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謀殺されてTS転生した魔王の息子が、勇者の師匠になる話  作者: 善信
第十二章 魔獣山脈を越えて
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08 打倒、精神寄生体

 ──さて、啖呵を切ったのは良いけれど、どうやってルアンタをゴッドーラから取り返せばいいのだろうか。


「まぁ『お約束』としちゃあ、ある程度のダメージを与えて、ゴッドーラの方から離れるように仕向ける……とかかな?」

「やはり、それくらいしかありませんか……」

 確かに、異世界の物語ではそんな感じで、意思のある寄生体を引き剥がすのがセオリーだった。

 だが、それを実行するとなると、ルアンタの肉体に大ダメージを与えなきゃいけないって事なんだよなぁ……。


「……マスター殿達は、ルアンタ殿を傷つけるのが、忍びないんじゃな」

「それはそうでしょう……何かいい方法でも?」

「ルアンタ殿の体力を減らすだけでいいなら、無理矢理押さえ込んでいっぱい搾り取るとか……」

「……さすがサキュバスですが、却下です!」

 良い子も見てるかもしれないのに、「天井の染みを数えていれば終わるから」って感じの、そんな十八禁な手が使える訳ないでしょうが!

 っていうか、そんな真似をしたら正気に戻った時に、ルアンタの心が精神的ダメージで死ぬわ!


 だが、待てよ……精神的なダメージか。

 そうだよ、敵は精神寄生体!

 だとすれば、同じく相手の精神を手玉にとるサキュバス(ミリティア)なら、何かいい手があるかも!?

「ミリティア、何かゴッドーラに効きそうな幻はありませんか!?」

 彼女の幻術は、言ってしまえば精神攻撃だ。

 もしかすると、精神寄生体の奴には効くかもしれないじゃないか!

 だが……。


「残念ながら、無理じゃな。ワシの幻術は、肉体の欲望に結びついておるから、肉欲を持たぬゴッドーラには通用せんじゃろう。というか、精神寄生体の性癖とか、さすがにわからんし」

 ぬっ……そういう仕組みなのか。

 それでは確かに、実体のないゴッドーラには通用しなさそうだし、訳がわからないでしょうね。


「結局は、正攻法でやってみるしかないって事だな」

「そうですわね……ワタクシが、きっとルアンタ様を正気に戻して差し上げますわ!」

「アンタもあの子の師匠なんだから、覚悟を決めな」


 私以外の三人は、ルアンタにダメージを与えてでも、正気に戻させる決意は固まったようだ。

 ……そうだな、私だけあの子を傷つける事に、ビビっているわけにはいかないわ!

 多少の痛みは伴っても、早く解放してあげなくちゃ!


「それじゃあ、始めようか!」

「ああ……変身!」

「変身!ですわ!」

 各々が臨戦態勢に入る中、私も『ギア』と『バレット』を取り出して、腹部に装着した!

「変身!」

 発動させた『戦乙女(ヴァルキュリア)装束(・フォーム)』が、私の身を包み込む!


『……準備はできたようだな』

 『変身』する私達を見て、ゴッドーラが声をかけて来たが……こいつ、こちらの準備ができるまで待ってたというのか?

 意外と、律儀っぽい奴なのかも……。

『では、我も戦闘の支度をさせてもらうぞ』

 なっ!?

 ゴッドーラは当然のように『ポケット』から『ギア』と『バレット』を取り出し、それを装着した!


『……変身』

 響く『バレット』の音声と共に、ゴッドーラが取り憑くルアンタの肉体が『勇者装束(ブレイブ・フォーム)』に覆われる!


『フッ……なるほど、中々に面白い感触だ。この少年が、ワクワクしていたのも頷ける』

 こ、こいつ……ルアンタの装備と、少年特有のワクワク感まで奪いやがってぇ……!

 だが、本来ならルアンタ本人にしか扱えないはずの『ポケット』まで使ったという事は、それだけゴッドーラによる浸食が進んでいるという、証明なのかもしれない。

 これは、急いで助けないと!


 そんな風に、ちょっとばかり思案に没頭していた所に、皆が私を呼ぶ声が聞こえた。


「エリクシア、まえー!」

 ん?前?

 何かな?と、思って視線を向けると、そこにはオリハルコン・ブレードを振りかぶった、ルアンタ(ゴッドーラ)の姿が!

 そして、その刃が私目掛けて振り下ろされる!


「うおぉぉぉぉぉっ!」

 私はその刃を手甲でガードすると同時に、腕を捻って刃筋を剃らして受け流す!

 それによって、わずかに動きの乱れたルアンタに、肩から体当たりを食らわせて距離を取った!

 っていうか、危なかった!マジで危なかったぁ!!

 受け流しが失敗してたら、手甲ごと腕を落とされててもおかしくないくらいに、本気の一撃だったじゃないのっ!

 すごい心臓がバクバクいってるわ!


『チッ!』

舌打ちしながら、着地するゴッドーラ。

 そこへ、お返しと言わんばかりに、デューナが迫った!

「おらぁ!」

『フンッ!』

 激しい金属音と火花を散らして、両者の剣がぶつかり合う!

 まさか、デューナの剛剣を、真正面から受け止めるとはっ!


「ほうぅ……なかなか、やるじゃないか。って、この場合はルアンタの肉体の方を、誉めればいいのかねぇ?」

 受け止められた事に、少し驚いたようだったが、デューナはそのまま力任せに押し込んでいく!


「ほれほれ、このままじゃ潰れるよ?さっさと、その体から逃げたほうがいいんじゃないのかい?」

『……!』

 デューナは、挑発めいた言葉でゴッドーラを煽るが、奴は冷静にかち合っている刃の角度を変え、自分の剣を滑らせるようにして、大剣を流す!

