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謀殺されてTS転生した魔王の息子が、勇者の師匠になる話  作者: 善信
第十章 破壊神、復活
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11 使徒の正体

「やりましたね、先生!」

 変身を解除し、笑顔で駆け寄ってきたルアンタに、私もハイタッチで応える。


 ニコニコしている彼の顔を覗き込んでいたが、想定していたより、遥かに高い成果をあげた『同調(シンクロ・)鏡姿(ミラージュ)の型』は、動作だけでなく、心情までも重ねたのだろうか。

 今の私には、ルアンタが思っている事が、手に取るようにわかってしまった。

 だから、彼にだけ聞こえるように、ソッと耳元で囁く。


「ご褒美は夜になってからですよ♥」


 その一言で、真っ赤になって俯くルアンタが愛らしくて、ニヤニヤと微笑んでいた所に、ヴェルチェとシンヤが悠々とやって来た。


「ルアンタ様、エリ姉様、お疲れさまでした!」

「意外と、あっさり倒したじゃないか」

 無惨な姿で倒れているディックスを眺めて、シンヤは呑気にそんな感想を漏らす。

 まぁ、外野からすればそう見えたかもしれないけれど、そんな簡単じゃなかったんだからね?


 ディックスが身に付けていたのが、お遊びの延長……優れた身体能力に頼っただけというカウンター攻撃だったから、その雑な隙を突けたのだ。

 奴が言っていた通り、反撃のみで相手の心を折るという、悪趣味な真似をするには、素の身体能力だけで十分すぎたというのもあったんだろう。

 けれど、 もっと本気で技術を磨かれていたら、結果は逆だったかもしれない……。

 それくらい、手強い相手だった。


 そう思えば、前世で力及ばずに殺されたのも、良い経験だったのかもしれない。

 あれが無かったら、私も今世で鍛えまくろうとは思わなかっただろうからね。


 そんな事を思いながら、前世で私を殺す片棒を担いでいた、ダーイッジ(ヴェルチェ)の方をチラリと見る。

 すると、何を勘違いしたのか、彼女はルアンタの様子を見て頬を染めて、期待するような潤んだ瞳を私に向けてきた。

 いや、貴女には何もご褒美はありませんからね?


「それにしても、あんなカウンター対策みたいな技法を、よく用意してたな」

「いえ……あれは、こういう場合を想定して作った型という訳ではありません」

 シンヤの問いに、私は首を横に振る。


 元々『同調鏡姿の型』は、単純に一対一(タイマン)よりも二人がかりの方が勝てる見込みは大きいとか、同時に別部位への攻撃ができれば有利かな……くらいの気持ちで考案した物だ。

 先に戦ったニーウがそれだけ手強かったという事もあったし、彼女と戦っていたからこそ、破壊神の使徒に対する備えができたとも言える。

 まぁ、こうして実戦で使ってもかなり有効だったから、今後も役に立つだろう。


 その辺りを踏まえて、「ニーウのお陰で対策が練れましたよ」なんて伝えたら、あの小生意気な少女は悔しがるかもしれないな……次に会ったら言ってみよう。


「さて、それでは本命の『ターティズ地下迷宮』の方に……」


 メエェェェ……………。


 ん?

 なんだ、今の羊だか山羊の鳴き声みたいなのは?

 私の言葉を遮って、唐突に響いたその音に、私達が顔を見合わせていると、再び「メエェェェ………」との鳴き声が聞こえた。


 いったい、何が……そう思って声のした方に顔を向けると……。


「メエェェェ!」

 ガクガクと激しく痙攣する、横たわっていたディックスの口から、その鳴き声は放たれていた!

 いや、それだけではない!


 爆発魔法の余波で、焦げていた頭部がメキメキと変形し、禍々しい角の生えた獣のような物に変わっていく!

 さらに頭部だけに限らず、その身を包んでいた衣服が弾け飛ぶと、露になった下半身がみるみる漆黒の剛毛に覆われ、爪先は蹄へと変わっていった!

 全身の筋肉が膨張し、全体的に巨大化ていく中、なぜか腕だけがグングン伸びて元の倍ほどの長さになり、膨れ上がった筋肉は鋼のような色を帯びていく!


「メエェェェ……」

 人間に近かったディックスの姿は完全に失われ、されど獣人とは一線を画す不気味な獣の特長……。

 そして、五メートル以上にまで巨大化した、不吉の象徴とも思える山羊頭の魔人は、恨みの籠った眼で、こちらを睨み付けていた!


