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謀殺されてTS転生した魔王の息子が、勇者の師匠になる話  作者: 善信
第十章 破壊神、復活
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08 異世界トラッカー

            ◆


「──っ、到着!」

「ハァ……ハァ……ま、参りました……」

 私の隣で座り込み、ルアンタがハァハァと荒くなった呼吸を整えようとする。

 今、私達はようやくラオ自治領の首都(元は王都)に、たどり着いた所だった。


 大まかに、馬を使ったのと変わらぬ速度で進んでいたのだが、途中でモンスターとやりあったりしていた事もあり、結局予定の日数を少しオーバーしてしまった。

 まぁ、それでも遭遇したのが中~上級のモンスターだった事もあるし、討伐の時間を考えれば、逆に通常よりも遥かに早く到着したと言っていいかもしれないけれどね。


「ふぅ……でも、もう少しで先生に勝てそうだと、思ったんですけどね」

「フフ、確かに危ないところでした。まぁ、胸の差での勝利ですから、そんなにがっかりする事はありませんよ」

 胸と聞いてか、つい私の揺れる双丘に目線が釘付けになっていたルアンタだったが、すぐにハッとすると、慌てて顔を横に向ける。

 照れちゃって……可愛いのぅ。


「おう、どうやらエリクシアが勝ったみたいだな」

「それでも、ルアンタ様も惜しい所までいったようですから、素晴らしいですわ」

 一息つきながら待っていた私達の後から、移動用のゴーレムに乗ったシンヤとヴェルチェがやって来る。

 それを見た人間達が、ザワザワと奇異の目を向けながら、遠巻きにこちらを眺めていた。


「……なんだ、あの馬車(?)は……」

「馬がいない、荷台ばかりのようだが、なんで走っているんだ?」

「それに、御者台らしき所に座っている、少女達はいったい……」


 うーん、周辺の住人も戸惑っているなぁ……まぁ、無理もないか。

 移動用にゴーレムを使うなんて、考えるだけでもかなり珍しいのに、ヴェルチェのそれ(・・)は、この世界では見たこともないような形状をしているからだ。


 一見すれば、野次馬が言うように馬のいない荷馬車のようにも見える。

 だが、自走する四角いボディとコンテナは、大量の荷物を輸送するのに長けた形をしていた。

 そう、今彼女達が乗っているのは、異世界の乗り物である『トラック』とやらを模したゴーレムなのである!

 ……いや、ここまで形状が違うと、ゴーレムと言っていいのかどうか、私にもちょっと判断しかねるけど。


 ただ、最初は普通に四足歩行の、馬っぽいゴーレムだった。

 しかし、二日目で走る事をリタイヤしたシンヤが、ヴェルチェに何やら入れ知恵して、この形のゴーレムを作ることを提案したのだ。

 ちなみに、動力源は魔力であるらしく、ヴェルチェに加えてシンヤまで乗っているこのトラック型のゴーレムは、身体強化して駆けていた私達にも悠々かつ快適に着いてきていた。

