歴史のタブー
十畳の座敷に私と土方君と斎藤君、六畳の次の間に沖田君と鷹雪君が寝ることとなった。
鷹雪君は陰陽師なだけあって、私程、狼狽することもなく現実を受け容れ、一人で浴衣にも着替えた。狩衣装束が着られるくらいだ、浴衣などは朝飯前なのだろう。けれどやはり一抹の心細さはあると見えて、目の奥に揺らぐものが見える。大丈夫だろうか。眠れるだろうか。――――それは私に関しても言えることだが。
結果的に言うと私はぐっすり寝た。
蒸し暑い夜だったが、疲れもあったのだろう、敷かれた布団に横になるとすこん、と眠りに就いた。
夢の中で妻が笑顔で料理していた。
私は矢も盾もたまらず妻に逢いたくなった。
目覚めると見慣れぬ襖が目に飛び込んできて、一瞬、混乱したが、ああ、そうだったと得心した。
朝食は白米と漬物、豆腐の味噌汁。
それだけだったが、その単純な料理の滋味がやたらと沁みた。
「眠れたかい、鷹雪君」
「ああ」
さて。これからが問題だ。
沖田君はのんびり味噌汁を飲んでいるが、土方君のことだ、何も考えていない筈はあるまい。案の定、言い出した。
「屯所に様子を見に行く」
「ええと、この時期の屯所と言うと」
「壬生の郷士屋敷だ」
「見に行ってどうするんですか」
ぱりぽりと胡瓜の漬物を齧りながら沖田君が尋ねる。斎藤君は黙って土方君を見ている。
「この時代の俺たちと鉢合わせしないように、近藤さんと今後の話をする」
「――――それは駄目だよ」
「なぜ」
「歴史を変えることはタブーだ」
「俺たちが今、ここにいる。それもまた、歴史の事象の一つじゃないのか。さんなんさん」
流石、切れ者の土方君は鋭いところを突いてくる。
よくタイムトラベルものの作品で取沙汰されるテーマだ。鷹雪君は我関せずといった顔、沖田君と斎藤君は土方節には慣れたもので平生の顔である。
待って。
この中で、危機感を抱いてるのって私だけ?
鷹雪君は歴史の改変にそこまで頓着しないようだし、沖田君や斎藤君も抵抗感はまるで感じられない。いや、心中では寧ろ事態を歓迎さえしているのかもしれない。
「僕たちが動けば」
ぽつりと沖田君が呟く。
「さんなんさんを死なせずに済むかもしれませんね」





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