「な、な、な、なんなんっすか、あの化け物は……」

 変化したディックスの姿を見て、いち早く後方に避難したキャッサが、震えながら尋ねてくる。が、そんなの私の方が知りたいっ!

 もしくは、あれが破壊神の使徒の正体なのだうか?


 今のディックスよりも、巨大な物やグロテスクな外見をしているモンスターなど、私も数多く見てきた。

 しかし、目の前の怪物はそんな連中とは比べ物にならない、まるで魂が萎縮するかのような圧力を放っている。


「メエェ……」

「っ!?」

 一瞬、奴が目を細めたかと思うと、凄まじい勢いで私の方へ突進してきた!

「くっ!」

 辛うじて避ける事はできたが、こいつ……こんな巨体になっても、スピードが全然落ちていない!?


「メエェェェ!」

 攻撃が避けられたディックスは、その勢いのままに地を蹴ると、無理矢理に方向転換して再び私を狙う!

 まずい!

 まだ、体勢崩れてて、避けるのに不充分だわ!このままでは、まともに食らってしまう!


「先生ぇぇっ!!!!」

 ディックスの鋭い角が私を捉える寸前で、横から飛び込んできたルアンタが、奴を殴り飛ばした!

 スーツを解除していたのに、このスピードとパワーは……私を助けるために、限界を越えたというのかっ!?


「痛っ……先生、大丈夫ですか?」

 無理な力を出したために、負担も大きかったようで、ルアンタは苦痛に顔を歪めながらも、私を気遣う。

「え、ええ……」

 頷く私に、彼はホッとしたようにため息を漏らした。

 こ、この子は……!


 師匠として、無茶をするのは叱らなければならないが、一個人としては、そんな風にダメージ覚悟で助けてくれた事がとても嬉しい。

 これは……後で、ご褒美とお仕置きをしなくちゃな♥


「っと、奴は!?」

 緩みかけた気を引きしめて、ルアンタに殴り飛ばされたディックスの方へ目を向けると、すでに『奈落装束(アビス・フォーム)』を再装着したシンヤが、奴を捕らえていた!


「よっしゃ!今だ、ヴェルチェ!」

「オラアァァ!ですわ!」

 超重量で動きを封じていた所に、ヴェルチェがトラック型ゴーレムで突っ込んでいく!

 巨大化したとはいえ、さすがにその一撃は効いたらしく、ディックスは弾き飛ばされて地面を転がっていった。


「ちっ!今ので異世界に飛ばせると思ったんだが……」

「そんな能力がありますの!?」

 トラック型ゴーレムから降りてきたヴェルチェが、シンヤの呟きに驚きの声をあげる。

「まぁ、トラックに轢かれて異世界転生は、ある意味で定番だからな」

 ああ、そういえば異世界からの書物にも、そんな表記があったっけ。

「知りませんでしたわ、知りませんでしたわ……」

 驚愕するヴェルチェだが、いわゆるただの「お約束」なので、あまり本気で受け取らないように……。


「さて……冗談はさておき、奴さん、あまりダメージを受けてないみたいだな」

「……そのようですわね」

 そんなシンヤ達の視線の先で、ゆっくりと起き上がったディックスが、二人を睨み付けた!

 どうやら、奴は狙いを私から彼等に変えたようだ!


「フッ……ちょうどいい機会ですわ。ワタクシの、新たなるゴーレムをお披露目したしましょう!」

 そう言い放つと、ヴェルチェはパキィン!と指を鳴らして、高らかに叫ぶ!


綺羅星(トゥインクル)号、トランスフォームですわ!」

 すると次の瞬間、彼女が先程まで乗っていたトラック型ゴーレムに細やかなヒビが走り、あらゆるパーツが細々と動き回る!

 そうして、みるみる内に人型のゴーレムへと変化していった!……って、ちょっと待てぃ!

 何をどうしたら、「トラック型(あれ)」が、「美少女型(これ)」に変わるんですかっ!

 ゴーレムと言い張れば、何をやってもいいと思うなよ!?


