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謀殺されてTS転生した魔王の息子が、勇者の師匠になる話  作者: 善信
第十二章 魔獣山脈を越えて
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10 繋がる想い

「お、おお……なんという事じゃ……」

 輝くオーラを放つルアンタを見て、ミリティアが震えながら膝をついた。

 この状態を知っているのか、(らい)で……ミリティア!?


「い、今のルアンタ殿には、神の力が宿っておる……。おそらく、ゴッドーラから主導権を取り返した際に、奴の持つ力も取り込んでしまったのじゃろう……」

「ええっと……それってつまり?」

「言ってしまえば……『イコ・サイフレーム様の使徒』と、ほぼ同じような存在になってしまったという事じゃよ!」

「な、なんだってー!」


 ミリティアの言葉に、衝撃が私達を貫いた!

「そ、それじゃあ、なにか?ルアンタも、破壊神の使徒やゴッドーラみたいな性格になっちまうって事かい!?」

「そ、そんな馬鹿なっ!ルアンタ、貴方の好きな人はっ!?」

「はいっ!エリクシア先生です!」

「よろしいっ!」

 ふぅ~、どうやら、今の所は正常みたいだが……。


「神の力が宿ったからといって、破壊神の使徒(あやつら)のようにアレな感じになるわけではないから、安心してほしい」

「確かに……ゴッドーラの意思は感じませんし、神に対する思いも変わってないです」

「じゃろう?中身は(・・・)、ルアンタ殿のままじゃよ」

 それに、あいつらは元からアレだから……と、ミリティアはボソリと呟く。

 ひどい言われ様ではあるが、そんな連中とルアンタが同類になる事は無さそうで、ひとまずホッと胸を撫で下ろした。

 だが、気になる事を言っていたな……。


「中身……意識に影響は無くても、肉体に変化はあるということですか?」

「それは、な。ルアンタ殿、その『神のオーラ』に違和感はあるかのう?」

「い、いえ……まるで、自分の手足みたいに、自然と操れます」

 証明するように、ルアンタは自身を包んでいる黄金のオーラを、伸ばしたり縮めたりと自在に形を変えてみせる。

 器用な真似をする彼に、ミリティアはうんうんと頷いた。


「過去の大戦の時にも、たまにおったのじゃよ……ルアンタ殿の様に、神の力を得た者達が。彼等は総じて『半神人(デミ・ゴッド)』と呼ばれておった……」

 神の力を得た『半神人(デミ・ゴッド)』……。

 それが、いわゆる『イコ・サイフレームの使徒』達の正体でもあるわけか。


「その『半神人』に成りますと、どのような変化がありますの?」

「そうじゃな……彼等の特長としては三つ。まずは、驚異的な肉体の強化、次に魔法の無詠唱化、そして特殊能力の付与がある」

 ふむ……今まで戦った、破壊神の使徒にも見られた特長だわ。


「じゃが、三つ目の特殊能力は、忠誠を誓った神から授かる恩恵。それゆえに、偶然に神の力を得た『半神人』は、先の肉体強化と魔法の無詠唱化しか身に付けられん事が多かった」

「この、『神のオーラ』を操れるのは、特殊能力じゃないんですか?」

 手の先で、器用にオーラを操りながら、ルアンタが尋ねる。

「それは単に、ルアンタ殿が魔力の扱いに長けているためじゃな。『神のオーラ』も、言ってしまえば魔力の一種じゃからのぅ」

「そうか……じゃあ、これも『エリクシア流魔闘術』を習っていたおかげで、身に付けられた技能なんですね」

 自在に動くオーラを眺めながら、ルアンタは感慨深げにそんな事を呟いた。

 確かに、魔力のコントロールで様々な強化を行う私の戦闘術は、神のオーラと相性がいいかもしれないな。


「神のオーラは、あらゆるエネルギーを阻む壁にもなる。先程、エターンの攻撃を跳ね返せたのも、そのおかげじゃろうな」

 なるほど……ルアンタは無我夢中のようではあったけど、そんな中でもあの膨大なエネルギーを弾いて、軌道を変えるようにコントロールしていたんだな。

 そう考えると、敵の魔法を全て跳ね返せる、無敵の魔法障壁を得たよう物か……え、それって強すぎない?


 向こうの魔法は弾き放題、そしてこちらは魔法を無詠唱で連射可能って、撃ち合いになったら無敵じゃないですか!

