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謀殺されてTS転生した魔王の息子が、勇者の師匠になる話  作者: 善信
第十二章 魔獣山脈を越えて
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05 峠道最速伝説

 上空から襲い掛かる者や、左右に並走しながら迫るモンスター達を蹴散らして、私達はようやく裾野の森を抜けた!


 一時的に襲撃も収まり、ここから先は険しい山道になる事もあって、私達は一旦下がって休憩を取ることにする。

 足元に設置してある出入り口を開き、皆は空の荷台の中へと入っていった。

 私もそこで、ルアンタと共に一休みしたい所ではあるのだが……念のためにと、私は皆と荷台の中へと入らず、運転席の方へと移動する。

 ミリティアに知らせるようにノックして、助手席側の窓を開けてもらい、滑り込むように車内へ。

 そうして、運転中のヴェルチェと私で彼女を挟んで、ようやく落ちつく事ができた。


「どうしましたの、エリ姉様……何か問題でも?」

「逆ですよ。何かあった時のために(・・・・・・・・・・)、一人くらいは貴女達を守るために、控えておかないと」

 なにせ、私達の乗っているこのゴーレムの無事は、ヴェルチェのドラテクにかかっている。

 なのに、彼女の側に戦える人材が居ないのでは、もしもの時に対処出来ないではないか。


「ワ、ワタクシの身を案じて……感激ですわ!」

 潤んだ瞳で私を見詰めてくるヴェルチェ。

 って、危ないっでしょうがっ!

「貴女はちゃんと、前を見て運転しなさいっ!」

 私に注意されたヴェルチェは、「てへペロッ♥」といった感じで可愛らしく舌を出す。


「ウフフ、エリ姉様に怒られてしまいましたから、汚名返上と参りましょう。しっかりと、シートベルトを着用してくださいませ!」

 そう告げると、気合いが入ったヴェルチェの顔つきが変わる!


 アクセルを踏み込むと、迫るコーナーに進入!

 正確無比なヒール&トゥでパワーを維持したまま、稲妻のようなシフトチェンジと、絶妙な過重移動で車体を滑らせ、時おり姿を見せるモンスターを置き去りにしながら、グネグネとした峠道をドンドン疾走していった!

 ドワーフが器用なのは知っているけど、この娘はどこの方向に向かって進化していくのかっ!?

 あと、ノリノリなヴェルチェに合いの手を入れるように、ミリティアが「フフフ♪ライジンッサンッ!、ンフフ♪ライジンッサンッ!」と、鼻唄交じりのリズミカルなビートを刻むのは、何なんだろう?

 サキュバス風の儀式か何かな?


 そんな不思議空間に取り残された気分の私は、ようやく横Gにも慣れて窓の外の流れ行く景色に目を向ける。

「……ですが、不思議ですね」

 ポロリと漏れた私の呟きに、ミリティア達が反応する。

「不思議とは……何がじゃ?」

「この道ですよ……私の記憶が確かなら、魔界では二、三百年ほど『魔獣山脈(ここ)』に立ち入りは禁止とされていたハズなんてすがね……」

 にも関わらず、多少は荒れているとはいえ、こんな巨体が通れるような道がまだ健在な事に驚いたのだ。


「ふむう……まぁ、千年以上前の技術で作られた歩道ならば、いまだに道の体を成しておっても、不思議ではないのぅ」

「何ですって!?」

 事も無げに答えたミリティアの言葉に、私達は思わず大声をあげてしまった。

 千年前の技術て……もしも、それが中央では当たり前なのだとしたら、私達がいた地方とでは、どれ程の差があるというのか!?


「だ、大丈夫でしょうか……ワタクシ達、このままでは中央の方々に『田舎から、ようお越しやす』みたいな感じで、上品に愚弄されるのでは……」

 ううむ……ヴェルチェが危惧するのも、無理はない。

「確かに、下手におのぼりさんとして認識されてしまえば、言葉巧みにいらないお土産を買わされたりするかも……」

「なんの心配をしとるんじゃ、あんたらは」

 呆れたようなミリティアのツッコミに、私達は我に返る。


「千年以上前の技術とはいえ、今の者達がその技を受け継いでいるかといえば、疑問じゃな。なんせ、でかい争いでもあれば、失われる技術も多いからのぅ」

 ……それは確かに、あるかもしれない。

 昨年の魔族との戦いだって、仮に魔族サイドが勝利していたら、人間やドワーフの技術がいくつか失われていた可能性が高いもんな。

 勝利者側の価値観に見合うかどうか……それが、後世に残る技術文化の分岐点といったところか。


「ワシも、今の世界の技術がどれ程の物かは知らんよ。しかし、マスター殿達の世界にあった、古代のダンジョンや魔道具のような物が、今の世代に作れはせんじゃろうと思っておる」

