボロボロになってやって来た」
懐かしむように腕組みしながら、イコ・サイフレームは語り出す。
「どこで余の事を知ったのかはわからんが、あやつは封印を解き、身の程知らずにも復活した余の肉体を奪おうと画策しておったのだ」
な、なんだってー!?
あ、あいつ、とんでもない事を考えたな!
「だが、余の最愛の姉神が施した封印は完璧であり、一人間ごときでは、どうする事もできなかったのだよ」
「では……なぜ貴女は甦ったのです!」
「……オーガンは、肉体と魂を入れ換える術を知っていた。それを使い、封印のわずかな綻びを抜けて、余と自身の肉体を入れ換えようとしたのだ!」
「なっ!?」
そ、それはつまり……。
「そう、いま余が授肉しているこの肉体は、元々オーガンめが使っていた肉体よ!」
「!!!!!!!!」
しょ、衝撃の真相……。
それを知った私達は全員が唖然としてしまった。
しかし、オーガンが使っていた肉体(つまり、元はダーイッジの肉体だが)と、今の女神然とした美女イコ・サイフレームの外見では似ても似つかない。
「フフフ、たかが人間程度の肉体に、余の魂は収まりきらぬからな。溢れる神力を使って、当時の余と同じ外見に肉体を作り変えたのだ」
いとも簡単に言うが、そんな馬鹿げた真似ができるのは破壊神くらいだろう。
それにしても……おそらく、イコ・サイフレームの肉体に入ったであろう、オーガンの魂はどうなったんだろうか。
「神の肉体に人の魂を宿そうとしても、海に砂糖を一粒入れて砂糖水に変えようとするようなもの……余の肉体に入った瞬間に、欠片も残さず魂は霧散したでのであろう」
私の内に浮かんだ疑問を読んだのか、破壊神は先手を打って答えを語る。
そうか……。
オーガン……実は私の尻を狙っていたヤバい奴ではあったけど、こうして私がエリクシアとしての人生を始められたのは、あいつのお陰でもある。
その事には感謝しているので、私は胸の内で小さく祈りを捧げた。
「ちなみに、先ほど余がお主らの名前を知っていたのは、オーガンの残留思念によるものだが……とんでもなく恨まれておるな、お主ら!」
そんな事を言って、イコ・サイフレームはケラケラと嗤う。
ぐぬぬ……哀悼の意を抱いて損した気分……!
「しかし……余もオーガンの奴めは、少しばかり誉めてやっても良いと思っておる」
なにっ!?
意外な事を言うな……。
「この肉体を得た際に、余は『男』の因子を獲得する事ができた。これはつまり、余の姉である創造神オーヴァ・セレンツァをブチ犯して、孕ませる事ができるという事!」
「!?」
「余は!」
驚く私達を無視して、破壊神は拳を握る!
「これより地に蔓延る虫どもを全て消し去り、地上をきれいに掃除する!その暁には、お姉ちゃんを復活させて余との子供を産んでもらい、新たなる世界を作るのだ!」
ク、クレイジー・サイコ・レズ……。
『姉妹百合』なんて可愛らしい物ではない、欲望に満ちたイコ・サイフレームの宣言は、結構な衝撃ではあった。
って、それでいいのか、使徒のお前らっ!
そう思い奴等に目を向けると、二人は主の演説に感涙しながら拍手を送っていた。
うん……そういえば、十二使徒ってそれを知ってて向こうに付いたんだっけ。
ヤバい奴はヤバい奴を呼ぶ、か。
それにしても、破壊神が目指す創造の物語。それが、奴等の目的だったなんて……。
だが、そんな物を実現させる訳にはいかない!
私達が生き延び、これからの時代を作っていくためにも、あいつらは必ず倒さなくては!
そして、それは私だけでなく、ここにいる仲間達の総意であった!
一歩も引く様子のない私達を眺め、神獣を率いたイコ・サイフレームと二人の使徒はニコリと微笑みを浮かべる。
「敵わぬとわかっていなから、あくまでも向かってくるか……よろしい、ならば戦争だ!」