 これって、技術的な事はともかく、素の強さならルアンタは私を越えてしまったかもしれない……。


 そう思った瞬間、私の胸の中にじんわりと広がる感情があった。

 なんだろう、この……寂しくも嬉しいような気持ちは?

 普通、弟子が師を越えるようだと、嫉妬みたいな感情が湧くもんじゃないのかな?

 なんとなく自分の胸中にモヤモヤしたものを抱えていると、隣にいたヴェルチェがキラリと鋭く目を光らせた。


「エリ姉様……さては、ルアンタ様に惚れ直しましたわね?」

「えっ!?」

 いきなりの台詞に、戸惑う私を無視してヴェルチェは続ける。

「わかりますわぁ。今まではある意味、庇護の対象だった少年が自分を護るためと公言し、実際に強くなった……これに、萌えない女子はおりませんものね!」

 特に年下の少年だと、たまりませんわ!と、彼女はちょっとヤバい感じの笑みを浮かべる。

「いや、これは師弟愛的な物では……」

「……それでは、今もルアンタ様を一人の男性として見れないと、おっしゃいますの?」

 そう言われて、ドキッとした。


 確かに今まで、ルアンタに異性を感じなかった訳ではないし、好き……ではある。

 だけど、私が優位に立っていた事で、変に関係性を壊さずいられる余裕もあった。

 でも……今は対等の男女として、ルアンタは駆け上がってきている。

 もしも、ここで私が彼を受け入れたら、何かが大きく変わってしまうんじゃないかと思うと、ちょっとばかり恐怖心が湧いてきたのも事実だった。


「まぁ、ゆっくりご自分の気持ちと、向き合ってみてくださいませ。その間、ルアンタ様のお相手は、ワタクシが務めさせていただきますわ!」

 そう言うが早いか、ヴェルチェはルアンタに突進していく!

 普段なら、その首根っこを押さえて止めていただろうけど……。

「私は……どうしたいんでしょうね……」

 小さく呟いて、ヴェルチェの猛アタックに困った様子のルアンタを、私は見詰めていた。


            ◆


 何はともあれ、『魔獣山脈』のモンスターが人里に現れるようになっていた原因、ゴッドーラは倒した。

 これで、また少しずつこの山脈も元に戻っていくだろう。

 とはいえ、私達の目的は『魔獣山脈』の向こう、大陸の中央部であるのだから、またここが通行不能の魔所となられては困ってしまう。


「では、ルアンタ殿が神のオーラを放ちながら、この峠道を通行してはどうじゃろう?」

 ふむう……つまりアレか、「畑を荒らす獣を追い払うために、より強いモンスターの匂いがするものを散布する」みたいなやり方か。

 確かに、この峠の古道からゴッドーラの気配が感じられれば、周辺のモンスターは寄って来なくなるかもしれないな。


「それでしたら、魔界に戻る道すがらワタクシの綺羅星(トゥインクル)号の上で、ゆっくりと神のオーラを垂れ流していただけばよろしいかと」

「そうだな……得体の知れないゴーレムが、ヤバいオーラを後引いて走れば、モンスターの警戒心をさらに煽れるかもしれない」

 うむ、確かにモンスターからすれば「怖っ……近寄らんとこ……」となるかも。


「でもよぅ、それだけだとパンチ弱くないか?」

「そうだね……できれば、見た目でもインパクトは欲しいよねぇ」

「確かに、何か威嚇できるような迫力は、あった方がいいですよね!」

 んん?

 なんだろう……いつの間にか、変な方向に話が流れていってるような……?

 しかし、大変な戦闘後の疲労感と高揚感に皆が軽く酔っていて、その事に突っ込む者は誰いなかった。


 そうして最終的に、『トラック型ゴーレムの荷台の上に設置された磔台(はりつけだい)にくくりつけられながら、神のオーラを放つルアンタ』という地獄のようなビジュアルを持って、私達はもと来た峠道を爆走して魔界へと向かう。

 ……本人が割りとノリノリだったし、モンスターもかなりビビっていたようではあったけど、今思えば「なんだこりゃ……」過ぎる光景だったわ……。


            ◆


 魔界に戻った私達を待っていたのは、まさかの大宴会だった。


 それというのも、ゴッドーラと戦っている間に、かなりのモンスターが冒険者達の包囲網に飛び込んできたらしく、それらを討ち取ったおかげで彼等の懐も大いに潤いそうとの事からである。

