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謀殺されてTS転生した魔王の息子が、勇者の師匠になる話  作者: 善信
第十一章 暗黒界神話
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10 大長老、参入

            ◆


 エティスティを打倒し、操られていた時のシンヤが張った空間魔法を解除して、私達は現実の世界に帰還する事ができた。


 そうして、ようやく落ち着いた私達がしばらくへたり込んでいると、戦闘前に離脱していったインテリジェンス・サキュバス……インちゃんが、召喚主であるオーリウを小脇に抱えて戻って来た。

 妙にツヤツヤしている彼女と、絞り尽くされたようにゲッソリしているオーリウ……何があったか、深くは聞くまい。

 とはいえ、「二時間のご休憩コース」で出ていった彼女達が戻って来たのだから、もうそれくらいの時間は経っていたんだな……。


「おう、そちらの召喚主は正気に戻ったかのぅ?」

 ミリティアがインちゃんに問いかけると、彼女は問題ないと言わんばかりに親指を立ててみせる。

 だが、急にハッとした顔になると、拳の間から親指を見せる握り方へと変化させた。

 それはアウトだ、おバカ!っていうか、なんでその形に変えた!?


「アホウ!良い子が真似したら、どうするんじゃ!」

 慌てたミリティアが、即座にインテリジェンス・サキュバスの頭を叩いてツッコミを入れる!

 するとインちゃんは頭を押さえながら、ミリティアにヒソヒソと耳打ちした。

「……あー、うん。合間合間に下ネタを挟むのは、確かにサキュバスの嗜みじゃがな。時と場合と場所は選ぼうぞ」

 やんわりと諭すミリティアを見て、大長老だけに良識は持っていんだな……と、少しホッとする。


「うう……」

 サキュバス達が騒がしくしたからか、ミイラ寸前のオーリウが、呻きながら目を覚ました。

 そうして、キョロキョロと辺りを見回し、私達の様子からすでに事が終わっているのだと悟ったようだ。


「くっ……不覚!近頃は、『サキュバス使いの勇者』とも呼ばれ始めていたていた私が、こうも簡単に魅了されてしまったとは……」

 え?その二つ名はアリなの?

「皆さんの、お役に立てなかったようで……申し訳ないっ……!」

「い、いえ……相手は破壊神の使徒であり、伝説級のサキュバスです。男性であれば、抵抗できなくても仕方ないでしょう」

 オーリウは悔しそうに拳を握るが、実際のところ、ルアンタやシンヤも簡単に支配されてしまったんだから、彼が操られても非難はできない所だろう。


「そう言ってもらえると、少しは救われます。それにしても、ほんのわずかな時間しか対峙していないのに、この凄まじい疲労感は……」

 恐るべし伝説のサキュバス……などと、オーリウは一人で納得していたが、貴方がそんなに疲労してるのは、たぶん後ろでニンマリと笑ってるサキュバスのせいですよ……?


「……さて、一段落ついたようじゃし、ワシらもそろそろお(いとま)するかの」

 やるべき事は終えたじゃろうとミリティアが告げ、インちゃんもコクリと頷いた。

 だが、ちょっと待ってほしい!今、普通に帰られては困るぞ!

「待ってください、ミリティア!できれば、貴女は残って私達に協力してもらえませんか?」

 私からの申し出に、ミリティアはキョトンとした顔になった。


 そもそも彼女を喚び出したのは、破壊神の情報を持っていそうな者という、条件に合いそうだったからだ。

 そして、ミリティアはこちらの期待以上に、破壊神達の事を知っている。

 このまま、暗黒界に帰す手は無いだろう!


「貴女には、今後も様々な情報を聞かせてもらいたいんです」

「ううむ……しかし、ワシがこのままこちらに居るには、定期的な魔力の供給が必要なんじゃが……」

「構いませんよ。私が、その魔力を供給しましょう」

「ふむう。マスター殿がそう言うなら、ワシとしても是非もない。しばらく、付き合わせてもらうとしよう」

 一応、破壊神の事を知っているだけに、断られる事も覚悟していたが、思ったよりもあっさりと、ミリティアは私の申し出を受けてくれた。

 よし、これで破壊神や使徒達の狙いを挫く、大きな一歩となりそうだ!


 ところで、ミリティアの後ろで、付いてくる気満々といった顔をしてるインちゃんはなんなんだろうか?

