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謀殺されてTS転生した魔王の息子が、勇者の師匠になる話  作者: 善信
第十章 破壊神、復活
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09 新たなる使徒、現る

            ◆


 『ターティズ地下迷宮』までは、おおよそ二日ほどかかるという。

 しかし、ヴェルチェのトラック型ゴーレムに乗った私達は、その距離を僅か半日で踏破しようとしていた。


「キャッサさん、『ターティズ地下迷宮』までは、あとどれ程の距離がありますの?」

「あ、あと三十キロほどっすかね」

「でしたら、間もなく到着いたしますわ。皆さん、準備をしておいてくださいまし!」

 キャッサの言葉を受け、トラック型ゴーレムのハンドルを握っていたヴェルチェが、後方のコンテナに控えている私達に、そう促してくる。


 まったく……シンヤから提供された、この異世界の知識を生かした『トラック型ゴーレム』は、本当に大したものだ。

 もちろん、異世界の兵器に似せた私の『重武装(ヘビーアームズ)』の『バレット』のように、動力源に魔力を使っている以上は、本物のトラックとは似て非なる物なのだろう。

 それでも、馬も必要としないし、運べる物量も(魔力さえ枯渇しなければ)比べ物にならないほどだ。

 むしろ、こんな物が普通に普及している、異世界の方がヤバすぎる。

 そんな感想をポツリと呟くと、それを聞き付けたシンヤがそんな事はないぞと、首を振った。


「本物のトラックなら、精製が面倒な燃料が必要だし、舗装された道じゃなきゃタイヤ……車輪が破損しやすいからな。乗ってる連中の魔力だけでバンバン走れて、悪路でも平然と走れる辺りは、ゴーレムならではって事だろう」

 なるほど……互いに一長一短は有るけれど、良いとこ取りができれば、この世界で革新的な物が生まれそうだ。

 いや、私の『戦乙女(ヴァルキュリア)装束(・フォーム)』や、『トラック型ゴーレム(これ)』も十分に革新的なんだけどね。


「さぁ、ラストスパート……飛ばしますわよ。『綺羅星(トゥインクル)号』……あなたに魂が有るなら、答えなさい」

「どっかの、エースなドライバーみたいな事を言うなぁ……」

 ゴーレムを加速させ、楽しそうに呟くヴェルチェに、シンヤはニヤリとしながら言葉を漏らす。

 よくわからないけど、異世界には似たような事を言う、凄腕の運転手でもいるのだろう。

 そうして、私達からも魔力を吸い上げながら、ヴェルチェのゴーレムはスピードを上げていった。



            ◆


 ほどなくして、私達は『ターティズ地下迷宮』の入り口付近へとたどり着いた。

 ここまでの移動に消費された魔力も、乗ってた私達全員から平均的に徴集されていたため、たいして消耗はしていない。

 魔力回復の回復薬でも一本飲んでおけば、完全にフルチャージといった所かな?


 しかし、そんな万全の状態となってトラック型ゴーレムから降りたった私達は、目の前に広がる光景に言葉を失った。


「そ、そんな……」

 絞り出すような悲痛な声が、キャッサの口から漏れる。

 だが、それも無理はない。


 なぜなら、『ターティズ地下迷宮』の入り口近くには、人、人、人……大量の冒険者とおぼしき者達が、死屍累々といった感じで横たわっていたからだ。

 人数的に、十チームほどがだろうか。

 ……恐らく、キャッサからの依頼で、ここの調査に来た者達なのだろう。


 しかし、なぜこんな惨状に……。

 原因を探ろうとしたその時、『ターティズ地下迷宮』の中から、外へと向かってくる足音が私達の耳に届いた!


 もしかしたら、生存した冒険者が戻って来たのだろうか……とも思ったけれど、私達の前に現れた人物を見た瞬間に、冒険者達をやったのは(・・・・・・・・・・)こいつだ!(・・・・・)と、確信する!


「おや……新しいゴミ虫ですか」

 地下迷宮の内側から現れた謎の人物は、私達を見るなりポツリと呟いた。

 長身で細身な、その男の物言い……そして、服装に纏う雰囲気……これは間違いない!

 あのニーウやラサンスと、似たような化け物だ!


「……貴方はもしや、イコ・サイフレームの関係者ですか?」

「んん?……ああ、ひょっとして君達が、ニーウの言っていた、『ちょっとはマシな、ザコお姉ちゃん』とかいう連中かね?」

 少し驚いたように、ニーウの名を口にする男。

 やはりこいつも、『イコ・サイフレーム十二使徒』か!


「お察しの通り、私は『イコ・サイフレーム十二使徒』の一人、第十使徒のディックスという」

 そう名乗った男は、身構える私達を見て力の無い笑みを浮かべた。

 なんだ、その切なそうな表情は?


「……君達も、やはり抗うのだな。だが、そうしてくれると私も多少は救われる」

 なん……だと……?

 何を言っているのかよくわからず、怪訝そうな顔をした私達に、ディックスは語りかけてきた。


「私はね、君達のような地上の者が嫌いではないのだ。しかし、主の命令により君達を絶滅させねばならないのが、ただ悲しい……」

「な……」

 あまりにも意外な事を言うディックスに、私達は思わず言葉を失う。

 ニーウやラサンスみたいに、『イコ・サイフレーム十二使徒』はこちらを虫くらいにしか感じていないと思ったのだけど、こんな奴もいるのか……。


「さあ、無力なりとも全力でかかって来なさい。せめて私も、それに答えよう」

 両手を広げ、まるで迎え入れるように私達と対峙するディックス。

 ううむ、なんだかやりづらいけど、相手は破壊神の使徒!

 戦いは避けられないのだがら、全力で押し通るまでよ!


