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謀殺されてTS転生した魔王の息子が、勇者の師匠になる話  作者: 善信
第十二章 魔獣山脈を越えて
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07 もうひとつの神の従僕

『ふむ……』

 まるで体の調子を確かめるように、ルアンタは架空の敵と戦う事を想定しながら、虚空に向かって突きや蹴りを小刻みに繰り出す!


『なかなか鍛えこまれた、いい肉体だ。しかも、まだまだ伸び代もある』

 こちらを意にも介せず、何やら満足そうに呟いているが……こらー!ルアンタ!

 前のエティスティの時に引き続き、また操られるネタを繰り返すって、どういう了見ですかっ!

 そんな簡単に意識を奪われるなんて、先生は情けなくて涙が出てきますよ!?


 これはもう、敵に操られないように、もっと身も心も私色に染め上げ……もとい、精神面を鍛え直す必要があるな!

 覚悟しなさいよ、クフフフ……。


「何をいやらしい顔をしておるんじゃ、マスター殿」

 怪訝そうなミリティアに言われて、私はニヤケていた事に気づく。

 おっと、危ない危ない。

 なんでもありませんよと言葉を返すが、ミリティアの顔から不安げな気配は消えていない。

 ……そんなに、私はヤバい顔つきだったのだろうか?


「……マスター殿が、時々ヤバい事は承知しておる。それよりも、ルアンタ殿じゃ」

 ヤバい人と認知されてる、私って……それより。

「ルアンタが……とは、どういう事です?」

 聞き捨てならないその一言に、私もミリティアへ問い返す。


「あれは……ルアンタ殿から発せられている、あの金色のオーラからは神の気配がする!」

「神の……気配?」

 なるほど、道理で先程の巨狼からも、『イコ・サイフレームの使徒』と同様の圧力を感じた訳だ……って、んん?

 だとすると、ルアンタに移動したあの金色のオーラ自体が(・・・・・・・・・)、 奴の本体(・・・・)……と言っていいのかな?


『なかなか察しがいいな、サキュバスの娘。見た目どおりの歳ではなさそうだ』

「レディの歳を詮索するとは、デリカシーが無いのぅ」

 強気の口調で返してはいるが、ミリティアの背中には滝のような汗が流れている。

 あの破壊神の使徒と同様の存在に、真正面から見据えらているのだから、無理もないが。


「ルアンタ、しっかりしなさい!」

『……わからぬ奴だな。我はルアンタではないと、言っただろう』

 私は一喝してみるが、完全に他人を見るような目で、奴は私を一瞥を返される。

 ぐぅっ!

 意識を奪われているとはいえ、ルアンタにあんな目で見られると滅茶苦茶ツラい!

 ちょっと、泣きそうだわ!


「……それで、ルアンタに取り憑いるてめぇは、どこの誰なんだ?」

「イコ・サイフレームに敵対しているような事を、おっしゃっていましたわよね?」

「なんにしても、アタシの弟子からとっとと離れな!」


 先程、不意を突かれて弾かれたシンヤ達も、続々と復帰してきた。

 その様子に、ルアンタ……いや、ルアンタに憑いる何者かが、『ほぅ……』と感心したような声を漏らす。


『なかなかの、手練れ揃いということか。どれ……』

 ニヤリと笑い、ルアンタ(仮)は額に指を当てて、何やら思案するようなポーズをとった。

『ふむ……なるほど……』

 納得するように呟きながら、やがて彼が目を開く。

 それと同時に、(ほとばし)っていた荒々しい金色のオーラが、心なしか穏やかな物になった。


『……依り代となったこの少年の記憶から、汝らが我の敵ではないと判断した』

 ルアンタの……記憶を読んだのか!?

『我の名はゴッドーラ。イコ・サイフレームの使徒に対抗すべく、創造神オーヴァ・セレンツァ様によって生み出された、精神生命体である』

 そ、創造神の!?

 な、なるほど……道理で神の気配がする訳だ。

 ルアンタに取り憑く、ゴッドーラからの予想外の言葉に、さすがの皆も動揺を隠せないでいる。

 しかし、奴が次に放った言葉は、更なる衝撃を私達に与えた!


『今後は汝らも、私の指揮下に入れ。そして、命がけで破壊神の野望を打ち砕くのだ』

「はぁっ?」

 思わず声が出た。

 確かに、私達は破壊神の思惑を阻止するために動いてはいるが、それは自衛のためであって神々の因縁とかは関係ない。

 それをいきなり、出てきて(しかもルアンタの体を使って)言われても、やってられないつーの!


