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謀殺されてTS転生した魔王の息子が、勇者の師匠になる話  作者: 善信
第十章 破壊神、復活
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03 十二使徒の実力

「まったく……数日ほどは、余裕があるんじゃなかったんですか?」

「ニーウちゃんのもっとーは、面倒くさい仕事はさっさと終わらせる、だもん。特に、それがゴミ掃除とかだったら、早くきれいにしてイコ・サイフレーム様に誉めてもらうんだぁ♥」

 なんて、仕事熱心な少女だろうか。

 しかし、駆除対象側(・・・・・)としては、もうちょっと手を抜いてほしいものだ。


 それにしても、破壊神の使徒なんて名乗るくらいだから、きっと見た目ではわからない、特殊な能力を持っていてもおかしくないだろう。実際、転移魔法だけでも十分とんでもない訳だし。

 しかも、今の状況もよろしくない。

 室内に加え、国のトップが集まっているこの場では、派手な魔法が使えない以上、戦力になりそうなのは、私、ルアンタ、デューナの三人くらいか。


「それじゃ、パーっと殺っちゃうよぉ!」

 そう明るく宣言し、両手を掲げたニーウの頭上に、突然巨大な炎の塊が生まれた!

 これは……無詠唱魔法!?

 いや、確かに無詠唱でも魔法が使えなくはないが、普通ならこれほどの高出力は出ないはずなのにっ!


 なんにせよ、こんな場所であんな威力の魔法が発動したら、私達はともかく、非戦闘員はタダではすまない!

 それを覚った私とルアンタは、同時に高速詠唱で魔法を練り上げる!


「キャハハハ! 魔法を使うのにイチイチ詠唱とか、ザコすぎぃ♥」

 ええい、やかましい!

 こちらを(あざけ)るニーウに苛立ちを覚えつつも、必死の高速詠唱で完成した防御魔法が、私達を包み込んだ!


「めっちゃ必死で作ったみたいだけどぉ、ザコお姉ちゃん達ごときの防壁で、ニーウちゃんの魔法に耐えられるかぁ……しょーぶだよぉ♥」

 余裕の笑みを崩さぬままに、ニーウから放たれた魔法の業火が私達を呑み込む!

 さらに、膨れ上がった炎は大きな爆発となり、轟音と衝撃を持放って、私達がいた城の一室を粉々に吹き飛ばした!


「………………わぉ」

 瓦礫の散乱し、風通しの良くなった部屋の跡。

 そこに、防御魔法で彼女の魔法に耐えきった私達を見て、ニーウは驚いたような、それでいて感心したような、なんとも微妙な呟きを漏らした。

 って言うか、なにこの威力は!?

 極大級とまでは言わないけど、それに準ずるほどの威力を無詠唱で発動させるなんて、どんな化け物よ!?


「すご~い!まさか詠唱なんてするザコザコなお姉ちゃん達に、ニーウちゃんの魔法が防がれるなんて、予想外だよぉ!」

 少しばかり芝居がかった動作を交えて、ニーウは驚きを口にする。

 だが、その表情が悪寒を感じさせる、冷たい笑みに変わった!


「それじゃあ、もう一発試しちゃおうかな~♥」

 そう告げた彼女の手の先に、再び炎の塊が浮かび上がる!

 ウソっ!連発できるのっ!?

 さすがに、私もルアンタも防御魔法の詠唱が追い付かない!

 一瞬、死のイメージが頭に浮かんだ、その時!


「レドナっ!」

「はいっ、デューナ様っ!」

 デューナの呼び掛けに答えた彼女の部下が、防御魔法を発動させる!

 再度、ニーウの放つ炎が私達を襲うが、レドナと呼ばれた彼女の防御魔法は、その炎を見事に防ぎきってくれた!


「うっそー!?」

 さすがに、今度こそ本気で驚いたらしいニーウは、見た目相応な反応で、目をぱちくりさせている。

「『真・魔王(ママおう)』デューナ様の親衛隊、『鉄壁のレドナ』!この二つ名は、伊達ではありません!」

 むう!言うだけあって、大した防御魔法だ。

 魔界に、まだこんな優れた使い手がいた事にも驚きだが、それを見つけてきたデューナも大したものだわ。

 そして、レドナの防御に驚いたお陰で、ニーウに一瞬の隙ができた!


「ルアンタ!」

「はい!」

 私とルアンタは『ギア』を取りだし、『バレット』を起動させる!

 『戦乙女(ヴァルキュリア)』と『勇者(ブレイブ)』の二つの音声が響き、次いで私達の声が重なった!


「変身!」


 まぶしい光が放たれ、戦闘スーツを纏った私とルアンタが、ニーウへ向かって殺到する!

