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謀殺されてTS転生した魔王の息子が、勇者の師匠になる話  作者: 善信
第十三章 大陸中央の勇者達
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07 獅子奮迅

           ◆◆◆


「お前らが勇者の称号を持つ者である以上、私は一切の油断はしない……初めから全力でいかせてもらおう」

 そう宣言すると、ラサンスの肉体が一気に変化していく!

 筋肉は膨れ上がり、爪よ牙が鋭さを増し、そしてザワザワと伸びた髪の毛が黄金の鬣となっていった。

「あれは……」

「獅子の獣人……」

 僕とエル君の呟きに答えるように、目の前の獅子は小さく喉を鳴らして唸り声を漏らす。


『フフフ……私がこの姿になった以上、生きて帰れると思わないことだ』

 だけど、そんな絶対の自信が溢れるラサンスの態度に、僕とエル君は小さく鼻で笑った。

「油断しないと宣言しておきながら、自分が勝つと思っている辺り、すでに僕らを侮っているよね」 

「確かに僕達はまだ若いけど、多くの修羅場を潜り抜けた経験は伊達じゃないぞ!」

 落ち着き払う僕達を前に、ラサンスもわずかに警戒を強めたようで、こちらの出方をうかがうように目を細める。


 でも……僕は、エリクシア先生に絶対の信頼を置いてるから大丈夫だけど、エル君は奥さんであるアルトさんの安否が、不安じゃないんだろうか?

「エル君……アルトさんの方は……」

「それは大丈夫。あの女性(ひと)は、僕が行くまで何がなんでも生き延びてくれるからね!」

 すごい……なんて信頼関係だろう。


 どちらかといえば、先生から心配されてしまう側の僕と違って、きっとアルトさんの方もエル君を信頼しているんだろうな……。

 僕も先生と、お互いに離れてても無事を確信し合えるくらい、以心伝心の関係になりたいと、二人を見ていて思う。

「とにかく、早く二人を助けに行くためにも、目の前の獅子を退治するとしよう!」

 エル君の言葉に、僕も強く頷いて同意する。

 さて、どう攻めるか……。


「ルアンタ君……僕は機動力には自信があるから、奴の足を止めて牽制する。君は、その隙を突いて攻撃してほしいんだ」

「!?……僕も、同じような事を考えてたよ」

 『神のオーラ』を身に付けた僕の攻撃は、破壊神の加護を受けているラサンスにも、かなりのダメージを与えられるだろう。

 だから、エル君に奴の注意を引いてもらおうと思ったんだけど……でも、なんで僕が神のオーラ(そんな力)を持っている事に気づいたのかな?


「ん~、何となくかな?ルアンタ君が攻撃に専念して方が、奴を倒しやすい気がしたんだ」

 勘……か。

 そういえば、エル君は代々『勇者』の家系だって言ってたっけ。

 血筋や戦闘経験の多さが、僕の内にあった力を見抜いたのかもしれない。


「すごいな、エル君は……。僕なんかが、同じ勇者を名乗るのが、ちょっと恥ずかしくなるよ」

「そ、そんな事はないよ!ルアンタ君だって、個人で辿り着ける領域を遥かに越えた力を持ってるし……」

「いや、僕なんかまだまだだよ。それに、あんな美人なお姫様をお嫁さんにしたり、ほ……他にも側室とか迎えてるなんて……やっぱり、すごいよ」

「た、たまたま、そういう事になっちゃっただけだって!それに、ルアンタ君だって、あんな綺麗なダークエルフの女性や、ドワーフの姫様を恋人にしてるじゃないか」

「うーん……まだ、堂々と名乗れるほど、先生と対等に付き合えてる気はしないし……」

「それはまぁ……僕だって、アルトさんの方が歳上だから、対等っていうよら、可愛がられる感じの方が多いかな」

「そうだよね、僕もそんな感じで扱われる事が多いよ」

 僕達としては、ちゃんと一人前の男として彼女達とお付き合いしたいんだけどね……。

 好きな女性に対し、同じような悩みを持っていた僕達は、互いに顔を見合わせて笑い合う。


『……お前ら、なんの話で盛り上がっているのかな?』

 完全に蚊帳の外に置きっぱなしにしていたラサンスから声をかけられて、僕達はハッ!とする!

 そうだ、今はあいつの相手をするのが、最優先課題だった!

 ……でも、目の前のラサンスをさっさと倒して、先生達を颯爽と助けに行けたら、「素敵♥好き♥」って先生達もなったりしないかな?……いや、なるに違いない!

 エル君も同じ考えに至ったのか、再び顔を見合わせた僕達は、気合いの雄叫びをあげた!

『な、何だ!? 今度は、急にやる気を見せて!?』

 こちらのテンションの上下に着いてこれないのか、ラサンスは戸惑いながらも、戦闘体勢をとった!