「っと!」

 さすがに、それでデューナが大きく崩れる事はなかったが、一瞬の隙をついて反転したゴッドーラが、再び私に向かってきた(・・・・・・・・・・)


「させませんわぁ!」

 横から突っ込んできたヴェルチェが、奴の足を止める!

 さらに、そこへシンヤの一撃が加わり、ルアンタの体を吹き飛ばした!

「……くそっ、受けられたか」

 悔しげなシンヤの言う通り、ゴッドーラは彼の一撃を剣の腹でガードしていたようで、派手に飛びはしたものの、大したダメージは与えられていないようだった。


「つーか、奴の狙いはどうやらエリクシアみたいだな」

「そのようですね……」

 一人ずつ狙って、確実に倒していく方針なんだろうか?

 だが、そうやって敵の数を減らすなら、一番弱い者から狙うのがセオリーだろうに。

 もしかして、私ナメられてる?


「マスター殿!おそらく奴は、ルアンタ殿の肉体でマスター殿を殺し、彼の精神を完全に破壊しようとしておるぞ!」

「なんですって!?」

「今のルアンタ殿からは、彼の視線を感じるのじゃ……ゴッドーラは、肉体の自由こそ奪ってはおるが、たぶん視覚情報だけはルアンタ殿の魂と共有しておる!」

 なるほど、そうやって自分が(・・・)私を殺す所を見せつける気か。

 男の視線に敏感な、サキュバスだからこそ気がついたんだろうけど、えげつない事を考える物だな!


『この少年、掌握できたと思っていたが、意外に精神が強いのでな……。なぁに、汝を殺せれば、完全に我が物となるだろう』

「くっ……」

 ユラリと剣を構えるゴッドーラ。

 くそう……こちらが、ルアンタへ必殺の一撃を放てないのを知っていながら、相討ちしてでも私を殺そうとしているな。

 人質を取られていると言ってもいい、ゴッドーラが有利な状況……どう覆すか。


「マスター殿、奴がルアンタ殿と視覚を共有しているという事は、ルアンタ殿の意識もあるという事じゃ!一瞬でよいから、彼の気を引いてくれ!」

 その後はワシに任せろと、ミリティアがジェスチャーを送ってきた。

 何か考えがあるのね!

 しかし、視覚だけでルアンタの気を引くなんて……ハッ!

 その時、私の脳裏に電流が走る!

 これなら……少しだけ私自身を犠牲にするけど、たぶんいけるハズ!


『小細工はさせん!』

 ゴッドーラは、私から何かしらの策を使おうとしている、ミリティアに狙いを変えて駆け出す!

 しかし、それを阻止すべく、私は彼と彼女の間に割って入った!

『フッ……』

 小さな含み笑いが聞こえる。おそらく、私の行動も奴の計算の内だったのだろう。

 しかし、これは読めまい!


 私はその場で変身を解除し、『戦乙女装束』を収納する!

「エリクシア!?」

「エリ姉様!?」

 皆の悲痛な声が響く中、服の私は胸元を握りしめた!


「ふしだらな師匠と思わないでくださいね……」

 その呟きと共に、私は一気に服を引き裂き、下着に包まれながらも弾けながらこぼれ出た、豊かな胸を見せつけるようにして、両手を広げた!


『なぁっ!?』

 驚愕の声と共に、ルアンタの肉体がビタリと硬直する!

 その瞬間、真っ赤になったルアンタとゴッドーラの視線は、私の胸に釘付けとなっていた!


「今じゃあぁぁぁ!」

 その一瞬の隙を突いて、ミリティアの幻術が放たれる!

 爆発のような煙と共に現れたのは……!


 性癖ド直球、教師(ティーチャー)・エリクシア!

 ご奉仕上等、メイド・エリクシア!

 大人の階段、登ってみる?バニー・エリクシア!

 お早う、マイダーリン♥新妻エリクシア!


 ……って、おぉい!なんなのあの幻術は!

 恥を偲んで胸まではだけたのに、全部持っていかれたわっ!


「様々なシチュエーションのマスター殿で、ゴッドーラに押さえられているルアンタ殿の意識を引っ張り上げる!」

 ミリティアの号令に従って、四人の私……いや私の幻術達はルアンタを取り囲んだ!


「ほら、ルアンタ!いつまでも休んでないで、勉強の時間てすよ!」

「ルアンタ様ぁ、頑張った暁には、いっぱいご奉仕しますよぉ!」

「ウフフ、ちょっぴり刺激的なお楽しみもあるからね♥」

「だからぁ、早く戻って来てね。あ・な・た♥」


 うわぁぁぁっ!

 なんかあの幻術を見てると、すごくいたたまれない気持ちになるんですけどぉ!

 衆人環視の中で、コスプレした自分がよってたかって少年を誘惑する絵面って、客観的に見るとかなりツラい!


「じゃが、確実に効いておるぞ!」

 ミリティアの言う通り、幻術に囲まれているルアンタ(ゴッドーラ)は、固まったまま身動きひとつしない!

 た、確かに効いてはいるみたいだけどさぁ……。


 まさか胸を出した直後に、味方の術でそれ以上の恥辱を味わう事になるなろうとは……。

 これでルアンタが戻らなかったら、私バカみたいじゃないですか。

 仮面の下で彼の表情は見えない。が、せめてコスプレの私達(幻術)に揉みくちゃにされているルアンタの精神が、復活しますように……。

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[良い点] 次回、ルアンタの怒ちょ…怒髪が天を突く 間違いない
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