「ええっ!? なにそれぇ?」

 驚きというより、好奇心に溢れた声で、ニーウは私達を迎え撃つ。


「なんだかわかんないけどぉ、変な鎧を着たってザコはザコだよぉ♥」

 ニーウは、無詠唱魔法で発生させた炎の槍を、私達に向けて解き放つ!

 だが、飛来するそれを、私とルアンタは拳の一撃で消滅させた!


「相殺!? ……ううん、ミスリルかなぁ!?」

 このわずかな攻防で、私達のスーツの特性に気付くとは!?

 やはり、見た目によらない恐るべき存在だと、改めて背筋が冷たくなった。

 だが、近接戦闘メインで厄介な無詠唱魔法さえ封じてしまえば、華奢な彼女を捕らえる事も可能だ!

 少女相手に襲いかかる絵面は、ちょっとアレなんで、私は一撃で行動不能に落とし入れるべく、ニーウの腹部を狙ってボディブローを放つ!

 だが!


「なっ!?」

「キャハッ♥」

 渾身の力を込めた私の攻撃は、ニーウの小さな手のひらで、簡単に受け止められていた!

「ニーウちゃんてばぁ、小さくて可愛いから、よく勘違いされるんだけどぉ……」

 逃がさないとばかりに、ギシリと『戦乙女(ヴァルキュリア)装束(・フォーム)』の手甲が軋むほどの力で、掴みかかるニーウ。

 そんな彼女は、無邪気に微笑んで、空いている方の拳を握る!


「実は殴り合い(ポカスカ)やるのも、得意なんだよねぇ♥」

 そう言ったと同時に、目にも止まらぬ早さで、三発ほど拳を振るってきた!

「くっ!」

 辛うじて、私も空いている方の手で防御し、その反動も利用して、掴まれていた拳を振りほどく!


「あぁん、逃げられちゃった……けど、逃がさないよぉ(・・・・・・・)♥」

 体勢を立て直そうとする私に、ニーウは一瞬で間合いを詰めてくる!

 言葉通り、私から確実に仕止めるつもりなのだろうが……舐めるなよ!


「キャハ♥」

「はあっ!」

 ニーウの笑い声と、私の呼気が重なる!

 次いで、空気の弾ける衝撃音が立て続けに鳴り響いた!

 すさまじい手数で攻める彼女に対して、その攻撃を正確に迎撃する私。

 パッと見た感じでは互角の応酬に見えるが、そんな状況にニーウは怪訝そうな顔をしていた。


「……ねぇ、お姉ちゃん。もしかして、手加減とかしてる(・・・・・・・・)?」

 む、バレたか。

 正確に言えば、手加減するというより彼女を捕らえるために、防御寄りで対応しているのだが。


「ザコのくせに……」

 少しばかり、イラついた様子で呟いたニーウは、後方へと跳んで間合いを開ける。

 そして、再び無詠唱魔法で炎の壁を作り出した!

 攻撃というより、目眩ましがた目的といった感じよ魔法であり、姿を隠しながら渾身の一撃を放つつもりなのだろう。

 しかし、そうは問屋が卸さない!


 取り出した『バレット』をセットすると、『ギア』から魔力のラインが右腕に走り、接続された!


旋嵐衝撃掌(ストーム・インパクト)!』


 竜巻にも似た颶風(ぐふう)を纏った掌底が、炎の壁を吹き飛ばし、ニーウへと迫る!


「ちっ!」

 舌打ちしながら、ニーウは再び炎の塊を私に向けるが、横から飛び込んできたルアンタが、それを打ち消した!

「ナイスアシストです!」

 誉める私に、親指を立てて見せたルアンタの横をすり抜け、ニーウに詰め寄る!

 間合いに入るのと同時に、暴風を纏った右の一撃を振るい、防御したニーウの体ごと後方へと吹き飛ばした!

 やはり、見た目通りに軽量なニーウでは、堪えられなかったか!


「この程度じゃあ、やられないよぉ!」

「ええ。トドメは、私ではありませんからね」

「え!?」

 私の言葉に、ニーウが飛ばされた方向に顔を向ける。と、その視線が、先で待ち構えるハイ・オーガの姿を捉えた!


「なっ!?」

「おいで、可愛い子ちゃん!」

 両手を広げて、慈愛の笑みを浮かべたデューナが、ニーウの体を受け止める!

 そのまま、熱く抱擁するように、力いっぱい絞め上げはじめた!


魔王的(サタニック)母の抱擁(・ママン・ハグ)!」


 その技の名に相応しく、魔王のごとき苛烈な絞めと、母のごとく慈愛に満ちた胸の温もり!

 ニーウもデューナの豊かな胸に頭を挟まれ、「んー!んー!」と声にならない声をあげていた!