 『マリスト地下墳墓』に『ターティズ地下迷宮』……いや、もしかしたら、魔王城の地下にあった、異世界の書物が出てくる転移口(ゲート)も、そんな古代の技術で作られた物かもしれない。

 まぁ、どれも壊滅的な壊れ方をしてしまった訳だけど、改めて考えると、すごい損失な気がしてきたわ(ガクガク)。


 チラリと見れば、物の価値に敏感なヴェルチェの横顔にも、一筋の冷や汗が流れている。

 ……彼女も、壊れた(というか壊した)ダンジョンとかの価値に、気付いてしまったようね。


「……な、なんにしても、中央の人達に田舎者扱いされても泣かないよう、心を強く持って行きましょう」

「りょ、了解ですわ」

 私達は無理矢理に話題を変えて、浮かび上がったヤバいと思う気持ちを、そっと心の棚にあげて、目をそらした。


 ──それからしばらくは、小規模なモンスターの襲撃はあったものの、トラック型ゴーレムはノンストップで順調に進んでいた。

 しかし、ある地点に通りがかった時、突然、周囲の雰囲気が変化する!


「っ!?」

 道の先で、何か巨大な物が道を塞いでいるのに気付いたヴェルチェが、急ブレーキをかけた!

 一瞬、反動で前方に飛び出しそうになったが、シートベルトのお陰で難を逃れる!

 みんなも締めよう、シートベルト!

 しかし、障害物(・・・)と激突する寸前で、止まる事はできたけど……。

 

「こ、これは」

 前方の、道を塞ぐようにして横たわる物の正体に、私達ら絶句する。


 それは、巨大なドラゴンの頭!

 しかも、相当に歳を経た、古竜と呼んでも差し支えないほどに成長していたであろう個体だ!

「こ、こいつは……」

 急停車した事で、いつの間にかトラック型ゴーレムの荷台から降りてきたデューナ達が、ドラゴンの生首を見て、私達と同じように言葉を失っていた。

 しかし……。


「……デュー姉様、気づきまして?」

「ああ……間違いないね」

 ただならぬ雰囲気で、デューナとヴェルチェが言葉を交わしている。

 いったい、なんの事かと二人に尋ねると、彼女達はゴクリと唾を飲んで口を開いた。


前世(むかし)……『魔獣山脈』を攻略しようとした、ボウンズール(アタシ)ダーイッジ(ヴェルチェ)を残して、隊が壊滅したって話は知ってるだろう?」

「その時、隊員を全滅させ、ワタクシ達に重傷を負わせたのが……このドラゴンですわ!」

「な、なんですって!?」

 人違い……いや、ドラゴン違いという事はないのだろうか?


「いいや、間違いないね。あの下顎から頬にかけての傷は、アタシがつけてやった物だからね」

 言われてみれば、目の前のドラゴンの生首には、デューナが言ったような傷跡が残っていた。


 だが、かつて魔界最強の剣士と謳われたボウンズール(デューナ)に、その右腕と呼ばれたダーイッジ(ヴェルチェ)を叩きのめしたドラゴンが、明らかに何者かの手によって殺害されているという状況。

 しかも、まだ流れる血が固まっていない事から、ドラゴンが殺られてから、そう時間が経っていないはずだ。

 つまり……この惨劇を作り出した犯人は、まだ近くにいる!


「皆、周囲を警戒してください!」

 私の呼び掛けに、皆が背中合わせになってあらゆる方角からの攻撃に備えた!


「あ……」

 そして、ルアンタが何かを見つけたのか、小さく声を漏らす。

 皆が一斉に、彼の視線の先へと目を向けると……私達がいる場所から、切り立った崖の上。


 そこには、黄金のオーラを放つ巨大な狼が、何かを咀嚼しながらこちらを見下ろし、静かに佇んでいた。

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