「作戦通り、まずは僕が行く!」

 エル君が剣を抜き放ち、駆け出しながら間合いを詰めていく!

『ふん……』

 ラサンスはそんなエル君を引き付けてから、必殺の拳を振るった!

 だけど、エル君はそれをひらりとかわすと、軽やかに宙へと逃れる。

 だが!


『馬鹿め!空中では避けられまい!』

 跳んでさける事を予想していたラサンスは、上を取ったエル君めがけて一撃を放つ!

 しかし、その時!

 エル君の剣から闘気が噴き出し、その剣に乗った(・・・・・)エル君は、またも致命の攻撃を回避した!

 っていうか、なにあれ格好いい!


「僕の空中殺法(エリアルスタイル)、その身で受けてみろ!」

 文字通り、空中を滑るように滑走するエル君は、そこから隼を思わせる素早い動きで、縦横無尽にラサンスへ斬りつける!

 自由自在で、不思議なエル君の攻撃……っと、見とれてる場合じゃない!

 その奇抜さと手数の多さに圧倒されたけど、僕は僕の役割を果たさなきゃ!


「変身!」

 『ギア』と『バレット』を起動させた僕は、『勇者装束ブレイブ・フォーム』を身に纏う!

「なにそれ、格好いい!」

 変身した僕の姿に、エル君はギョッとしながらも目を輝かせて、驚きの声を漏らす。

 でも、気持ちはわかるよ。僕も、先生の変身を初めて見た時は、同じような感想を持ったからね。


「行くぞ、ラサンス!」

 僕は魔力を練って身体能力を増幅させると、『爆発エクスプロード』の『バレット』をセットしながら、ラサンスへ向かって突っ込んだ!

『こけおどしが……』

 エル君の攻撃に注意を割きながらも、ラサンスは守りの姿勢を取る。

 僕の攻撃をガードしてから、反撃を加えるつもりなんだろうけど……甘い!

 爆発魔法を込めた『バレット』を使用した、必殺の『爆発する(エクスプロージョン)我が拳(・ナックル)』が炸裂し、ガードごとラサンスを吹っ飛ばす!


『っ!』

 爆発の煙で尾を引きながら、吹き飛ばされたラサンスは空中で旋回し、辛うじて着地した。

 受けたダメージを確かめ、そうして大きく息を吐き出すと、パンパンと埃を払う仕草をする。

『なるほど、なかなかの物だ。お前達に加えて、他の仲間達の力があれば、今までの使徒達が敗れたのも偶然ではないだろう』

 むっ……僕達の攻撃を受けていたのに、あまりダメージを受けていない?


『だが、私がイコ・サイフレーム様から授かった能力……『超回復』の前では、すべてが無意味だ』

 そう言ったラサンスの体に受けていた傷が、まるで手品のようにみるみる修復されていく!

 まばたきの間に、エル君からの斬撃の傷も、僕からの爆発のダメージも消しさったラサンスは、驚愕する僕達に余裕の笑みを向けてきた。


『驚いているお前達に、さらなる絶望を与えてやろう』

 言いながら、奴は両手を広げて奇妙な構えを取る。

『普段、私は自らをも崩壊させるほどの力を封じている。それを解放すれば、普通は自滅するだけ……しかし、『超回復』で癒し続ければ、私は常に百パーセントの力で戦う事ができるのだ!』

 そう告げたラサンスの肉体がさらに盛り上がり、放たれる闘気は嵐のように僕達へ叩きつけられた!

 くっ……なんてプレッシャーだ!


『……この力を解放した私に、お前達の攻撃は通用しない。諦めて首を差し出せば、痛み無くトドメを刺してやるぞ?』

「ふざけるな!」

 安楽な死を勧めるラサンスに、エル君と僕は同時に動いた!

 空中からの斬撃と、それに合わせた僕の攻撃は確実に奴を捉える!

 しかし、力を解き放ったラサンスの肉体や鬣に拒まれ、僕達の攻撃はわずかに皮膚を傷つけただけに終わってしまった。

 しかも、その傷ですら一瞬で修復されてしまう!

 な、なんて奴だ……。

 先生が以前に言っていた、シンプルな能力こそ強い……とはこの事か!


『フフフ、お前達が戦士職である以上、魔法によるサポートがなければ地力で勝負する事になる。そして、神の使徒である私とお前達とでは、その差は歴然としていると言えるだろう』

 元より、獣人と人間の間にはどうしたって越えられない能力の差がある。

 それがさらに強化されているのだから、ラサンスが勝ち誇るのも無理はない。


『自ら死を受け入れぬというのであれば、仕方ない。礼儀として、全力で行かせてもらうぞ!』

 まさに、兎を狩るにも全力を使う獅子の迫力を持って、ラサンスは僕達へ突進してきた!

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