「……なんていうか、『そろそろやろうかと腰をあげようとしたら、早くやれと横から言われてやる気が削げる』みたいな気分だな」

 あー、それそれ。

 シンヤの呟きに納得していると、私達の反応が気に入らなかったのか、ゴッドーラの声は一段階低くなった。


『……我の命令に、背くというのか? それは創造神であるオーヴァ・セレンツァ様に逆らう事と同意ぞ』

「創造神の名前を出せば、誰でも平伏すと思わない事です」

 何せ、こっちはつい最近まで神々の存在なんて、知らなかったんだしね!


「とはいえ、貴方を邪魔するつもりもありませんし、私達は私達で動きます。ですから、さっさとルアンタから離れてください」

『……それは無理だな』

「は?」

『先程も言っただろう?そいつ(ルアンタ)はもういない、と』

「いないって、なんですか!まるで……」

 その嫌な考えに行き着いた時、私は思わず言葉に詰まった。

 しかし、ルアンタの姿をしたゴッドーラは、そんな私を冷たく見下ろす。


『……お前の思った通りだ、ダークエルフ。我がこの少年に乗り移った時点で、この少年の意識は消滅している』

「なにっ!」

 それを予想してしまった、私以外の皆が驚きの声をあげる!

 いや、ミリティアだけは薄々気づいていたのか、不愉快そうに顔をしかめていた。


『あの獣の肉体がダメになりそうな時点で、乗り移るのは誰でも良かったのだがな……そこのサキュバスは論外だし、なぜかこの少年以外は、薄気味悪い気配がして選べなんだ』

 ミリティアやルアンタ以外の共通点……そうか、転生者か!

 前世の記憶を持っている私達は、ある意味で二重の人生を生きている存在だ。

 精神を乗っ取るゴッドーラにとっては、それは気持ちの悪いイレギュラーにしか見えなかっただろう。

 でも、それでルアンタが犠牲になるなんて……。


「いや、マスター殿……ルアンタ殿はまだ、完全に飲み込まれてはおらんぞ」

「えっ!?」

『ふむ……どうやら、そこのダークエルフへの未練で、抗っているようだ。まぁ、時間の問題だがな』

 そ、そっかぁ……ルアンタめ、そんなに私の事が……。

『何をニヤニヤしている……』

「はいっ!?」

 おっと、いけない!

 ピンチなのに、思わず顔がニヤケていたみたいだわ……まぁ、これもルアンタが私の事を好きすぎるせいだから、仕方ない。


『……汝とこの少年は(つがい)……という訳でもないようだが?』

 ルアンタの記憶を覗いたのか、ゴッドーラは不思議そうに首を傾げる。

「フッ……私とルアンタの関係は、そんな簡単に理解てぎる物ではありませんからね」

『どうやらそのようだが……二人きりの時には、随分とイチャついているようだが?』

 って、おいぃっ!

 一応、人目がある時は、厳しい師弟関係を通しているつもりなんですけど!

 プライベートな部分を、人前で暴露するとはどういう了見だ!


『うん?それだけではないな……汝、この少年が寝ている時に、十回に九回はベッドに潜り込んできて、こっそり添い寝しているな?』

「ぐぼっ!」

 突然の告発に、思わず変な声で噴き出してしまった!


「な、な、な、な、なぜそれをっ!?!?」

『なぜも何も、この少年は汝が添い寝してきた時は、たいがい目を覚ましていたからな。汝が驚かないよう、寝た振りをしていたようだが』

 き、気遣っていてくれた訳ね、ありがとう、ルアンタ!


『むしろ、なぜバレていないと思った?睡眠姦こそしなかったものの、あんなにも寝てるのをいいことに、色々としておきながら……』

 いやあぁぁぁっ!やめてぇぇぇぇっ!

 せ、せっかく今まで築き上げてきた、『超絶クールで、ちょっぴり可愛い所もある戦闘教官』といったイメージが、『弟子にイタズラするダメなダークエルフ』に書き換えられてしまうぅぅっ!


 うあぁっ……あんな事を聞かされたら、皆が失望の目で私を見ているに違いない!

 そう、思っていたのだが……。


「うん……まぁ、アンタならそれくらいはやりそうだわ」

「むしろ、一線を超えてないあたりに感心したぞ」

「いつお声がかかるかと、心待ちにしておりましたのに……」

「理性が働いたというより、土壇場でビビったのもしれんのぅ」


 誰も彼もが、たいして驚いてもいなかった。

 あらやだ、思ってたより私に対する皆の理解が深い?


