03 魔王の娘と勇者の子孫
転移口が出現する時は、大抵ロクでもない事が起こる!
私達は即座に対応できるよう、『ギア』や『バレット』を準備して身構えた!
しかし、私達の予想に反して、そこから飛び出して来たのは三人の男女!
さらに、転がるようにして黒いローブに身を包んだ人物が、最後に姿を現した!
「よしっ!もうよいぞ!」
「どっせいっ!」
先に出てきた女性の指示を受け、黒いローブの人物が気合いの声と共に転移口を封鎖する!
ええっ!? あの人物が、転移魔法を使っていたの!?
パッと見だと、破壊神の使徒には見えないが、いったい……?
「ふぅ~、やれやれ……え?」
なにやら無我夢中で移動してきた彼女達が、それを見ていた私達に気づいてギョッとした顔になった。
そんな風に固まる一団を前に、私達も下手に動けない。
なので自然と、お互いに相手を観察するモードに入っていた。
まず、最初に出てきた三人の男女……銀の髪に紅い瞳、新雪のような白い肌とは対照的な、漆黒の豪奢なドレスを纏う美女は、おそらく魔族だろうか?
そして、ルアンタに歳の近そうな可愛らしい少年と、その姉かな……十代後半くらいの、少しチャラついた格好の少女だった。
しかし、彼女達以上に私達が警戒心を抱いたのは、最後に転移口から出てきた、黒いローブの人物!
なぜなら彼(?)の姿は生者ですらない、白骨化した骸骨だったからだ!
普通に考えれば、アンデッドの類いなのだろうが、転移魔法すら使いこなすのだから、自意識を残したままで自ら不死化したと見て間違いない。
だとしたら、それほどの魔力と知識を持つ者がただ者ではあるはずもなく、恐らくこの一団の最重要人物となのだろうと推測する。
そんな謎の一行と、しばらくにらみ合いが続いたが……先に動いたのは相手のスケルトンだった!
「な……」
な?
「なんだ、チミは!」
なんだチミはっ、てか!
それはこちらの台詞なんだが、ハイハイと素直に答える訳にもいくまい。
「人に名前を尋ねるなら、まずは自分から名乗るものじゃないのか?」
「ん……それもそうですね。僕らは……」
シンヤの返しに、向こうの少年が名乗ろうとした所、魔族の美女がそれを手で制した。
「待て……あ奴等からは、アレと似たような気配を感じる」
「確かに……主様、あーしの後ろに」
主様って……少女は少年の姉かと思っていたが、どうやら違うようだ。
こちらへの警戒を切らさずに、少年を守るように一歩前に出てくる。
しかし……アレってなんだ?
こちらとしても、無駄な争いをするつもりは無いが、なにやら向こうは不穏な空気を漂わせ始めている。
しかもこいつら……強いな。
魔族の美女といい、少年を守ろうとする少女といい、強者の雰囲気を十分に備えていた。
「待ってください。こちらに、戦闘の意思はありません」
一応、話し合いですませられないか提案してみるが、彼女達から警戒するような気配は払拭されていない。
よほど、アレというのを危険視しているようだな。
まぁ、それでも提案に応じるつもりはあるようで、わずかに力を抜いたのが見てとれた。
「とにかく、お互いに自己紹介から始めませんか?」
まずは相手の名前くらいは知っておかないと、話にもならない。
こちらから名乗ってもいいけど、シンヤがさっき「そっちから名乗って!」と言ってしまったから、ここは相手の出方を見よう。
「クックックッ、ならば教えてやろう、我々の名をなぁ」
何故かおどろおどろしく演出しながら、骸骨魔導師が両手を広げて少年と美女を示す!
「こちらにおわすは、かつて魔界を統べた『鋼の魔王』の御息女アルトニエル様と、勇者の子孫エルトニクス君!」
魔王の娘と勇者の子孫!……って、誰?
その名を聞いても、私達がキョトンとしているのを見て、骸骨魔導師はわずかに狼狽えたようだった。
「そ、そして!私が元魔王四天王の筆頭にして、現お嬢の従者!ハンサム・ザ・ハンサム(自称)こと、アンデッド界の至宝、キャルシアム・骨夫様よぉ!」
ますます誰だよ!
もはや呆れ顔になっている私達の反応に、骨夫と名乗ったアンデッドはガクリと膝をついた。
「あー……この阿呆は放っといてだな、まぁ妾達はそういう立場の者ということよ」
アルトニエルと呼ばれた魔族の美女が、骨夫を押し分けて前に出てくる。
「改めて名乗らせてもらおう。妾はアルトニエル・ローゼル・バオル。アルトと呼ぶがいい」
「僕はエルトニクスといいます。エルと呼んでもらって、結構です」
「ちなみに、エルは妾の夫でもあるぞ」
へぇ、この少年が夫……夫!?
「け、結婚しておりますの!?」
「うむ!」
驚く私達に、エル少年は照れ臭そうに笑い、アルト女史は誇らしげに胸を張る。
そこへ、もう一人の少女が名乗りをあげた。
「あーしはハミィと申します。主であるエル様の剣であり、第三夫人でもありますので、どうぞよろしく」
だ、第三夫人!
つまり、このエルという少年、三人も妻がいるのかっ!?
ヤバい!大陸中央の連中、マジヤバい!
