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謀殺されてTS転生した魔王の息子が、勇者の師匠になる話  作者: 善信
最終章 終わる時代、新たな世界
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03 死者の軍団

 生気のない虚ろな瞳に私達を写し、苦しげに唸りながら『尾万虎』の使役するアンデッド達が迫ってくる。

 血の気の失せた土気色の皮膚に、知性を感じさせないノロノロした動きで近づいてくる一団は、なまじ戦った事がある相手だけに、不気味さが増している感じがするわ。


「とりあえず……アンデッドには炎の魔法が定石か」

「ええ、まず間違いなく!殺す気かって思うほど、効きますね!」

 アルトの言葉に、骨夫が力強く頷く。

 さすがに、アンデッド(こいつ)が言うと説得力が違うな……。


 そんな骨夫に太鼓判を押され、ニヤリと余裕の笑みを浮かべながら、アルトは広げた両手に炎の塊を宿す。

 小さめの火球にしか見えないその炎だが、わかる者が見ればとてつもなく圧縮された魔力の奔流を感じられるはずだ。

 そう、私みたいにね!

 まぁ、そんな自画自賛はさておき。

 彼女の炎魔法だけでアンデッドの軍団なんか消滅させられそうだけど、なにせ神獣絡みだからな……だめ押しの一手も、用意しておくか。


「ルアンタ、私達も手伝いますよ」

「はい!」

 私は手甲に、ルアンタはオリハルコンブレードに炎魔法の『バレット』を装填し、アルトの横に並び立つ。

「フッ……妾が討ちもらした奴らは、そちらに任せるぞ」

「ええ、派手にやってください」

 無論!と、返してきたアルトは生成した炎の塊をアンデッド達に向けると、完成した魔法を解き放つ!


極大級(アルティメット)炎魔法(・バースト)×二!」


 巨大な炎の渦が二本、螺旋を描きながらアンデッドの群れを呑み込んでいく!

 そのほとんどが炎に巻き込まれていたが、わずかに範囲から逃れたアンデッド達に向け、私達も攻撃を加えた!


紅蓮拳(クリムゾン・ナックル)!」

炎陣剣(エンジン・ブレード)!」


 炎の拳と、燃える斬撃がアンデッド達を捉え、炎に包んでいく!

 阿鼻叫喚の酷い絵面ではあるが、これで死ねない死者達も安らかに眠れる事だろう……そう思っていたのだが。


「……んん?あのアンデッドども、けっこう平気そうな感じではないか?」

 アルトが、怪訝そうな声で尋ねてくる。

 確かに、目の前で死者の群れは炎に焼かれてはいるのだけど……こちらに向かってくる、歩みは一向に止まっていない。

 さらに、私の打撃やルアンタの斬撃で、体の一部を欠損した個体も、バランスを崩したり這いずったりしながらどんどん近づいてくるではないか。


「まさか……炎に耐性がある?アンデッドなのに?」

 戸惑う私達の様子を見て、『尾万虎』がゴロゴロと喉を鳴らした。

 まるで嘲笑っているかのようだが……いや、実際にバカにしてるな。顔を見ればわかる。

 くそう……だが、こんな特殊な耐性を持たせたアンデッドを使役するあたり、神獣と呼ばれるだけの事はあるかと、認めざるをえない。


「くっ……炎が効かぬとなると、これだけの数のアンデッドは脅威だな」

 アルトが(ひる)むのも無理はない。

 確かに、疲れ知らずで肉体が損傷しようとも攻めの姿勢が崩れない死者の群れなんて、厄介でしかないからだ。

 しかも、弱点を突けないとなると、一体一体を確実に潰すくらいしか対処のしようがないのだが、敵の数を考えればこちらがへばってしまう可能性すらある。

 そんな考えが顔に浮かんでいたのか、骨夫がスィと私達の前に立って、迫る死者達との間に割って入ってきた。


「お嬢!ここは私にお任せを!」

「……何か良い考えがあるのか?」

「フッフッフッ……餅は餅屋というように、アンデッドの嫌がる事はアンデッドが一番よくわかっているのですよ」

 ふむう、一理ある……。


「それで、一体どうしようというんです?」

「アンデッドには、炎魔法の他にもうひとつ、弱点となる属性の前があるのは知っているかな?」

「……回復魔法?」

正解(エサクタ)!」

 骨夫は、よくできましたと言わんばかりに私に抱きつこうとしたが、とりあえず肘打ちで迎撃しておく。


 でも……回復魔法か……。

 生命力を活性化させ、悪苦なってる部位を癒す回復魔法は、すでに死んでる相手に対しては、抜群のマイナス効果をもたらす。

 しかし、普通は対象に直接触れねばならず、範囲も狭い回復魔法をアンデッドに使おうと考える者はいない。

 それなら、素直に仲間を癒した方が有意義だからね。


「私が使える極大級回復魔法なら、有効範囲にいる者を全て癒す事ができるんですよ。これで、あの腐れ野郎どもを一網打尽って寸法です!」

 なんだと!?

 骨夫が回復魔法を使えるのは聞いていたけど、そんな超上位魔法まで使えるなんて……こいつ、本当にアンデッドなんだろうか?


「でも、その有効範囲にまであのアンデッドを引き付けるのは、大変ですよ?」

 エル少年の言う通り、敵の数に加えてアンデッド化してる破壊神の使徒が問題だ。

 奴等に暴れられ乱戦になった場合、骨夫の魔法が十全に威力を発揮できない可能性もある。

「……ならば、アンデッドを一ヶ所に引き付ける役目、ワシに任せてもらおう」

 そう言って歩み出たのは、サキュバスのロリババア、ミリティアだった!