「まぁ、なんにせよ……アタシの可愛い弟子でもある、ルアンタを訳のわからない奴に好きにさせる訳にはいかないねぇ」

 私の事は横に置き、不敵に笑うデューナに同意して、シンヤとヴェルチェも頷いた。

「俺も、もうすぐ父親になるんでな……救われる為に子供を犠牲にするなんざ、格好悪くてやってられんよ」

「ワタクシだって、ルアンタ様のいない人生など、ごめんですわ」

「皆……ありがとう、私とルアンタの為に!」

 ルアンタを見捨てる事なく、神への反抗を口にする皆に、私は感極まって礼を述べる。

 まぁ、返ってきたのは「オメーの為じゃねーよ!」という、きれいにハモった返事だったが。

 ううむ、解せぬ……ツンデレかな?


『……汝らの、行動の意味がわからんな。この少年に免じて、見逃してやろうとも思ったが、邪魔をするなら排除するぞ』

「フッ……そんな事を言っていられるのも、今のうち……」

「ん!?」

「むっ!」

 言い返そうとした私の言葉の途中で、突然シンヤとルアンタ(ゴッドーラ)が、あらぬ方向に顔を向けた!

 そんな二人の様子に、ワンテンポ遅れて私達が目を向けると、この隔離された魔法空間を侵食するみたいに、転移魔法の転移口(ゲート)が現れる!


「ぐふふ……奇妙な気配を感じてみれば、こんな所にネズミが隠れているとはな!」

 転移口(ゲート)を潜り、姿を見せたのはデューナよりも頭ひとつ大きい巨漢!

 しかも、転移魔法とその服装、そして放つ圧力の感じから、奴が名乗らなくても瞬時に理解してしまう!

 奴が、『イコ・サイフレーム十二使徒』の一人だと!


「ほほぅ……貴様らはもしや、ダーイッツやエティスティを倒したという……」

『最大目標を確認。最優先で排除する!』

 まさかの乱入に、三つ巴の戦いを覚悟したその時!

 私達には脇目も振らず、ゴッドーラは真っ直ぐ破壊神の使徒へと襲いかかった!

 そのまま、挨拶代わりと言わんばかりに、敵の顔面を殴り付け、続けざまに密着しながら攻撃を続ける!


「ぐっ!貴様、ワシを誰だと……」

『外見的特長および、魔力の質量から推測するに、標的は十二使徒の内、第十一使徒である「エターン」であると判断』

「ぬっ!」

 その分析が的中したのか、エターンと呼ばれた巨漢は眉を潜めた!

『その能力は、受けたダメージを溜め込み、破壊力に変換して一気に放つ「因果応報」。対処法には、反撃を許さぬ重厚な攻撃を持って、エターンの許容量を超えるダメージを与える事……』

「なっ……ぐあっ!なぜ貴様、ごはっ!そこまで詳しく、ぐおっ!わ、我が能力を……ぐふっ!」


 破壊神の使徒は、防御もろくにできずに、嵐のような攻撃に(さら)され続けられた!

 しかし、いくら敵の情報を持っているからといっても、私達が散々苦労した『イコ・サイフレームの十二使徒』が、こうも一方的になす術なくやられるとは思ってもみなかった。

 ……恐るべし、ゴッドーラ!


『オオォォォォォォツ!!!!』

「………!?!?!!」

 ドンドン激しさを増していくゴッドーラの攻撃は、もはや立っていられずに、エターンが倒れ込んでもは止まる事はなかった!

 完全に抵抗する力を奪うまで、文字通りの拳の雨は降り続ける!

 やがて……。


『………ふぅぅ』

 大きな呼気と共に、ゴッドーラの攻撃が止んだ時。

 すでに原型を留めていないほど、ボコボコに顔を腫らした破壊神の使徒が、無惨な様子で地面にめり込んでいた。

『許容量以上のダメージを与えた事を確認……十二使徒の、活動停止を確認……』

 動かなくなった破壊神の使徒を、つぶさに観察しながらゴッドーラは指差し確認を行っていく。


『さて……次は、汝らがこうなる(・・・・)番だ』

 ポタポタと拳から返り血を滴らせ、無機質な表情でゆっくりとこちらに振り返るゴッドーラ。


 くっ……これは、予想以上の化け物だわ……。

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