 その余裕っぷりが、なんだかちょっと悔しい。


 でも、はじめは「そんな武骨な形のゴーレムは、ワタクシに相応しくありませんわ!」などと抵抗を示していたヴェルチェだったが、今ではかなり気に入っているようだ。

 何せ、サングラスまでかけて運転席で決めている彼女は、どう見てもノリノリである。


「ここまで運転してみて、俺の故郷の乗り物……トラック型ゴーレムの乗り心地はどうだった?」

「悪くありませんわね……」

 ハンドルと呼ばれる、円形のコントローラーにもたれかかり、サングラスをずらしながら、ヴェルチェはニヤリと笑う。

 そんな、小さな美少女が操る大きな乗り物という、アンバランスさから生まれるある種のギャップが、妙な魅力で人々の目を引き付けていた。


「やれやれ……変に目立っても、いい事はありません。さぁ、ルアンタ……私達はさっさと汗を流すとしましょう」

「おいおい、ちょっと待てぇ」

 無駄に注目を集める二人とゴーレムから、私達が距離を置こうとすると、それを制する声がかけられる。


「エリクシアさんよぉ、あんた少しルアンタ少年を構いすぎなんじゃねぇのか?」

「……どういう意味です?」

 挑むような台詞を吐きながら、トラック・ゴーレムを降りるシンヤを、私はキッ!と見据えた。


「そのまんまの意味だよ。お前さん、走り込みしてる昼間はともかく、夜までずっとルアンタにくっついて、揚げ句には添い寝までしてるじゃないか」

「弟子の疲れを取るために、処置を施しているんですよ。それに、私がルアンタを構っている事を、貴方に咎められる謂れはありません」

「いいや、あるね!」

 キッパリと言い切ったシンヤは、その理由について語り始めた。


「まず、俺の空間魔法で夜も安心な旅路とはいえ、寝る場所は男と女でちゃんと分けるのがエチケットってもんだろう? 」

 む……それは一理ある。

「それでな、男同士でサシの時に、少年の悩みなんかを聞いてやって、デキる大人な所を見せたりしてさ、もうちょっとルアンタ少年に懐いてもらいたい訳だよ!」

 貴方個人(シンヤ)の欲求なんか、知らんわ!

 だいたい、少し前まで敵対していたのに、甥っ子や姪っ子に好かれたがる叔父みたいな事を言うな、この元魔導宰相は。

 うーん、家族ができると、こういう年下に慕われたい欲求なんかが、強くなるものなんだろうか?


「まぁ百歩譲って、お前さんがルアンタ少年を独占するのはいいとしよう。しかし、四六時中、イチャイチャベタベタされていると、新婚なのに単身赴任状態の俺が辛いの!その辺を、もうちょっと考えて!やくめでしょ!」

 子供かっ!

 気持ちはわからないでもないけど、そういう事を言うんじゃありません!

 

 そもそも、私がなんの考えも無くルアンタに(・・・・・)ベタベタしていると(・・・・・・・・・)思っているのだろうか(・・・・・・・・・・)


「ふぅ……今は話せませんが、私がルアンタに濃厚接触するのは、必要な事だからですよ」

「その通りですわ!」

 おや、珍しくヴェルチェが、私の援護に回ってくれる。

「ルアンタ様もあと数年もすれば、女体に触れて辛抱たまらなくなるお年頃!なればこそ、十八禁(エロス)にならないギリギリの今の時期に、ワタクシを交えてイチャイチャ、ベタベタしておかなければならないのですわ!」

 んんっ、ちょっと違う!

 そういった、セクハラとスキンシップの合間で、チキンレースをしている訳ではないんだな、これが。

 後、ちゃっかり自分を挟み込むんじゃありません!


「……そうやって、思わせ振りな事を言うけど、実は何も考えてないパターンじゃないだろうな?」

「は、はぁ!? そんな訳がないじやないですか!ただ要点は胸中に秘め、むやみに話さないのも作戦の内なんです!異世界の諺にもあるでしょう、『敵を欺くには、まず味方から』と!」

「早口になるのが、逆に怪しいっつーの!」

 ぬぬぬ、このひねくれ者がぁ!

 ルアンタはじめ、デューナやヴェルチェみたいに作戦のためだと言っても引き下がらないのが、まったくもって面倒くさい!

 その小賢しい面構えが、小憎たらしいったらありゃしない……って、元は私の肉体だったわ、ちくしょう!


