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謀殺されてTS転生した魔王の息子が、勇者の師匠になる話  作者: 善信
第十二章 魔獣山脈を越えて
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09 少年の矜持

『グッ……グオォォォォッ!』

 私の幻術に囲まれて、苦しげな声を上げるゴッドーラ!

 ……効いてはいるようだが、なんだかルアンタが私に密着してるのを嫌がってるみたいで、なんかやだな。


「おいおい、大丈夫かい?アタシも交ざった方がいいのかねぇ?」

「これ以上、大きい方を増やしても仕方ありませんわ!交ざるなら、ワタクシのような慎ましやかな胸の方が、効果的だと思いますわよ!」

 デューナとヴェルチェが、『ルアンタ揉みくちゃ祭り』に参加しようとするが、もう十分だっつーの!


「ほらほら、貴女達は下がっていなさい」

「んだよ、独り占めすんなよな!」

「そうですわ!ルアンタ様へのセクハラは、均等にすべきですわ!」

「わかってて、セクハラしようとするんじゃありません!」

 全く、私本人だって幻術がやっているのを、見ているしかないというのに!


『グウゥゥ……』

 むっ!?

 ルアンタを包む金色のオーラが、集束してきてるような?

 なんだか、爆発魔法とかに見られる、魔力集束に似ている気がするけど……気のせいだよね?

 んんっ、不吉な予感はするけど、頑張れルアンタ!


           ◆◆◆


『お、おのれぇ!さっさと引っ込め、小僧ぉ!』

「誰が引っ込むか!お前こそ、僕の体から出ていけ!」

 僕とゴッドーラは、肉体の内側で激しい主導権争いをしていた!

 ちょっと前まで、僕の意識は完全に奴から押さえられていた。

 けれど、エリクシア先生の捨て身のショック療法に加え、ミリティアさんの幻術を受けて、こうして表層にまで浮き上がってこれたんだ!

 また、意識の底に押し込められてたまるもんか!


『我に任せておけば、破壊神の企みは潰してやると言っておるだろうが!』

「犠牲を厭わない上に、邪魔する人は排除するなんてやり方、納得できる訳がないだろう!」

『汝らは創造神様の……』

「先生達も言っていたろ!創造神の名前を出したくらいで、僕達が怯むと思うな!」

 ぐにゃぐにゃした、不定形な意識の押し合いをしていた僕達だったけれど、やがて僕とゴッドーラの精神は、仮の肉体を持って互いに削り合う戦いに発展する!

 ここで負けた方の意識は、おそらく消滅してしまう……そう、直感的に悟った為、絶対に負けられない!


『消えろ、小僧(ルアンタ)!』

「お前こそ消えてしまえ、古い精神体(ゴッドーラ)!」

 精神世界で、火花を散らしながら拳がぶつかり合い、電駆ける蹴りが交差して、爆音と共に空気が(はぜ)る!

 僕とゴッドーラの攻防は、さらに激しさを増していったけれど、徐々に僕の方がゴッドーラを圧倒していった!


『ば、馬鹿な……こんな人間の小僧に、なぜこれほどの精神力が……』

「僕には、向こう側で待ってる仲間がいる!何より、エリクシア先生がいるんだ!」

 僕を助けるために、体を張ってくれた先生……。

 ミリティアさんを狙った僕の肉体(ゴッドーラ)の前に立ちはだかり、『戦乙女(ヴァルキュリア)装束(・フォーム)』を解除した時には、「先生、なんたる無茶を!」と驚いた。

 でも、そのお陰で僕の意識は力を取り戻し、こうしてゴッドーラに対抗できている!

 ……まぁ、その後のミリティアさんの幻術による、ブーストもあるけど。


『解せぬ!あの女の非合理的な行動と、訳のわからぬ幻術に囲まれただけで、ここまで我が圧されるなど……!』

「それが人間の……『大切な人への想い()』と、『思春期の性欲(本能)』の力だあぁぁぁっ!」

 僕の渾身の拳が、ゴッドーラの胸を貫く!

(りせい)と……性欲(ほんのう)……それが、人間の……強さ……フフッ……』

 ボロボロと崩れていく、ゴッドーラの意識。

 奴が最後に残した呟きは、どこか満足したような物だった……。


           ◆◆◆


「……おい、なんかヤバくないか?」

「た、確かに……」

 私の幻術達に囲まれたルアンタが、なんだかすごく光を放っている。

 え?まさか、本当に爆発とかしないよね?


