06 新たな目的地
◆
破壊神に繋がるヒントを探すため、『太古に滅びた文明』が作ったと思われる、ダンジョンの割り出しを依頼してから、二日ほどが過ぎた。
その間、新たに仲間に加わった、オルブル改めシンヤから、様々な異世界の知識に着いて話を聞いてたため、それなりに充実はしていたのだが……驚くべき話が多かったわ。
特にあり得ないと思ったのが、一般人が趣味で仮想軍事訓練をしているという事。
ゲームだとかで人が集まり、実際に野山を駆け巡る事もあれば、仮想空間で通信とかいう技術を用いて、戦争を遊びとして行っているという。
まぁ、それがどのような物で、どれほど実用的なのかは、いまいちピンと来ないけれど、かなり優れた体験ができる代物らしい。
多少は異世界の情報に触れていた私だから、一応は納得できたが、他の皆は「それで立身するわけでも無いのに、何でわざわざ……?」と、変人を見るような目で見ていた。
まぁ、普通はそう思うよね。
しかし……彼はオルブルをやっていた時に、様々な作戦や計画を立案していた事から、私はシンヤを異世界の軍人か何かだと思っていた。
それに、こちらに流れ着いてきたそういった書物についても、専門の軍人が書いているのだと思っていたのだけれど……そうか、一般人が。
あらためて、ヤバいな所だな異世界は。
そんな風に、穏やか(?)な時間を過ごしていたのだが、ついに古代のダンジョンらしき場所の情報が、私達の元に届く!
普段からモンスター退治の傍ら、ダンジョン探索などをしている冒険者達といえど、そんな珍しい案件については、中々に難しいかもしれない……そう思っていたのだが、案外早く判明したなぁ。
うん、普通の冒険者も、中々やるものだ。
「それで、場所はどこなんだ?」
「ええ、届いた資料によれば……」
私は、紙の束をパラパラとめくる。
「人間達の領域で、元ラオ国……現在はラオ自治領の南にあるという、『ターティズ地下迷宮』が私達の探す条件に合っている可能性が、高いそうです」
「『ターティズ地下迷宮』……ですの?」
怪訝そうに小首を傾げるヴェルチェに、私はコクンと頷いて見せた。
資料によれば、その地下迷宮からは時々、魔力も無いのに異様に硬い武具や、通常よりも遥かに出力の高い魔道具など、謎のお宝が回収できるそうだ。
それに、その内部は悪辣な罠はびこり、強力なゴーレムひしめく、かなり難易度の高いダンジョンでなのだという。
ふむう……なんとなくではあるけれど、確かに現代とは違う雰囲気を持ったダンジョンのように思える。
確か、『マリスト地下墳墓』も、無限にアンデッドが沸き出る仕掛けがあったらしいし、これは当たりかもしれない。
「ゴーレム……ワタクシが、さらに良質な機神を生み出すヒントが、得られるかもしれませんわね」
土の精霊魔法で、ゴーレムを生み出して戦うのがヴェルチェの戦闘スタイルだけに、古代文明のゴーレムには興味深々といった感じだ。
あの、趣味丸出しなゴーレムを、さらにドレスアップする事とか考えているのかもしれないな。
まぁ、なんにしても、このダンジョンを探索する事で、少しでも破壊神の事がわかれば、儲け物である。
何しろ、今の所わかっていると事柄と言えば……。
・どうやら女性らしい
・十二使徒と呼ばれる、手練れな部下がいる
・オネショして、部下に責められていたっぽい。
……くらいの事しか無いのだから。
うーん、改めて思い返してみても、ろくな情報が無いな。
これから向かう遺跡には、できれば破壊神本人についての、有益な情報があればいいのだけれど……。
しかし、トラップ満載の地下ダンジョンというのが、少しばかり気がかりである。
自然の中の天然ダンジョンなら、エルフの感覚器官を持を駆使すれば、罠や危険なポイントの回避は可能だが、地下迷宮となれば話は違ってくるからだ。
一応、何度か冒険者による調査は入っているらしいけれど、『マリスト地下墳墓』の例を見ても、真の目的地にたどり着くためには、隠し通路などもチェックしなければならないだろう。
そういった、地味で時間のかかりそうな作業も待っているのだから、なんとも気が滅入る事である。
「……ラオ自治領へ出向くなら、キャッサさんの協力を仰いでみるのはどうですか?」
面倒な探索を前に、やや曇り顔になっていた私に、ルアンタがそんな提案してきた。
キャッサ……ああ、確か探索に優れた『勇者』の一人だっけ。
「『マリスト地下墳墓』の、隠し通路を見付けて来たのは彼女ですし、同じような古代のダンジョンでもきっと頼れると思います」
なるほど、その道のプロを頼るというのは悪くない。
万が一、協力を得られなくても、探索に優れた『勇者』なら地元のダンジョンの情報を持っているかもしれないから、会ってみて損はないか。
「それは、いいアイデアですね!」
「それじゃあ、僕はキャッサさんに宛てて手紙を出しておきます!」
そう言うが早いか、ルアンタは急いで部屋から出ていった。
そんなに、慌てなくてもいいのに……。
そんな時、ルアンタを見送りながら「ククク……」と小さく笑っていたシンヤと、ふと目が合った。
むぅ、何を笑っているんだ、こいつは……。
「おっと、そう睨むなよ。あのルアンタ少年が、なんとも可愛らしい行動をとるから、微笑ましくてな」
あ、いつの間にか睨んでしまっていたか……それより、ルアンタが微笑ましいとは?