「あ、あの……」

 ギャアギャアと言い争っていた私達に、ルアンタがおずおずと声をかけてきた。

「往来で揉めていると、色々と目立つので、せめて場所を移動しませんか……?」

 そう言われて気づいたが、いつの間にか私達の回りには人だかりができていて、遠巻きにこちらを見ながらザワザワと賑わっている。


 途端に、我に返ったダメな大人達(わたしたち)は、そそくさと人の輪を抜けると、目指すラオ自治領の代表者の元へと向かった。


            ◆


「よく来てくれた、『真・勇者』ルアンタとその仲間達よ」

「久しぶりですね、ルアンタ君にエリクシアさん。そしてヴェルチェさんに……」

 私達を迎えてくれた、元王であるラオ自治領の代表と、斥候の勇者とも呼ばれる『六勇者』のキャッサ。

 その二人が、デューナではなく見知らぬ人物を一行に加えていることに、少し怪訝そうな顔をしていた。


「ああ、彼の名はシンヤと申します。見ての通り魔族ですが、一応は信用に値しますよ」

「一応ってなんだよ……もっと、全面的に信用しろっつーの……」

 シンヤはこっそり憤慨するが、一年前まで魔族とは戦争をしていた訳だし、人間界においてもっとも魔界から離れているこのラオ自治領では、まだ偏見の目も多いと聞く。

 だからそこ、私が間に入って心配ないよとアピールしていたのだから、むしろ感謝してほしい。


「ふむ……まぁ、デューナ殿も魔界を統べる『真・魔王(ママおう)』に就任したし、今までのように自由には動けぬか」

 わかるわ~……と、実感のこもった呟きを漏らしながら、ラオ代表はひとり納得して頷いていた。


「さて、この度は破壊神なる謎の相手に対し、また君達に多くの負担を担ってもらう事、大変に感謝する……。本来なら歓迎会でも開きたい所なのだが、現状ではそうもいかなくなりつつあってな……」

「その原因が、これなんす」

 ラオ代表の後に続いたキャッサが、懐から一通の手紙を取り出す。

 あれは確か……数日前にルアンタが彼女に宛てて出した、『ターティズ地下迷宮』に関して情報を求めた手紙か。


「ルアンタ君達からの質問に答えようって、最新の『ターティズ地下迷宮』の調査依頼を、冒険者ギルドに発注したんすけど……」

 若干、歯切れが悪くなりながらも、キャッサは言葉を続ける。


「依頼を受けて、数組の冒険者チームが地下迷宮に向かったのですが……どうやら、全滅したみたいなんす」

「なんですって!」

 思わず、私は声をあげていた。

 冒険者もピンキリではあるけれど、彼等は自分達の実力に見合った依頼を受けているはずだ。

 それだけの実力と、依頼達成の自信を供えた連中が、まさか全滅するとは……。


「ウチも以前に、『ターティズ地下迷宮』に潜った事があるんすけど、それほど難易度が高い場所じゃあなかったはずです。いったい、何が起こったのやら……」

 ふむ……キャッサの言葉が真実だとすれば、向こうで相当な異変が起こっている可能性か高いな。


「ですから、ウチが先行して偵察に向かうっす。皆さんは、少し体を休めてから、地下迷宮に向かってください」

「何を言ってるんですか。私達も同行した方が、効率はいいでしょう?」

「そう言ってもらえんのは、ありがたいんすけど……万が一、不測の事態になった時のためにも、皆さんには万全の体勢でいてほしいんす」

 むぅ……その言い分はわかるわ。

 確かに、訓練も兼ねて走ってきた事もあってか、今は少し疲れてはいるしね……だが。


「とは言え、この緊急時にゆっくりもしていられないでしょう?」

「それはそうですが……ここにいる皆さんを運ぶとなると、それなりの馬車を手配するのにも時間がかかりますし、何より現場に向かうスピードが遅くなってしまうっす」

 ううん、それもそうか。

 かと言って、また走って体力を消耗しては本末転倒だし……。


「……ようは、休みながら移動できる手段があれば、よろしいのですわね?」

 話を聞いていたヴェルチェが、スッと間に入ってきた。

「ワタクシの『綺羅星(トゥインクル)号』でしたら、皆さんを運ぶ事など、雑作もありませんわ!」

 あ、そうか!

 彼女の新しい、トラック型ゴーレムなら、輸送スピードも消耗もクリアできるわ!

 にしても、『綺羅星トゥインクル号』って……名前まで着けて、めちゃくちゃ気に入ってるじゃない。


「だ、大丈夫なんですか?」

「ワタクシに任せておきな。ですわ!」

 答えながらサングラスをかけ直し、ハードボイルドを気取ったヴェルチェが、ニヤリと不敵に笑う。

 やだ、かっこいい……。


 そんなヴェルチェに、全員がキュン!としながらも、早速『ターティズ地下迷宮』に向かうべく、私達は行動を開始した。

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