かき氷
左腰が重い。刀大小って、計二キロとか聞いたことあるんだけど、私は今、ちょっとしたお米袋を左にぶら下げて歩いていることになるのか。そして往来にはまだ火の手が幾つも上がり、焼け出された人々が虚ろな眼でぼう、と座り込んだりしている。胸が痛む。
道先案内は斎藤君が買って出てくれた。鷹雪君も、この時代の京都の地理にはまだ疎い。東寺、教王護国寺が見える。妻との観光旅行でも見た。いつの時代でも変わらないものはあるのだなと、感慨深くなる。
しかし、炎がこうも民家を舐める光景を、私はこれまで見たことがない。所詮は戦後の生まれだ。戦火の悲惨というものを知らない。途中、無頼漢に遭ったりもしたが、斎藤君が虫を払うように退けた。頼もしいことこの上ない。
それにしても暑い。
時期的な暑さに加え、火による熱が加わわり、私たちは歩き出してすぐに汗みずくになった。熱中症対策とは、などと霞がかかり始めた頭で考え始めた頃、ようやく、梅小路に着いた、と斎藤君が告げた。
土御門邸は豪壮な邸だった。
案内も受けず、鷹雪君が門を潜り、続けて私と斎藤君が潜った。斎藤君は常に、自分が最も危険に近い位置に立つよう、配慮してくれているみたいだった。
鷹雪君の鼻の先を、純白の、見たこともないような綺麗な小鳥が飛び、先導しているようだった。瑠璃色の尾羽がまた美しい。あれも式神なのだろうか。鷹雪君の蝶といい、式神は総じて美しいと相場が決まっているのだろうか?
やがて一際、広い座敷に私たちは辿り着き、その上座にはまだ若い男性が鎮座していた。何やら書物をめくっている。純白の小鳥は彼の元に飛んで行き、その膝に留まった。男性はそこでようやく、我々の到着を悟ったようである。
「遠路はるばる、ようおいでになった。私が土御門家の当主・土御門晴雄だ」
どこか怜悧な風貌が、鷹雪君に似ていないこともない。晴雄さんが手を叩くと、腰元のような女性たちがしずしずと膳を持ってきた。
何と、私たちに供されたのは、かき氷だった。氷塊に黄金が掛かったような見た目だ。
「さぞ、咽喉が渇いたであろうと思うてな。氷に甘葛を掛けたものだ。召し上がると良い」
私はもちろん、鷹雪君も斎藤君も、遠慮を忘れてかき氷を貪った。
私は確信する。
この晴雄さんは絶対、良い人だ。





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