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謀殺されてTS転生した魔王の息子が、勇者の師匠になる話  作者: 善信
第九章 決戦!魔王城
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11 輝く未来を抱きしめて!

 ──魔王の玉座の間。


 扉を蹴破って突入した私達が見たそこは、前世(かつて)の光景と変わらない、重苦しいまでの威厳と威圧感が支配する、まさに王が鎮座する場に相応しい雰囲気を湛えていた。


 ひときわ広い部屋の一番奥、ステージのように高く築かれたその場所には、上質な黒曜石のごとき漆黒に輝く石材と、血を思わせるほどの赤く鮮やかな布地で飾り付けられた、巨大な玉座が置かれている。


 そして、そこに座るのは──。


「よく来たな、人間の勇者。そして、その仲間達よ」

 時折、虹を思わせるような光沢を放つ、立派な造りの黒い全身鎧に身を包み、脇には身の丈ほどもある、巨大な剣を立て掛けて玉座に座る男。

 兜は脱いでいたため、確認できたその顔は……やはり、私達がよく知った人物の物だった。


 すなわち、かつての魔王の長男、ボウンズール!

 その中身は違う人物だが、以前の姿と変わりはしない。あえて言うなら、少し歳を重ねたくらいだろうか?


「間違いありませんわね……」

「ええ、あの『力こそパワーだ』と言わんばかりの脳筋面は、見間違いようがありません」

「今見ると、まったく同感ですわ……傍若無人という文字で、顔を作ったらああなるといった顔つきは、中身が変わっても変化しないものですわね」

「オマエら、ちょっと好き勝手に言い過ぎじゃない?」

 前世(ボウンズール)の外見に、容赦ない感想を述べる私達に対して、少ししょんぼりした感じでデューナは呟いた。


「ククク……」

 その時、ボウンズールが小さな含み笑いを漏らす。


「粗野で短慮だったが、無双の強さを誇っていたボウンズール。引きこもりだが、聡明であったオルブル。主体性は無かったが、文武のバランスは良かったダーイッジ……」

 私達を見回しながら、ボウンズール……いや、その中の人である、先代魔王ソレスビウイは楽しげに呟く。

 こちらの事情を知っているあたり、やはりオーガンから私達の事について、話は聞いているようだ。


「殺し合いをするほど仲が悪かったお前らが、そんな可愛らしい姿になって仲良く戻って来るとはな……パパは、ちょっと感激しているぞ」

 その顔で、パパとか言うなや!

 第一、息子の肉体を奪った奴……いや、下手をすれば(・・・・・・)さらなる罪(・・・・・)を持っているかも知れないのに、今さら父親面されても違和感しかないわ!

 うん……最後にこの疑問だけは、解いておいた方がいいかもしれないわね。


「……ボウンズール、それとも元父上と呼んだ方がよろしいですか?」

「パパと……」

「わかりました、元父上」

 戯れ言を一蹴して、私は言葉を続ける。


「あの日……本物のボウンズールが、クーデターを起こした日に、裏で糸を引いていたのは……あなたではありませんか?」

「ほぅ……いつから気づいていた?」

 うわ、あっさり認めたよ!


「なにっ!?」

「どういう事ですの!?」

 デューナとヴェルチェが、ギョッとしながら、私と元父上を交互に見比べる。


前世(まえ)の私に王位を譲るという噂を流せば、それをよく思わない兄弟達が、かならず動く。そうして殺し合いをさせた後に、残った者も結界内で溜め込まれた、魔法の同時解放による巨大爆発で始末する……雑な計画ではありますが、そんな所でしょう?」

「ククク、だいたい合ってる」

 やはりそうか……。


 デューナ達と和解し、彼女達から聞いた話を総合すると、噂の出た時期、魔封じの結界が解けるタイミングなどが、前世(まえ)の私達をまとめて殺すのに、丁度良すぎたとは思っていたのだ。

 その事から予測すれば、父が全ての黒幕だという可能性は高いと思っていた。


「ただ、オーガンは何も知らなかったんでしょうね。だから私を助けようとした(・・・・・・・・・)

「当時のお前(オルブル)一人くらいなら、生きていた所でどうとでもできたからな。まぁ、様々な偶然が重なり、今の結果となったのは嬉しい誤算ではあったが」

 ボウンズールの肉体を得た、今の状況の事か……確かに、こればかりは偶然だったろうな。


「そんな……自分の子供達を……」

 信じられないと、ルアンタは絶句する。

 だが、元父上はそんなルアンタを鼻で笑った。


「当時の我は、老いて弱体化した事もあり、血気盛んな息子達にいつ襲われるものかと、怯えながら暮らしていた。だからこその、抹殺計画だったのだ」

 王座にあるからこその恐怖。

 自身も貴族の端くれであるルアンタは、そんなボウンズールの言葉に口をつぐむ。


「だが……偶然とはいえこの肉体を得て、そんな心配は無くなった。これも、お前達のおかげだ」

「マジかよ……」

「なんて事ですの……」

 さすがのデューナ達も、この真相にはショックを受けているようだ。

 そんな私達を、高い場所から見下ろしていた元父上は、不意にひとつの提案をしてきた!


