表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
謀殺されてTS転生した魔王の息子が、勇者の師匠になる話  作者: 善信
第十一章 暗黒界神話
119/159

07 神の加護

 狙いは寸分違わず、音速に近い一撃がエティスティを打ち貫く!……はずだった。


「なっ……!?」

「フフッ……」

 私の驚きの声と、エティスティの余裕の声が重なって溢れ落ちた。


 彼女の顔に触れる、ほんの数センチ手前……そこで、私の蹴りは(・・・・・)止まっている(・・・・・・)

 まるで、見えない壁か何かが蹴りを阻むように、不可視の空間が波打って衝撃を分散させていた!

 まだ、風魔法の噴出で推進力が保たれているが、そこから進むどころかエティスティの前髪を揺らすことさえできない!

 こ、これはいったい!?


「無駄よ、お嬢ちゃん」

 諭すように彼女が声をかけて来る。と、同時に、『バレット』に込めてあった風魔法の効力が切れ、推進力を失った私は弾かれるようにして、後方へと跳んだ!

 死霊兵をあらかた倒したヴェルチェの側に着地すると、彼女も困惑した様子で、私とエティスティを交互に見回す。


「いったい……どうしましたの、エリ姉様!?」

「……わかりません。ですが、奴の周囲には目に見えない障壁のような物が展開されているようです」

「その通りよ」

 私の推測を肯定しながらエティスティが、誇るように胸を張った。


「イコ・サイフレーム様の使徒となり、私達は様々な力を授かったわ」

 私……()!?

 それはつまり、彼女以外の連中も、何らかの能力(ちから)を授かっているという事かっ!


「転移魔法や、無詠唱魔法といった、魔法の真髄。そして、私自身が望まない者がこの身に触れられぬよう、主が与えてくれたのが、この『見えざる障壁』という神の加護よ!」

 そ、そんな能力がっ!?

 しかし、私の必殺技が容易く止められた事からも、神の力による加護というエティスティの話は、かなり信憑性を帯びてくる。


「その能力は……」

「魔界剣・回転連撃舞踏!」

 私がエティスティの話に耳を傾け、さらに話し掛けようとしたその一瞬!

 わずかに出来た隙を突くように、突然ヴェルチェが高質化した手刀で斬りかかった!

 だが、やはりエティスティの体まで斬撃は届かず、少しだけ空中に傷のような歪みを残すに留まる!

 しかし、そのわずかな空間の傷も、あっという間に修復されてしまった。


「本当に……触れる事すら出来ませんのね」

 完全な不意打ちだったにも関わらず、攻撃が届かなかった事に、ヴェルチェは舌打ちをする。

 そして、私も同じ気持ちだった。


「もう……やんちゃなお嬢ちゃんね。そんなにお転婆だと、いい女になれないわよ?」

「おあいにく様、ワタクシはすでに二十歳を越えた、立派なレディですわ!」

「えっ!?」

 そこで初めて、エティスティが驚きの声をあげた!


「……ドワーフだとはわかっていたけど、あまりにもチンチクリンだし胸も無いから、まだ子供なのかと思ってたわ」

「し、失礼ですわ!失礼ですわ!第一、胸だってミリティアさんよりは有りますわよ!」

「おい!流れ弾を当ててくるでないわ!」

 横から殴られた形のミリティアが、ヴェルチェに向かって抗議する。

 まぁ、私から見ればどっちも大差はないんだから、揉めなくてもいいと思うんだけどね(胸だけに)。


「ウフフ、ペッタン子同士なんだから、仲良くしなさいな」

「あぁん!? ですわ!」

「昔からそうじゃが、自分の乳がでかいからって、随分と上から目線じゃのぅ、エティスティ!」

 ギラリと光る鋭い視線を、破壊神の使徒(の胸)に向ける、二人の貧乳。

 その目には殺気を孕んでいて、かなりの危険を感じさせる。

 (あぶ)なっ……私も、余計な事を言わなくてよかったわ。


 しかし、そんな二人に睨まれながらも、神の加護に絶対の自信があるのか、エティスティの顔から余裕の笑みが崩れる様子はなかった。

「怖い顔で睨んでも、私には指一本触れられないのよ?」

「そうやって、余裕を見せていられるのも、今の内だけてしてよ!」

「そうじゃ!確かに攻撃は通じんかもしれんが、貴様の方からも大した攻撃はできんじゃろう!」

 ミリティアの言葉に、エティスティは小さく鼻を鳴らす。

 そこは同じサキュバスだけに、攻撃に関して脆弱なのだという指摘は、当たっているのだろう。


「そうねぇ。でも……」

 スッ……と、促すような仕種でエティスティが手を翳すと、またも空中に開いた転移口から、大量の人魂が流れ出してきた!

「なぁっ!」

 たった今、百体近くを倒したのに、まだこんなにいるの!?


「んふっ……残念だけど、私の下僕の数は、一万や二万じゃすまないわよ」

 そんなに!?

 いや、神話の時代から生きてる彼女の事だから、それもあるかも……。

 ハッタリとは思えない、彼女言う数に驚いていると、再び人魂達は百体近い新たな死霊兵となり、エティスティの壁と成るべく立ちはだかる。

 ただ、先程の死霊兵よりも今回は衣装が派手になり、手には武器ではなく光る棒のような物を持っているのが、ちょっと気になる所だ。

 中には、妙に軽快な躍りを披露している奴もいて、なんだかさっきの奴等よりも、得体のしれなさが増している気がするわ……。


「これは厄介そうですね……」

「ええ……持久戦となると、ワタクシ達の方が不利ですわ」

 確かに、死霊兵の一体一体は問題にもならない。が、こちらの体力や魔力に限界がある以上、数の暴力には屈してしまう可能性がある。


「なにより、急いでエティスティを倒さんと、ワシの 『おねーさん先生の、ちょっぴりイジワルいちゃラブ個人授業』と「『巨乳ケモっ娘、乱れ着崩れ誘い受け』の術が解けてしまうぞ……」

 ルアンタとシンヤを抑えているミリティアが、少し焦った様子で私達に声をかけてくる。

 幻影(あれ)って、そんな大人向け書物みたいな術名だったの!?

