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謀殺されてTS転生した魔王の息子が、勇者の師匠になる話  作者: 善信
第十章 破壊神、復活
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07 いざ、ラオ自治領へ向けて

            ◆


 ──翌朝。

 ニコニコと満面の笑みを浮かべ、上機嫌&艶々している私とヴェルチェに、少し疲れた表情ながらもポーッとした上気したルアンタ。

 そんな私達を見て、シンヤは若干引いたような顔をしていた。

「お前ら、まさかとは思うが……」

 恐る恐る尋ねてくるシンヤに、私とヴェルチェは小さく笑って見せる。


「ご安心くださいまし、無理矢理に手込めにするような、無粋な真似はいたしておりませんわ」

「フフフ……ただ、一緒にお風呂に入ったり、ひとつのベッドで添い寝したりして、ベッタベタに甘やかしてあげただけです」

「……それだけの割りには、妙にツヤツヤしてるじゃねぇか」

「これだけフレッシュな『ルアンタ成分』を摂取すれば、お肌がツヤツヤになるのも当然というものでしょう 」

「まったくですわ!まったくですわ!」

「お、おう……」

 ヤバいな、こいつら……などと言葉を漏らしながらも、シンヤはルアンタの肩を叩く。


「おい、ルアンタ少年。精神的にキツくなったら、いつでも相談してきていいからな」

 むっ、なんだそれは。

 まるで、私達がルアンタを精神的に、追い詰めてるみたいじゃないですか?


「あ、ありがとうございます、シンヤ……さん。でも、先生は僕が本当に嫌がるような事は……してませんから……♥」

「そ、そうか。まぁ、本人がそう言うなら、構わないんだが……」

 キラキラした瞳で頬を染めるルアンタの姿に、ため息を吐きながらシンヤは微妙な顔つきをしていた。

 

「フフッ、ルアンタ様を心配なさっているようですが、実は美女二人(ワタクシ達)に囲まれているのを、羨ましく思っているんじゃありませんこと?」

「俺は、体毛と胸の薄い女には興奮しないタチでな」

 挑発するヴェルチェに対し、割りと業の深い性癖で返してくるシンヤ。

 ルアンタをどうこう言う前に、こいつも大概だわ……(ゴクリ)。


「旦那様……」

「ん?」

 噂をすれば、なんとやら。

 私達……というか、シンヤを見送るために、キャロが姿を現した。

 ちなみに、デューナやアーレルハーレ達は、この場に来ていない。

 国に戻ってからの破壊神対策のために、様々な準備や支度があるために、見送りなんてやってる暇はないそうだ。

 ぐぬぬ……忙しいのはわからないでも無いが、キャロだけが見送りに来ていると、なんだか負けた気になってくる。


「ご武運を、どうか……」

「任せておけ、お前と子供を……ついでに世界も守ってやるさ」

 シンヤはソッとキャロを抱き寄せ、身を預ける彼女の体を優しく撫でる。

 見詰め合う二人の目には、お互いしか映っておらず、やがてどちらからともなく顔を近づけると、何度も「チュッ♥チュッ♥」とキスを交わし始めた!

 ええい、子供(ルアンタ)の前で、羨まけしからん!


「くっ……ルアンタ!私達も、イチャイチャしますよ!」

「え、ええっ!?」

「ラブシーンには、ラブシーンをぶつけるんですわ!」

「ぶ、ぶつける意味がわかりませんよ!」

 大丈夫、意味なんてない!

 たんに、シンヤ達のラブラブっぷりに、影響されただけだからねっ!


「安心してください、ルアンタ。無茶な真似はしませんから!」

「その通りですわ!どちらかと言えば、精神的に満たされるための濃厚接触ですので、ご安心くださいまし!」

「そ、その割りには、なんだか目が怖いですよ……」

「気のせいです!」

「気のせいですわ!」

 わずかに怯えるルアンタに、ジリジリと迫る私とヴェルチェは、肉食獣さながらの勢いで、飛びかかっていった!