「だからどうだ? 今からでも、その勇者の小僧を見限って、我が配下として仕える気はないか?」

「なにっ!?」

 オイオイオイ、急に何を言ってるんだ。


「そんな姿になったとはいえ、我が息子達が戻って来たのだ。今なら、再び息子……いや、娘として、王位継承権をくれてやってもいいぞ?」

「何を白々しい……そんな権利など、与えた所で行使させる気もないくせに」

 三公や魔導宰相といった、有能な手札が無くなったからこその提案なのだろう。

 だが、そんな口車に私達が乗るはずもない!


「エリ姉様の、おっしゃる通りですわ!何より、ワタクシ達は今の人生で、大事な物を得てますもの……王位継承権(そんなもの)に、まったく魅力を感じませんわね!」

「だいたい、譲ってもらう必要はないさ。力ずくで、奪わせてもらうからねぇ!」

 そう、力ずくで……って、なにっ!?


「デュ、デューナ?貴女、魔王の地位を奪うつもりですか!?」

 それはつまり、次の魔王となると宣言したような物だよ!?

「ああ、まだ言ってなかったねぇ、アタシの野望」

「野望……?」

「そう、名付けて『魔界都市学園計画』さ!」

 な、なんですか、その計画は?

 とりあえずその内容を聞いてみれば、彼女は次の魔王となり、様々な子供達を育成するための、新たな魔界を構築する野計画なのだという。


 なんだ、そういう事なら、私達も賛成だわ。びっくりするから、急に言わないでほしかったけど。

 だが、そんなデューナの構想を聞き終えた元父上は、派手な音を立てて玉座の手すりに拳を振り下ろした!


「なんだ、そのふざけた計画は!貴様は、魔界を孤児院か何かにするつもりなのかっ!」

「ガンドライルの奴も、そんな事を言ってたねぇ。でもまぁ、そんな所だよ」

 ギリッと、怒りの歯軋りをする元父上の刺すような視線を、デューナは涼しげに受け流す。


「それで、魔王を名乗るつもりか!?」

「ふん!相応しくないって言うんだったら、アタシの野望が成った暁には、魔王なんて敬称は廃止してやるさ!」

「な、なんだとっ!」

「候補としては……『完璧母零式(パーフェクト・ゼロ) ザ・ママン』とか、考えてるんだけどね」

 言葉の意味はよくわからんが、とにかくすごい自信!

 何となくだけど、屈強な弟子を十人くらい引き連れそうなネーミングだわ。


「もっとも、『真・勇者』のルアンタにあやかって、真の魔王、『真・魔王(ママおう)』なんてのもいいかな……って思ってるんだけど、どっちがいいかね?」

「何となく、そちらの方が収まりがいいような気がしますね」

「『ザ・ママン』は、ちょっと奇抜過ぎますわ」

「そうかぁ……」 

「何の話をしているんだ、お前らはっ!」

 元父上そっちのけで、妙な話題に食いついていた私達に、再び怒りの声がこだまする!


「生まれ変わって、とんだ愚か者になったものよ!女々しい事ばかり言う貴様らには、ヘドが出るわ!」

「女々しいというか、実際に今は女ですから。それに、たまたま屈強な肉体を盗めたくらいで威勢が良くなった貴方に、言動についてとやかく言われたくはありません!」

「貴様、親に向かって……」

「それは前世の話でしょう?今の私達からすれば、貴方は知ってるおっさんに過ぎませんよ!」

「減らず口を……!」


 煽る私の言葉に、ピキピキと血管を浮かべながら、元父上は立ち上がる!

 そして、傍らの大剣を手に取ると、ブンッ!と大きく振りかざしてから、その切っ先を私達へ向けた!


「これ以上、貴様らと話す舌は持たん!もはや息子とも思わぬ!貴様ら逆賊には、魔王と呼ばれる者の恐ろしさを、骨の髄まで思い知らしめてやろう!」

 まとめてかかってこい!と、マグマのような闘気を噴き上げながら、元父上が吼える!

 それを見て、対峙していた私達も即座に身構えた!


「……先生、これが最後の戦いですよね」

 憤怒の魔王を前に、ルアンタが話しかけてくる。

「ええ、気合いを入れて行きましょう!」

「あの……僕、戦いが終わったら、先生に伝えたい事があるんですが」

「!?」


 ちょ、ちょっと待った。

 決戦前にそういう事を言うなんて、それって死亡フラグじゃない?

 少し不吉な感じがしたものの、真剣な顔で私を見つめるルアンタの瞳には、強い決意のようなものを感じられた。

 ……いいでしょう、万が一それが死亡フラグでも、そんな物は師である私がへし折ってやりましょう!


 改めて気合いを入れ直した私は、キッ!っと元父上を睨み付ける!

 そうして、最後の戦いの幕は、切って落とされた!