「これぞ、『姫を模したる(ヴェルチェ・)踊り子人形(オルケストリス)Ⅱ型(セカンド)』ですわ!」

 そんな私の心の声など、微塵も察せず、変形を完了して美少女型ゴーレムを前に、ヴェルチェは堂々と名乗りをあげる。

「 さぁ、参りますわよ、シンヤさん!」

「おうよ!」

 声を交わすと、トラック型から変形した、美しいゴーレムに二人は揚々と乗り込んでいった!

 二人乗り……それがⅡ型(セカンド)の特長か!?


『一気に畳み掛けますわ!』

 大地から、ゴーレムに合わせた双剣を作り出し、ヴェルチェがディックスへ突進していく!

「メエェェェ!」

 ディックスもそれを正面から迎え撃ち、激しい攻防が始まった!


 野生の獣さながらのスピードとパワーで攻めるディックスに対し、軽やかな剣技で受け流して反撃するヴェルチェのゴーレム。

 ド迫力な巨体同士の戦いだったが、拮抗状態は長く続かなかった。


「メエェッ!」

 小さく吠えたディックスの回りに、十数個の火球が出現する!

 無詠唱魔法!あの状態でも使えるのか!?

 浮かび上がった火球の群れは、容赦くヴェルチェのゴーレムに襲いかかり、炎と爆煙で彼女を包み込んだ!


 もうもうと沸き立つ煙で、ヴェルチェの視界を遮ったディックスは、凶悪な角でトドメの一撃を加えんと、体勢を低くして突進しようとした!

 だが、その巨体の動きがピタリと止まる!

「メ……エェェェ……?」

 動こうとするが、まるで何かに押さえつけられているかのように、その場に立っているのがやっとといった感じだ。


「……あれは!」

 その時、私は気がついた。

 ディックスの足元、そこに黒い植物のような影が伸びていて、奴の足に絡み付いている事に。

「あれは、シンヤの『奈落装束』の能力……」

 そうか、そのための二人乗りか!

 おそらく、あのⅡ型のゴーレムは、同乗者の能力を使用する事ができるのだろう。


 そうして、ディックスの動きを封じた所で、爆煙の中からヴェルチェのゴーレムが上空へと舞い上がった!


 上空でゴーレムの手にした二本の剣が合体して、一本の大剣へと変化し、さらに刀身が闇のような漆黒に染まっていく!

 あれは何か、大技を出す前振りか!?


『魔界剣奥義!『綺羅☆(キラほし)流星(シューティング)(スラッシュ)』!』


 漆黒の尾を引く流星となったヴェルチェのゴーレムが、空を切り裂くような大上段からの一撃を、地上のディックスへ振るう!

 単純にして究極!

 シンヤの超重量の能力をも付与されたその剣閃は、ディックスの防御を無視して巨体を両断しながら大地まで届き、激しい爆発のような衝撃と共に、魔獣の肉体を吹き飛ばした!


 衝撃の余波で、凄まじい土煙が辺りを覆い尽くす。

 ……やがて、それが収まった時、ディックスが立っていた場所には、ヴェルチェの必殺剣の破壊力を物語るように、散らばるわずかな肉片と、大地に開いた巨大な空洞だけが残っていた。

 そして、その肉片も、やがて風に溶けるようにして消滅していく。


『完全勝利!ですわ!』

 勝利の声と共に、優雅にポーズを決めるゴーレム!

 ううん、『姫を模したる踊り子人形・Ⅱ型』……おそろしい機体だわ。


「いやはや……ひとまずは、戦いに勝った事、おめでとうございます!ウチもこんなすごい戦いを見たのは、初めてでした」

 勝利した私達の所に、興奮した感じのキャッサが、パチパチと拍手しながら歩み出てきた。

 確かに、勇者の一人とはいえ、こんな戦いは滅多に見る物じゃないだろう。


 そんな、勝利を称えていたキャッサだったが、不意に拍手が止むと同時に、雰囲気が変わった。


「……ところで皆さん。この後、ウチ達がどこを探索するのか(・・・・・・・・・)覚えていますか(・・・・・・・)?」

「どこって……それは『ターティズ地下迷宮』……あ!」

そこで、ようやく事態に気がついた。


 ヴェルチェのゴーレムによる、必殺剣の破壊力で深々と口を開ける巨大な穴。

 それは私達が探索するはずだった、元地下迷宮のなれの果てだったという事に……。

 や、やってしまった……。


 青くなる私達と裏腹に、キャッサの顔は張り付いた笑顔のまま、怒りで赤く染まっていった。

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