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謀殺されてTS転生した魔王の息子が、勇者の師匠になる話  作者: 善信
第一章 打倒、オーガ山賊団
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10 アイツが、あいつだったとは

「オラァ!!」

 獣のような咆哮と共に、デューナの剣撃が襲いかかってくる!

 しかし、『戦乙女(ヴァルキュリア)装束(・フォーム)』を纏った私は避ける一方だった変身前と違い、その一撃一撃を受け止め、弾き、叩き落としていく!

 それと同時に、体勢を崩したデューナへと確実に反撃を打ち込んでいった!

 暴風のようなデューナの攻めと、稲妻のような私の反撃は、火花を散らせながら繰り返される!


 スーツのお陰で、攻撃の際の反動をほとんど受けなくなった私は、百パーセントの力で打撃を打つ事ができ、多彩なカウンターでジワジワとデューナの体力を削っていく。……削っているはずなんだけど。


「フハハハッ!もっとだ、もっと楽しもうよぉ!」

 戦闘狂に相応しい、狂気を帯びた笑顔のまま、デューナはまったく引こうとしなかった。

 どれだけ殴っても殴っても、オーガの持つ回復力さえ強化されているのか、衰える様子がさっぱり見えない。

 ええい、なんて厄介な!

 こうなれば、チマチマ反撃するより、必殺の一撃で行動不能に陥れるしかない!


 私は、スーツにも装着されている収納魔法ポケットから、もう一本『バレット』を取り出し、スイッチを押した!


爆発(エクスプロード)


 音声が鳴り、準備ができたそれを、もうひとつの空いている挿し込み口へと装填する!

 そんな私のアクションに、デューナの瞳にわずかな警戒の色が見えた。

 おそらく、『バレット』を使えば詠唱無しのノータイムで魔法が使用できるのと、『爆発』の音声で強力な魔法が発動する事を悟ったのだろう。


 しかし、デューナはさらに距離を詰めてきた!

「こんだけ近けりゃ、魔法は使えないだろうが!」

 そう、威力の強い大規模な魔法であればあるほど、自分が巻き込まれないために、ある程度の距離を置く必要がある。

 百戦錬磨のデューナは、それを知っているからこそ、私との距離を詰めてきたのだろう。

 しかし、それが命取りだ!


 私はデューナの斬撃を弾き返し、打撃を放つためのわずかな距離を確保する。

 そして、『ギア』を起動した!


 『バレット』から『ギア』に注がれた魔力が、光のラインとなって私の右の手甲へと流れてくる!

 その魔力の乗った右拳を、眼前のデューナ目掛けて叩き込んだ!


爆発する(エクスプロージョン)我が拳(ナックル)!」


 必殺技の名を叫ぶのと同時に、デューナに打ち込まれた私の拳から、巨大な爆発が巻き起こった!

 耳をつんざく爆発音の中、確実な手応えと、オーガの超戦士が悲鳴をあげるのを聞く!


 ……もうもうと沸き上がった爆煙が晴れた時、焦げて倒れるデューナと、無傷で立ち尽くす私の姿が現れ、回りから歓声が上がった!

 私がルアンタに手を振って答えていると、足元で倒れているデューナが、呻くようにか細く声を漏らした。

「な……んで、アン……タは……」

 平気なんだ?と聞きたいのだろうが、まだ意識があるなんて……本当にタフだなぁ。


「『ギア』を経由した魔法は、私の手甲や脚甲へと収束されて、打撃と共に撃ち出す事ができます。そのため、魔法に一定の指向性を持たせる事ができ、威力を上げつつ、反動を抑える事ができるのですよ」

 ついでに言えば、『戦乙女装束』に編み込まれたミスリル糸が、スーツ表面で魔法を弾くので、私の体への影響やダメージはほとんど無いのである。

 異世界の知識と発想、引きこもり気味だった前世から研鑽した技術、そして冒険者からぶん盗った素材をもって作られた、『戦乙女装束』は伊達ではないのだ!


「訳が……わからん……」

 そう言い残して、今度こそオーガの女王は意識を失う。

 それを確認して、私も『ギア』を腰から外して変身……武装を解除した。


            ◆


「…………ん」

「あ!先生、デューナさんが目を覚ましました!」

 ルアンタの声にそちらを向けば、傷ひとつ無いデューナ(・・・・・・・・・・)が上体を起こす所だった。

 決着がついた後、興奮するルアンタやオーガ達を宥めて、彼女に聞きたい事があった私は、デューナを回復させようとした。

 だが、考えようによってはちょうど良い機会。なので、ルアンタに回復魔法で彼女を治すよう促したのである。

 ルアンタも焦げたデューナを心配していたし、回復魔法の訓練にもなるから一石二鳥というものだろう。


「アタシは……いったい?」

「ルアンタの回復魔法の、練習台にさせてもらいましたよ」

「痛む所は無いですか?」

「ああ……すっかり、全快したみたいだよ」

 尋ねるルアンタに笑顔を向けて、お礼を言いながらデューナは彼の頭を撫でる。


「おかしらぁ!無事で良かったあぁ!」

「おいおい、あんだいアンタら!」

 意識を取り戻したデューナに気付いたハイ・オーガ達も、彼女の回りに集まってきた。

 やはり、人望はあるみたいだなぁ。


「彼らにも、礼を言うといいですよ。何せ、貴女の命乞いを必死にやってくれたのですから」

「何?オマエら……」

 少し感激した風なデューナに、オーガ達は「エヘヘ……」と、照れ笑いをして見せる。

 決して可愛くはない(むしろ怖い)が、私とルアンタのように、彼等の絆の深さが感じられる光景だ。


「へへっ……だって、おかしらのバキバキに割れた腹筋が失われるなんて、世界の損失じゃないですか」

「そうっすよ!俺だっておかしらの、でっかいおっぱいに顔を埋めるまで、死なせる訳にはいかんですって!」

「俺は、おかしらのぶっとい太ももに挟まれたい」

 どいつもこいつも、私欲かよ!