            ◆


 ──結論から言おう。


 勝った。

 しかも、かなりの大差で!


 というか、こちらは魔王に匹敵する強さの戦士が四人もいるのだから、当然と言えば当然の結果である。

 むしろ、なんで向こうは勝算があると思っていたのか?


「調子こいて、すんませんでしたぁ……」

 よってたかってボコボコにした後、「勇者とタイマンを張らせてほしいんですけお!」と主張してきた元父上は、改めてルアンタにボコボコにされた。

 まとめてかかってこいとか、言った後にこれだから、さすがの魔王もボッキリ心が折れたようである。


 そんな私達の恐ろしさを、骨の髄まで知らしめられて、現在の元父上はシクシクと泣きながら正座している。

 殺し合いを挑んで来たのは向こうとはいえ、この姿はなんだか哀れみを誘うわ……。


「……これで、終わったんですよね」

 ポツリと呟くように、ルアンタが問いかけてくる。

「ええ、戦いは終わりです」

 もちろん、もろもろの後始末なんかは山積しているだろうけど、魔王を降したのだから、ひとまず決着はついたと言っていいだろう。


「そうですか………………先生!」

 突然、ルアンタは私の前に立つと、直立不動の姿勢で呼び掛けてきた!

「な、なんですか?」

「戦いが終わったら、先生に伝えたい事がある……そう話したのを、覚えていますか?」

「そ、それはもちろん……」

 ついさっきの話だし、当然忘れてはいない。

 ただ、もうちょっと落ち着いてから来ると思ってたから、少し驚いてはいるけど。


「魔王との戦いが終われば、色々な理由で一緒に旅をしてきた、このパーティも解散になると思います……」

 うん、それはそうだろう。

「だけど……だけど僕は、先生の事が大好きです!この気持ちは、すべてを知った今でも変わりません!だから……これからもずっと、僕を先生の側に居させてくださいっ!」

 ギュッと目をつぶり、耳まで真っ赤になったルアンタが、心からの想いをストレートにぶつけてくる!

 そして、その告白を受けた私の胸の内に、まるで心臓を鷲掴みにされたような衝動が沸き上がった!


 か、可愛いぃぃぃぃぃっ♥


 必死の想いで告白してきた愛弟子が、予想以上に可愛すぎた件!

 一生懸命に想いを伝えようした所も、答えを待って小刻みに震えながら硬直している今も、ルアンタの何もかもが愛おしい!

 だから私も、彼への答えを言葉ではなく、行動で示す事にした。


 私はルアンタの前で膝を折り、姿勢を低くする。

 そうして、震える彼の頬を撫でると……そのまま唇を重ねた。


「っ!?」

 次の瞬間、ルアンタがカッと驚きに目を見開く!

「せっ……せ、せ、せ、先生っ!?」

「私の答えは……これです。これからも、側に居てください」

「……はいっ!」

 元気よく答えたルアンタは、目に涙を浮かべながら、私に抱きついてきた!

 その勢いにバランスを崩して、私達は地面に転がりながらも、お互いに笑顔で見つめあう。


「良かったねぇ、ルアンタ!」

「おめでとうございます、ルアンタ様!そして、エリ姉様!」

 息子の告白シーンを目の当たりにした母親みたいな表情のデューナと、『抱けぇ!抱けえぇ!』と内なる応援のオーラを背負うヴェルチェが、拍手と共に祝福してくれる。

 そして元父上も、その場のノリに釣られたのか、なぜか拍手を贈っていた。


 そんな皆からの万雷の拍手を受け、照れ笑いしながら私とルアンタは固く手を繋ぐ。

 そう、これからも二人はずっと離れない……そんな気持ちを込めながら。


           ◆


 ──だが、光があれば闇も尽きない。

 輝ける未来を目指す時代の裏側で、密かに蠢く邪悪な意思がある事を、この時の私達は知る由もなかった……。


          ◆◆◆


 ──重体とも言える体を引きずるようにして、一人の魔族が魔界のさらに奥地を目指して歩いていた。


「ハァ……ハァ……」

 辛うじて延命したものの、全ての魔力を使い果たし、満身創痍のままに逃走を図ったオーガンは、瞳に暗黒の炎を宿しながら、ただひたすらに進む。


「ハァ、ハァ……ぐっ!勇者……ルアンタ……そして、エリクシアァァ……」

 うわ言のように、先程から繰り返される二人の名前。

 そこには、明確な憎悪の念が込められていた。


「ワシの、野望を砕き……ワシの、忠義(あい)を裏切った……あの二人だけは……絶対に、絶対に許さぬぞぉ……」

 瞳に宿った暗黒の炎はさらに狂気を帯び、呪詛と怨念の言葉を撒き散らしながら、オーガンは歩を進める。


 やがて、いずこかへと消えていった彼が、これから引き起こす事件は、今は幸せの絶頂にいるエリクシアとルアンタを、新たな戦いへと巻き込んでいく事になるのであった。

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