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謀殺されてTS転生した魔王の息子が、勇者の師匠になる話  作者: 善信
第十三章 大陸中央の勇者達
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11 拳に宿る逆転の奇跡

「あはっ♥それじゃあ、見せてもらおっかな、ザコお姉ちゃんの本気をさぁ!」

 『戦乙女(ヴァルキュリア)装束(・フォーム)』を纏ったニーウが、一気に間合いを詰めてくる!

 基本的に、『戦乙女装束』が防具とはいえ、素手の私にとっては手甲で固めたニーウの拳は、巨大なハンマーの一撃に匹敵する凶器のような物だ!

 まともに食らえば、一発で致命傷ではあるが……ようは、受け止めなければいい(・・・・・・・・・・)


 私は迫るニーウの拳を、横から添えた右手で軌道をそらし、空いた頭部に掌打を打ち込む!

「っ!?」

 打ち込んだ拳の手応えの無さと、衝撃にバランスを崩しかけたニーウから、驚きの呼吸が漏れたのを感じた。

 しかし、即座に体勢を立て直した彼女から放たれる、振り向き様の右拳!

 だが、私はその一撃を冷静に上体を反らしてかわし、再び掬い上げるような掌打をニーウの顎に叩き込んだ!

「あうっ!」

 さらに、仰け反った所に追撃の前蹴りを打ち込み、それを受けてニーウは、数歩下がって軽く頭を振った。


 『戦乙女装束』と、使徒としての頑強さで、大したダメージは与えていないだろう。

 しかし、自らの動きが見切られている事が、ニーウの警戒心を呼び起こしたようだ。


「……ふ~ん、やるじゃない。ザコお姉ちゃんの割りにはさ」

 挑発のつもりなのかもしれないが、こちらの間合いを計りかねているのが見え見えである。

 だから私は、挑発を返すように再びクイクイと手招きをして、かかって来なさいとの意思を示した。


「ちょーしに乗らないでよねっ!」

 あっさりと挑発に乗ったニーウは、嵐のような猛攻で私に迫る!うーん、チョロいな。

 そんなニーウに対し、『エリクシア流魔闘術』で身体能力だけでなく感覚器官も高まっている私は、柳が風になびくようにスルスルと攻撃をいなしていった。


「ううぅ!当たれ、当たれ、当たれぇぇ!」

「『激流を制するのは静水』……どれだけ激しい攻撃をしても、それだけでは私には当たりませんよ」

 異世界の書物で武術の達人が言っていた、「逆らうのではなく、むしろ流れに身を任せる」というやつである。

「うううぅぅぅ……」

 攻撃が当たらないばかりか、時々カウンターをちょこちょこ入れているため、ニーウはどんどん焦れていっているようだ。

 ここまでは、計算通り。後は、狙っている大振りの攻撃が来れば……。


「んもぉぉぉ!」

 一際大きい叫び声と共に、渾身の一撃を、ニーウが放つ!

 それを待っていた!


 大振りの拳を上体でかわし、伸びきったその腕を捕らえる!

 そのまま、上顎になぞらえた左足を相手の延髄に引っかけ、噛み砕く下顎のごとき死角からの右膝蹴りで、敵の頭部を刈り取った!

「がっ!」

 ニーウの悲鳴が漏れる中、さらに捕らえた腕と肩を極めたまま体重をかけ、地面へと叩きつければ、断頭台さながらに首と極めた関節に深刻なダメージを与える!


 完全に狙い通りに決まった、異世界の古流武術!

 打撃と関節技の複合芸術と言っていいその技の完成度に、私は感慨を持って内心で呟く……虎の王(っていう名前だったと思う)、完了!

 

「ぐえ……あぐ……」

 私の下で、喘ぐニーウの呻き声が聞こえる。

 だが、 破壊神の使徒達の恐ろしさを知るだけに、このエリクシア、容赦はせん!

 もしも彼女が子供のままだったら、体格に差がありすぎて「虎の王」も極める事はできなかっただろうが、面白半分にアルトと交換したのが敗因だったな。

 そう頭の中で分析しながら、首を押さえたこの体勢のまま、腕をいただく!


 体重をかけてのけ反ると、ミシリとニーウの関節が軋んだ音を立てる。

 だが、次の瞬間!

 唐突にニーウの腕を掴む手の間に隙間が生じ、スルリと彼女の腕が逃げていく!

