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謀殺されてTS転生した魔王の息子が、勇者の師匠になる話  作者: 善信
第十二章 魔獣山脈を越えて
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04 パーティー開始

 イチャついているシンヤ達はひとまず放っておいて、私達は『魔獣山脈』攻めの布陣を検討する。

 とは言っても、本丸である山脈には私達が赴き、戦いの余波で逃走したモンスターを、麓の森と、そこから街に続く平原に配置した冒険者達で、取り零さないようにするだけという物だったが。


 不馴れな大人数で行うクエストなんだから、混み入った陣形より、シンプルな布陣の方がいいという、私の提案を汲んでもらった形である。

 まぁ、後でシンヤにも意見を聞くつもりだが、おそらく異論はないだろう。


「よし……平地が得意な奴らと、森が得意な奴らに振り分けて、配置の完了まで三日ってところかね。それまでは、ゆっくりと体を休めといてくれ」

「デューナは、まだ忙しいようですが?」

「アタシは、頭としてやる事が多いからね……」

 そう言って、苦笑いしながら退出しようとしたデューナだったが、私はそんな彼女を引き止めた。


「……とりあえず、その小脇に抱えたルアンタは置いていきなさい」

「チェッ……」

 唇を尖らせて、デューナはルアンタを降ろす。

 おそらく、そこでチュッチュッ、チュッチュッやってる二人に触発されたんだろう。

 が、私だって我慢しているんだから、勝手な事はさせない。


「やれやれ、相変わらずルアンタが絡むと目くじら立てるね……。ならルアンタ、後で時間ができたら久々に、アタシと剣の稽古(デート)しようじゃないか」

「は、はいっ!お願いします!」

 元気よく答えたルアンタに、満足そうな笑みを浮かべ、投げキッスをしながらデューナは部屋を後にした。


「では私達も、冒険者達の配置が決まるまで、各々で準備を進めておきますか」

「そうですね」

「ワタクシも、ゴーレムとスーツの調整を済ませておきますわ」

「皆様、お忙しい所を申し訳ございません……」


「っ!?」


 突然、気配もなく私達の会話に交ざってきた人物の存在に、私達は驚きのあまり飛び上がって間合いをとった!

 いったい、何者!……って、この人は、デューナの親衛隊をやっている、『鉄壁のレドナ』じゃないか!

 (ほが)らかな微笑みを浮かべる様子から、危害を加える気はないようだけど、音もなく忍び寄るのは勘弁してほしい!


「ど、どうしました、レドナさん?」

「はい、実は皆様の手が空いた時にでも、我が国で保護している子供達のお世話を、手伝っていただけないかと……」

 思いもよらぬ申し出に、私達は顔を見合わせる。


「お手伝いとは……ワタクシ達の手を借りたいほど、人手が足りませんの?」

「まぁ、常時手は足りないのですが、お世話係エース級のキャロメンス様が、あの様子なので……」

 む……確かに、今の彼女はシンヤに甘える駄犬状態。しばらくは、使い物にならないだろう。

 しかし、あのキャロメンスがそんなに育児熱心だとは、ちょっと意外だった。


「獣人の方々は、小さい子に対して情が深い事が多いですから。まぁ、魔王の一人と呼ばれた御方が、ここまでとは私も思いませんでしたけど」

 その辺は、真・魔王(ママおう)様に似ていますねと、レドナも感慨深げに頷いていた。

 うーん、母性の強いハイ・オーガに生まれ変わったデューナはともかく、キャロメンスがなぁ……やはり、子供ができると違うんだろうか。


「しかし、私は幼児とあまり接した事がないんですが……」

 転生前は魔王の息子、転生後は捨てられたダークエルフ……ルアンタに出会うまで、ほぼ一人で生きてきた私は、幼児の相手なんてした事がない。

 とりあえず、素直に不馴れな事を告げると、レドナは益々体験してもらいたいと迫ってくる!

「子供はいいですよぉ……小さくて、可愛くて、常に全力で……思いきり懐いてくる姿が、たまらないですねぇ……」

 ウフフフフ……と、怪しい笑顔を浮かべるレドナ。

 なんだか、端から見てるとヤバい人にヤバい物を進められてるみたいで、ちょっと怖いわ。


「それに、皆さんもいずれは母親となるんですから、今のうちから経験しておいた方がいいですよ」

 母親……私が!?

 レドナの言葉に、私は思わぬ衝撃を受ける!

