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謀殺されてTS転生した魔王の息子が、勇者の師匠になる話  作者: 善信
第十三章 大陸中央の勇者達
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02 未踏の地への第一歩

            ◆


「さて……(うぶ)いのをからかうのはこれくらいにして、本題に入ろうか」

 朝食会中も、私とルアンタをイジリ倒したデューナ達だったが、しっかりと頭を切り替えると、これからについての話し合いに突入する。


 だが、これからの……とは言っても、特に目ぼしい話題はないんだよなぁ。

 なんせ、『魔獣山脈』の向こうなんて、前人未踏の地すぎて何の情報も無いし、破壊神の眷族……『(サウザンド・)頭竜(ヘッド・ドラゴン)』や『(グレート・)万虎(テール・タイガー)』についても、ノー手懸かりなのだから。

 なので、そこはある意味、生き字引のロリババアであるミリティアが頼りだ。

「まぁ、ある程度のナビは任せてもらっても大丈夫じゃよ」

 頼もしい言葉と供に、薄い胸を叩く彼女の自信たっぷりな姿は、なんとも心強い。


「とりあえず、実行部隊のアンタらに対してアタシらにできるのは、サポートくらいだがねぇ」

 そう言うデューナが示した計画は、『魔獣山脈』を越えた向こう側……つまり、大陸の中央側に、拠点を作るという物だった。

 私達が『神のオーラ』を振り撒きながら戻ってきた際、狂暴なはずのモンスター達が一向に襲って来ることはなかった。

 やはり、ルアンタが新しく身に付けたその力は、モンスター避けに有効らしい。なので、それを利用してかつての古道を掌握、物資の運搬を行って向こう側に集落を作るのだという。


「とりあえず、ルートが確保されれば、上位モンスターと戦えるレベルの冒険者を護衛につけて、商隊を出せる目処と確約はできてる」

「へぇ……まだやっと、向こう側行けるかもって段階なのに、現実主義者の商人と話をつけるとは、たいした物だな」

「なぁに、ちゃっかり昨日の宴会の席で、この娘(・・・)が話を進めてたみたいでね」

 クイッとデューナが顎で指した先には、キラリと表情をきらめかせたヴェルチェの姿があった。


「ホホホ……こんな大きなシノギの臭いがする案件、万が一にも逃がしたら事ですもの。しっかりと、手を打たせていただきましたわ!」

 さすが、富をもたらす金の髪のドワーフ……こういう時には、相変わらずの抜け目無さだわ。

「とりあえずドワーフ、エルフ、人間の各国にも一枚噛んでいただいて、なるべく揉め事が起こらないようにするのが、ベストですわね」

「そういうのは、ウチの頭脳担当な連中とやっとくれ」

 任せたよ、とデューナが後方に控えていたレドナや他の魔族に声をかけると、彼女はお任せくださいと、頼もしい返事を返してきた。

 確かに、内政面はデューナが仕切るより、彼女達の方が上手く回せそうだな。


「ですが、将来的には魔界で育った子供達が、新天地を切り開いてくれると最高ですねぇ」

 レドナがそんな言うと、デューナと二人で顔を見合わせ、「ウフフ」と笑い合った。

 ふむ。

 破壊神による、世界を滅ぼす宣言があってからどこか暗い話ばかりだったから、こういった将来に希望が持てる話はいいものだ。

 まぁ、一番の希望は私とルアンタとの今後だがね!

 そんな、輝く未来が水の泡とならないよう、私達も頑張らねばと改めて気合いを入れ直した。


            ◆


 ──さて、まずやらねばならない事といったら、『魔獣山脈』を貫く古の道を、ルアンタが身に付けた『神のオーラ』でマーキングする事である。

 ゴッドーラと戦った地点からこっちは、マッドでマックスな感じにくくりつけられたルアンタが、『神のオーラ』を放ちながら移動してきたため、ある程度はマーキングできてると思う。

 ていうか、なんであんなに皆ノリノリだったんだろうね?

 テンションが上がりきってる時の、IQの下がりっぷりは怖いわ……。


「ひとまず、私達で『魔獣山脈』の向こう側まで一旦抜けて、何度か往復するのがいいんじゃないですかね?」

 私がそう提案すると、他にいい意見はなかったのか、反対の声は上がらなかった。

 なので、さっそくヴェルチェがトラック型ゴーレムを生成すると、私達はその荷台の上に跳び上がる。


「それじゃあ、頼んだよ。こっちも、色々と準備はしとくからね!」

 「真・魔王(ママおう)」としての務めがあるデューナは、再びパーティを抜け、私達を見送ってくれた。

「ええ、今後の事について、よろしくお願いしますよ!」

 マーキングのために何度か戻って来るかもしれないけれど、デューナとまた顔を合わせるのは、しばらく先になるだろうな。

 そんな彼女に、手を振りながら、私達はもう一度『魔獣山脈』への道に進み始めた。


            ◆


 相も変わらず、ヴェルチェは重心の高い作りをしているこのゴーレムを、完璧な荷重移動で操って、自在に狭い峠道を高速で駆け抜けていく!

