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謀殺されてTS転生した魔王の息子が、勇者の師匠になる話  作者: 善信
第十三章 大陸中央の勇者達
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10 ニーウ、変身

 ニーウによる『交換(チェンジ)』の能力で、奪われた『ギア』の代わりに私の手に残されていたのは……ディフォルメ化された彼女のイラストが印された、謎のステッカーだった。

 なにこれ!?


「んふふ~、ニーウちゃんのファンアイテムと交換なんて、ついてるねぇ~。それって、ちょーレアだよ?」

 知るか、そんなの!

 って言うか、ニーウ視点の価値観で交換が可能っていうのが、滅茶苦茶すぎる!

 向こうが差し出す物に価値アリと判断したら、こんなガラクタと私の『ギア』が取り換えられてしまうなんて!

 本人にとっては宝でも、他人から見たらゴミって事はよくあるけれど、もうちょっと正当なレートを設定して欲しいものだわ!


「ふ~ん……これって、ダークエルフのお姉ちゃんのオモチャだよねぇ」

 手の中で『ギア』と『バレット』を玩びながら、何か思い付いたように、ニヤリと笑う。

「たしか……こうだっけ?」

 うろ覚えでニーウは、アルトから奪って成長した体に『ギア』を押し付けた。

 すると、自動で飛び出したベルトが、彼女の細い腰に巻き付かれる!

 って、まさか……!?


「へんしーん♥」


 ニーウが『バレット』を起動させ、『ギア』に挿し込むと同時に、目映い光が彼女を包んだ!

「あ……ああ……」

 閃光は一瞬で終わったが、魔法の眼鏡で光を遮りながらその光景を見ていた私の眼前には、思い付くかぎり最悪の展開が現実の物として佇んでいる。


 すなわち、『戦乙女(ヴァルキュリア)装束(・フォーム)』を纏った、ニーウの姿が。


「あはっ♥やってみると、結構おもしろいね、コレ」

 楽しげに微笑み、纏った『戦乙女装束』を確かめるように、体のあちこちを見回すニーウ。

 くっ……ニーウがアルトと体のスタイルを交換していなければ、ぶかぶかの情けない姿になって、もて余していただろうに……!

 私のスタイルに合わせてある、あのスーツを纏いながら動きに違和感が無いところを見ると、やはり私とアルトのボティラインは相当近いようだ。


「おい、エリクシア!奴の、あの姿はなんだ!?」

 ハミィに抱え込まれたロリアルトが、慌てて私に詰め寄ってくる。

 その姿はどちらかと言えばとても可愛らしく、危うく和んでしまいそうになった。

 ふぅ、デューナがこの場にいなくて良かったわ……。

 ともかく、私は『戦乙女装束』について、簡単ながらアルトとハミィに説明を施した。


「なんと……全身ミスリル製の、戦闘スーツじゃと!?」

「魔法の類いが通用しないとは……随分と厄介ですね」

 さすが魔法に長けたアルト達は、『戦乙女装束』の脅威をすぐ理解したようだ。

「ですが、なぜダークエルフである貴女が、あんな格闘戦用とも思える装備を?」

「うむ、そこは妾も気になるな」

 ん……まぁ、普通ならそう思うか。

 そもそも、エルフは魔力の高さだけなら、魔族よりも上な種族だもんね。


「私は、生まれてからすぐ一人でしたからね……生き抜くために、魔法よりも体を鍛える必要があったからです」

「むう……なにやら複雑そうだな」

 何かを色々と察したのか、アルトもハミィもそれ以上は掘り下げて来なかった。

 面倒な説明が省けて、私も助かる。


「……そろそろ、打ち合わせは終わった~?」

 こちらの会話が途切れたタイミングで、ニーウが口を挟んできた。

 話の切れ目を待っていたなら、あんがい律儀な奴だな。

「ニーウちゃんのぱーふぇくとぼでぃとか、ニーウちゃんのファンアイテムに比べると、無駄肉な体につまんないアイテムだけど……自分の力でやられるんだから、いい顔見せてよね♥」

 遊び気分でいたぶれる、獲物を見つけた猫のように、ニーウは愉快そうに小さく笑う。と、同時に放たれた矢のごとく、私達に向かって突っ込んできた!


 狙いは……ロリアルト!

 魔法使いであり、一撃で殺られそうな彼女を狙うのは、ある意味、定石かっ!

 しかし、それゆえに狙いを読んでいたハミィが、アルトとの間に入ってハミィと正面からぶつかった!


「せやっ!」

「きゃはっ♥」

 硬質化させた両手の手刀で、激しく斬りかかるハミィ!

 なんか、ヴェルチェに似てるな。

 それに対し、弾幕のような恐ろしいまでの手数で押していくニーウ!

 ロリ体型の時とは違い、成長した彼女の攻撃はリーチも威力も上昇している!


 斬撃と打撃が嵐のごとく荒れ狂い、大きくぶつかり合った二人の間合いがわずかに開いた!