「っ!?」

「うあぁぁっ!」

 さらに、驚いている所にできたわずかな隙を突かれ、咆哮と同時に爆発した闘気に押された私の体は、ニーウから弾き飛ばされてしまった!


「くっ!」

 辛うじて着地し、何が起こったのかとニーウの方へ顔を向ける。

 するとそこには、『戦乙女(ヴァルキュリア)装束(・フォーム)』を解除し、元の体型に戻ったニーウが荒い息を吐いている姿があった。

 ……そうか、大人の体型から子供に戻す事で、「虎の王」から逃れたのか。

 あと、コンマ数秒遅かったら、肩と腕の関節を破壊できたのだけど、上手く逃げられてしまったな。


「うううぅぅぅ……ザコ、ザコ、ザコ!ザコのくせに、よくもニーウちゃんにこんな真似をぉ!!!!」

 なす術なく、地面に組伏せられたのがよほどの屈辱だったのか、ニーウは地団駄を踏みながら髪を振り乱して、呪いの言葉を吐き散らした!

「死ね死ね死ね死ね、みんな死ねぇ!クソザコのゴミムシの分際で、ニーウちゃんに逆らってんじゃないわよおぉぉぉっ!!!!」

 火山の噴火を思わせる闘気の爆発が、ビリビリと周辺の空気を震わせる!

 うーん、これはヤバい雰囲気……。

 危険を感じた私だが、この場から逃げるには……多分もう遅いだろう。

 幸い、ニーウが『交換』の能力を解いたため、私の手元に『ギア』と『バレット』は戻ってきている。

 これなら、なんとか……。


「あははははは!どいつもこいつも殺してあげるぅ!ニーウちゃんの全身全霊の一発で、死んじゃえぇ!」

 狂気に染まった笑い声をあげるニーウの闘気が、さらなる高まりを見せる。

 もはや、一刻の猶予もないが、あれに対抗するだけの魔力を練り上げるには、少し時間がかかりそうだし……。

 だが、ニーウと対峙しながら焦る私の前に、二つの影が立ちはだかった!

 元の体型に戻ったアルトと、腹痛から立ち直ったハミィである!


「アルトさん……元に戻れたんですね」

「うむ!完璧である!」

 豊かな胸を揺らしながら、堂々と宣言するアルト。

 しかし、その表情はすぐさま緊張の面持ちに変わった。


「ううむ……アレはヤバそうだの」

「ええ、少し時間を稼げれば……」

「ほぅ?お主のその物言いでは、何かあやつに対抗する手段があるのか?」

「まぁ、一応は……。ですが、向こうの必殺の方が早そうです」

「ふむ……ならば、奴の攻撃は妾とハミィで防いでくれよう。その隙に、お主は一発ぶちかましてやれぃ!」

 ……確かに、闘気の嵐の中にいる今のニーウには、魔法で対抗するよりも、物理攻撃でガツン!と決めた方が効くだろう。

 だけど……この二人が、あのニーウの攻撃を防ぐ事が可能なのだろうか?

「ふん、なめるでないわ!」

「勇者の嫁達の力、見せてあげましょう!」

 ここに来てそれかい!

 魔王の娘とか七輝竜だとかよりも、肩書きにエル少年の嫁を持ってくるあたり、どれだけ勇者(エル少年)が好きなんだ!?

 ……とは、思うものの、私だってルアンタを思い浮かべれば、力が沸いてくる!


「……そうですね。可愛いあの子達のためにも、生きて戻りましょう」

「フッ……当然じゃ」

 そんな私達の会話に、ハミィも頷いてみせる。

 覚悟を決めた私は、そんな二人に防御を任せ、ニーウを撃破する準備を始める。


「……変身!」


 『バレット』を起動させ、私は『戦乙女装束』に身を包む!

 さらに、『ポケット』から『特殊バレット』を取り出して、すかさず『ギア』にセットした!


女神へと至る(エボリューション)進化(・ゴッデス)!』


 最強の形態『女神装束ゴッデス・フォーム』を纏った私は、さらに装甲を右腕に集中させる『栄光を(グロリアス)掴む手(・ハンド)』モードへと移行する。

 そんな私を奇異の目で見るアルト達は置いといて、一撃で破壊神の使徒を倒すだけの魔力を込めるべく、丹田から魔力を絞り、練り上げていった!……のだが、んん?