 いや、女性に生まれ変わったんだから、確かにそういう事はあるかもしれないんだけど、今の今までそんな可能性について、まったく考えた事が無い私自身に、ちょっとばかり驚いていた。


 多分、未知の領域すぎて、ピンと来なかったんだろうな……。

 何故か小さなショックを受ける私とは違い、ヴェルチェの方はは「いずれルアンタ様とワタクシの間に……」などと呟いて、どうやら乗り気のようだ。


 うーん、生まれ変わってから女の子として育てられた彼女と、ずっと一人だった私とでは、意識の違いに差があるんだろうなぁ。

 そんな事を思っていると、ふとヴェルチェ越しにルアンタと目が合った。

 少し照れたような、それでいて何か期待のこもった彼の瞳を見詰めていると、胸の奥がキュンと鳴り、下腹部が甘く疼く。


 ……そう、だな。

 将来的な事はともかく、機会があるなら色々と経験しておくのは悪くない。

 子供を扱うといった、繊細な動作を学んでおけば、今後なにかの役に立つかもしれないしね!

 誰にとはなく、心中で言い訳めいた事を早口で思いながら、私達はレドナに了承する旨を告げた。


            ◆


 慣れない幼児の相手などをしていてる内に、三日という日々はあっという間に流れていった。

 何て言うか、思った以上に母性が刺激されすぎて、若干混乱するような経験だったなぁ……。

 母性がオーバーブレイクすると、母乳が出るから気をつけろとデューナ達が冗談めかして言っていたが、本当にそういう事はあるかもしれない。


 しかし、そんな穏やかで賑やかな時間は終わりを告げ、いよいよ『魔獣山脈』攻略の朝となった。

 広い裾野の森や、街へと続く平原には、すでにある程度の間隔をもった冒険者達が、モンスターの行方を阻むよう配置されている。

 少し驚いたのは、私が思っていたよりも、数多くの冒険者チームが参加していた事だ。

 貴重な上級モンスターの素材が手に入るチャンスや、女性にアピールしたい女日照りの男所帯にとっては、さほど多くないクエスト報酬でも、参加するうま味は十分にあるらしい。


「それじゃあ、アタシ達も行こうか」

 デューナを筆頭に、『魔獣山脈』へ切り込むのは、私とルアンタ、ヴェルチェにシンヤ、そしてミリティアの六人である。

 本来ならキャロメンスにも加わってほしかったのだが、さすがに身重の彼女を連れてくる訳にはいかないだろう。


「ふうぅ……やはりこの格好の方が、落ち着くわい」

 ドレス姿から、召喚された時のサキュバス衣装に戻った彼女は、助手席にちょこんと乗っている。

 メンバーの中で、はっきり言ってミリティアは戦力としては問題外なのだが、その溢れる知識で謎の発光現象について意見を聞くために、私達に着いてきてもらっていた。

 そんな彼女の隣でハンドルを握り、サングラスをかけたヴェルチェが、参りますわと声をかけてきた。


「ああ、行っておくれ!」

 デューナの返事を合図に、トラック型ゴーレムは動きだし、徐々にスピードを上げていった。

 平地を駆け抜け、森に入ると巧みに木々を避けながらゴーレムは突き進んでいく。

 この巨体で、細やかなコントロール……ヴェルチェのドライビング・テクニックは、確実に上がっているな。

 そんなヴェルチェの運転に感心しつつ、トラック型ゴーレムの荷台の背に陣取った私達は、各々が東西南北を向いてモンスターの襲撃に備えていた。

 まぁ、これだと頭上への警戒が手薄になりそうだが……。


「おいでなすったよ!」

 上からの襲撃の可能性を考えていると、まさに上空から怪鳥タイプのモンスターが、私達に目掛けて急降下してくるのが見えた!

「はっはぁ!景気付けだぁ!」

 雄々しく吠えたデューナが、迫りくるモンスターに大剣を振るう!

 斬光がきらめき、まるでトラック型ゴーレムを避けるように真っ二つになった怪鳥の巨体が、派手な音を立てて地面に落ちていった!

 久々にデューナの剣撃を見たけれど、彼女の腕は落ちていないようだ。


「まだまだ来るよ!」

「これからが、本番という事ですね……」

 私達の言葉を肯定するように、上空を旋回する無数の影と、トラック型ゴーレムに並走して、こちらの隙を伺うモンスターの気配がある。


 しかし、こちらもお迎えの準備は万端だ。

 騒がしくなりそうな戦闘(パーティー)に向けて、私達はとっておきの魔法を用意すべく、高らかに詠唱を始めた!

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