 まぁ、サキュバスらしいネーミングセンスと言えば、そこまでだけど、この状況でその術が解けてしまうのはマズい。


 暴走する二人に、飢えた死霊兵の群れ……いかに私とヴェルチェ、ついでにミリティアを加えたとしても、大元であるエティスティを倒せなければ、やがて敗北してしまうだろう。

 いけない……もし、そんな事態になってしまったら、よい子は見ちゃいけない『夜の濡れ場で運動会』な案件になってしまうかも!

 ええい、ルアンタ以外にこの身を自由にさせてたまるかっ!


「なんとか、あの『見えざる障壁』を攻略しませんと……」

 そう呟く、ヴェルチェの言う通り、そのままの意味で最大の壁である、あの神の加護をどうにかしなければならない。

 しかし、私やヴェルチェの必殺技を受けても、あの程度では……って、まてよっ!?


 その時、私の脳裏にそれぞれの必殺技を受けた時の、『見えざる障壁』の反応が浮かび上がった!

 私の蹴りの時は、空間が波打って衝撃を逃がしたのに対し、ヴェルチェの斬撃では小さな傷をつける事ができた……。

 つまり打撃ではなく、強力な斬撃、もしくは鋭い貫通力のある一撃ならば、あの障壁を破る事ができるかもしれない!

 しかし……。


「あ……」

 わずかな光明が見えた気がしたが、すぐに新たな問題がある事に気づいてしまう。

 根本的な問題……私一人の力では、出力が足りないのだ……。


「くっ……ルアンタが正気だったら」

「何か、手がありますの?」

 思わず呟きを漏らした私に、ヴェルチェが食いついてきた。

「ええ……彼がいれば、あの『見えざる障壁』を破れたかもしれません」

「そ、それはどういった手段で!?」

「……以前、私達がバラバラに行動した際の、『マリスト地下墳墓』の一件は知っていますね?」

「はい!確か、崩れ落ちる地下墳墓を、ルアンタ様とデュー姉様が力を合わせて……」

 そこまで話して、ヴェルチェはハッとした表情になる。

 どうやら気づいたようだ。その時にルアンタが放った技が、元々は私との合体技で(・・・・・・・・・・)あったという事に(・・・・・・・・)


「本来のパートナーでない、デューナでさえ地下ダンジョンから、地表まで穿ち貫くだけの威力を出せたんです。私とルアンタならば、エティスティの壁も破壊できるかもしれないと思ったんですが……」

 いや、本来の威力が発揮できれば、必ず破壊できるはずだ!

 しかし、今のルアンタは幻術の私に夢中になっている。

 まぁ私に夢中(・・・・)という事実、それ自体に悪い気はしないけれど、現状ではエティスティの術中でもあるという事なんだよな。

 それだけに、ミリティアの術を解いて、解放するわけにはいかない。

 決め手に欠けるこの状況……どうにか突破口はないだろうか。


「……エリ姉様。ワタクシでは、ルアンタ様の代わりになりませんか?」

「なっ!?」

 急なヴェルチェの申し出に、思わず声が漏れた。

 何を言うんだ、いきなり!?

 そう思い、彼女の顔を覗き込むが、その表情は真剣その物だ。

「今のワタクシならば、『美姫装束(プリンセス・フォーム)』も有りますわ!ルアンタ様の代役として、力不足という事はないと思いますの!」

 そうかな……そうかも……。

 

 素早く頭の中でシミュレーションしてみるが、はたして行けるだろうか?

 私とルアンタの立ち位置を修正して計算し、そこにアレ(・・)を使用すれば……。


「行ける……かもしれませんね」

「でしたら、是非!」

 ううむ……結構ハードな事になると思うけど、こうまでやる気を見せてくれてるし、他に手も無さそうだし……。


「……わかりました。貴女の力を、貸してください!」

 勝算の見えた私は、ヴェルチェの手を取って軽く頭を下げる。

「もちろんですわ!兄弟……もとい、姉妹の絆の力を見せつけて差し上げましょう!」

 私の申し出に、「フンス!フンス!」と鼻息も荒く、ガッツポーズを取るヴェルチェ。


 そんな彼女に答えるべく、私も『ポケット』から、特殊な『バレット』を取り出した。

 そう、切り札となる、女神へと至るための『バレット』を。

いつも本作にお付き合いいただき、ありがとうございます。

以前、感想等をいただいた際に、ありがたく参考にさせていただきつつも、筆無精を理由に返信をしていない旨を後書きに書いたりしました。

しかし、ここにきて少々考えを改めまして、今後、感想等をいただけた際には、何らかの返信を返していこうと思うに至りました。

ですので、よろしければ感想、意見などをお気軽に叩きつけてやってください。

なお、それでも一週間以内に返信が無い場合は、「痛い所を突かれて尻尾を巻いた、か弱い生き物」だと憐れみ、そっとしておいていただけるとありがたいです……。

それでは、もう少し本作へお付き合いいただけますよう、精進してまいりますので、よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