 その一瞬の間に、ニーウは素手の間合いの外から、エネルギーの塊をハミィに向けて放つ!

 魔法ではない(『戦乙女装束』を装着してると、魔法は撃てないしね)、おそらく闘気の塊で出来た弾だ。

 だが、それを待っていたと言わんばかりに、ハミィは笑いうと能力を発動させた!


「『暴食』!」

 そう言い放った彼女に、まるで吸い込まれるようにニーウの闘気弾は消滅する!

 い、いったい何をしたんだ!?

 私だけでなく、ギョッとしたニーウに向かって、アルトの高笑いの声が響いた!

「フハハハ、さすがは元『七輝竜』の肉体よな!」

「へのつっぱりはいらんですよ!」

「言葉の意味はよくわからんが、とにかくハミィはあらゆる非物理的な攻撃を、吸収することができるのだ!」

 すごいな、それ!

 しかし……『七輝竜』?もしや、ハミィは人の姿になった竜なのだろうか?

 いや、それにしては戦い方が、剣士のソレっぽいし……?

 どうやら、あのハミィにも何らかの事情はあるようだ。なんなら、後で聞いてみよう。


「ふ~ん……ニーウちゃんの攻撃を食べちゃうなんて、びっくりだよぉ」

 仮面(マスク)の下で表情はわからないが、感心したとも呆れたとも取れる声色で、ニーウは呟く。

「そういう事です!あーしには、魔法や飛び道具は通用しませんよ!」

「へぇ……でも、気を付けないと、お腹壊すよぉ?」

 おそらく、小悪魔的な微笑みを浮かべたであろうニーウがそう言った瞬間、突然ハミィは吐血してガクリと膝をついた!


「なっ!」

「ハ、ハミィ!?」

 驚愕する、ハミィとアルト!

 そんな二人を見て、ニーウはケラケラと笑い声を響かせた。

「ばっかねぇ♥竜だかなんだか知らないけど、地上の虫ケラが神の加護を受けたニーウちゃんの闘気弾を吸収して、ただですむわけないじゃない♥」

 ただの闘気ではなく、ルアンタが身に付けた神のオーラに近いという事か。

 確かに、そんな物を吸収すれば、ただではすまなさそうだ。


 「ザーコ♥ザーコ♥」と囃し立てるニーウに対し、ハミィは「お腹いたい……」と(うずくま)ったままだ。

 だが、そんな彼女を救うべく、ニーウに向けて魔法を放つ者がいる!

 言わずと知れた、ロリアルトだ!


「はあぁぁっ!」

 無詠唱で放たれる彼女の魔法は、私が使う攻撃魔法の威力と遜色がない。

 それだけ、彼女の方が魔法の使い方が上手いという事なんだろう。

 むぅ、ちょっとくやしい!

 しかし、様々な属性の魔法をニーウに食らわせながらも、ミスリルの戦闘スーツに包まれた彼女にダメージを与える事はできなかった!


「ああ、もう!なんと、厄介な物を作るのかっ!」

 アルトが悪態をつく気持ちもわかる。いままで、私が相手をしてきた連中も、同じことを思っていたんだろうな……。

「おのれ、こうなれば……」

 苛立たし気に呟いたアルトの周囲に、四種類の魔法が形を成そうとしていくのが感じられた……って、それはヤバい!

 たぶん、彼女は属性の違う極大級の魔法(・・・・・・)を同時に放って、そのぶつかり合いから生じる破壊力をもって『戦乙女装束』ごとニーウを吹っ飛ばすつもりだ!


「落ち着きなさい、アルトさん!」

「にゃははははっ!」

 即座にアルトの背後に回った私は、彼女の脇の下に手を差し入れて、こちょこちょとくすぐる!

 笑いによって詠唱が中断され、展開していた魔法も霧散してしまった。

「な、何をするかぁ!」

「だから、落ち着いてください。この辺一帯を、消滅させるつもりですか!」

 今のアルトの魔法が完成していたら、ニーウはもちろん、私達まで余波に巻き込まれていてもおかしくない。

 いや、彼女ほどの魔法使いなら、何らかの手は持っていたかもな……しかし、確実に『戦乙女装束』は破壊されていたと思う。

 いかにミスリルとはいえ、物理的に発生する破壊力の前にはどうしようもないからな。


「ならば、どうするつもりか?」

「……私が止めます!」

 そんな私の一言を聞いて、ニーウが突然ふき出した!

「プーッ♥装備も無いお姉ちゃんに、何ができるっていうのよぉ♥」

 彼女が、(あざけ)るのもわかる。

 向こうは大人ボティで攻撃も防御もバッチリ、なのにこちらは素手だ。

 しかし、『エリクシア流魔闘術』を舐めてもらっては困る!

 私は魔力を練りあげ、体内に循環させて、身体能力を向上させた!

 そうして、クイクイとニーウに向かって手招きをして見せる。


「……さぁ、かかって来なさい、ニーウ。子供(メスガキ)の貴女に、大人げない大人の実力をわからせてあげましょう」

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