04 各々のステージで
ゲェーッ!
あ、あれは、私達が最初に戦った破壊神の使徒ニーウ、そして奴を助けたラサンスじゃないか!
なんか、追い付いたぞとか言ってたし、もしかして私達をずっと狙ってたのだろうか!?
「チッ!もう、追い付いてきおったか!」
知った顔の存在に驚いていると、アルトが忌々しそうに吐き捨てるのが聞こえた。
え?もしかして、貴女達があいつらと揉めてたの?
「んん?やはりお主らも、奴等となにか関係があったのか?」
「関係……というか、敵ではありますね」
「ほぅ……なら、妾達と同じだな」
まぁ、破壊神の使徒に追われてる時点で、そんな事だろうとは思った。
しかし、四人なんて大人数の使徒に追われるなんて、いったい……。
私の疑問が、顔に出ていたのだろう。それを見たアルトが不敵な笑みを浮かべる。
「なぁに、以前に奴等が狙っていたという、『千頭竜』を倒してしまっただけよ!」
「なっ!?」
あ、あの破壊神の眷族で、世界を滅ぼすために使徒連中が復活させようとしている、『千頭竜』を!?
「まぁ、あらゆる勢力の力を集結した結果……ではあるがな」
ちょっと謙遜したようにアルトは言うが、それでもすごい快挙だ。
彼女達が、破壊神の使徒に狙われるのも納得だわ。
「まぁ、そんな訳で平和にエルとイチャイチャしながら暮らしておった所に、あの破壊神めの声が届いてのぅ……なら、もう一匹もぶっ倒してやろうと、妾達は旅をしておったのだ」
「なるほど、その道中で破壊神の使徒と揉めた……という事ですね」
「うむ、三人ほど倒してやったわ!だが、一人づつならともかく、さすがにああして群れてこられてはな……」
確かに、一人でもかなり厄介な相手だというのに、四人もいたら私達だって逃げ一手だろう。
それにしても、『千頭竜』だけでなく破壊神の使徒を撃破していたとは、やはりアルト達はただ者ではなかったな。
私達がいた地域よりも広大な大陸で、魔王だの勇者だのの関係者を名乗るだけの事はあるわ。
「……どうです?ここは、共闘といきませんか?」
「なに?」
「私達も、破壊神の使徒とは何度かやりあっています。それに今の見方を変えれば、奴等を一気に滅ぼすチャンスじゃないですか」
それぞれの単独パーティだけだったら、使徒が四人もいるこの状況は完全に不利だったかもしれないけど、数の有利が働く今ならいける!
私がそう提案すると、アルトは「フハハ!」と豪気に笑った。
「なかなか、強気の提案よのぅ。じゃが、的を得ておるわ!」
「そうですね、二つのパーティで二体づつなら、勝率は上がりそうだ」
向こうのショタこと、エルも賛同してくれた。
それを見て、私がルアンタに目線を送ると、彼も大きく頷いてみせる。
よぉし、決まりだ!
辺境の勇者チームと、中央の勇者チーム、ここに共同戦線を張るとしよう!
「……もう、逃げる事は諦めたようですね」
「小虫どもが……手こずらせやがって」
初見の使徒達が、ジロリとこちらを睨み付ける。
「ザコなんだけどさぁ……あんまり舐めない方がいいと思うんだよね、ニーウちゃん的には」
「フッ……確かに、お前は初の顔合わせで、不覚を取りそうになっていたからな」
「うっさい、ラサンス!よけーな事は、言わないでよね!」
そして、知った顔の使徒であるニーウが、ラサンスのツッコミに頬を膨らませた。
「ふむ……だが、ニーウの言うことも一理ありますね。なにせ、我々よりも先に地上へ出た、六人もの使徒が倒されているのですから」
「おお、確かに!油断は禁物だな!」
軽口を叩き合いながらも、油断なく私達を視界に収める破壊神の使徒達に、一分の隙も見当たらない。
しかし、私達が倒したのはディックス、エターン、エティスティの三人だから、他の三人はアルト達が倒したと言っていた奴等か。
チラリとアルト達の方を見ると、彼女達も「やるじゃない!」といった表情で私達を見ていた。
「よーし、クソ野郎ども!まとめてかかって来やがれ!」
人数の有利さや、私達もすでに何人か使徒を倒しているという事実を知ってか、骨夫が威勢よく使徒達を煽りだす!
しかし、そんな彼を無視して、使徒達は何やら相談事をしていた。
「俺は、あの勇者と呼ばれる少年達の、力を試してみたい」
「ニーウちゃんは、ダークエルフのザコお姉ちゃんとケリをつけたいな♥」
「なら、ワシが残りを始末してやるよ」
「それでは、私があの方の眷族を復活させましょうか」
……どうやら、担当の役割を決めているようだが、バカめ!
ただでさえ、向こうは人数的に不利なのに、さらに人員を割こうとしているか!
もう、これは勝ったな!
