まさかのタイムスリップ
赤々と燃える町並み。逃げ惑う人々。怒号と悲鳴。
私は目の前の光景を茫然として見ていた。袖を引かれて振り向くと、蒼褪めた顔の鷹雪君がいる。沖田君、土方君、斎藤君も一緒だ。
私たちは小路の脇に棒のように突っ立っていた。
「どういうことだ、これは」
「……長州藩邸が燃えている。これは。いや、ここは」
「――――元治元年。禁門の変、か?」
土方君と斎藤君の戸惑う声に、答えたのは他ならぬ私だった。
私は遠くに見える旗印を指差した。
「毛利家の家紋だ」
横棒一本の下に三つの丸。
長州藩邸が燃えているということは、即ち今は元治元(1864)年、七月二十日だ。
七月十八日の夜、会津に対して戦端を切った長州は、敗北を喫した。七月十九日の未明、伏見から進撃した福原越後の軍勢は大垣、彦根の藩兵に破られ、他の国司信濃らが率いる約七百の手勢は蛤御門に攻撃を集中したが、会津、桑名、更に加わった薩摩兵に掃討された。
山崎天王山に布陣していた久坂玄瑞、真木和泉は御所を目指すも、一橋慶喜率いる軍勢、会津、薩摩、桑名の軍勢に囲まれ、久坂は鷹司邸で自刃する。新撰組は九条河原を固めていた。幕軍の威勢、大いなるところの報せが入る度、守護職よりの命により動けない立場を悔しく思っていたのだ。
新撰組が堺門町まで馳せ参じた時には、既に戦いの趨勢は決まっていた。真木和泉は天王山に立て籠もっていたが割腹して火中に果てた。
「どうなっている。陰陽師の小僧、お前の仕業か」
またも土方君による策略かと考えていた私は、意表を突かれて鷹雪君を見た。
鷹雪君は、自分でも信じられないという顔をしている。
「……秘呪の副作用だ」
「何だと?」
「死んだ魂魄、それも強力なものが三つも集い、一人は生きながら清涼たる力を備えている。俺が唱えた呪言が、これら全ての条件で作用して、時を超えた。……恐らく」
清涼たる力って私のことだろうか。皆目、覚えがないが。
「なら、もう一度秘呪を唱えれば戻れるだろう」
斎藤君の言葉に、流石に頷いた鷹雪君が再び、魔除けの秘呪を唱えた。
しかし、火に煽られた熱風が過ぎ行くばかり。
「……戻れないのか」
土方君の声に宿るのは猜疑、落胆、僅かな歓喜。
彼はまだ諦めていないのだ。
その時、四、五人の、甲冑を纏った男たちが私たちを見つけて叫んだ。
「新撰組だ! 新撰組がいるぞ!」
参考文献:『沖田総司』大内美予子、『沖田総司 新撰組孤高の剣士』相川司 他





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