 尾を引くような、ルアンタから放たれる『神のオーラ』は地上を走る流星となり、通りすぎた道を仄かに照らしていた。

 だが、その荷台に乗った私達はといえば、振り落とされないようしがみついているというのが現状だった。


 当たり前だが、右へ左へと振られるために、とても立ってなどいられない。

 しかし、そんなまともに立っていられる状況ではないのだが、シンヤだけは内股気味になりながらも、立ったままで呼吸を整えながら、静かに構えていた。

 どういうからくりかと思ったが、どうやら異世界の格闘技の技術らしい。

三戦(サンチン)」と呼ばれるその立ち方は、金的の防御のほか、バランスを崩しやすい足場で安定した姿勢を保てるのだとか。


「達人にもなると、動くジェットコースターの上で殴り合いもできるそうだぜ!」

 などと言っていたが、本当だろうか?

 いや、そもそもジェットコースターなる物が、なんなのかは知らないけど。

 それでも実際に彼は立っているのだから、何らかの信憑性はあるのだろう。

 ちょうどいいので、たまに襲いかかって来るモンスターの標的になってもらい、その隙に私とルアンタが魔法で迎撃するというスタイルで、峠道をやり過ごしていった。

 酷くない!? とシンヤは叫んでいたが、目立つ位置にいるんだから仕方あるまい。

 そんな感じで、さらに突き進み、やがて……。


「──着きましたわ」

 坂道を終え、魔界側と同じような裾野の森を抜けた私達の前に、広大な平原が広がる。

 ついに私達は、『魔獣山脈』を越えて未知なる大陸の中央部へと足を踏み入れたのだ!


 何となく横並びで一列になった私達は、眼前の平原をじっと見つめる。

「……思ったより、何もないな」

 誰かが、そうポツリと漏らした。

 次の瞬間、一気に「そうだね」といった空気が流れ始める。


「いやぁ、もっとこう……見たこともない町などが、すぐに見えるものだと思っていました」

「そりゃ、こんなモンスターの多い山のすぐ近くに、人里はありませんよね」

 ちょっと高めのテンションで、私達は口々に言い合う。

 考えてみれば当たり前だが、ちょうど未知なる土地に期待を持ちすぎたかな?


「なんにしても、日が落ちる前に、ルアンタ様とマーキングを兼ねて、もう一度この峠を制覇してまいりますわ!」

 ああ、確かそんな話だったな。

 あのクネクネと曲がった山道を、暗くなってから行き来するなんて、危険極まりないので、早く行ってきた方がいい。

 ついでに、向こう側で用意されている様々な物資もトラック型ゴーレムで回収してくるとの事だったので、私達もこの辺りに宿泊の準備をしておく事にする。とは言っても、シンヤの空間魔法で安全な場所は確保できるので、せいぜい食事の下ごしらえをしておくくらいだが。


 とりあえず、一休みしてから今トラック型ゴーレムに積み込んである荷物をおろし、各人に渡しておいた『ポケット』へ、それらを小分けして収納しておく。

 何があるかわからない新天地だけに、普段よりも大量な……本来なら持ちきれないほど持ち込んだ荷物も、便利な収納と運搬手段のお陰で、楽に持ち運びできる。

 この辺りは、異世界の書物と知識に改めて感謝だな。


「それでは、ルアンタ様。二人きりのドライブと、シャレこみましょう♥」

「は、はい……」

 フフ……ヴェルチェめ。

 一時的にルアンタを独り占めできる事に、浮かれているな?

 まぁ、たまには彼女に美味しい目を見せてあげるのも、悪くはないだろう。

 私はそこまで、束縛するタイプではないしな。

 もっとも、私に内緒で一線を越えたら、許さないが。

 そうして、ヴェルチェとルアンタがゴーレムに乗り込もうとし、私達も各々が動こうとした時だった!


 突然ブゥンという、虫の羽音みたいな音が鳴り響く!

 と同時に、私達のすぐそば……何もなかったその空間に、転移魔法の出入り口となる転移口(ゲート)の穴が、ポッカリと口を開けた!

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