 しかも全員が澄んだ瞳で、心の底から言っているからタチが悪い。


「よーし!お前ら全員、張っ倒す」

 言うが早いか、デューナは手近なオーガにビンタをかます!

「ありがとうございます!」

 そして張られたオーガは、なぜかお礼を言いながら床に転がった。

「つ、次は俺で!」

「ばか野郎、順番は守れ!」

 並ぶな、並ぶな!

 行列を作ってデューナのビンタ待ちをするオーガに、私は内心でツッコまざるを得ない。


「……これも、オーガ特有の文化なんでしょうか?」

 目の前の狂った宴に困惑するルアンタが、ポツリと呟いた。

 うん、君のような純粋な子と、変態(オーガ)達では文化が違うのよ。

「目の毒ですから、終わるまであっちに行っていましょう」

「はい……」

 背後から響くビンタの音と、オーガ達の悶える声を尻目に、私はルアンタを連れてしばらく外で過ごす事にした。


            ◆


「……そろそろ、ボンバイエ祭りは終わりましたか?」

「勝手に変な名称を、付けるんじゃないよ」

 異世界で、とある格闘家がビンタをすると回りが喜ぶ現象があるという、故事に因んだ名称だったけれど、彼女は気に入らなかったようだ。

 それはさておき、砦の中に戻った私達の視界に入ったのは、デューナの手形を頬に付け、恍惚とした表情で倒れているオーガ達の姿だった。

 マジもんだな、こいつらは。


「まぁ、他人の性癖にとやかく言うのはやめておきましょう。それより、改めて聞きたい事があります」

「あん?」

「貴女と戦う前にチラリと聞いた、異なる世界の知識を持つ者について、です」

「あー、確かにそんな事、言ったね。でも、そんなに熱心に聞く事かい?」

「ええ、私に大変興味深い話です」

「ふうん……」

 変わり者を見るような目で私を見ながら、デューナはふぅ……と、ため息をひとつ吐いた。


「まぁ、信じられるかは知らな(・・・・・・・・・・)いが(・・)、聞きたいなら聞かせてあげるよ」

 なんだか含みを持たせるような事を言いながら、デューナは私を別室へ誘う。

 この場で話さない……という事は、ひょっとすると聞かれてはマズい話なのだろうか?

 私はひとまず、ルアンタにオーガ達へ回復魔法をかけて、練習しておきなさいと指示を出し、デューナの後に着いて別室へと移動した。


「まぁ、座んな」

 そう言って、デューナが椅子を勧める。

 ここは、おそらく彼女の寝室なのだろう。

 オーガが寝転がっても十分な余裕がある巨大ベッドに、飾り気の無い頑丈そうなテーブルの上には飲みかけの酒瓶、それに椅子が数脚あるだけといった、非常にシンプルな部屋だ。

 私は彼女の勧めに従って、テーブルを挟んだ対面の椅子に腰を降ろした。


「さーて、どっから話したものか……」

 喉を潤すためか、強そうな酒をコップに注ぎながら、デューナは思案している。

「その人物について、知っている事を話してもらえば結構です。何か気になる事があれば、こちらから質問しますので」

 説明が苦手そうな彼女にそう促すと、私へも酒の入ったコップを渡しながら、デューナは語り始めた。


「ここと違う世界に、強い興味を抱いていた奴……それは、かつて魔界を統一していた魔王の次男で、オルブルっていう奴だ」

「ブフウッ!!!!」

「うわっ、汚ないねぇ!」

 唐突にデューナの口から飛び出した前世の私(オルブル)の名に、口に含んだ酒が飛び出す!

 な、なんで彼女が、その名を知ってるんだ!?

 前世で会った記憶は、ないんだが!?


「す、すみません。と、ところで、そのオルブルさん……とは、どういうお知り合いですか?」

 少し咳き込みながらも口元を拭き、デューナに問いかける。

「知り合いっていうか……まぁ、殺し合った間柄かな?」

 こ、殺し合った?

 ますます分からない……自慢ではないが、私は前世で荒事はおろか、公務以外で人と会う事は極端に少なかったのだ。

 デューナのようなハイ・オーガと会っていれば、忘れられるハズがない。


「ず、随分と物騒な知り合いみたいですが、なぜそんな事に?」

「あー……うん……」

 ここで、彼女はちょっと腕組みして天井を仰いだ。

 なんだろう、話づらい事なのかな?


「まぁ、どうせ信じないだろうけど、アタシは前世(・・)ってやつで、そいつの兄貴だったのさ」

「ブブフウッ!!!!!!」

「だから、汚ねえっての!」

 デューナからの予想外の答えに、再び私は噴き出した!

 ぜ、前世で私の兄貴!?という事は……。


「ま、まさか貴女、ボウンズール(・・・・・・)なんですかっ(・・・・・・)!?」

「っ!? な、なんでそれを!?」

 私の問いに、デューナはギョッとした顔になった!

 ま、まさか本当にそうなのか?

 いったい、何がどうなっているんだ……。

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