            ◆


「……子供と一緒に待っています、旦那様の帰りを」

「おう!もっとも、生まれる前に、さっさと終わらせて帰って来るかもしれないけどな」

 ようやく満足したのか、シンヤとキャロはその身を離した。


「……で、お前らは何をやってるんだ?」

「何を……って、ただのスキンシップですが?」

 堂々と告げる私を、シンヤは胡散臭い物を見る目で見てくる。

 上気し、満足気な顔の私とヴェルチェに、お姫様抱っこのような体勢で両手で顔を隠しながら、私の腕の中に抱えられているルアンタ。

 どこからどう見ても、弟子と師匠(+おまけ)のスキンシップ後の光景にしか見えまい。


「昼間から、何をやってるんだか……ちゃんと空気を読めよな!」

「読んだから、こうなったんですよ!」

「貴方が、言えた義理ではありませんわ!」

 最初に、チュッチュッと始めたのは自分だろうに……。

 そこからは、売り言葉に買い言葉。

 つい、相手に対して反論しているうちに、口喧嘩の様相を呈してきた。

 だが……。


「……あの、いい加減に言い争うのはそのくらいにして、出発するようにしましょう?」

「あ、はい……」

 最年少のルアンタに諭されて、正気に戻ったダメな大人達は、静かに頷くしかなかった。


            ◆


「ああ、そういえば……シンヤ。貴方にも、これを渡しておきます」

 私は以前から予備として作っておいた、簡易式の収納魔道具である『ポケット』を、彼に手渡した。

 予備というのもあって、本来の『ポケット』に比べれば、収納能力は三割ほど落ちるが、この旅の道中くらいなら十分だろう。


「おお!これが、収納魔法を付与した魔道具か!」

 嬉しそうに、シンヤは『ポケット』を眺め回す。

 確か、この世界に来てから同じような物を作ろうとしていたが、いっこうに上手くいかずに断念していたと言っていた。

 成功例の実物を見て、テンションが上がっているんだろうが、私から言わせれば失敗の副産物で空間魔法を作るんだか、そっちの方がヤバいと思うわ。


「できれば、作り方の方も教えてもらいたいんだがな……」

「それは企業秘密です」

「ちぇっ……」

 きっぱりと断る私に、シンヤは拗ねた子供みたいな声を出した。

 前にも誰かに言ったような気がするが、誰に対してであろうとも、私は『ポケット』の作り方を教えるつもりはない。

 この手の物の作り方が下手に広まってしうと、荷物の持ち運び以外に、違法な密輸や暗殺に使われる事になるだろう。

 だからこそ、製造法は私個人が独占し、使う者の魔力に合わせたオーダーメイドにする事で、技術の拡散を防いでいるのだ。

 決して、量産するのが面倒だからではなく!


 とりあえず、『ポケット』の使用方法をシンヤに伝え、不具合はないか試してみてもらう。


「うん、かなり良い。まるで、四〇元ポケットみたいだな」

 ちょこちょこと荷物を出し入れして、シンヤはそんな感想を口にする。

 異世界の書物に載っていた、猫と言い張る青い動物(?)のアレか……。

 まぁ、確かに似てるというか、参考にはしているけどね。


「これで、旅の道中は随分と楽にはなるな」

「ええ、では準備も整いましたし、行くとしましょうか」

 目指すラオ自治領までは、街道を馬で五日ほどの距離がある。

 うん、じゃあそれくらいの日数で(・・・・・・・・・)到着するのを目指すか(・・・・・・・・・・)


「……おい、ところで移動手段はどうするんだ?」

「ん?決まってるじゃありませんか」

 そう答えながら、私は自身の足を示すようにペチペチと叩いてみせる。


「まさか、徒歩だって言うのか!?」

「歩いて行くなんて、悠長な事はしませんよ」

「だ、だよな……」

「走って行きます」

「っ!?」

 ギョッとした顔で、シンヤは私を見た!


「修行には、ちょうどいいですよね」

「っ!?!?」

 次いで、私に同調するルアンタも、ギョッとした顔で覗き込む!


「マジかよ……」

「マジです」

 冗談など微塵も感じさせず、当然だといった私達に対して、シンヤは引きつった表現を浮かべた。

 んもー、肉体労働で鍛えていたって言ってたんだから、これくらいは平気でしょう?

 そう尋ねると、レベルが違うとあっさり否定されてしまった。


「どっちかというと、俺って文官系なんだがな……それでも、家族のために、やるしかねぇか!」

 だが、すぐに覚悟を決めたのか、もしくは開き直ったのだろう。

 軽く柔軟運動をしながら、シンヤは私とルアンタの横に並んだ。


「ワタクシは、移動用のゴーレムで参りますわ。キツくなった方は拾って差し上げますので、声をかけてくださいまし」

 全体的に体が小さく、肉弾戦を行う訳でもないヴェルチェにとっては、無理に修行する必要はない。

 むしろ、遅れて足を引っ張るよりは、よい判断をしているだろう。

 途中で潰れたら運んでくれと、すでに予約を入れているシンヤはどうかと思うが。


「さあ、行きましょう」

 促す私の言葉に、皆は頷いてみせる。

 ……ラオ自治領、そして真の目的地である『ターティズ地下迷宮』。

 そこに、どんな脅威が待ち受けているかはわからないが、いかなる困難でも打ち砕き、必ず神獣や破壊神を止めてみせる!

 ルアンタと、平和にイチャつくためにも!


 胸に宿した決意と共に、私達はラオ自治領へと向けて、歩を進めるのだった。

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