京町屋
私たちは人々の混乱の間を縫うように一条堀川に向けて歩いた。私たちがいたところは河原町通り二条だったので、上がりながら西に進むことになる。新撰組の隊服は目立つので、羽織を脱いで小脇に抱え、歩いた。当たり前だが、私の知る京都とは随分、違う。けれどこの町並みにしっくりくる自分もいて、それはさんなんさんの感覚なのだろうと思う。
幸いにして一条堀川まで、そう距離はなかった。
町屋の一つに土方君が声を掛け、出迎えた女性は目を真ん丸にして、私たちを家に入れてくれた。
「随分、お見限りどしたなあ」
「悪い、小常」
小常さんは唇の左斜め下に黒子のある、艶やかな女性だった。土方君、やはり隅に置けない。夜着ではないところを見ると、小常さんもただならぬ情勢に、警戒していたようだ。いつでも家を離れられるよう、身の回りの物を纏めた風呂敷包みがあった。天井が低く、虫籠窓がある中二階の二階に案内された私たちは、とりあえず人心地ついた。土方君と斎藤君はともかく、現代の恰好をしている鷹雪君を、お茶を持ってきてくれた小常さんは些か奇異の目で見た。
それから土方君と私を見て、言う。
「髷、切らはったんどすなあ。何や今風にならはって」
「ああ」
土方君はしれっとした顔で出されたお茶を飲んでいる。
土方君は総髪だし、私はこの時代で言うとざんぎり頭ということになるのだろう。
火の手がここまで回っていなかったのは僥倖と言える。だがやはり空気は熱を含み、燃え盛るもののあることを肌に知らせる。小常さんは鷹雪君を見て、浴衣一式を出してくれた。私たちの分まである。
「これを着て、お休みください」
「悪いな」
「いえ。ほな、うちはこれで」
今頃、新撰組は堺門町なのだろうか。タイムラグ等の関係でよく解らない。ここにいれば当時の土方君や沖田君、斎藤君と今、鉢合わせしないことは確かなのだろう。私はそこで重大な問題に気づいた。着替え始める沖田君たちを見ながら、私は固まっていた。
「どうした、さんなんさん」
「……着物の脱ぎ方と浴衣の帯の結び方が解らない」
土方君たちに、またもや情けない顔をされた。仕方ないじゃないか。こちとら現代人なんだから。





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