 なんだろう……何か、いつもと感じが違うような……?

 微妙な違和感を感じながらも魔力を練っていると、やはりニーウの方が先に攻撃へと移行してきた!


「全部消し飛べえぇぇぇ!」

 目の前がホワイトアウトするほどの、まばゆい魔力と闘気の砲撃が視界を覆う!

 こんな、高密度かつ高出力の一発を食らえば、かなり高位の強さを持っていても、消し炭すら残らないだろう!

 しかし、眼前の二人は不敵な笑みを浮かべた!


虹の(アウロラ)魔法盾(イスクード)!」

 アルトの魔法が発動し、様々な属性の高位魔法で連なる色鮮やかなカーテンがニーウの魔法を減退させる!

 冗談みたいな魔法のセンスとコントロール……悔しいが、やはりアルトは私よりも魔法に関しては格上だ。


「暴食次元断!」

 さらにハミィの放った斬撃が、アルトの魔法で弱まったニーウの魔法を空間ごと両断する!

 恐らくは、斬撃に『暴食』の能力を上乗せし、『切断』と『吸収』を同時に行う技なのだろう。

 空間に飲み込まれ、抉られたような跡が残っているのが、その証拠だ。


 二人が見せた恐るべき奥の手のお陰で、ニーウまでの道が開けた!

 後は私の魔力を溜めに溜めた、この一撃をぶちこんでやるだけである!


「はあぁぁぁぁぁっ!」

 私は気合いの雄叫びと共に、背中の風魔法が仕込んである『バレット』を起動させ、ジェット噴射のような勢いでニーウに突っ込む!

 渾身の一撃を放った彼女は、いまだに体勢を立て直せていないようだ!

 防御するにしても、かわすにしても、ここからなら私の攻撃の方が早い!


「もらったあぁ!」

 だが、振りかぶった拳の先に、クスッと嗤うニーウの顔があった!

 その意味がわかったのは、突き出した私の拳が、ガツンといった音を立てて見えない障壁(・・・・・・)に止められた時だった!

 な、なにこれ!?


「キャハハハハッ!がっかりした?ねぇ、がっかりしたぁ♥」

 見えない壁の向こうで、ニーウが愉快そうに笑う声が響く!

「どれだけぶち切れてても、最後の防御だけは疎かにしないよぉ!」

 くっ……このメスガキゃ!

 まさか、こんな切り札を持っていたとは……。

 しかし、まだ『バレット』の推進力は生きている!

 このまま強引に押しきって、ニーウの奴めをわからせてやる!

 そんな事を思い、私は勢い任せでニーウの障壁を破ろうとした。

 だが、薄板一枚程度にしか思えない彼女の障壁は、信じられないほどの高度を持って、私の行く手を阻む!


「キャハハ、むだむだぁ!ニーウちゃんの障壁を壊したいなら、せめて神のオーラくらいは身につけないとねぇ!」

 か、神のオーラだと!?

 そんなもの身に付けてるのは、私達の中ではルアンタしかいない!

 んんんっ、まいりましたぞー!……なんて、弱音を吐いていても仕方がないわ!

 だったらもっと魔力を練り上げて、限界を超える!

 もしかすると、その歪みでこちらが逆にダメージを受けるかもしれないけど、アルトとハミィが開いてくれたこのチャンスを無駄にはできないっつーの!


 そう思って、さらに魔力を拳に込めた瞬間!

 突然、ビシッという音と共に、ニーウの障壁にヒビが入った!

「なっ!?」

「えっ!?」

 私とニーウは同時に声をあげる!

 こ、これは『神のオーラ』!? それが、私の拳にっ!?

 もしや、さっき感じた違和感の正体はこれなんだろうか!?


 何がなんだか、訳がわからない。

 しかし、ひとつわかっているのは……これで邪魔な障壁は砕けるということ!

 拳に込める魔力と共に、推進力になっている『バレット』にも魔力を供給してやる。

 これで、さらに突貫力は増すはずだ!


「うおぉぉぉぉっ!」

「い、いやあぁぁぁっ!」

 私の咆哮と、焦るニーウの悲鳴が重なり……ガラスの割れるような音を響かせて、砕け散った障壁を越えた私の一撃が、涙目になったニーウを撃ち貫いた!

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