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謀殺されてTS転生した魔王の息子が、勇者の師匠になる話  作者: 善信
第十三章 大陸中央の勇者達
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09 ニーウの能力

           ◆◆◆


「さぁ~て、さてぇ。前にやったときはちょぉ~っとニーウちゃんが油断してたから、ザコいお姉ちゃんがちょーしにのっちゃったけどぉ、今日はきっちりじつりょくの差を思い知らせちゃうよぉ♥」

 クルクルと踊るように回りながら、ニーウが私達に無邪気な笑顔を向ける。

 まぁ、言ってることは敵意丸出しだし、その目には隠しきれない殺気が漂っているから、見た目通りには受け取れないけど。


「なんじゃ、お主はあの小娘と因縁があるのか?」

「まぁ……どちらかといえば、逆恨みのような物ですが」

「ふむ……一方的に絡まれるのも厄介よな。なんにせよ、さっさと倒してエルの加勢に行かなくてはな」

「私の弟子……ルアンタが一緒だったようなので、きっと大丈夫でしょう」

 彼女(アルト)には話していないが、ルアンタは神のオーラを宿しているのだ。

 今の彼なら、たとえ破壊神の使徒が相手でも、いい勝負ができるだろう。

 そんな訳で、心配するなという意味を込めたのだが……アルトは微妙に表情を歪ませる。


「逆である。ルアンタ少年を庇う、エルの負担を心配しておったのだ」

「あ?」

 その物言いでは、まるでルアンタが足手まといみたいじゃないのかな?

「安心してください、私が鍛えあげたルアンタなら、きっと無事にエル君も(・・・・・・・)守ってあげていますよ(・・・・・・・・・・)

「あ?」

 やや、強めの口調で返した私の言葉に、今度はアルトが威嚇的な声を漏らした。


「面白い事を言うのぅ。それではまるで、妾のエルがお主の弟子より弱いようではないか」

「弱いとは言いませんよ。ただ、私のルアンタの方が、貴女の旦那様よりも強いと思いますが」

 私とアルトは正面から睨み合い、至近距離で視線の火花を散らす!

 一瞬たりとも目線を反らさず、ぎゅうぎゅうと胸を押し付け合いながら、互いに一歩も引こうとはしなかった。


「二人とも、敵の目の前でいい加減にしてください」

 一緒に飛ばされてきたギャル……たしか、ハミィといったか?が、私達の間に割って入ってくる。

「いつまでもそんな事で揉めていると、後で二人とも怒られますよ?」

 む……一理ある。

「ちなみに、あーしも主様に一票!なので、エル様の勝ちという事でよろしいですね」

 しまった!? 二対一の状況に持ち込まれ、強引に決められてしまった!

 なんとかルアンタに味方を……そんな事を思いながら、チラリとニーウに目をやると、「変なのに巻き込まないでほしいんですけど!」と返されてしまった。

 ちぃっ!所詮は敵か!


「っていうか、ニーウちゃんを無視して、ワケわかんない事で盛り上がってんじゃないわよ」

 蚊帳の外に置かれた事がだいぶ気に入らなかったのか、さっきまでのニヤけ顔は鳴りを潜め、ニーウは冷たい表情でこちらを眺めている。

「第一さぁ、男の子なんてつまんない物にそーんなに入れ込むなんて、お姉ちゃん達、恥ずかしくないのぉ?」

 口調だけは小馬鹿にしたような物に戻った少女は、ニィ……と口の端を歪めながら、(あざけ)りの言葉を口にした。

 しかし、そんな彼女に向かって、私達はやれやれといった感じで、肩をすくめる。


「やれやれ、わかっておらんのぅ、小娘。愛する人がいるという、喜びと充実感を」

「心に愛が無ければ、英雄じゃないのさという言葉もあるくらい、愛は大切な物ですよ」

「所詮は、人生経験の浅い幼女……といった所でしょうか」

 急に意見を統一して鼻で笑う私達に、カチンときたのだろう。

 ニーウは嘲笑いながら、私達を見下すような事を言う。


「ふ~ん。でも、お姉ちゃん達が言って彼氏達だってさぁ、ニーウちゃんがちょっと挑発してあげたら、『わからせてやるー!』とか言って、目の色変えて押し倒しに来るに決まってるじゃん」

 くっだらない!と笑うニーウだが……私達の間に衝撃が走った。

 え、もしかしてこの娘、虐待とかにあってないよね?

 なんだか、すごく心配になってきたので、それとなく尋ねてみる。

 すると、「ニーウちゃんを変な目で見る奴等は、みんなこうしてやったわぁ」と、何かを鷲掴みにしてから握り潰すようなジェスチャーを見せた。

 その仕草に、なぜか男だった頃(前世)の記憶が刺激され、ヒュッと血の気が一瞬引いた。

 でも、よかった……虐待をされた娘はいなかったんだな……コンプライアンスは守られたわ。


「まぁ……なんにせよ、うちのルアンタなら、貴女に挑発されても、『わからせてやる』なんて事にはなりませんけどね」

「それは、うちのエルも同じだな」

 ニーウみたいな少女に誘惑された所で、私達の勇者が(なび)くはずもないと、絶対の自信を持って言える。


「……ふぅん、そんな自信があるなら、いっぺん試してみようかなぁ。それでぇ、お姉ちゃん達の目の前で、ニーウちゃんに夢中になる勇者くん達を見せつけるのも、面白いかも♥」

