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謀殺されてTS転生した魔王の息子が、勇者の師匠になる話  作者: 善信
第十章 破壊神、復活
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01 波乱の胎動

            ◆


 かつて、魔族を率いて世界を手中に納めようとしていた、暴虐なる王がいた。

 その名は魔王ボウンズール

 人間達の小国をいくつか滅ぼし、さらにはエルフやドワーフといった様々な種族を配下に置こうと、多種多様な手段を講じる。

 まさに、世界は彼の手中に収まる寸前まで追い詰められていた。


 だが、そこに現れたのは、人間の国の中でも『七大国』と呼ばれる国々より選出された、勇者と称される戦士達。

 その中でも、『真・勇者』の称号を得た救国の大英雄、ルアンタ・トラザルムの活躍は群を抜いていた。

 そんな彼に付き従うのは、知勇に優れた三人の美女達。


 麗しき魔法の名手、ダークエルフのエリクシア。

 勇猛なるハイ・オーガの女首領、デューナ。

 可憐にして機知に長けたドワーフの姫、ヴェルチェ。


 ルアンタは美しき仲間達と共に、魔王ボウンズールを打ち倒し、その野望を砕いた!

 かくして、世界に再び平和が戻ったのであった──。


            ◆


「……って、そんな感じで人間の国では、僕達の旅が宣伝されているんですよ」

 不本意といった気配を交えつつ、私の隣に座るルアンタが、巷で広まっている英雄の詩の内容を語った。


 ここはとある城のとある休憩室。

 もう少ししてから始まる、ある会議のために用意された場所である。

 たまたま二人きりとなった私とルアンタは、室内の長椅子に寄り添って座りながら、近況について語り合っていたのだ。


「そうですか。でも、だいたい合ってるから、いいんじゃないですか?」

「よくないです!僕としては、エリクシア先生やデューナ先生が鍛えてくれた事を、ちゃんと掘り下げてもらいたいですよ!」

 一瞬、ヴェルチェは?とも思ったけれど、彼女はルアンタに指導してないし……まぁいいか。

 それにしても、相変わらずルアンタは真面目だな。


「ですが、エルフの国では、私の活躍が盛られ気味ですし、ドワーフの国ではヴェルチェが大活躍といった内容の物語が主流だそうですよ」

「そうなんですか!?」

 驚くルアンタに、私は頷いて見せる。


「何だかんだ言っても、自分達の種族が活躍している話の方が、ウケいいですからね」

「そういう物でしょうか……」

「そういう物です。それに、あまり私達だけに注目が集まると、こうして二人で会える時間が、ますます減りますよ?」

「うっ……そ、それは嫌です……」

 渋面を作るルアンタの素直さが微笑ましくて、私は彼の体をさらに抱き寄せた。


            ◆


 ──魔族と他種族連合による、あの戦いから一年という月日が流れていた。


 あれから、この地に住む種族達の間では、活発な交流が行われる事となり、色々な意味で世界は変わったと言えるだろう。

 もちろん、良い意味でも悪い意味でも、である。


 例えば、私もルアンタもそれぞれが属している種族の、行事やら会議やらに顔を出さねばならず、先程も言った通り二人きりになる時間が大幅に減っていた。

 今日だって、こうして顔を合わせるのは一週間ぶりだ。

 私的な案件だが、これは重大な負の面と言っていいだろう。


 私としては、すべてが終わったら自分の森に隠居し、魔道具の開発や異世界の書物なんかを読み耽りながら、ルアンタと適度にイチャつきながら過ごす予定だったのに、こんなはずでは……と思う日々である。


 そもそも、野良ダークエルフである私がこうも忙しいのは、エルフの女王アーレルハーレと義姉妹の契りを交わしたせいだ。

 人間やドワーフの領地にほど近い、私の森が面倒な政治問題に巻き込まれぬよう、そこを支配するのはエルフの王族で、それゆえに森の所有権はエルフの国に有るんですよという、一応の建前作りのために結んだ契りではある。

 が、そのせいで戦後の様々な会議等に、アーレルハーレの名代として出席する羽目になった。


 なんで私が……とはいつも思うけれど、世界を救った勇者の一行でエルフの王族(仮)という肩書きは、思った以上に他国への牽制になるらしい。

 もしや、こういう事態も想定して、私を引き入れたんじゃないかと疑いたくなるほど、アーレルハーレはのらりくらりと私を面倒な舞台に誘導し、矢面に立たせていったのである。