 さらに、『魔獣山脈』の道が確保されれば、未知なる土地への扉が開かれるかもしれない……つまり、新たな『冒険』の可能性が示されたのだ。

 これに、興奮しない冒険者はいないだろう。

 莫大な成果と次への期待で、魔界の王都は天井知らずに沸き上がるテンションに包まれていた。


「ガハハハ、今夜は飲ませてもらうよぉ!」

「どんどん、持ってきてくださいまし!どんどん、持ってきてくださいまし!」

「キャロ、お前は身重なんだからほどほどにな」

「十分に酔えます、酒など無くても。そばにいてくれますから、旦那様が……」

「おうおう、アツアツじゃのぅ……」


 仲間達が、国全体に広がる盛り上がりに便乗している中、ルアンタは疲労もあってか、早めに場を抜けてすでに退席していた。

 そして、私も気配を消して、宴会場を後にする。

 目指すは、ルアンタの寝室。

 今後の事も考え、モヤモヤする気持ちに整理をつけるべく、 彼の元へ向かった。


「……ルアンタ?」

 囁くように呼び掛け、軽く扉をノックをする。

 しかし……すでに眠っているのか、返事は返ってこない。

 んー、仕方ないなぁ。

 それじゃあ、旅の道中に仲間と雑魚寝している時以外はほぼ日課となっている、添い寝でもするかぁ!

 私は音を立てずに寝室に忍び込むと、闇に紛れながらスルリとルアンタの眠るベッドへ潜り込んだ。


「ルアンタ……」

 もしかしたら、私よりも強くなったかもしれないのに、いつもと変わらない彼の背中を抱きながら、吐息のようなか細い声でルアンタの名を呼ぶ。

「……先生」

「っ!?」

 突然、私を呼ぶルアンタの声に、心臓が跳ね上がった!

 ね、寝言かな?寝言だよね!


 しかし、そんな私の焦りとは裏腹に、腕の中のルアンタはごろりと体をすと、正面からこちらを見据えてきた。

 ……そういえば、ゴッドーラに主導権を握られていた時に、いつもは私に気を使って寝た振りしてるって言ってたっけ。

 早朝に、ルアンタが目覚める前に抜け出していたつもりだったけど、こんな風に何度も起きていたんだろうな……やだ、恥ずかしい。


「先生……そのままで、聞いてほしいんですが」

 密着した状態でちょっとだけ顔を伏せ、ルアンタが囁きかけてくる。

 同時に、えらく緊張した雰囲気が伝わって来た。


「あの時……ゴッドーラに取り込まれた時に、先生が止めてくれなかったら、僕はきっと奴に消滅させられていたと思います」

 まずは助けてくれてありがとうございますと、彼は頭を下げて礼を言う。

 いやー、ちょっと恥ずかしかったけど、どおって事はなかったけどね!


「意識が消えかけた時、浮かんできたのは先生への想いでした……これからは、今までよりも戦いが激しくなるだろうし、どうしても言っておきたい事があるんです!」

 少し語気を強めて、ルアンタは顔をあげる。

 その時、少年だと思っていた彼の思わぬ凛々しさに不意打ちを受け、私は顔が熱くなっていくのを感じていた。

 こ、これはもしかして……?


「僕はずっと……それこそ、初めて先生と出会った時から、好きでした!愛してます!」

 まっすぐに私を見つめ、ルアンタは弟子ではなく一人の男として、今まではっきりと口にしなかった想いを告げてきた!


 こう来るんじゃないかと、ちょっとは予想していた……とはいえ、ルアンタの必死の告白を受け、ドクドクと高鳴る心臓の鼓動がうるさい!

 思っていた以上の衝撃に、たぶん私の瞳孔はハート型になってるし、トキメキが凄すぎて、「キュン♥死に」って本当にあるんじゃないかと思えるくらい、頭の中は茹だっていた!

 

 そんな状態でまともな思考など働くはずもなく、私は返事の代わりに本能の赴くまま、ルアンタにキスをする。

「っ先生……」

「ひとつだけ、条件があります」

「じょ、条件!?」

「……二人だけの時は、先生じゃなくて名前で呼ぶこと」

「は、はい……エリクシア、さん……」

「よろしい♥」

 微笑んだ私は、再びルアンタと唇を重ねる。

 なんだ……受け入れてみれば、そんなに怖い事はなかった。

 むしろ、今まで以上にルアンタを間近に感じるじゃないかと、少し安堵する。


 窓から差し込む月明かりだけが、そんな私達を照らしていたが……ここから先は、月にすら見られる事すら(はばか)られ、私は腕を伸ばしてソッとカーテンを閉じた。

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