「ゴッドーラの野郎が、自爆しようとしてるとか……」

「い、一応は創造神からの使命もありますし、途中でそれを放棄するとは思えません……」

 そう、それが破壊神の使徒相手なら自爆という手段もあったろうけど、私達を相手にそんな事はないだろうとタカを括っていたのだが……。

 だが、ルアンタの肉体から立ち上るオーラはさらに大きくなり、そして……急に光が失われた!


「っ!? いけませんわ!」

 咄嗟に、ヴェルチェが土の壁を作って防御したのと同時に、ルアンタを中心として巨大きな爆発が巻き起こる!

 ミリティアの幻術を吹き飛ばし、すさまじい轟音を響かせた後、もうもうとした土煙が周囲を包んだ。

 (あっぶ)な……やっぱり、あの一瞬の静けさは、爆発の前触れだったか。

 だが、そんな事より!


「ル、ルアンタ……ルアンタは無事なんですかっ!?」

 壁の後ろから飛び出し、私は土煙を払いながらルアンタの姿を探す!

「落ち着け、とりあえず埃を飛ばすぞ!」

 シンヤが風魔法を発動させて、周囲の視界を奪う煙を押し流した。

 そして……。


「ルアンタ……」

 呆然と佇む少年の姿に、私は思わず彼の名前を呼んだ。

 皆がゴッドーラの存在を危惧して警戒しているが、私にはわかる。

 あれは、ルアンタだ!


「ご迷惑……おかけしました」

 ニッコリと微笑み、謝罪の言葉を口にした彼の体が、グラリと揺れる。

 倒れそうになるルアンタを、駆け寄った私はしっかりと受け止めた!


「……先生」

「ルアンタ……ああ、ルアンタ……」

 弱々しくも、私を呼ぶ彼の声がいつもと同じで、安堵の気持ちが胸を満たす。

 そのままルアンタをギュッと抱き締め、柔らかな髪が撫でる頭部に頬擦りをした。

 すると、露出した胸元に顔を埋めていたルアンタが、真っ赤になってこちらを見上げてくる。


「先生のお陰で、戻ってこれました……恥ずかしい思いをさせて、すいません……」

「何も、恥ずかしくなんてありませんよ。あんなのは、『巨大ロボ(異世界のゴーレム)が、自ら胸部装甲を引きちぎった』ような物です」

「は、はぁ……」

 私の喩えがよくわからなかったのか、生返事を返すルアンタ。

 ただ、シンヤが「むぅ……ガン○スター……」とだけ呟いていた。


「とにかく……貴方が戻って来てくれた事が、何より喜ばしいんですよ」

「僕も……先生の元に帰ってこれて、幸せです……」

 はぅん♥

 潤んだ目で見つめながら、そんな事を言うのは反則でしょうに!

 はぁ~もう、そういう師匠を惑わす悪い弟子には、キスのお仕置きでも……。

「まったく、アタシらも心配したんだぞ?」

「そうですわ、エリ姉様とだけいい雰囲気になるのは、少々ズルいと思います!」

 二人の世界に入りそうな所で、デューナとヴェルチェが割り込んできた。

 んもう、いいところだったのに……。


「ところで、ルアンタ殿。どこか体に、異常や不調は感じんか?」

「……いえ、疲労感はありますけど、特に異変は感じないです」

「ふむう……」

 ルアンタの答えを聞いて、ミリティアは思案するように顎に指を当て、声を漏らす。

 なんだ、何か気になる事があるんだろうか?


「いや、神の作った精神体に憑かれておったのだから、異常を疑うのが普通じゃろう?」

 うん……言われてみれば、それもそうだ。

 よおし、ここはじっくりと私とお風呂にでも入って、隅から隅まで……フフフ。

 そんな師匠としての役得……もとい、使命感に顔を(ほころ)ばせていた、その時!


 突然の轟音と共に、凄まじいエネルギーを(ほとばし)らせながら、大笑いする者がいた!


「フハハハハ、ようやくダメージの変換が完了したぞ!」

 あ、あれは、ルアンタ(ゴッドーラ)の猛攻の前に、いい所も無く沈んだはずの、イコ・サイフレームの使徒!

 確か……なんだっけ?


「グフフ、あの程度の不意打ちで、このエターン様が倒せると思うなよ!」

 あ、そうだ。エターンだ、エターン。

 しかし、あいつはゴッドーラに許容量以上のダメージを食らって、もう起き上がれないはずでは無かったのか?