「いや、お主は帰れや!」

 振り返ったミリティアにそう言われると、インちゃんは不満そうに唇を尖らせた。

 そうして、ミリティアに近付くと、またも彼女に耳打ちをする。


「『大長老様だけズルいです』って……ワシは、マスター殿の意向に従っておるだけじゃよ」

 それを聞いて、インちゃんは再び耳打をした。

「『私も残って、精気吸い放題したい』って……あのな!サキュバスとはいえ、こちらに喚ばれた以上は、そうそう好き勝手できんわ!」

 またミリティアに説教をされ、インちゃんは、首を(すく)める。

 見た目はおとなしそうなのに、めちゃくちゃ肉食系なんだな、彼女。

 そこはやはり、サキュバスということか。


 それにしても……先程も思った事だが、インちゃんを叱るミリティアは、思ったよりも思慮深いんだな。

 長いことロリババアをやってるだけの事はあると、私は素直に感心してしまった。


「あーもう!召喚主殿!構わんから、この娘を暗黒界に強制送還(かえ)してやってくれ!」

「は、はい!」

 返事をしながら、オーリウが魔法円を展開させると、インちゃんの体は周囲に溶けるように薄くなり、残念そうな表情のまま魔法円(それ)に吸い込まれていった。

「ん。これでよし。手間を取らせて、悪かったのう」

 やれやれとため息を吐き、ミリティアは私達に向き直ると、笑顔で右手を差し出してきた。

「改めて、よろしく頼むぞ、マスター殿」

「ええ。お願いします、ミリティア」

 私は彼女の手を取り、握手を交わした。


「では、マスター殿。ワシをお主の従者としてこの世界に止めるために、正式な契約をしておこうではないか」

 正式な契約か……。

 なんでも、召喚円を作ったオーリウではなく、魔力を供給した私をマスターとしている以上、それを交わしておいた方が、こちらの世界でミリティアの肉体は安定するのだと、彼女は説明してくれた。

 チラリと、召喚魔法に詳しいオーリウに確認の目線を送ってみるが、だいたい合ってるといった感じで首を縦に振る。


 まぁ、不安定な状態でいて、ちょっとした事故なんかで彼女の知識や術が失われるのは困るし、そういう事なら正式契約しておきますか!


 私が同意を示すと、彼女は契約の方法を説明し始める。とは言っても、それほど複雑な儀式などではなくて、要するに私に従う代わりに、彼女に魔力を提供する事を認めるという物だった。

 ふむ、そんな事なら問題はないな。

 もしも、週一で童貞を連れてきて性的に食わせろ(・・・・・・・)とか言われたらどうしようかと思ったが、それも杞憂だったようだ。


「では、契約完了の証として、最初の対価(まりょく)をいただきたい」

「ええ、どうぞ」

 私は目を閉じて、両手を広げる。

 彼女をこちらに召喚した時のように、私から魔力を吸うのだろう。

 しかし、すでに肉体は構築されているのだから、あの時に比べれば、吸われる量はそう多くないはずだ。


 まぁ、これで破壊神についての知識が段違いに入手できるようになるなら、安いものだ……そんな風に物思いに耽っていると、不意に唇に柔らかい物が当たった。

 なにこれ……?と思い、目を開けると、眼前にはミリティアの顔……って、私キスされとるやないかいっ!?


 驚いて引き剥がそうとしたが、急激に魔力を吸われて全身から力が抜けていく……こ、これはヤバい。

 貧血でも起こしたみたいに、グラリと私がふらついた所で、チュポンと湿った音を立てながら、ミリティアは唇を離した。

 ま、まさか、魔力の提供の仕方が、口移しだなんて……。


「はあぁぁぁ………」

 酩酊したような顔色に、トロンと潤んだ瞳で虚空を見ながら、ミリティアは艶の篭った長いため息を吐く。

「な……なんじゃあ、この芳醇でコク深い、極上の魔力は……」

 うっとりとしたまま、夢見心地でミリティアはブツブツと感想を漏らす。

 どうやら、私の魔力は彼女のお気に召したようだ。

 そんな感想の中に、「男の魂のような苦味と、女の肉体に宿る甘さが溶け合うようにマッチしている」という評がチラリと混ざって聞こえたけれど、結構鋭いな!?


「はぁ、たまらん……すまんがマスター殿、もう少しいただくぞ!」

 ちょっとぉぉ!約束が違うんですけど!

 ギラついた目で、再び私の唇を貪ろうとするミリティア。

 マズい、まだ体の自由が……。


 しかし、私に迫るサキュバスの肩を、背後から掴む二つの影があった!


「ワタクシやルアンタ様を差し置いて、エリ姉様へ好き勝手するとは、どういう了見ですの?」

「契約以外で先生に迫るのは、ルール違反ですよ……」

 嫉妬の炎に身を焦がしながらも、裏腹な冷たい表情でルアンタとヴェルチェが、ミリティアを見下ろす。


「ぬぅ……マスター殿とキスしたいなら、後ですれば良いじゃろうが」

「それができれば、ワタクシも苦労はしておりませんわっ!」

 何を主張してるんだ、あの娘は。


「とにかく!これ以上、エリ姉様に何かしようと言うのなら、ワタクシを倒しからになさってくださいまし!」

「面白い……ワシも、障害があった方が燃えるタイプでのう!」

 吠えるヴェルチェに、受けて立つミリティア!


 睨み合う少女達の体が、ジリジリと近づき……ほとんど同じタイミングで地を蹴ると同時に、がっぷり四つに組み合った!

 そんな少女達の勝負を眺めつつ、「愛されてるねぇ……大変そうだが」と呟き、私に同情するような視線を送るシンヤ。

 おかしいな……ちょっと前まで、真面目に破壊神対策が進みそうだと喜んでいたのに、どうしてこうなった……?


 ごちゃついてきた状況に、精神的な疲れを感じた私は、癒しを求めてルアンタの姿を見つめる。

 今の彼は、まるでミリティアから私を守るように、彼女との間に立ちふさがっていた。

 その背中を見ていると、彼の成長が見て取れるようで、なんだか嬉しくなってしまう。


 だから私は、ソッとルアンタの背中越しに囁きかけた。「後で……口直し(・・・)をお願いしますね」と。

 その「お願い」に、彼は耳まで赤くなるほど照れながらも、嬉しそうな顔で頷く。

 私も、そんなルアンタの様子に思わず笑みがこぼれ、騒がしい外野を余所に、二人だけの世界でクスクスと微笑みあっていた。

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