「お、大人の女が少年を手込めにした、ポリス案件かと思ったら実はハーレムでした……だとぅ!」
「やるのぅ、少年」
愕然とするシンヤに、感心するミリティア。
反応は違えど、彼等もアルト一行を見る目が変わっていた。
「クックックッ……畏れ入って詫びをいれるなら、セクシーなポーズを見せるくらいで許してやるぞ?」
形勢有利と見たのか、復活した骨夫が何故か高圧的に迫ってくる。
「ふ、ふざけないでくださいまし!ルアンタ様の前で、そんなふしだらな……」
口ではそんな事を言うわりに、チラチラとルアンタに視線を送って、なにかをアピールするヴェルチェ。
だが、そんな彼女を骨夫は一蹴した!
「お前みたいなチンチクリンのセクシーポーズなんか見て、誰が楽しいんだよ!せめて、胸と尻を盛ってから出直して来やがれ!」
「……あのアンデッドから、殺してよろしいんですの?」
暴言に対し、感情のない表情になったヴェルチェ静かに名指しすると、骨夫は涙目になりながらガクガクと震えだす!
ビビるくらいなら、軽口を叩かなきゃいいのに……しかし、本当に情緒豊かなアンデッドだな。
「お前、もう下がっておれ!」
主であるアルトに叱られて、スゴスゴと骨夫はエルの隣に引き下がった。
「さて……今度は、そちらの名を聞こうか」
やや、挑戦的な光を走らせ、アルトは私達を値踏みする。
よーし、やってやろうじゃない!
そうして、私達も一通り名前と仲間内の関係性を告げた。
それを聞き終えたアルト達の顔に、先程の私達ような動揺が走ったのが見てとれる。
「その山脈の向こう側……隔絶された地域の、魔王と勇者か……」
なにかを思案するアルトと同様に、骨夫がゴクリと息を飲む。
「しかも、ダークエルフと人間……師弟関係でありながら、いい雰囲気だと……!」
食いつくのそこ!?
なんかこのアンデッド、やたら俗いしマイペース過ぎないか?
「ほ、骨夫さん?そこは、そんなに重要じゃ……」
さすがに、味方内からも呆れたような声がかけられるが、骨夫は逆に「ばか野郎!」と熱く吠えた!
「昼は師弟関係、夜は恋人同士なんて、めちゃくちゃ尊いじゃねぇか!」
そんな骨夫の言に、ヴェルチェが「わかってるな」と言わんばかりに大きく頷いて見せる。
「しかも、ルアンタ様にはエリ姉様以外にワタクシ、そして『真・魔王』ことデュー姉様が、側室候補として控えていますわ!」
え?デューナは違うと思うけど……?
だが、細かい事情は知らない骨夫は、そんな彼女の言葉を鵜呑みにして、滝のような冷や汗を流す。
「しゅ、種族ちがいの王族・義姉妹どんぶりだと……!?」
言い方ぁ!
この骨、やはり下世話が過ぎる!生前の顔が見てみたいわ!
「まずいぞ、エル!インパクトで負けそうだ!なにかお前の特技とかで、挽回できないか!?」
「と、特技!?」
「勇者の子孫なんだから、なにかあるだろう?例えば、二十四時間インターバル無しでお嬢達とセッ……」
「魔力強制遮断!」
アルトが叫ぶと同時に、骨夫は糸が切れた人形みたいに、ガチャンと音を立てて崩れ落ちた。
まぁ、あれ以上は言わせないのが正解だろうから、その判断は正解だろう。
でも、アルトから魔力供給されていたということは、骨夫って造られたアンデッドだったんだな……という事は、制作者もあんな性格だったんだろうか。
「これ以上、父上の顔に泥を塗るでないわ、阿呆が!」
アルトの父……つまり、魔王が骨夫の制作者か。それで、あの性格とは……。
「妾の部下が、品の無い事を口走ってしまってすまんな……」
こちらの内心を知ってか知らずか、はぁぁぁぁ……と、大きなため息をつきつつ、アルトが頭を下げる。
なんだか、普段から骨夫の扱いに苦労してるのが、目に見えるようだわ。
そして、エルもそんなアルトを労るように、励ましの声をかけていた。
うーん、夫婦か……。
何となく、この二人は私とルアンタの関係にも影響を与えそうだな……と、漠然とした思いを抱く。
そして、そんな彼女達をちょっとだけ羨ましく感じてしまう。
ルアンタも同じような事を思ったのか、少しだけ上目つかいで、私の方を覗き込んでいた。
「ところで、あんたらは何でこんな所に転移してきたんだ?」
タイミングを見計らっていたシンヤが、アルト達にそう尋ねる。
そういえば、そうだ。
確か、何かに追われていたような雰囲気だったが……。
「ああ、妾達はある目的があって旅をしていたのだが……」
そう、彼女が言いかけた時、再びヴォン!という虫の羽音のような音が響く!
なんだ、また転移魔法でアルト達みたいなのが出てくるのかっ!?
そう思って音のした方に目を向けると、四つの転移口が展開されているのが視界に入った。って、四つ!?
「ようやく追い付いたぞ」
「んん……なんだ?なんか、数が増えてるじゃねぇか」
「あー、ザコお姉ちゃんだぁ♥」
「お前の知り合いか?」
呑気に世間話をしながら転移口から現れたのは、見覚えのある二人と見知らぬ二人。
計、四人の破壊神の使徒達であった。
今回登場したキャラは、自分が以前に書いた、サブタイトルと同名の作品の主人公達です。
いわば、セルフ・クロスオーバー……いっぺんやってみたかったんですよね……。
よろしければ、そちらもお目を通していただけると幸いです。