 ゴッドーラがダメージ量を見誤ったのか、エターンのタフネスさが想定以上だったのか……どちらにしろ、厄介な奴が復活したものだ!


「ぬぅ?ワシに土をつけた、あいつの気配がせんな……」

 ルアンタをジロジロと眺めながら、エターンは怪訝そうに呟く。

 そうだ、ゴッドーラはもういない。

 それにちょっと形勢不利っぽいんで、このまま帰ってくれないかな……。


「……まぁ、いい。この貯まりきった力の全て、お前らが食らうがいいわ!」

 ううん、やっぱりそう上手くはいかないか!

「こうなったら、やるしかないねぇ!」

 言うが早いか、デューナが大剣を振りかざして、エターンに向かって走り出した!

 確か、エターンの能力は受けたダメージを貯めて、エネルギーに変えて攻撃すると、ゴッドーラがブツブツ言ってたな。

 だとすれば、デューナのキツい一撃で、今度こそ限界に達するかもしれない!


「貴様ごとき下郎が、ワシに触れられると思うな!」

 吠えたエターンの周辺に、奴から放たれるエネルギーが球状の壁を形成する!

 薄い皮膜のように見えたそれは、デューナの渾身の一撃を弾き、彼女の顔に驚愕の色を刻み込んだ!

「フハハハハ!この、貯まりに貯まりきったパワー、全て貴様らに食らわせてやろう!これで、イコ・サイフレーム様に逆らう愚か者も、一掃できるわ!」

 高笑いしながら、竜の(あぎと)を模すように、エターンが両手を開いて合わせながら、こちらに向けて腕を突き出す。

 すると、奴の手のひらにとんでもない規模の力が集中し始めた!

 こ、これは、かなりヤバい!

 あんな物が放たれたら、シンヤが作ったこの空間魔法と一緒に、私達も消滅しかねないぞ!?

 ようやくルアンタを取り戻して、これから楽しいイチャラブの時間だと思っていたのにっ!


 なんとかエターンの邪魔をしようと、私達は魔法で攻撃を加えるが、それらは全て奴の防御壁に遮られてしまう。

 そうこうしている内に、エターンの顔に愉悦の笑みが浮かんだ。

「発射準備完了だ……消えろ、虫ども!」

 むしろ穏やかにエターンが言うと同時に、奴の手から撃ち出されたエネルギーの塊が、私達の視界を白く染める!

 これは……もう……。


「させるかあぁぁぁっ!!!!」


 地を震わす雄叫びを上げ、私の腕の中からルアンタが飛び出した!

 そして、迫る破壊の光の前に立った彼の体から、再び黄金のオーラが噴きあがる!


『なあっ!?!?』


 この場にいた全員が、驚きの声をあげて戸惑う中、ルアンタは流麗な動きでオーラを操ると、エターンの攻撃を受け止め、流しながら、その進行方向をエターンの方へ(・・・・・・・)とねじ曲げる!


「げえっ!」

 撃ち出した莫大なエネルギー波が返ってきた事に、エターンが悲鳴にも似た声をあげた!

 辛うじて受け止めたものの……ルアンタのように進行方向を変えるような真似はできず、ジワジワと押されていく!


「ば、馬鹿なっ!こ、こんな真似ができる奴など、いるはずが……いるはずがあぁぁぁぁっ!!」

 それが最後の言葉となり、エターンは反射された自らのエネルギーに飲み込まれる!

 そのまま、この魔法の空間に大穴を開けて吹き飛び、遥か彼方の上空で爆発音を鳴り響かせた!

 どうやら……助かった、のか?

 立て続けに思わぬ事態が続き、思考が追い付かずにぼんやりしてしまったが、そこで私はハッ!となった。


 そうだ、ルアンタ!

 ルアンタはいったい、どうなってしまったんだ!?

 また、黄金のオーラを放っていたみたいだけど、ゴッドーラの奴に支配されたりしてるんじゃないだろうな!


 心配する私達の前に出たルアンタは、クルリとこちらに顔を向ける。

「ええっと……」

 困ったようなその顔で言葉に詰まる彼は、ゴッドーラではなくルアンタ本人の物だ。

 ああ、よかった……しかし、相変わらず彼の体は黄金のオーラに包まれているのは、どういう事なんだ?


「これって……どうなっているんでしょう?」

「う、うう~ん……」

 困惑するルアンタの言葉に、私達も眉をひそめながら、首を傾げるしかなかった……。

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[良い点] まさかあれは伝説のスーパーソイヤ人!
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