「引き付けるって……いったい、どうなさるおつもりですの?」

「ワシとて、ただ可愛いだけの存在ではない。アンデッドを魅了してやまない幻を作る事など、容易(たやす)い事よ。何より、このままでは存在感が無さすぎて、フェードアウトしそうじゃからのう!」

 何やら、危機感を募らせた顔で、彼女は断言する。

 しかし、死者を魅了するだなんて、そんな幻術があるのだろうか……?

 そうな考えが頭を過ったが、当のミリティアが自信に満ち溢れている。

 むぅ……ここは、『サキュバス大長老』の肩書きが伊達じゃないという所を、見せてもらおうか。


「どぉれ、さっそく魅せてくれよう!これが、アンデッドにとって本能を刺激される幻じゃあ!」

 大見得をきって、彼女は迫る死者の群れの前に幻を出現させる!

 それは……数人の人間の姿だった!


 やたら人目も(はばか)らず、イチャイチャする一組の男女。

 犬を探してあたふたする、初老の女性。

 「他の奴を見殺しにしても、俺だけは助かってやる!」などとブツブツ呟く中年男性。

 んん……?

 これが……アンデッドを引き付ける面子、なんだろうか?


「おお……お色気要員を兼ねたバカップル、犬を追ってピンチな状態を引き起こすババア、主人公を見捨てて安全な部屋に飛び込んだと思いきや、ホッとした所で襲われるおっさん……ゾンビ映画あるあるの、完璧な布陣だ!」

 よくわからない理屈でシンヤは一人、その幻術のチョイスに納得しているが、本当にこんなのが?といった気持ちは否めない。

 それは私だけでなく、他のみんなも思っていたようだが……。

「ううう……幻術(こいつら)を見ているとなんだか……ゾンビどもがいなければ、私が一人づつ襲ってやりたい気分ですよ!」

 イライラした様子で、骨夫がミリティアの幻術を睨んでいるのを見ると、なるほど効果はありそうだ。

 実際、彼女の幻術に引き付けられたアンデッド達は、私達よりもそちらの方に殺到している。

 幻に対して唸り声をあげながら襲いかかるアンデッド達は、本能を刺激されて苛立たしげな感じだった。


「よし!骨夫よ、行けぃ!」

「ガッテン、承知!」

 アルトの命令に従い、骨夫は単騎でアンデッドの群れに飛び込む!

 それに合わせて私とルアンタも、いったん『変身』を解除した。

 私達の立ち位置も骨夫の回復魔法の範囲らしいので、ついでに回復させてもらうためである。


「うおぉぉぉっ!『極大級(アルティメット・)回復魔法(グレートヒール)』!」


 そして、アンデッドが放つ、極大級回復魔法が発動した!

 骨夫を中心にして、神々しくも優しい光が半球状に広がっていく!

 まるで、雪解けの春を迎えた、暖かな日射しを思わせる癒やしの光……だが、その心地よさを味わう私達とは裏腹に、アンデッドの群れは命の輝きに悶え苦しんでいた!

 怨嗟にも似た、苦鳴の声をあげる死者の群れ!

 そして……。


「ギャアァァァァッ!」

 悲鳴をあげる骨夫!って、使った本人もダメージ受けてるじゃないですかっ!

 浄化され、徐々に崩れだしていく、アンデッドの群れと骨夫。

 やがて、そんな骨夫の頭蓋骨が地面に転がる頃……『尾万虎』が吐き出して使役していた、哀れな犠牲者達は跡形もなく消滅していた。


「ぜぇ、ぜぇ……み、見たか……これが、男の心意気よぉ……」

 頭だけになりながら、荒い息をついて骨夫は勝ち誇る。

 うん、過程はどうあれ、結果を見れば見事なものだ。私達は、素直に彼に向けて賞賛の言葉を送った。

「よーし、じゃあ女性陣はこの私の頭をお前達のおっぱいに挟んで……」

 調子に乗った発言をしようとした骨夫を、主人であるアルトが踏み潰す!

 短い付き合いではあるが、こういうところがダメな奴なんだな、骨夫は。


『グルルル……』

 事の成り行きを唖然として見ていた『尾万虎』だったが、下僕であるアンデッドの群れが浄化された事により、再び唸り声をあげた。

 ふん……だが、こちらは骨夫の極大級回復魔法の余波もあって、ほぼ全快に近い。

 邪魔な下僕がいなくなった以上、こちらが有利だからなっ!


 唸る神獣と、対峙する私達。

 一触即発の緊張感が、場の空気を支配していく。

 しかし……。


「んん?なーに、まだ生きてる虫がいるじゃない」


 どこからともなく響く、女性の声。

 だが、その声聞き覚えのあった私達(・・・・・・・・・・)は、否応なしにその出所へと顔を向けてしまう!

 そんな私達の視線の先、唐突に出現した転移口(ゲート)から姿を現したのは……。


「久しぶりの地上……そして、そこに巣食う虫達か……」

 転移口から出現し、そう呟いたのは目を見張るような絶世の美女!

 だが、それが当たり前かのように、平然と私達を見下すその姿、そしてこの声。

 間違いない……私達の前に現れたこの美女こそが、破壊神イコ・サイフレーム!


 突然、戦場に現れ、『尾万虎』の頭の上に降り立った、その美しくも傲慢な存在感に、私達はただ呆然と目を奪われていた。

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