そう思った瞬間、いきなり足元の地面が消失した!
◆◆◆
「うっ……!?」
一瞬の浮遊感……そして、気がつけば私は見知らぬ場所にいた!
ど、どこだここは!?
「おお、エリクシア!お主もいたか」
声をかけられそちらを見れば、アルトとハミィの二人が背中合わせで周囲を見回している。
「アルトさん、ここは……」
「何処かはわからぬ。ただ、妾達は転移魔法で飛ばされたようだな」
「転移魔法で……」
と、いうことは、当然ながら破壊神の使徒による仕業という事か。
「ヤッホー、ザコお姉ちゃん達~♥」
むっ!
この生意気で、わからせてやりたくなる、メスガキボイスは!?
「邪魔が入るとうっとうしいから、お姉ちゃん達だけ呼ばせてもらったわ。今から、ボッコボコにしてあげるからね~♥」
可愛らしい容姿に、嗜虐的な笑みを浮かべた第七使徒ニーウが、ツカツカと歩み寄ってきた。
◆◆◆
「貴様ら、勇者と呼ばれる人間に興味がある」
突然、足元が消えてこの場所に飛ばされた、僕とエル君。
そして、僕達の前に現れた破壊神の使徒……確か、第五使徒のラサンスは、開口一番にそんな事を言った。
「創造神様が作った様々な種族の中でも、お前ら人間は一番弱い生き物だったはずだ」
そのために、数は増えやすくなっていたのだからなと、ラサンスは呟く。
「だが、時としてお前らのように、他種族よりも圧倒的な強さを身に付ける個体も現れる。俺は、そんな『勇者』と呼ばれる連中の強さの根源を知りたいのだ」
ゆらりと、ラサンス周囲の空気が揺らめいた。
景色が歪んで見えるほど、奴の体から炎のような闘気が溢れ出している。
すごいやる気なんだけど、『勇者』としての強さの根源なんて、僕にわかるはずもないじゃないか!
「……なぜ『勇者』が強いか、か。そんな事は決まっているじゃないか」
しかし、そんな僕に比べて抜刀して構えるエル君が、さも当たり前のようにそんな事を言う。
「ほぅ?いったい、何故だね?」
「それは、僕達『勇者』に限らない。誰かを想い、その人達のために戦うという決意……それこそが、人間の強さの源だ!」
おお……さ、さすが勇者の系譜で、既婚者。
言葉の重みに、実感が込もっている。
でも、確かにその通りだ。
僕だって、ゴッドーラと精神世界で戦った時には、エリクシア先生の事を想って戦い、奴を倒す事ができたんだ。
誰かのために強くなれるのが、人間の強さの根源という、エル君の言葉は絶対に間違っていない!
「……何を言っているのか、よくわからんな」
だけど、その答えを聞いたラサンスは、つまらなさそうにため息を吐いた。
「己の強さを高めるのに、他人はどうでもいいだろう。寝言のような、妄言を言うな」
「寝言かどうか……試してみれば、いいじゃないか」
「それもそうだ」
エル君返しに答えたラサンスは、獅子が獲物を狙うように、わずかに身を沈めた。
◆◆◆
「お、おい!あいつらをどこにやった!」
シンヤさんが、目の前の破壊神の使徒に食ってかかります。
突然、ワタクシ達の目の前で、エリ姉様やルアンタ様、そしてあちらのチームの三人が姿を消してしまいました。
残されたスケルトンの魔術師が、オロオロしながらワタクシ達の後ろに回ります。
「ふん、ニーウやラサンスが、ちょいと気になる連中がいるとの事だったんでな。だから、そいつらはあの二人に任せて、ワシは残ったお前らを始末する……という訳だ」
今回が初見の二人……ワタクシ達を始末すると言い放つ、見た目は四十代ほどの豪気なおじさんと、その後ろに佇むシュッと背の高い、神経質そうな眼鏡の男。
そんな二人の内、眼鏡の方が不意にワタクシ達へ背を向けました。
「では、後はお任せします。私は、『尾万虎』の封印を解いてきますので」
「おお、行ってくるがいい!」
な、なんですって!?
この近くに『尾万虎』の封印が……!?
いえ、それよりも、相手はただでさえ人数が減ったというのに、さらに一人で戦うつもりですの?
それはいくらなんでも、ワタクシをバカにしすぎではありませんこと?
「おいおい、俺達を舐めてるのか、お前ら?」
ワタクシだけでなく、シンヤさんからも怒りを含んだ闘気が、沸き上がります。ですが……。
「舐めてるのは、お前らだろうが……」
静かに……それでいて、地の底から響いて来るような、質量すら感じられそうなほどの声で、破壊神の使徒はワタクシ達を見据えました。
「この第十二使徒、ニルコン様を前にして、生きて帰れると思うなよ!」
ニルコンと名乗った使徒の咆哮が、ビリビリとワタクシ達に叩きつけられ、それが始まりの合図となりました!