 一度それにブチキレた事があるのだが、すごい顔で泣きながら高速土下座されてしまい、それ以降はキレるにキレれなくなってしまった。

 恥も外聞も捨てれる女王というのは、ある意味強いなと逆に感心してしまった一件だった……。


「早く平和になって、この面倒な日常から解放されたいものです……」

「そうですね……」

 私とルアンタは、顔を見合わせて苦笑した。


「そういえば、今日の会談には、デューナ先生も来るんでしたよね」

「ええ、そのはずです」

 今、魔界を納めているのは、『真・魔王(ママおう)』と自らを称するデューナである。

 彼女の納める現在の魔界は、先に提唱していたように子供達への教育などを中心とした、保護施設のような国として着実に再編されつつあった。


 もちろん、そんな国の有り様に反対する声は魔族の中からも沸き上がっていたのだが、王位を継いだ彼女がまず行ったのは、血気盛んな魔族達とのタイマン勝負だった。

 これを聞いた、十人中九人が「なんで?」と言いたそうな顔になったのも、無理はない。

 それというのも、デューナが発した『文句があるなら、相手になってやる。アタシに勝てば、ソイツが次の魔王だ!』という発言が発端だったのだ。


 案の定、とんでもない数の野心家が集まりはしたが、デューナは全員をぶちのめして、名実共に魔界の頂点に立った。

 まぁ、そんな訳で経緯は強引だが、実力で魔界を掌握した彼女は、魔族達を保育士や指導員として鍛え直して、今に至っている。

 説明しておいてなんだけど、やってる事はむちゃくちゃだな……。


 そんなデューナだが、本日の全種族会談に参加するために魔界から出てくる予定である。

 久々に会う事になる彼女に、ルアンタだけでなく私も少し楽しみにしていた。


「まぁ、デューナはいいとして、ヴェルチェと会うのは少し怖い気がしますが……」

「あ、あははは……」

 乾いた笑いを漏らすルアンタも、恐らく私と同じ気持ちなのだろう。


 ヴェルチェもドワーフの代表として、多忙な日々を過ごしている。

 デューナに比べれば、顔を合わせる機会は多いのだが、その度に「構ってくださいまし!構ってくださいまし!」と絡まれるのだ。

 しかも、最近は多忙によるストレスからか、「むしろ抱いてくださいまし!」って感じに、悪い方へエスカレートしている。

 もしも、『私達の間に挟まれ隊』を公言する彼女がこの場にいたら、全裸になって襲いかかって来てもおかしくないだろう。


 まぁ、それほど精神的に疲労している状況には同情するけど、そんなしょうもない理由で注目を集めたくはないので、早く落ち着いてもらいたいものである。


「そういえば、人間の国……今は『連合国家ゼブン・スソゥド』でしたよね。そちらはの上層部は、上手く行っているのですか?」

「ま、まぁ一応……初代大統領様は、すごく忙しそうですけど」

 それもそうだろう。

 なんせ、世界の大きな変化のひとつが、七つの人間の国が統合して連合国家となった事だ。

 元々は魔王に対抗するために協力しあい、勇者を輩出した七大国だったが、そのままの流れとノリで統合してしまったらしい。

 ノリでいいのか?と、思わなくもないが、少なくとも今後は人間同士の戦も無くなりそうだと、国民は案外すんなりと受け入れたのだそうだ。


「大統領の役職は、数年ごとに各国の王が持ち回りで勤めるらしいですけど、初代に選ばれた王様は激務すぎて、貧乏クジを引いたと連日グチっているそうです」

「それが原因で、破綻しない事を祈りたいですね」

 私の漏らした感想に、ルアンタはしみじみと頷いていた。


            ◆


「……さて、そろそろ会場に向かいましょうか」

「……そうですね」

 少しばかり名残惜しいが、二人きりの時間は終わり、今度は仕事の時間だ。

 ……でもなぁ、この後はまた、しばらく二人きりになれそうにないしなぁ。

 キスくらいしておくべきだろうか……それも、濃厚なやつを。

 なんて事を考えながら、ちょっとドキドキしつつルアンタの隙をうかがって、長椅子から立ち上がろうとした、その時!

 突然、異変は起こった!


 ゴゴゴゴ……と、腹の底へ響くような地鳴りが起こり、周りがカタカタと揺れる!

「地震……!?」

「揺れは自体は、大した事はなさそうですが……しかし……」

 何となく、言葉を詰まらせた私に賛同するように、ルアンタが頷いた。


 なんだろう、この感覚は……それほど大きな物ではなかった今の地震だが、なんだか酷く嫌な予感がする。

 そんな、気味の悪い不安感を感じていると、唐突に私の頭の中に(・・・・・・)、何者かの声がこだました!


『この世界に生きる者たちよ……』


 な、なんだ、この声は!?

 不吉な気配を孕んだ、暗く重い女の声。

 聞き覚えの無い声なのだが、それていて魂に訴えかけるような、不気味な声だ。

 もしかして、私だけに聞こえる幻聴かとも思ったが、ルアンタの顔を見るに、彼にもその声は届いていたらしい。


「せ、先生……いまのは……!?」

「わ、わかりません……ですが、普通じゃない事は(・・・・・・・・)わかりました(・・・・・・)!」

 謎の声……ただ呼び掛けられた、それだけだというのに……背中に冷たい汗が流れる。


『余は破壊神、イコ・サイフレーム』


 再び流れてきた声は、自身を破壊神だと名乗った!

 って言うか、破壊神!?

 そんなの、聞いたことがないのだけど……!?


 何かのイタズラかと、一笑に伏したい所だが、室外から漏れ聞こえてくる、私達以外の人達の動揺の声をを鑑みるに、本当に全ての者に語りかけているのかもしれない。

 もしもそんな事が可能なら、確かに神……或いはそれに準ずる者と名乗るだけの力はありそうだ。

 だけど、そんな奴がなんで急に接触してきたのだろうか?


『あー……なんか、目が覚めちゃったから、世界滅ぼすわ』


「……なんじゃそりゃあぁぁ!!!!!!」

 寝起きのついでに……みたいな感じで、世界を滅ぼす宣言に対して、私やルアンタだけでなく、地上の全住人達が総突っ込みを入れたのを感じた!

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