 私とルアンタは『ギア』と『バレット』をセットし、シンヤは構えを取ってベルトを浮かび上がらせる。


『変身!』


 三人の声が重なり、閃光と共に一瞬で戦闘スーツを纏った私達は、真っ直ぐにディックスへと襲いかかった!

 だが!


「ぐっ!」

「うあっ!」

「がっ!」


 一斉に攻撃を仕掛けた私達は、凄まじい速度の反撃をくらい、それぞれ吹き飛ばされていた!


「ふむ……変わった武装ですが、三人ともこれまで倒した地上の者達に比べると、素晴らしい鋭さの攻撃だ」

 誉めてはいるものの、ディックスの態度は余裕に満ちている。

「な、なんだ……何をされた?」

「何も驚く事はない。ただの、カウンター攻撃だよ」

 立ち上がる私達に、ディックスは授業をする講師のように種明かしをしてきた。


「私は、後の先を取るのが好きでね。そういう戦い方ばかりしていたものだから、いつしか間合いに入ったあらゆる攻撃に、無意識の内に反撃できるようになった」

 自動反撃(オート・カウンター)だとでも言うのか……!?

 それにしたって、私達三人の攻撃全てに、カウンターを決めるなんて、どんな精度をしているんだ!


「君達の攻撃が鋭いだけに、反撃の力も大きくなった。誇っても構わないよ」

 笑みを浮かべるディックスは、たぶん本気で誉めているんだろう。

 それだけに、完全に舐められているというのが、ひしひしと伝わってくる。


「……でしたら、間合いの外からの攻撃はいかがですかっ!」

 トラックゴーレムの影から、ヴェルチェが土魔法を放ち、石の礫をディックスに飛ばす!

 しかし、それは着弾する前に、彼の回りに吹き上がった炎の壁に防がれてしまった。

 やはり、ディックスも無詠唱で魔法が発動できるのか。


「飛び道具の類いは、私の体に届く事はない。そして、私も飛び道具は持っているのだよ」

 言うが早いか、ディックスから無詠唱の炎魔法が、ヴェルチェに向かって放たれた!

 辛うじて、トラックゴーレムを盾にしたヴェルチェだったが、これでは迂闊に援護の攻撃も使えない。


「だったら、これならどうだ?」

 次いで、攻撃を仕掛けようとするシンヤの魔力が、大きく膨らんだ!

 おそらく、彼の『奈落装束アビス・フォーム』の能力で、自重を信じられないくらいに増しているだろう。

 なるほど、確かにあの重さなら、敵のカウンターを受けてもひるまずに、次の攻撃に繋げられるかもしれない。


「ボディが甘ぇぜ!」

「ふっ……」

 シンヤの超重量の拳が、ディックスの体を捉える!

 しかし!


「がっ!」

 神速のカウンターが炸裂し、吹き飛ばされて大地に倒れ伏したのは、シンヤの方だった!


「な……に……」

「先程も言っただろう?君達の攻撃が、鋭ければ鋭いほど、強ければ強いほど、私の反撃(カウンター)も強力になっていくのだよ」

「ぐっ……俺の打撃力をそのまま……いや、お前の力も上乗せして、返したって事か」

「そうだ、私のカウンターは、攻め手の勢いを利用し、隙を突くような類いではなく、受けた攻撃の質までも完全に返す……反撃というよりも、反射に近いな」

 そうか……それで、『奈落装束』の質量の差を利用した、天然の鎧みたいな防御力を持ってしても、奴のカウンターを無効化できなかったのか。

 だが、それではこちらからディックスに対して、攻撃ができないじゃないか。


「ふっ、理解したかね。私に攻撃するという事は、天に唾すれば自分に返って来るのと同じ事なのだよ」

 そう告げると、ディックスは私達の顔をグルリと見回した。

「ふむ……仮面でよくわからんが、気配からして私の好きな表情は、まだ浮かんでいなさそうだ」

「好きな……表情?」

「そうだ」

 コクリと頷いたディックスの顔が、愉悦に満ちた笑みの形に変わっていく。


「私はね、一切の攻撃が通用せず、手も足も出なくなって絶望する、そんな人間達の表情が大好きなのだよ。そして、そんな者達をジワジワと追い詰めていく事が、たまらなく楽しい!」

 あ、悪趣味な……さっき言っていた、地上の者達が嫌いではないっていうのは、そういう意味か!


「フフフ、君達は今までに居なかったほどに強い。それが、どのように絶望の表情を見せてくれるのか、非常に楽しみだ!」

 興奮してきたのか、ディックスの言葉に熱が込もって来ている。

 くそっ、中々の変態っぷりだな!


「ちっ……だが、確かにこちらから打つ手がねぇ」

 舌打ちしながら、シンヤが呟く。

「……いいえ、手はあります!」

 きっぱりと、その言葉を口にした私に、皆の視線が集まった。


「ほぅ……」

 目を細め、楽しげに私を見るディックスを無視し、私はルアンタの肩に手を置いた。

「ルアンタ、アレ(・・)をやります」

「……はいっ!」

 元気よく答えた愛弟子は、私の隣に並び立ってディックスと向かい合う。


「……まさか、二人で同時にかかってくるだけとかいう、愚策ではあるまいね?」

「そのまさか……ですよ。愚策かどうかは、自身を持って味わってもらいますがね」

「やれやれ……まぁ、何を企んでいるのかは知らんが、その自信に満ちた顔が歪むのは楽しみではある、か」

 呆れたように呟きながらも、ディックスは再びその両手を広げた。


「さぁ、来るがいい!」

「ええ、見せてあげますよ。『エリクシア流魔闘術・同調(シンクロ・)鏡姿(ミラージュ)の型』をね!」

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