 少女は邪悪な笑みを浮かべるが、そんな彼女を私達は笑い声で一蹴した。

「フハハ!お主のような幼児体型に、エルが興味を引かれるはずがなかろう!」

「ルアンタも同じく……精々、背伸びしちゃダメだよと、優しく諭されるくらいでしょう」

「な、なによう!なんで、そんな事が言えるわけぇ!?」

「そりゃ、これよ」

 そう言うと、アルトは自分の豊かな胸を強調してみせた。


「エルは、大きいのが好きなのでな。お主の平野のような平たい胸では、毛ほども欲情せんわ」

「九割の男の子は、大きい方が好きと言いますからね……まぁ、小さい方が好きという人も否定はしませんが、うちの子達は断然『巨乳派』です」

 私も、ニーウの心を折るべく、さりげなく胸を押し出してみせる。

 私達ほどではないが、それなりに大きいハミィに至っては、完全に見せつけるように揺らしながら、勝ち誇った顔で破壊神の使徒を見ていた。


「……ムカつくぅ。あったま悪そうなおっぱい自慢なんかして、それで勝ったつもりぃ?」

 まぁ、直接的な勝敗には関係ないが、スタイルの良さを比べれば、女として勝った気はするかな。

 そんな態度が見てとれる私達に、ニーウはイラついたようだが、不意に悪戯を思い付いた子供ならではの笑みを浮かべた。

「そっかぁ、そんなにそのスタイルが自慢なら……」

 私達を見据え、楽しそうに呟くニーウの瞳に、怪しい光が宿る。

交換(・・)しよ♥」


 そう彼女が言った瞬間、ニーウの体から放たれた一筋の光が、アルトの体に直撃した!

 あまりの早さと唐突な攻撃に、私達はろくな反応もできなかった。だが、まったく備えていなかった訳ではない!

 こんな事もあろうかと、ちゃんと自らに防御の魔法をかけて……。

 そう思っていた私の目の前で、ニーウからの攻撃を受けたアルトが、苦しげな呻き声を漏らした!


「あ……あぐぅぅ、うあぁぁ……!」

 体を丸め、苦しみに耐えるアルトだったが、彼女の肉体が私達の目の前で異様な変化をしていく!

 手足が縮み、艶やかな長い髪はみるみる短くなり、豊かだった胸は失われ、身長もメキメキと軋みながら、低くなった。って、これは……。


「うあぁ……ハァハァ……」

 ようやく異変が収まり、アルトが荒い息をついてへたり込んだ。

 しかし、その姿は先程とは似ても似つかない……まるで、若返ったかのように十代前半の少女(・・・・・・・)の物へと変貌を遂げていた!

「な、なんなのだ、これは……!?」

 自らの身に起きた変化に、アルトは戸惑いの言葉を漏らす。

 そして、それは同じく私達の感想でもあった。


「んふふ♥どーかしら、ご自慢のスタイルを失った気分は?」

 この異常を引き起こした張本人、ニーウが煽るように声をかけてくるが、そんな彼女に目を向けた私達は、またも言葉を失った!

 視線の先に居たのは、生意気そうな幼女などではなく、妖艶に佇む抜群のスタイルとなった、破壊神の使徒の姿だったからだ!


「な……」

「驚いたぁ?これが、ニーウちゃんがイコ・サイフレーム様から戴いた加護……『交換(チェンジ)』よぉ♥」

 神の……加護!

 しかし、その能力とは……?

「ニーウちゃんの価値観でぇ、対等……もしくはニーウちゃんが上だなって思える物を交換できるのが、この加護なのぉ」

 つまり……ニーウは自らの幼児体型と、アルトのスタイルを交換したと言うのか!?

 そ、そんなめちゃくちゃな能力って有りなのっ!?


「駄肉まみれの体と、ニーウちゃんのぱーふぇくとぼでぃなら、価値の差は歴然だもんね。感謝していいよぉ♥」

 憎らしげに睨み付けるアルトの前で、ニーウは奪ったボティバランスに慣れるためか、虚空に向かって突きや蹴りを放ってみせる。

 その際、「おもーい」とか「じゃまー」とか言って、揺れる胸や尻を揶揄する事も忘れない。


「貴様!そんなに不便なら、妾のスタイルを返せ!」

「やーだよー。こうやって、ニーウちゃんと戦うって奴から、武器を奪って悔しがらせるのも、楽しみのひとつだもんねー♥」

 むぅ……まさにクソガキ。いや、メスガキといった所か。

 小憎たらしく挑発してくるニーウに対して、怒り心頭のアルトではあるが、この様子では戦えるかどうかもわからないな。

 ここは私が、一気に決めるしかないか!

 ニーウの注意が、怒れるアルトに向けられている隙に、私はソッと『ギア』を装着しようとした。

 だが!


「それを待ってたよぉ♥」

 アルトに気を引かれていまハズのニーウが、ぐるんとこちらに顔を向ける!

 それと同時に、例の光が私に向けて放たれた!

「しまっ……」

 不覚の言葉も言い終わらないうちに、光は収まり……私の手の中から『ギア』と『バレット』が失われる!

 その行く先は……。

「面白いオモチャだよねぇ、ダークエルフのお姉ちゃん♥」

 まんまと私の切り札を奪い取ったニーウが、手の中の『ギア』を玩びながら、私にニヤニヤとしと笑みを向けていた。

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