ま、まさか、そっちの趣味が!?
「それはねぇよ!」
私の心を読んだのか、シンヤはキッパリと否定した。
そうして、ひとつため息を吐くと、私に向かって解説を始める。
「ここの所、お前さん達は俺の話に夢中だったろ?」
「ええ、まぁ……」
「異世界のお話、中々に楽しめましたわ」
私とヴェルチェが賛同すると、シンヤは「それだよ」と指摘する。
「大好きなエリクシア先生が、他の男との会話に夢中になってる。それを面白くないと思いつつ、なんとかお前さんの気を引こうと、お役に立ちますって頑張ってるのさ」
……それはつまり、あれですか。
ヤキモチを焼いたり、私に振り向いてもらおうとアピールしているという事ですか。
「くはっ!」
全てを理解した瞬間、私は胸を押さえて崩れ落ちそうになった!
「エ、エリ姉様!?」
慌てたヴェルチェが駆け寄ってくるが、私は心配いりませんと片手をあげる。
「ハァ……ハァ……だ、大丈夫です。ルアンタがあまりにも愛しくて、胸キュンで心臓が止まりかけただけですから……」
「死にかけてるじゃねーか!」
シンヤがツッコミを入れてくるが、私にそれを返す余裕はなかった。
んんんもぉぉぉっ!!!!
なんなの、ルアンタは!可愛い過ぎるっつーの!
あと、私の事を好き過ぎるっつーの!
そりゃ、ここの所どっちも忙しくて、なかなか会えない日ばかりではあったけどさぁ!
そんなに私のために一生懸命になられたら、我慢していた愛でたい気持ちが、止まらなくなるじゃないですかっ!
あー、まずい。
このままでは、前世魔族だった時と、ダークエルフの補食本能がタッグを組んで、ルアンタを「補食しろ♥」と荒ぶりそうだ。
「むむ……エリ姉様が愛のハンターになりそうな気配……その際には、ワタクシも交ぜていただきますわ!」
やはり私と同じく、前世で魔族だったヴェルチェが、何かの気配を感じたのか、突っ伏したまま吐息を漏らす私を見て、ニヤリと笑った。
んん、本来なら「寝言は寝てから言いなさい」と突っぱねる所だが、ここは彼女にも手伝って貰った方がいいかもしれないな……。
「……お前ら、子供にトラウマ植え付けるような真似は、してくれるなよ」
何か、危ない奴を見るような目で、シンヤは言葉をかけてくるが、当然そんなつもりは毛頭ない!
「もちろんです!むしろ、人生最良の記憶として、永久保存させてあげますよ!」
「その通りですわ!もしも走馬灯をみた暁には、思い出筆頭にくるくらいの、いい思い出を焼き付けて差し上げましょう!」
「ダメかもしれんな、こりゃ……」
ルアンタを、どう可愛がってあげようかで盛り上がる私達を見て、シンヤはため息を吐きながら頭を押さえていた。
「あー、お前らさぁ……これから破壊神の謎を調べるためにダンジョンに行くんだから、せめて体調管理だけはしっかり頼むぞ」
私達……というよりは、旅の成否を心配するシンヤは、そんな事を言って気を引きしめようとする。
だが、そんな彼に対して、私達は……。
「破壊……神……?」
「ダン……ジョン……?」
ルアンタの事しか考えられなくなっていた私達は、なにそれ美味しいの?といった感じで首を傾げる。
「目的を見失うレベルで、浮かれてんじゃねえぇぇぇぇ!!!」
そんな私達に向けて、絶叫とも思えるシンヤが放った悲痛なツッコミが、遠い空までこだましていった……。