 窒息してるとも言う!


「大丈夫……そのまま、アタシ(ママ)の胸で寝んねしな……」

 あくまで力は緩めず、優しい声色でデューナは囁きかける。

 さすがのニーウも、絞めの圧迫感と胸による窒息感で、抵抗する動きが徐々に弱まっていった。

 しかし!


「おやおや、何をやってるんですかニーウさん?」


「っ!?」

 突如、デューナの背後に現れた謎の男が、思いきり彼女を蹴り飛ばす!

「かはっ!」

 なんて事のない、その蹴りの一撃で、デューナの巨体は残っていた壁を突き破り、廊下へと消える!


「デューナ!」

 まさか、あれくらいでやられるようなタマではないだろうが、思わず叫んでしまった。

 そんな私達を一瞥しつつ、謎の男はいつの間にかデューナから奪ったニーウの体を、ストンと床に下ろす。


「ラサンスちゃん……」

「少々、遊びが過ぎますよ、ニーウさん?」

 柔和な微笑みを浮かべた、ラサンスと呼ばれた男は、妹を(たしな)めるような感じで、彼女に語りかける。

 おの二人、知り合いか?と、いう事は……。


「貴方も『イコ・サイフレーム十二使徒』の一人……ですね」

 私が問いかけると、ラサンスは表情は変えぬまま、それでいて冷たい雰囲気を僅かに滲ませて、こちらを向いた。


「ええ。(わたくし)、第五使徒を勤めておりますラサンスと申します。短い間ではありますが、よろしく虫けらの皆さん」

 言葉使いこそは丁寧だが、そこにはなんの感情も含まれていない。

 まさに、虫でも相手に話しかけているみたいな態度だ。

 そんなラサンスは、もうこちらに用はないと言わんばかりに、再びニーウに語りかける。


「先走ったあなたを探すのに、苦労しましたよ。まぁ、それはそれとして、意外にも手こずっていたようですが……?」

「ニーウちゃんもビックリよ。けっこー強い、ザコが多いみたい」

「そうですか。少しは遊び甲斐がありそうですね」

 ちょっとした娯楽を見つけたみたいに、二人は笑いあっているが、私やデューナの技を食らっているのに、ニーウに大したダメージが入っていないのだろうか?

 だとしたら、結構ショックなんだけど……。


「さて、そういった楽しめそうな虫はともかく、どうでもいいゴミを効率よく掃除をするための、計画が立ち上がりました。ですから、一旦戻りましょう」

「……はぁい」

 駄々をこねるかと思いきや、ニーウはあっさりとラサンスとやらの申し出を受け入れた。


「待ちなさい!貴方達は、何をするつもりですか!」

 私は帰ろうとする連中に、思わず声をかけた。

 さすがに答えが返ってくるとは思わないが、それでも訊かずにはいられない!

 だけど、意外にもラサンスは、私の問いかけに対して口を開いた。


「イコ・サイフレーム様の眷族である、二匹の神獣を復活させます」

「二匹の……神獣?」

「ええ。『千の頭を持つ竜』と、『万の尾を持つ虎』……この二匹が甦れば、地上は三日と経たずに焦土と化すでしょう」

 神獣……そんなモンスターが、存在するなんて。


「それらを甦えらせるまで、あなた方は生きていられますよ。良かったですね」

 ううむ……本気で言ってるのか、その表情からは判断が着きづらい。

 だが、そんな化け物を復活させるつもりだと言うのなら、黙って座してる訳にはいかないわ!


「そんな化け物は復活させません!必ず、私達がその計画を潰してみせます!」

「おお、そう言ってもらえると、よい暇潰しになりそうだ」

 楽しみにしていますよ、とラサンスは告げて小さな拍手までしてくる。

 うーん、完全に舐められてるな。


「では、皆さん。また会える日を楽しみにしておりますよ」

「……できればニーウちゃんが殺してやりたいから、お姉ちゃん達も簡単に死なないでね♥」

 そう言い残すと、ラサンスとニーウの姿が、空間に溶けるように消えていった。

 あのラサンスという男も、転移魔法を使うのか……。

 『イコ・サイフレーム十二使徒』がみんな使えるとしたら、厄介過ぎるな。


 二人が消えた後、まるですべてが夢だったかのように、静寂が戻ってくる。

 だけど、目の前の惨状は、これより起こりうる波乱の未来を、象徴してるみたいだ。

「我々は……これから、どうなってしまうんだ……」

 瓦礫が散乱する、崩壊した部屋の様子を眺めていた人間の代表が、思わず小さな呟きを漏らす。

 それに答える者はなく、呟きはただ、風の中に消えていった。

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